第九話
「だ、ダブルクラッチ・・・・・・。
しかもフェイク後がダンクなんて・・・・・・どれだけの滞空時間よ」
「そ、その前のドリブルも速かったですよ」
響と凛菜があんぐりと口を開けて呟く。
「今日は来て良かったわ!
掘り出し物がいっぱいよ!」
「ですね先輩!いっぱい写真撮っておきます!」
ひとしきり感動した後、彼女らは仕事に戻ったのだった。
「・・・・・・あんた、マジに何者さ」
「さっき言っただろ、元バスケットプレイヤーだ。
だがもしかしたら今日から現役に戻れるかもしれん」
すれ違い様に麗奈が聞くが、海波はあっさりと返事をして行ってしまう。
その様子を見ながら麗奈は小さく舌打ちした。
「・・・・・・なんだか頼れそうじゃないか」
続いて周が海波の元に走ってきた。
「すごいよ海波さん!何今の!?
こう・・・ダンクに行って戻して、でまたダンク?
何ていう技ですか!?」
「・・・・・・ダブルクラッチでいいんじゃないか?
やってることは一緒だし」
「な、なるほど!ダブルクラッチ!
私もいつか挑戦できるようになりたいです!」
さっきやってただろ、とツッコミかける海波。
おそらく周は自分のやった技と海波のやった技が同じであることに気づいていないのだろう。
それを察してフッと笑った。
「おかしな奴だな、お前は」
「え?何ですか?」
「いや、なんでも」
海波は笑いながら守備に着いた。
周もそれに続く。
その様子を少し離れたところから俊介がむ~っと眺めていたりするのだが。
ノブは気を抜いたわけでも慢心していたわけでもなかった。
それでもブロックをかわされてダンクを決められたことにわずかながら苛立っていた。
ボールの扱いから素人でないことは分かっていたが、予想を上回るレベルだったようだ。
「・・・・・・」
ノブは海波をじっと見つめる。
見たところ大学生辺りの年頃、自分よりは年下だろう。
あれ程の腕ならば大学バスケでも通じそうなものだ。
しかしその姿に見覚えはない、雑誌やテレビ越しにも、直接も。
「・・・・・・厄介なのが入ってきたな、どうする?」
上松が声をかけてくる。
確かに厄介だ。
竹内は上松に任せておけば大丈夫、その上パスカットなどもちょくちょくしてもらう。
スピードが上がったとはいえ、周は自分で相手をすれば押さえられる。
残ったメンバーも吉田をメインにマークを割り振っていけばいい。
そうすればいずれ体力に限界が来て、後半には押し切れるだろうと思っていたのだ。
事実まろんは早くも限界が近づいていた。
だがそこに現れたこの男、おそらく実力は周と同様くらい。
となれば1VS1でノブが相手をすれば押さえられるだろう。
が、あいにくと周と海波のどちらかしか相手を出来ない。
仮にどちらかを吉田に押さえてもらうとしても、麗奈と俊介を観客だった高校生2人に押さえてもらうのはきつかろう。
カズやシンジがいればどうとでもできただろうが。
と考えたところでため息が出る。
何を不安がっているのやら。
(これくらい跳ね除けずになにが全国クラスか)
予想外の事が起きたから負けましたなど言語道断。
お互いに観客から交代要員を出せると決めた以上これくらいの事は予想内でなければ。
いや。
「これくらいの予想外な事態こそ、俺が望んでいた展開だったはずだ」
「・・・・・・そうか」
笑みを浮かべながらそういうノブに、上松はため息をつく。
「・・・・・・あきれたか?」
「・・・・・・いや、付き合おう」
そういうと二人はお互いの拳を拳に軽くぶつける。
ゴッ
「・・・・・・なんだかな」
「どうした?」
上松が口を開いたのでノブが聞く。
「全国に挑んだ時みたいな気分だ」
「・・・・・・それくらいの心構えは持ってた方がいいかもな」
そして二人は別れた。
ボールを拾った高校生からパスを受け、ノブはドリブルでゆっくりと進む。
他のメンバーはある程度散らばり、相手と競り合いながらパスを貰い切り込むスペースを作ろうとする。
そしてノブの前にも相手が現れた。
思わず眉をしかめる。
現れたのは先ほど自分をかわしてダンクを叩き込んできた海波だ。
ドリブルをしながら少し姿勢を低くしてボールの動きを早める。
そして両者の目が合う。
刹那、ノブが海波の左に切り込んできた。
すぐに反応して左手を伸ばす海波。
同時に切り替えし、加速しながら右へ走る。
そのまま抜ければ突っ切るつもりだったが海波はしっかりと付いてきた。
そしてこちらのボールを奪おうと左手を伸ばしてくる。
そこでくるっと身体を左周り、ボールを持つ手を持ち替えながら逆方向に走り出す。
ロールターンというやつだ。
海波はまだこちらに背を向けたまま。
今度こそ抜いた!
