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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第二期
86/102

第八話

タンタンと足踏みをする周。

その様子を見て期待せずにはいられないのは俊介だけではない。

同じチームのメンバーも、一緒に練習していた子供達もだ。


ただでさえ足が速いと思っていた周が、いわばリミッターを外したのだ。

もしかしたらこれなら、ノブにも追いつくかもしれない。


周はボールを持ってエンドラインの外側に立った。


「しゅんくん、すぐにボール返して」

「え?」

「大丈夫、ぶっちぎるから」


と、ボールを出しながら周はそう言った。

もちろん敵側にも聞こえる声で。

ボールを受け取った俊介はすぐにポーンとボールを出す。

それを受け取り、周は走り出した。

そしてすぐに周にノブが付く。


「誰がぶっちぎるって?」

「ふっふっふ~」


ノブの言葉に余裕の笑みを見せると同時に、周の身体が沈み、一気に加速する。

ノブも同時に。


その速さはまさにノブと同等、に見えた。


二人は併走して走る。

だがすぐにノブが気が付いた。


(スピードが・・・・・・上がってない?)


ドリブルをしているせいかと思ったが、ノブは一度ドリブルをした周に追いついている。

その時の自分の走りと比べればスピードは出していない。

にもかかわらず周と並んでいるということは。


周のスピードは上がっていない。


(・・・・・・何かたくらんでんのか?)


そんなことを思う間にもうゴール付近だ。

周は強引にゴール下に切り込もうとノブの体を押してくる。

だが押し負けるノブではない。

周もそれを分かっているのでターンで抜こうとする。

が、ノブもぴったり付いてそれを止める。

再び切り返す周。

だがノブは振り切れない・・・・・・?


「!?」


再び前に向き直った周の手元にボールは無かった。

周囲を見回すとすでに俊介が受け取っているのが見えた。


(こいつ・・・・・・自分に意識を向けさせておいてチームメイトを使うとは・・・・・・。

 さっきもそうだがパスの技術も加わって先読みが出来ん)


ノブが舌打ちする間に俊介がシュートモーションに入る。

だが、そう何度も決められては大学バスケの名が廃る。

今度は吉田がシュートを止めた。


「あっ!」


ボールが零れ、浮き上がる。

落下地点にいるのは竹内と上松。

二人で押し合っているが若干上松が手前だ。

そして両者同時に飛び上がり、上松がボールをキープした。

着地してすぐに上松はノブにボールを渡す。

受け取る前から走り出したノブ。

周の動作が遅れたのが見えた。


(重りを外すような演出をして見せたがスピードは上がっていない。

 その上仲間を使うプレー・・・・・・。

 ということは間違いなく、あの重りはただのブラフ。

 重りに見せかけたただの別の物だ)


自分が重りを外すのを見て周も重りを外したように見せ、自分に注目させておきながら仲間を使って攻める。

ただその為の、偽物の重りを使ったブラフ。


「下らん」


敵陣ゴール下までは敵が邪魔で少し右側に迂回しなければならないが、その敵はチームメイトが抑えてくれている。

邪魔は入らない。

ましてや今回は周よりもノブのほうが先にスタートを切った。

その上周の重りはブラフ。

自分が負ける要素は無かった。


ノブはただ枷が外れた足で全力で走り、ゴール下まで攻め込み、そのゴールリングにダンクを叩き込むだけ。


誰一人追いつけない中で、ノブはゴール下でボールを持ち直し、ジャンプする。

そしてダンクを叩き込む。





その刹那。


パァン!とボールが奪われた。


「!?」


ダンクの為にジャンプをしたがその手にはボールが無い。





そのボールは、自分のすぐ後ろの周の手の中にあった。



(なんだと・・・!?)


自分のスピードの追いつけるはずが無い!

ドリブルをした自分のスピードよりも相手のスピードの方が遅いのは先ほど証明したはず!

にもかかわらず、先にスタートした自分がボールを奪われた!

しかも周がまっすぐ自分を追ってきたなら左側に現れるはずなのに、「わざわざ右側に回りこんで」自分の右手のボールを奪っていった!

ということは!


