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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第二期
85/102

第七話

試合開始から10分が経過したところで時間を表示する掲示板からブザーが鳴る。

同時に審判が笛を鳴らした。


「第一クオーター終了!」


その宣言と同時に、試合前に自分達がいたところに引き返すノブ達。

観客だった二人もそれについていく。

こちらもベンチへと引き返して行った。

と。


「しゅんくんしゅんくん」


周が俊介の元へ走り寄る。


「クオーターって何だっけ?」

「大会のときにやったでしょうが」


周の言葉に、近くにいた麗奈が突っ込む。

俊介は苦笑いしながら説明する。


「うん、大学やプロの試合ではクオーター形式が採用されてるんだ。

 高校までは前後半20分ずつだけど、クオーター形式の場合は10分ずつ第四クオーターまで行なわれるんだよ」

「へ~・・・・・・ん?

 あ、そういえば全校の大会のときもそうだったっけ」

「忘れんなよ」


と、ベンチへ戻ってきた竹内がそういう。


「えへへ、そうでした。

 でも10分はちょっと短い気がするよね」

「ん~、流れもよかったしねぇ」


得点を見ながら麗奈が呟く。

得点は14-13、周たちが1点を追う状況だ。

途中で引き離されたこともあったが、なんとかここまで追いつくことが出来た。


「忘れてるかもしれないから補足しておくよ。

 タイムアウトは第一、第二クオーター合わせて2回まで。

 第三、第四クオーターは3回取れるよ」

「なるほど~」


俊介の説明に納得がいったらしい。

周は何度も頷いた。


「ふぅ・・・・・・、しかし強いな」


竹内が軽く汗を拭いながらそう呟く。

とはいえまだ疲れているという感じではない。

それは他のメンバーも同様だ。


「でも笹塚さんとやったときより食いついていけてますよ」

「そうだねぇ、ハンデもらってって言うのが少し気に食わないけど」


まろんと麗奈もそういう。


確かに向こうの三人は強い。

ハンデとなる二人が入っていなかったらもっと引き離されていただろう。

もしかしたら0点で完封されていたかもしれない。


だがハンデを貰ってでも、全国レベルの大学生三人を相手にここまで付いていけているというのは少なからずこの五人に自信を持たせていた。


「みんな、この調子で後半戦も頑張ろう!」


周が力強く言うと、全員が頷いた。

俊介がただ一人、まだ後半じゃないけどねと呟いていたが。



「第二クオーター、ゲーム開始します!」


審判の宣言に、両チームはコートに入っていく。

そして周たちのチームにボールが渡された。


「・・・・・・ん?」


受け取った周はキョトンとしている。

もちろんセンターサークルに入ろうとしていた竹内もだ。

そこで思い当たることがあったのか、俊介が審判に確認を取る。


「オルタネイティング・ポゼション・ルールですか?」

「うん、そうするように言われたからね」


向こうのチームに、と付け加える審判。

その言葉に分かりましたと頷き、周からボールを受け取る俊介。

ついでに皆を集める。


「・・・・・・ジャンプボールじゃないのか?」

「どうしたんだい?」

「何今の、オルターネイト・・・何とかって」


皆の質問もごもっとも、と俊介が説明を始めた。


「オルタネイティング・ポゼション・ルールって言ってね。

 例えばボールが外に出たときにどっちのチームが最後に触れたか分からない時とかあるじゃない?」

「あー、ありますね」


まろんが頷く。


「そんなときは近くのサークルでジャンプボールをすることになってたんだけど・・・・・・。

 新ルールで、そういう状況が生まれるたびに交互にスローインすることになったんだ」


そういいながら俊介は得点版を指差す。

そこにはノブ達のチーム向きに矢印が示されていた。


「ほら、得点版の真ん中に矢印が付いてるじゃない?」

「・・・・・・あ、ホントだ」

「あれが、そういう状況が訪れたときにどちらがボールを所持するかを示しているんだ」

「へ~・・・・・・でもあれ逆じゃないの?」

「「矢印の向きに攻める側に所持権がある」ことを示してるからあれでいいんだよ」

「なるほど~」


周がポンと手を叩く。


「・・・・・・で、それが今と何の関係があるんだ?」


しかし肝心のそこの説明がなされていないため、竹内が説明を求める。

俊介は頷いて説明を続けた。


「第二、第四クオーター・・・ピリオドって言い方もするけど、その最初のボールの所有権も含まれるんだ。

 最初のジャンプボールでボールをキープしたのが向こうのチームで、それ以降どっちのチームにボールの所有権があるのか分からない状態が無かったから、次のピリオドの最初は僕達に所有権があるんだ。

