第十話
第4クオーター開始数分後。
ゴール下では相変わらず竹内と上松が競っている。
その近くでは海波とノブが、そして周と吉田が競っている。
助っ人の観客だった高校生達はまた別の人と入れ替わっている。
だがいずれも俊介、麗奈には及ばない。
あっさりと抜き去った麗奈が俊介にパスを送り、受け取った俊介がシュートに行く。
と、とっさに走り出したノブがジャンプしてそのシュートに手を伸ばす。
指先ほんのわずかに触れたボールは軌道をずらし、リングに当たって跳ね返る。
落下地点に近いのは竹内と上松。
両者競ったままジャンプして同時に手を伸ばす。
これまでリバウンドは上松の方が多く取っていたが、竹内も負けずに何本か取っていた。
そのプレッシャーがあるのだろう。
両者ともにまともにキャッチしきれずに指先で弾いてしまう。
「「!」」
再び浮き上がるボール。
そこに飛びついたのは、今度は海波とノブ。
ほぼ同時だったが飛んだ位置がよかったのか、ボールはわずかに海波寄り。
そのまま左手でボールをキャッチした。
が、完全に両手で抱え込むよりも先にノブの右手がそのボールを弾く。
そして両者の身体が軽くぶつかる。
ファールは無い。
再び浮き上がったボールは、吉田があっさりと遠くに弾いてしまった。
競り合いの流れがよくないのを悟り、仕切りなおしたかったのだろう。
ボールはラインを割り、周たちのスローインとなる。
「危ないところだったな、上松」
「・・・・・・フン、確かに何度かボールを取られて調子に乗せちまったかもしれないな。
だが次はもう無い、競り負けるものか・・・・・・!」
「その調子で頑張ってくれよ」
上松の言葉に安心したのか、吉田は彼の肩をポンと叩くとゴール下から離れていった。
「ふぅ、惜しかったね竹内君」
「ああ、次こそ完全に競り勝つ」
周の言葉にそう返す竹内。
その言葉には「勝ちたい」という希望よりも、「勝ってやる」という信念が感じられた。
それを心強く感じたのだろう。
周は笑顔を浮かべて海波の方を振り返った。
「海波さんも惜しかっ・・・」
「お、おい・・・・・・」
と、ノブの声が聞こえる。
何事かと思ったら、手を伸ばしたノブの足元で海波がうずくまっていた。
「・・・・・・?
海波さん?」
表情は見えない。
下を向き、右手で左腕を押さえていた。
「ど、どうしたの!?海波さん!」
「ぐ・・・・・・う・・・・・・お・・・・・・!」
返事は無い。
だがゆっくりと起き上がった彼の表情が苦しさを物語っているようだった。
「ど、どうした?怪我かい?」
駆け寄ってきた麗奈と竹内も心配そうに海波に手を貸す。
「ひとまずベンチまで運ぶぞ、審判にタイムアウト言って来い斉藤」
「え、あ、うん!」
竹内にそう言われた周が審判の方を見ると、審判がタイムアウトを宣告していた。
どうやら異変を察知した俊介が審判に申し出たらしい。
竹内が手を貸し、海波をゆっくりと立たせる。
「う、ぎっ・・・・・・!」
身体を動かすだけでも痛むのか、海波の口から声が漏れる。
そこまで来て、周はふと思い至った。
「・・・も、もしかして海波さん・・・・・・、左腕怪我してたんですか・・・・・・?
だから・・・・・・バスケやってなかったんですか?」
海波と目が合う周。
悲痛な表情のまま海波は口を開いた。
「・・・・・・ああ、そうだよ。
久しぶりに楽しかったんでな・・・・・・思わず忘れてたが・・・・・・ぐっ!」
「そんな・・・・・・ダメですよ!怪我した状態でバスケなんてやっちゃ!