(ブラフというのが・・・ブラフ!?

 重りを外したこいつは、俺のドリブルより速い!!)


ノブが着地して振り向く頃には既に周はドリブルで攻め込んでいた。

先ほどノブが攻めるときに全ての敵がチームメイトによってマークされていたということは、敵がチームメイトをマークするのもたやすいということ。

何の妨害も無く、周はゴール下に切り込み、レイアップを決めた。


得点は16-16から16-18へ。


わぁっと周囲から声が上がった。



「宣言どおり、ぶっちぎらせてもらいました」


周がノブの正面に立ってそういう。


「・・・・・・」


ノブは何も答えずにその横を抜けていった。

その後ろから麗奈がやってくる。


「ナイス挑発、周」

「あはは」


パンとハイタッチしてすぐに守備についた。


これで周は全国区のバスケットプレイヤーであり、自分のOBでもあるノブに一矢報いた。

周ならば全国区のノブとも互角にやり合えると、チームメイトだけでなく観客もが思っていた。




「・・・・・・こ、これは・・・・・・」

「せ、先輩!ノブ君が!ノブ君がピンチですよこれは!」


響と凛菜は騒いでいた。

騒ぎながらもレポートを書く手と写真を撮る手が止まらないのは感心だが。


「ええ、これはピンチね。

 高校生くらいの女の子に止められたとあっては、これはもうノブ君も黙っちゃいないわ!」

「ですね!きっとここからはもう「お遊びは終わりだ」タイムですね!」

「間違いないわ!

 覇気たっぷりのノブ君の顔を撮り損なうんじゃないわよ!」

「もちろんです!」


ガリガリガリ、カシャカシャカシャと音が止まらなかった。

その様子を子供達は、やはり面白いものを見るかのように見ていた。




「吉田、すぐにボール渡せ」


ノブはそう言って吉田にボールを投げた。


「・・・・・・あいよ」


「もう俺知らね」という表情で吉田はボールを受け取り、コートの外からノブにパスを出した。

受け取ったノブはゆっくりとドリブルしながら歩いてきた。


「・・・・・・?」


相対するは周。

先ほどまでのスピード勝負とは打って変わった試合展開に少し疑問を持つ。

が、すぐに加速してくるだろうと姿勢を低くして構える。

しかしノブの動きは変わらない。

ただゆっくりと迫ってくるのみ、もう周と身体がぶつかろうというところまで来ていた。


「・・・・・・ボール持ってっちゃいますよ?」


周はそう言いながらボールに手を伸ばす。



ゾクッと嫌な予感が走ったときには、すでにノブが周を抜き去った後だった。


「え!?」


振り向くと既にノブは数m先。


次のノブの目の前に現れたのはまろん。

あっさりと向きを変えて抜き去る。

その切り替えしに付いていけずにまろんは転んだ。

いつもならここで敵に触れるとまろんの能力発動、8割の確立で相手のファールになるのだが、ノブはまったくまろんに触れることなくすり抜けていった。


すり抜けた先はもうゴール下。

そこにいたのは竹内。

上松は少し離れた位置でいつでもパスを受けられるようにしている。

それが竹内にしてみれば嫌な作戦、どちらも警戒しなければならないからだ。

そんな竹内を尻目にノブはボールを持ってジャンプする。

結局竹内はどちらにでも対応できるようにと思いながらジャンプするしかなかった。


そんな中途半端な対応ではとても。

いや、完全に止める気で守備に回ったとしても、今のノブを止められはしない。




かつて、全国大会でベスト8まで進んだ。

そこはもう全国制覇までもう少しというところ。

試合の内容も悪くない。

ミスもなく、出せる力は全て出した。

点差は2点。

本当にあとわずかというところで負けたのだ。


センターだった長身の上松が床に手をついて泣いた。

ちょこちょこと敵の合間をくぐってかく乱していた吉田は立っていられなくて座り込んだ。

ムードメーカーだったカズが天を仰いで泣いた。

当時のキャプテンは腱鞘炎でしばらくペンも持てなくなった。

自分は、優しく大らかでも厳しく尊敬できるコーチと肩を並べて泣いた。


全国ベスト8まで進んだのではない、全国ベスト8で止められた。

その悔しさをバネに練習を続け、今や全国クラスのプレイヤーになったと周囲にも言われている。


あの時の自分よりも確実に強くなり、あの時の自分よりも確実に成長した。


高橋展也、日本明工大学所属3年。




この俺が、高校生に負けるだと?