 第三ピリオドではまたジャンプボールで決めるよ」


ほぉ~と声を上げて納得する一同。


「でもそんなの中学ではやってなかったよ」

「夏のバスケット連盟の大会でもやってなかったな」

「高校でもやってるところはあるかどうか分からないよ。

 正式採用されてからあんまり経ってないし、色々改正されたりしてるみたいだからね」


周と竹内の言葉に俊介がそういう。

む~、と腕組みする周。


「分からなかったらまた説明するよ。

 時間も押してるしそろそろ試合始めよう」

「あ、うん、そうだね」


そう言われてコートに戻る一同。


「ちょ、周ちゃん、まだコートチェンジはしないよ」

「え?あ、そうだっけ?」


クオーター形式ではコートチェンジが行なわれるのは第三クオーター開始時。

周は慌てて自陣に戻った。



ボールを持ったのは俊介。

立つのはコート外でセンターラインの延長線を跨ぐ位置。

オルタネイティング・ポゼション・ルールではここから敵陣、自陣どちらにパスを出しても良い。

コート内では中央で竹内と上松が、向かって左付近では周とノブが、そして少し離れた位置では麗奈と吉田が競っている。

となると・・・・・・中学生と高校生二人に囲まれているがまろんが一番か。

すぐに自分に返してもらえば楽に進めるだろう。

仮に全国クラスの誰かがマークに来れば空いた人にパスを出せばいい。


ヒュッとまろんにパスを出したところで試合が始まる。

他の競り合っているメンバーを避けてまろんの近くに行くとすぐにパスが返ってきた。

そしていざ攻めようと前を見ると。


「・・・!」


そこに待ち構えていたのはノブだった。

すぐに周にパスを出そうとするが両手の動きにパスコースが潰されている。

周は少し離れた位置でフリー、だがパスが出せない。

と、そのフリーの周に高校生が付こうとする。

必然まろんのマークが一人減る。

ならば、と俊介は周の方を見ながら大きく振りかぶってパスを出そうと構える。

そのパスコースを塞ごうとノブが手を伸ばしたのを見計らってすぐ近くのまろんにボールを出した。

何のサインもなしだったが、とっさにまろんは取ってくれた。

そしてすぐに周にパスを出す。

が、それを読んでいたかのようにノブが手を伸ばし、ボールを叩き落とした。

しかし叩き落されたボールを拾ったのは俊介。

すぐにターンして攻め込むがノブもぴったり付いてくる。


(くっ・・・、このままドリブルしていってもすぐに止められるかも・・・・・・)


ならば早めにパスを出すしかない。


「周ちゃん!」


ぐっと身体を低くしてボールを持つ手に力を込める。

当然ノブはそのボールを狙おうと手を上げる。

それを見切って、俊介は背中越しにポイッと再びまろんにパスを出したのだった。


「!?」


一度ならず二度も、しかも連続で引っ掛けられるとは。

チッとノブは小さく舌打ちする。


だが、とっさに手を伸ばした上松がギリギリそのボールに触れたのだった。


「あっ!」

「!」


立ち止まりかけていたまろんと前に走っていた俊介がとっさにボールを拾おうとする。

しかし、そんな二人よりもノブは速かった。

ボールを拾うなりドリブルでゴール下に切り込んでくる。

第二クオーターの先制を取られるかというところでノブの前に立ちはだかったのは竹内であった。

上松がボールをカットする為に離れたのでこうして追いつけたというわけだ。

だがそれは必然的に上松が今フリーだと言うことになる。

それを知っているノブはシュートに行くフリをしてジャンプする。

竹内もつられてジャンプする。

それを確認してすぐにノブは上松にボールを出した。

が、直後に竹内が着地した。

ノブよりも後にジャンプしたはずなのに。


(・・・読まれてたか?)


