第五話 公園試合
サークル内に立つのは竹内、上松。
両者向かい合う。
その間で審判がボールを構える。
そして、ヒュッと投げ上げた。
二人が飛び上がる。
「・・・く!」
わずかの差で竹内が競り負け、上松にボールをはたかれる。
はたいた先には吉田。
そしてすぐにパスでノブに繋げる。
タタッと右からドリブルで切り込んでいく。
しかしすぐに麗奈がマークにつく。
ノブはドリブルを続けたまま足を止めた。
この間はあっさりボールを奪ってゴールまで行けたが、今回はそうは行かないらしい。
ぐっと身体を左に揺さぶる。
が、すぐに右に切り込んでいくフェイク。
しかし麗奈はぴったりついてきた。
ノブは一瞬足を止めてドリブルを右手から左手に切り替える。
(・・・走る!)
と、麗奈が読んだ直後、ノブが麗奈の左に走り出した。
だが、ビンゴ!と思った瞬間ノブは立ち止まり、左手でポーンとボールを浮かせた。
「え!?」
麗奈が振り向くとそこには走ってきた上松。
そしてその向こうに力で押し負けたらしい俊介。
そのまま空中でボールをキャッチしてダンクするのだろう。
「アリウープ。
悠里ヶ丘高校時代からの常套パターンね」
響がレポートにペンを走らせながらうっとりと呟く。
それは彼らが高校の頃から使っていた得点手段。
彼女達は大学バスケ担当なのでノブの事を知ったのは彼らが大学に入ってから。
そのプレーを見て一気に引き込まれたというわけだ。
ゆえにこの場でもその攻撃パターンを見られたことは非常に感激することだった。
のだが。
「・・・・・・あれ?でもなんか・・・・・・」
カメラを構えていた凛菜がそう呟いた直後だった。
「・・・・・・む」
ノブが浮かせたボールは上松の指先にかすっただけ、その手には収まらなかった。
「・・・・・・何?」
思わずノブが声を漏らす。
アリウープ失敗!
ノブにしてみれば全国大会でも何度も繰り返したプレーだ、今更ミスすることなどありえない。
ちらっと、おそらくその元凶であろう彼を見た。
それは俊介。
力負けしたものの、結果的にこの連係を潰していたのだ。
それは俊介がまだ中学一年。
周がバスケを始めると言うのでつられて始めてからおよそ1年経ったとき。
テレビで流れていた高校バスケット選手権で、俊介は彼らのプレーを見ていたのだった。
それは素晴らしい連係。
いつか自分もあんなプレーができるようになれるかな、などと思っていたのだった。
(・・・・・・っ、テレビ越しでも、実際に見ておいたのがよかったかな)
起き上がりながら俊介はそう思った。
上松が、上松でなくとも同じ役割をする悠里ヶ丘の選手が、どのように敵をかわしてノブのボールに合わせるか。
しっかりとではないが覚えていた俊介は気合でなんとか上松の動作を妨害することが出来ていたようだ。
結果ボールは零れ、竹内が何とかそれをキープする。
「竹内君!」
「おう!」
すぐにパスを出すと、受け取った周は即座に敵陣に切り込んでいく。
「・・・く、速い!?」
吉田がすぐに追いかけるが追いつけない。
吉田自身足が速いとは言いがたいが、それでも全国まで行った自分が年下の女の子に足で負けるとは思ってもみなかったのだ。
周を知らない観客からも声が上がる。
ふと、吉田が足を止める。
諦めたのだろうか、ともかく周はゴール下からレイアップを放つ。
先制ゴールは周、とはならなかった。
「!?」
そこには既にゴール下まで来ていたノブがいた。
そして周の放ったシュートをあっさりと吉田の方向に弾く。
吉田が止まっていたのはノブから指示があったからだ。
ボールを受け取った吉田は上松や、入った子供達にせっかくだからとボールを回し、少しずつ攻めていった。
「・・・・・・!!」
「・・・・・・」
周とノブは無言で目を合わせる。
(・・・この間のドリブルは見てたけど・・・・・・やっぱりこの人速い!)