ズダンッと竹内のブロックを押しのけてダンクが叩き込まれた。


18-18、再び同点へ。


「ぐっ!」


よろけながらも竹内は着地した。

その横を悠々と歩いていくノブ。



「・・・・・・遊びはここまでだ」

「・・・!」


周に面と向かってそう告げるノブ。


「全国という看板を背負っている以上無様なマネはできん。

 大人気ないと笑うのも自由だが、全力で戦おう」




「あ、周・・・」

「・・・・・・はぁ!」


麗奈に声をかけられ、ようやく息を止めていたことに気づいた周。


「・・・だ、大丈夫かい?」

「う、うん・・・・・・。

 あれが全国の迫力ってヤツね。

 息が止まっちゃった」


傍から見ていても迫力満点だったのだ、正面から言われた周にかかった重圧はそれ以上だろう。


俊介もそれを見ていた。

そしてもうひとつ気になることがある。

なので審判に向き直り、両指を伸ばして右掌に左手の指先をつけて斜めのT字を作る。

タイムのサインだ。


「チャージドタイムアウト、地元の高校生チーム!」


ほんのわずかだが休憩タイム、両チームがベンチに引き上げていった。



「休憩取ったのしゅんくん?」

「うん、そうだよ」

「ありがと、空気入れ替え欲しかったんだ」


周はベンチに座って、ふぅと一息つく。


「空気の入れ替えもそうだけど・・・・・・」


と、俊介がまろんをベンチに座らせる。

その息は荒く、顔も赤くなっていた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「大丈夫か?」

「はい・・・なんとか・・・・・・はぁ、疲れましたぁ・・・・・・」


竹内の言葉に返事はするもののぐてっとベンチに寄りかかるように座るまろん。

無理もない。

まろんはこのメンバーの中では一番年下で一番背が低く、練習に加わってから一番日が浅い。


「ほら、水分とって」

「ありがとございます・・・・・・」


俊介にスポーツドリンクを渡されて飲むまろん。

だが正直1分程度の休憩で回復するとは思えない。

何とかもう少し休ませてあげたいものだが・・・・・・。



「あ、周!俺が代わりに入るよ!」


ふと、そんな声がかかる。


「恋二君?」


そう言ってきたのは恋二だ。


「まろんが休んでる間俺が出るよ!

 試合に出させてくれ!」

「で、でも恋二君。

 相手の人は全国クラスの大学生なんだよ?」

「関係ねぇよ!!俺たちだって一緒に練習してきた仲間だろ!!」


恋二が大声でそういう。

すると後ろから他の子供達も現れる。


「そうだよ!お姉ちゃん!」

「僕達も仲間ですよ!」

「・・・困ってたら、助けてあげたい・・・」

「仲間だから

 助けるの

 当たり前」


「みんな・・・・・・」


周は立ち上がり子供達と正面から向き合う。

そして。


「・・・・・・分かった・・・」といいかけた時、その後ろからもう一人現れた。


「勝てると思うか?」

「え?」


現れた男は黒のズボンとトレーナー、そして薄着のコートを着た男だった。



「「「「「・・・・・・・・・誰?」」」」」



「・・・・・・大学バスケの全国区を相手に一介の高校生が勝てると思うか?」


メンバーの総ツッコミにも関わらず、男は再び質問を繰り返した。

キョトンとする一同。

だが、周は口を開いた。


「えっと・・・・・・勝てるかは分かりません。

 でも負ける気もありません」


その答えに一同は「ん~・・・」と微妙な顔をする。

周らしいといえば周らしいが。


男は言葉を続けた。


「・・・・・・お前は、どうしてバスケをしてるんだ?」


その言葉に、周は笑顔で答えた。


「バスケが大好きなバスケットプレーヤーだからです」




「・・・そうか・・・」


男は周の言葉を聞くと、上着を脱いでベンチにかけた。


「俺が代わりに入ろう。

 その子は休ませた方がいい」

「いや、だからあんた誰なのさ」


と麗奈は言ったところでふと思い出す。

そういえばここに来る手前で「この先の公園でバスケやってるから見に来な~」と言ったが。

その時の男はこの男だったか・・・?