あんなに上手いんだから元気になってからちゃんと・・・・・・」
周は海波にそういう。
が、海波は苦笑いを浮かべるだけだ。
「・・・・・・怪我自体は治ってる。
いろんな医者の保障つきだ。
ただ・・・・・・ときどきこうなるんだよ、タイミングが悪かっただけだ・・・・・・」
「タイミングって・・・・・・」
周は海波の言っていることが分からないような表情を浮かべる。
海波も「この場で全部説明するのは長くなるだろうよ」と言うと、竹内に連れられてベンチまで向かい、腰掛けた。
「ぐ・・・ぅ・・・・・・」
苦しそうながらも一息つく海波。
一同はその様子を心配そうに見ていたが、やがて周が口を開いた。
「・・・・・・海波さんはゆっくり休んでください。
後は私達が引き継ぎます。
この試合、絶対勝ちますから!」
「・・・・・・・・・」
海波は黙って頷いた。
「まろんちゃん、もう平気?」
「はい、もう十分休ませてもらいました」
周の言葉に元気よく返事をするまろん。
やがてタイムアウトの終わりを告げる笛が鳴る。
「よし、行こう皆。
後は私たちで何とかしよう」
「うん!」
「おう!」
「ああ!」
「はい!」
5人は右手に拳を作り、軽くぶつけ合った。
「じゃあ・・・・・・海波さん、見守っててください」
「・・・・・・ああ・・・・・・」
海波の付き添いを子供達に頼んで、周たちはコートに戻っていった。
それを見送って、少しは緩やかだった海波の表情が再び険しくなった。
心配かけまいと無理をしていたのかもしれない。
子供達は何とか海波の痛みを和らげようと、声を掛けたり飲み物を持ってきたりしていた。
「・・・・・・謎の人物抜ける、か。
ふむ・・・・・・」
響はレポートにペンを走らせながら呟いた。
「途中から入ったとはいえ、半ばゲームの主導権を持っていたのはあの人でしたからねぇ。
既に第4クオーターとはいえ、これからどうなると思いますか?先輩」
凛菜もフィルムを交換しながら響に話しかける。
「そうねぇ・・・・・・。
もしかしたらこのまま「地元の高校生」達が押し切るかもしれないけど・・・・・・。
ノブ君たちの事だもの、何かしら手を打つはずよ。
まだ逆転しうる得点差だし」
「ですね、期待しましょう」
フィルムを交換し終えたのか、凛菜は再びカメラを構えてベンチの海波を1枚撮影する。
「・・・・・・ところであの人、怪我でも持ってたんですかねぇ?」
「そうかもね、ノブ君とぶつかっただけにしては尋常じゃなかったわ」
響は凛菜の言葉にそう答えて、ちらっと海波の方を見る。
(・・・・・・怪我でバスケから身を引かざるを得なかったかつてのスーパープレイヤー・・・・・・。
ありえない話じゃなさそうね)
まろんのスローインで試合再開。
竹内と上松は相変わらずとして、吉田が麗奈のマークに、そして再び周にはノブが付いた。
なので比較的マークの弱い俊介とまろんで少しずつボールを進めていく。
「・・・・・・おい、あいつ怪我でもしてたのか?
言っとくが、俺は何もしてないぞ」
試合中だというのにノブは周に話しかけてきた。
どうやら自分に疑いが向けられているのではないかと心配なようだ。
周はボールの流れを気にしながらも答えた。
「・・・・・・怪我してたみたいですよ。
ただもう傷自体は治ってるって・・・・・・。
何で痛がるのかは説明してもらえなかったです」
「・・・・・・話せば長くなることかな。
しかし残念だったな」
「・・・・・・ホントです」
やがて隙を見つけた俊介から周にボールが渡る。
さて、どうするか、と周はチラッと振り返る。
「いや、あいつの怪我もそうだが・・・・・・」
「・・・・・・?」
「この試合もさ。
悪いが今、お前達の勝ち目は無くなった」
その言葉に、周は一瞬眉をしかめる。
が、すぐに笑顔になった。
「負ける気はありませんよ」
その言葉にノブも眉をしかめる。
「・・・・・・この状況で笑顔とはな」
「もちろん、だってバスケ大好きですもの。
好きなことやってるときは笑顔、これ基本です」
周はそう返した。
「・・・・・・なるほど、一理ある」
ノブもニヤッと笑った。
直後にシュッと、周の脇の下から手が伸ばされ、ボールが弾かれた。
「なっ!?」
しっかりと両手で持っていたはずなのに、だ。
周がボールを持つ力よりも強く弾かれたということだろうか。
とっさに手を伸ばすがそれはノブも同時。
先に触れたのは周だったがボールは取りそこない、コートの外へと飛んでいく。
トンとバウンドした場所は既に白線上。
今から飛んでも間に合わないと判断したノブは踏みとどまる。
が、周は最後に触れたのが自分であるため、敵にボールを渡さないよう一縷の望みを掛けて跳んだ。
精一杯手を伸ばすが届かず。
そしてその先には得点板が。
「あぶない!」
俊介が声を上げて走るが間に合わない。
周はガシャン!と得点板に衝突した。
海波の身体越しに。
「・・・・・・あれ?」
思ったよりも痛くない感触に驚く周。
同時に転びそうになっていた自分の身体を海波が支えているのに気が付いた。
しかも左腕一本で、だ。
「え?海波さん?」
驚いた表情で海波を見る周。
海波自身も驚いた表情で立っていた。
「・・・・・・左腕は?」
「・・・・・・痛く・・・・・・ないな・・・・・・」
周が自分の足で立ち上がった後、海波は左手を握ったり開いたり振り回したりした。
先ほどまで激痛で動けないような状態だったというのに。
「は・・・はは・・・・・・」
海波はボールを拾うと再びコートに入っていった。
「すまねぇ、大丈夫みたいだ。
また入れてくれ」
「ちょ!海波さん!?