ノブの予感は的中、上松にボールが渡ったものの、すぐに竹内がマークに付いた。


(ボールを受け取ったはいいが・・・・・・、さてどうするか)


軸足は動かさないように身体を動かし、竹内の手からボールを守ろうとする上松。

このままでは埒が明かないと、ドリブルで何とか振り切ってみようかと思った刹那、上松は背後に足音を聞いた。

人の後ろに着くことでいつもフォローしてくれるチームメイトの事が頭に浮かぶ。

すぐに上松は後ろを振り返ることなくボールを出した。

受け取ったのは吉田だった。

長くチームを組んだ彼らだからこそ、掛け声の一つもなしに意思の疎通が出来る。

その大胆さと正確さは、さすが全国まで行っただけの事はある。


ボールを受け取った吉田はすぐにシュートモーションに入り、ジャンプする。

が、トンッと音がしてふいに手からボールが浮いた。


「!?」


それは吉田についていた麗奈が背後から手を伸ばしていたからだ。

それに気づいた吉田が浮いたボールに手を伸ばそうとするよりも早く、麗奈は周のいる方向にボールをはたく。

しっかりとキャッチした周はすぐにドリブルで攻め込む。

が、すぐに背後から付いてくるのがノブだ。

先ほど少し目を離していたというのに周が攻め込むときにはきっちりマークする。

さすがの周もそれにはプレッシャーを感じていた。


(逃がさないぜ)

(ぬぬ・・・しつこい!)


ダムダムダムとドリブルで攻め込む周に、ノブはあっという間に追いついた。

すぐにドリブルの音がやんで周はジャンプする。

シュートだと察したノブはそれを止めようとジャンプする。

が。


(・・・・・・?ボールは・・・?)

「んふふふ」


その手にボールは無かった。

そして周の不敵な笑み。

まさか!?と振り向いた先にはボールを受け取った俊介がいた。


(・・・・・・いつの間にボールを出しやがった?)


そう思う間に俊介はシュートモーションに入る。

何とか追いついたのは中学生だがシュートを止めることまではできない。

ヒュッと放たれた3Pシュートはスパッとリングを通過した。


得点は14-16と、周たちのリードとなった。


「やった!」


はしゃぎながら周が俊介とハイタッチする。


「ナイスシュート、しゅんくん」

「ナイスアシスト、周ちゃん」



ふぅ、と一息ついてその様子をノブが見ていた。


(第一クオーターでも十分察してたが・・・・・・こいつら思ってたよりも手ごわいな)

