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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
夏休み&秋休み編
49/102

終業式

「いよいよ一学期も終わり、明日から夏休みだね!」

「そうだね」


はしゃぐ周と俊介。

今は体育館での校長先生の長いお話を聞き終えて教室に戻るところだ。


「ところでさぁ」


と、野澤さんが話しかけてきた。


「前から気になってたことがあるんだけど」

「なになに?」


周が聞き返すと野澤さんは言葉を続ける。


「うん、あのね、先生達ってあのステージに上がるとマイクの前に行くじゃない」

「うんうん」

「その前にさ、ペコッて頭下げるじゃない。

 こっちじゃなくて、ステージの方に向かってさ」

「あ、うん、やってるね」

「あれって何してるんだろう?って。

 小学校の頃から気になってるのよね」


そう言って腕組みする野澤さん。


「あらあら、裕子さんがそんなことに興味を持っていたなんて」

「だって不思議なんだもん」


話に入ってきた凪さんに野澤さんはそう返す。

もっとも凪さんはくすくす笑っている辺り、その理由を知っているようだが。


「何を話しているのかと思えば・・・・・・」

「まったくだな」


続いて話に入ってきたのはいいんちょこと近藤恵さんと宇喜多くんだった。

その後ろに蓮井君もいる。


「ステージに上がる時に頭を下げる理由などみんな知ってると思ったが。

 仮に知らなくても推測できそうなもんだが」

「そ、そうなの・・・?」


宇喜多くんの言葉に弱気になる野澤さん。


「そうね、小学生でも分かりそうなものだけど」

「がーん」


いいんちょの追撃に野澤さんは落ち込んだようだ。


「しょうがない、ここは僕が特別に話してやろう」

「・・・・・・お願いします」


どんより落ち込みながらも宇喜多くんに頭を下げる野澤さん。

宇喜多くんは咳払いを一つして話し始めた。



「逆に考えれば分かることだ。

 あれは向こうに頭を下げているんじゃない、こちらに背中を向けているんだよ」

「こ、こちらに背中を?」

「そうだ。

 体育館のステージ上ってのは特別な空間なんだよ。

 「俺は今から特別な空間に向かう。みんな、見送り頼む」という意味を込めてこちらに背を・・・」

「なにめちゃくちゃなこと教えてんのよ」


スパン、といいんちょに後頭部をはたかれる宇喜多くん。


「な、なんだと!?僕の説明のどこが間違っていると言うんだ!!」

「どこも合ってないわよ!」

「バカな!僕が小学生のとこに導き出したこの結論が間違っているとでも言うのか!?」

「間違っていると言ってるのよ!!

 第一それじゃ向こうに頭を下げる理由にはならないわ!!」


ガーッと怒鳴りあう二人。

俊介と周はそんな二人を見てため息をついた。


「まったくしょうがないね」

「そうだよね。

 野澤さんも宇喜多くんの言うことなんか信じちゃダメよ」

「そ、そうだね。

 ゴメン、全然わかんないからてっきりホントの事かと・・・・・・」

「まったく・・・・・・ここは知ってる人が教えてあげましょう」


と、いいんちょがメガネをクイッと直しながらこちらに向き直った。

宇喜多くんとの口論にはチョップで決着をつけたようだ。

向こうから煙が上がっている。


「ゴメン、ちゃんと覚えるから教えて」

「でも意外だな~。

 野澤さん知らなかったんだ、あれ」


と、周が口を挟む。


「え、斉藤さんは知ってるの?」

「もちろん」

「ほら、斉藤さんでも知ってるのよ、ちゃんと覚えましょ」

「ちょ、待っていんちょ~!