(・・・・・・こいつ、こんなに速いとは予想外だ。
さすがキャプテンを務めるだけあるか・・・・・・)
「・・・・・・」
「・・・・・・いい足だな」
ノブは周にそういうとゆっくりと走り出した。
周もすぐにそれを追う。
「・・・・・・今の白い髪の女の子・・・・・・」
「はい、先輩。
かなり足速いですね」
響と凛菜が話をしている。
「・・・・・・あれ高校生よね?」
「一応そう聞いてます」
「高校女子であの速さ・・・・・・陸上でもやっていけるんじゃないかしら」
ペンで自分の頭を叩きながらそういう響。
「そうかもしれません。
でもバスケでも重宝されると思います」
「そりゃそうでしょうけど・・・・・・。
・・・・・・一応あの子の写真も撮っておいて、後で調べてみましょうか」
「はい先輩」
返事をすると凛菜は、ノブの為に割きたい貴重なフィルムで周の撮影を始めた。
勿体無いなどと思わないのは、彼女も周の事が気になったからだ。
もっとも大量のフィルム全てをノブに費やすのはどうかと思うが。
いや、元々景色や他の選手も撮ったりしているが。
ボールをキープしているのは観客だった高校生くらいの男子。
相手をしているのはまろん。
その背の低さから油断していたのか、スッと伸ばしたまろんの手にボールを叩かれる。
「・・・!」
零れたボールを拾ったのは麗奈。
即座に俊介にパスを出そうと振り向いたが直後に吉田にパスコースを塞がれる。
チッと小さく舌打ちして、麗奈はドリブルで攻め込む。
着いて走る吉田。
麗奈は振り切ろうとするが速度は吉田の方が速い。
振り切るのは無理と判断したのか、麗奈は足を止め、一歩下がる。
そこは3Pラインの外。
(・・・!打つのか?)
吉田が思った直後には麗奈はシュートを放っていた。
ボールの行方を目で追う吉田。
しかし。
「・・・・・・実際やるのはちょっと無理があったかね」
俊介のフォームについて指導したことはあるものの、実際に3Pなど打ったことがなかった麗奈。
麗奈が呟いたとおり、落下を始めたボールはリングに届きそうに無い。
それを見切った竹内と上松が同時にジャンプする。
竹内はボールを取った後すぐにシュートできるようにゴール向きに、上松はボールをゴールから遠ざけようと敵陣向きに。
ジャンプボール時と同様に両者が向かい合ってボールに手を伸ばす。
おそらくキャッチは同時、そして着地後にヘルドボールとなるだろう。
ヘルドボールは「両チームの選手が同時にボールをキープした」と判断された時に取られる。
・・・・・・最初に自分達がボールをキープしたから・・・・・・今ここでヘルドボールを取られるのは控えたいところか。
そう判断した上松はボールをキャッチするのではなく、指先でトンッと浮かした。
「!?」
ボールはキャッチしようとしていた竹内には届かないところへ。
そしてすぐに落下を始める。
既に空中にいた上松と竹内はボールに向かって飛べず、必然的に残ったメンバーの中から誰かが飛ぶことになる。
周サイドで一番高いのは俊介、敵サイドではノブ。
そしてその二人がとっさに反応した。
しかしこの二人ではノブの方が10cm近く高い。
ノブが悠々とボールをキープする。
だが着地点には麗奈。
落下してきたノブからボールを奪おうと狙っているのだ。
しかしノブはそれを見越していたらしい、着地前にパスを出した。
だがここで誤算、パスの先にいたのは観客だった中学生くらいの少年。
ノブからのパスがあまりに不意だったので受け取りそこなってしまったのだ。
チャンスとばかりに掻っ攫って行ったのは周。
一気にゴール下へ、そしてレイアップを放つ。
そこで待ち構えていたのは長身の上松。
その手にボールが弾かれようとした刹那、周はスッとボールを戻す。
「何!?」
そして左手に持ち返ると逆側からボールを浮かせる。
何度も練習したダブルクラッチ!
しかし!
ボールはその場で真上に上がり、そのまままっすぐ落ちてきた。
当然ゴールに入る気配は無い。
「あれ!?またミスった!?」
着地した周が思わず振り返ると、そこには竹内。
片手でボールをキャッチするとリングに叩き込んでいた。
ドガッシャーン!!
観客からも歓声が上がる豪快なダンク。
同時に「地元の高校生」となっている周チームに2点加算される。
「決めるんならしっかり決めろよ」
「えへへ、ごめん」
そんな言葉を交わしつつ、竹内と周はハイタッチした。