「おい、大丈夫か?」


ふと、吉田の声がする。

ノブに声をかけてきたわけではなく、中学生に対してだ。

見るとまだ第二クオーター始まったばかりだが汗もかいてるし息も荒い。


「交代するか?」


ノブがそう声をかけると中学生がコクッと頷いた。


「そうか、よく頑張ったな」


ノブは彼の頭を撫でながら審判に声をかける。


「審判、選手交代だ」


審判はそれに頷き、笛を鳴らす。


「メンバーチェンジ!日本明工大!」


そしてノブは中学生を自分達が持ってきた椅子に座らせて休ませ、再び観客に声をかける。


「はい、次やりたい人はいるか?」


その言葉に再び手を上げて盛り上がる観客達。

そして一人が選ばれた。


「あ、あの!高橋さん!俺、ファンなんです!」

「そうか、ありがとう。

 今日は一緒に頑張ろうな」

「はい!よろしくお願いします!」


握手をして新たに入ってきたのは高校生くらいの男子。

ノブのファンだという辺りバスケをやっていそうだ。

周たちと同い年か一つ上か。

いずれにせよ先ほどの中学生よりも強いと思っていた方がいいだろう。


と、ノブが長ズボンの裾をまくり、足首に巻きつけてあるそれに手を掛けるとパチンと外した。

それをベンチにドシャッと置く。


「・・・・・・重りか?」

「・・・・・・多分」


竹内と俊介が言葉を交わす。

試合の最中だというのに重りをつけていたとは。

さらにその状態で周と同等以上の走りをしていたということに、二人は驚きを隠せなかった。

ノブはトントンとつま先で地面を叩くと数回ジャンプする。


「よし、行くか」

「はい!」


そして高校生と共にコートに入る。



試合再開。

ボールを持ってエンドラインに立ったのは新たに入った高校生。

辺りを見回し、ノブにパスを出す。

そしてノブから吉田へとボールが繋がる。


「さて、そっちのキャプテンよ」

「私?」


ふと、ノブが周に話しかけてきた。


「一つ競争と行かないかね?」

「・・・・・・なんのですか?」

「ボールが零れたら同時にダッシュ、拾って敵陣に叩き込んだ方が勝ち」

「・・・・・・他の敵の妨害は?」

「無論ありだ、俺たちが勝手にやるんだからな。

 仲間に相談して手を貸してもらうか?」


そう言ってニヤニヤしながら周のほうを見るノブ。

周はそれをムッとした表情で返す。


「受けて立ちます」

「そう来なくっちゃな」



二人が試合の状況を見ると、浮いたボールに竹内と上松が飛びつき、零れたボールを麗奈が拾ったところだった。

麗奈と敵陣ゴールの間には誰もいない。

一番近くにいるのは吉田だが、しばらく併走するしかないだろう。

つまり周がここでノブを押さえれば得点のチャンスだ。

周はノブの前に立ちはだかる。


「通しませんよ」

「フッ・・・吉田なら止めるさ」


そう言って特にゴール下に近寄る様子もないノブ。

そうこうしている間に麗奈と吉田がゴール下付近に。

麗奈は一気にゴール下まで迫りたいが、吉田がそれを阻む。

急停止したり再加速したりしてみるものの振り切れずにいた。

ターンしてみるがピッタリ付かれて抜き去ることが出来ない。

そのうち他のメンバーも集まってきた。


(くっ・・・・・・仕方ない!)


と、麗奈は振り向きながらコートの外に飛び出した。


「なっ!?」


何をしているんだ?と吉田が声を上げる。

麗奈は着地する直前にポーンとボールを浮かせた。


(誰か拾ってくれよ!)


「・・・ほら、ボールが零れたぞ」


そういうが早いか、ノブがタタッと近寄って俊介が取ろうとしていたそのボールをキャッチする。

そして着地と同時に「スタートだ」と言った。


周はそれを聞くよりも先に走り出していた。


「・・・おや」


ノブが一瞬苦笑いをする。

が、直後に加速した。


「んなっ!?」


ノブの前には竹内と上松の二人、ゴールを目指すには二人をかわして行かなければならない。

対して周はゴール下まで一直線、障害はない。


それだけの差があるにもかかわらず、ゴール下にたどり着いたのはほぼ同時だった。

そしてノブはボールを止めて地面を踏み切る。

周も同時に飛んだ。

高さでは周は敵わない。

いくら手を伸ばしたところでノブの手のボールまでは届かない。


にもかかわらず、ノブは空中でクルッと向きを変えた。


(空中で向きを変えた!?)


一度ジャンプした後で向きを変えるなんて!

そう思う周の横を、周に背を向けながら通過し、ノブは左手でふわっとボールを浮かせた。

浮き上がったボールは綺麗にリングの真ん中を通過した。



「今回の競争は俺の勝ちかな?」


ノブは余裕の笑顔でそういう。


「あ、周ちゃん・・・・・・」


二人の話を聞いていたわけではないが、明らかに周が先にスタートを切っていたのを見ていた俊介。

「スタート」という掛け声も聞こえた。

間違いなく重りを外したノブの足は周よりも速い。

ドリブルをしていても、だ。

速さを武器にしていた周にとってこれはショックだろう。

そう思い、俊介は周に声をかける。


が、周は何も答えずにスッと靴を抜いた。


「・・・・・・?何してるの?周ちゃん」


俊介の問いには答えず、周は靴底を取り出す。

とは言ってもそれは布やゴムという感じではない。


「・・・・・・何それ?」


そこでようやく周は俊介に笑顔を見せる。

そして靴を履きなおし、靴から取り出したそれをコートの外にポイッと放り投げる。

カランカランと音を立てたそれは間違いなく金属だ。


「・・・・・・も、もしかして・・・・・・重り?」


周も重りを付けていたと言うのだろうか?

一体いつから?


そういえば最近周と走っているときに以前より距離が縮まっていた気がしたが、もしやこの重りのせいだろうか?


それとも・・・・・・もっと前から?



「べ~!」


と周はノブに舌を出して見せた。


「・・・・・・ンの野郎・・・・・・」


小癪な、とノブは笑った。



オルタネイティング・ポゼション・ルール。

クオーターについて調べてたら出てきました。

2004年施行、2005年改正。

そんな学校卒業した後にできたルールなんて知らんわい(--;

俊介の説明で分からなかったらググってね♪

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