木兵海波(こへい かいは)、18歳。

 高校は卒業済みだ。

 身長187.5、だったかな?

 バスケを見に来たが、楽しそうだから入れてもらうぞ」


男は麗奈にそう言った。


「・・・やっぱりさっきのかい。

 で、あんたバスケできるの?」

「高校一年まではやってた」

「・・・・・・おいおい・・・・・・」


2~3年のブランクがあるってことじゃないかい、と麗奈は心の中で思った。

だが子供達に無理をさせるよりはいいかもしれない。



「タイムアウト終了です」


審判から声がかかる。


「よし、じゃあよろしくお願いします、木兵さん」

「海波でいい、よろしく頼む。

 じゃあ交代を告げてくる」


海波と名乗った男はそう言って審判に向かって行った。


「・・・・・・大丈夫かな」

「・・・・・・なるようになるだろ」


俊介と竹内が顔を合わせてそういう。


「・・・・・・はぁ・・・ごめんなさい、みなさん・・・・・・私がもっとしっかりしてれば・・・・・・」

「大丈夫、まろんちゃんは頑張ったよ。

 今は少し休憩してて」

「・・・はいです・・・・・・」


まろんは子供達に任せて周はコートに入っていった。



「メンバーチェンジ、地元の高校生チーム」


突然の飛び入り参加に観客からも声が上がる。


「こっちボールからだったな。

 少しボールに触らせてくれ」

「あ、はい」


そういう海波に周は審判から受け取ったボールを渡す。

海波はゆっくり両手で交互にドリブルしながらエンドラインの外に出る。

そしてドリブルをやめ、両手でボールを掴み、大きく深呼吸する。


「・・・・・・3年以上経つが・・・・・・しっくりくるな・・・・・・」


そして、俊介にパスを出した。


俊介の相手は観客だった高校生の先に入っていた方だ。

最初から入っている分疲労があるらしい。

体力勝負ならまだ俊介に分があるようだ。

隙を見てボールを前に進めつつ、再び海波にボールを出す。

受け取った海波は再びゆっくりと両手で交互にドリブルしながら進んでいく。


その正面に来たのは吉田。


「そっちも交代かい?

 無理にメンバー変えると息が会わなくなるんじゃねぇか?」

「それはお互い様だろう」

「はは、違いな・・・」



ダダンとドリブルの音がして、吉田が抜かれた。


「・・・は!?」


そのままあっという間に敵陣ゴール下に。

そこで待ち構えていたのはノブだった。

先ほどの迫力は休憩を挟んでもそのままだった。


(このドリブル・・・・・・ずいぶん慣れてるやつだな。

 だが・・・・・・負けるわけにはいかん)


ボールを右手にタンとジャンプする海波。

同時にノブもジャンプする。


二人の身長はほぼ同じ。

ジャンプ力も同じくらい。

ゆえにノブが海波を止めるのも難しくはない。

何も考えずそのままダンクしようとしてきたので、ノブはとっととボールを叩き落とすべく手を振り下ろした。


が、その手は空を切る。

あっさりと。

ボールが左手に持ち返られたのだ。


「!?」


そのままボールを浮かせてシュートすればダブルクラッチ。

だが、海波は左手でボールをリングに叩き込んだ。


ズダンッ!




着地して軽く左手を振る海波。


「・・・・・・うむ、どうやら順調なようだ」



タイムアウト開け、最初に得点したのは謎の参加者、木兵海波。


観客はまだ誰も彼の事を知らなかった。



謎の人物にして特別扱いのキャラ登場。

かなり飛ばして書きましたので読みにくいのは仕様です。

彼の過去話を読んだ後に読み直してもらえれば分かるはず。

その時には書き直されてるかもしれないけどね!(

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