大丈夫なんですか!?」
周が駆け寄るが、海波は笑顔で返した。
「・・・・・・お前、名前何て言うんだ?」
「え、私ですか?
周ですけど・・・・・・」
「「あまね」か・・・・・・。
どうやらお前のおかげで「克服」したみたいだ。
心配掛けてすまなかった」
「私のおかげ?
でも私何もしてませんよ?」
「フフ・・・。
また、バスケが大好きになれたみたいだ」
結局はぐらかされるような感じで海波はコートに戻った。
代わりに俊介がベンチに下がる。
試合は互いに得点を重ね、終盤には45-47となる。
そして、「日本明工大」のゴール下付近。
浮き上がったボールに飛びつく、今日何度目かの竹内と上松の競り合い。
制したのは竹内だった。
「っっしゃあ!!」
そのまま着地するとすぐに跳ぶ。
ダンクには遠いが何度か練習したジャンプシュートだ。
しかし上松のブロックが来る。
とっさに竹内はボールを浮かした。
直後、上松の手が竹内に触れる。
ピピッと笛が鳴った。
「ディフェンス!」
上松のファールだ。
浮き上がったボールはリングに触れたが外に零れた。
これにより竹内にフリースローの権利が生まれる。
「2スロー!」
全員がゴール下の制限区域から外に出ると、審判が竹内にボールを渡す。
何度かバウンドさせ、ヒュッとシュートを放った。
ボールはボードに当たり、リングを通過した。
1点追加だ。
そして2本目。
放ったシュートはリングにバウンドし、外に零れる。
「ぐっ!」
思わず竹内が声を漏らす。
取ったのは上松。
竹内のマークが無ければ身長差的に彼の独壇場だ。
が、着地後に手を伸ばしてきた海波がそのボールをパァンとはたく。
「!」
さっとボールをキープする海波。
だが、そこから上松をかわしてシュートするのは困難だろう。
と思っていた直後、パッと外にボールを出した。
「「「!?」」」
どこに出してるんだ?と味方も含めて思ったが、その先にはまろんがいた。
不意のパスに驚いたようだが、キャッチしたまろんはすぐにシュートを放った。
それはある種まろんの武器。
妨害が無ければ必ずシュートを決める。
ボールは弧を描き、リングを通過した。
同時に審判の笛が鳴る。
「試合終了!」
得点は45-50、「地元の高校生」チームの勝ちとなる。
「やったぁ!」
周は右手を上げながら海波に向かって走る。
そのままハイタッチをする予定だったのだが。
予想外に、海波は周の身体を抱きとめた。
「ふぇ!?」
「なっ!」
周だけでなく、思わず俊介も声を上げる。
「か、海波さん・・・?」
「ありがとう、周。
お前のおかげで俺はまたバスケができる。
こんなに幸せなことは無い・・・・・・ありがとう」
そんな言葉が届いているのかいないのか、周は右手を上げた状態で固まっていた。
意味不明で首を傾げたくなる描写は仕様です。
海波の過去話まで行ってから読み直してもらえれば何とか・・・・・・(