そう思った瞬間、海波はこちらの動きが見えているかのようにピッタリと、こちらに背を向けたままで付いてきた。
思わず足を止めると海波の左手がこちらのボールに伸ばされる。
「・・・ぐっ・・・」
思わずのけぞってバランスを崩した。
瞬間、その向こう側に竹内と競りながら手を伸ばす上松が見えた。
(ここだ!)
そう思ったノブは、自分の足の間から海波の足の間を通るようにバウンドパスを出す。
だが、ボールが上松まで届くことは無かった。
海波の右手がそれを止めていたのだ。
(読まれてたのか!?)
すぐに走り出すであろう海波を追いかけたかったがバランスを崩した身体は一瞬反応が遅れる。
その間に海波はチラッと後ろを見ると、背中越しにボールを放り投げた。
それを受け取ったのは周。
吉田と競りながらもドリブルで切り込む。
ゴール下まで来るとボールを左手に持ち、ジャンプした。
レイアップだ。
そしてそれを止めようと、吉田が手を伸ばしながらジャンプする。
吉田の手は届くかどうか微妙なところ。
が、不意に周は腕を下げてボールを右手に持ち替えた。
またダブルクラッチか。
冒頭のミスが頭にこびりついている一同は、再びミスするものと思っていた。
だが今までとは違う点がある。
右手から左手に持ち替えていたのとは違い、今回は左手から「利き手の右手」に持ち替えたのだ。
そしてボールを手放す。
ボールはふわっと浮き上がり、リングに何度かバウンドするとネットを通過した。
得点は18-22と引き離す。
わっと歓声が上がった。
「やったぁ!」
本人も飛び跳ねている。
無理も無い。
練習でこそ何度か成功させているが実践で成功させたのは正直これが初めてだからだ。
「ナイスシュート、周ちゃん」
「ナイス、周」
「ありがと、しゅんくん、麗奈ちゃん」
ポンポンと手を合わせる3人。
「やっぱり右手だとちゃんと入るなぁ」
「そりゃそうでしょ」
周の言葉に笑いながらそういう麗奈。
周も「だよね~」というとぐっと拳を握った。
「よし、次からもこの方法できっちり決めるぞ!」
「ちょい待った、周」
「なによぅ」
意気込んだ直後にかけられたストップに周は文句を言う。
麗奈は確認するように口を開いた。
「あんた左手ではシュート入るの?
ダブルクラッチ以外で打ってるとこ見たことないけど」
その言葉に周はキョトンとした表情を浮かべる。
「・・・・・・仮に入らないとして何か問題でも?」
「あるに決まってるでしょーが」
ビシッとチョップを叩き込み、麗奈は話を続ける。
「左手で入らないからって毎回右手に持ち替えて打ってたら止められるよ。
そうさせないためのフェイクなんだから。
見破られたフェイクなんてもはやフェイクじゃない、ただの無駄な動きだよ」
「な、なるほど、確かに」
頭をさすりながら周は頷く。
「そっか・・・・・・よし、明日から左手でシュートの練習もするよ」
「ん、そうしなさい」
そうして周は守備位置に戻っていった。
残った麗奈に俊介が声をかける。
「・・・・・・で、麗奈さんは練習してるんですか?
左手でのシュート」
「・・・・・・そういえばやってないねぇ」
まぁ今度からやるよ、というと麗奈は笑いながらその場を後にした。
俊介はため息をつく。
「・・・・・・僕もやってみようかな、左手でのシュート」
どうやら皆、海波のダンクに感化されたらしい。
試合の流れはそこからゆっくり周たちへと傾いていった。
接戦を繰り広げながらも第2クオーター、第3クオーターを経て、得点は33-39と周たちはリードを広げていた。
第2、第3クオーターを略したのは手抜きです。
だってこのまま書いていったら、この試合だけで十話くらい使いそうで(