 それじゃまるで私がオバカみたいじゃない!」

「それは勘違いというものよ。

 それと私はいんちょ~じゃなくて委員長よ」


ふぅ、とため息をつくといいんちょは野澤さんに向き直った。


「あれはね、ステージにある国旗に対して・・・・・・」

「あれはステージ上にいる、「見えないけど凄く偉い人」に対して頭を下げてるんだよ」


いいんちょの言葉を遮るように周がそう言った。



「・・・・・・「見えないけど凄く偉い人」?」


いいんちょがなにやらプルプル震えながらそう聞き直す。


「うん。

 私達みたいな生徒には見えない、でも先生達には見える凄く偉い人が常にあそこにいるんだよ。

 で、その人に対して「どうかそこで皆にお話をさせてください」って頭を下げてるの。

 それに対して凄く偉い人が「いいだろう、話をしてやりなさい」って席を譲るのよ。

 だから話し終えた後にも「お話させてくださってありがとうございました」って頭を下げて立ち去るのよ」

「な、なるほど!」


周の言葉に納得してしまう野澤さん。



「・・・・・・ごめんなさいね、林田くん。

 私はさっき斉藤さんが知ってると言ったように思ったんだけど、勘違いかしら?」


相変わらずプルプル震えながら俊介に問いただすいいんちょ。


「いや、勘違いじゃないけど。

 本人は知ってるつもりだったんじゃないかな」

「ダメじゃないのよ!野澤さん信じちゃったじゃない!

 どうして幼馴染のあなたがちゃんと説明しておかないの!?」

「幼馴染だから教えるっていうのはどうかとおもうけど・・・・・・。

 でも説明はしたんだよ。

 そしたら周ちゃん、


 「旗に頭下げるなんて意味わかんない!

  それならむしろ、ステージに見えないけど凄く偉い人がいて、その人に頭下げてるっていう方がよっぽど正しそうだよ!」


 と言って全く聞かず・・・・・・今に至るわけです」


「・・・・・・・・・・・・分かったわ」


俊介の言い訳を聞き、何かが吹っ切れたいいんちょ。


「斉藤さんといい野澤さんといい浩明といい・・・・・・。

 そんな常識のない人がこの学校から社会に出たとあっては一大事だわ!

 ほら!そこの三人!夏休みどころじゃないわ!

 学校の後に私が「一般常識」の授業開くから出席しなさい!」


ばばーん、といいんちょは目の前で話を繰り広げている一同を一喝した。


「ええ~!?なんで!?やだよ!

 私これからバスケの練習が・・・」

「勉強やスポーツが出来なくても別に恥じゃないけど、常識が無いのは恥よ!

 今日はあなた達があらゆる常識を身につけるまで帰さないわ!」

「ええ~!どうして!?」

「ふ、残念だったね、斉藤さん、可哀想だが恵の授業を受けてくるがいい」

「あんたもよ!浩明!」

「バカな!?この常識人の僕が何故!?」

「あんたのどこに常識があるのよ!!」

「なんだと!?」

「あの~、もしかして私も・・・・・・」

「当然よ!野澤さん!事の発端はあなたなんだからね!」

「うぅ・・・」



そんなある意味大騒動を傍目に見ている俊介と凪さんと蓮井君。


「盛り上がってるね・・・」

「盛り上がってますね~。

 上級生も何事かと見てますよ~」

「ああ、そうだね・・・・・・他人の振りしておこうか」

「そうだね」

「ですね~」



快晴ともいえる青い空は、これからの夏の暑さを物語っているようだった。




「林田くん!」

「え?なに?近藤さん?」


と、まだ話は終わっていなかった。


「私一人じゃ教えるの大変だから・・・その・・・・・・て、手伝って!」

「・・・・・・まぁ、確かに大変そうだしね。

 いいよ、手伝うよ」


周を連れずにバスケに行くのもどうかと思うし、と俊介は快く頷いた。


「あ、ありがと、林田くん。

 べ、別にこれは三人のためであって決してその私が林田君と・・・その・・・一緒にいたいとかそういう考えは決して・・・・・・」


俊介の返事にいいんちょは俯いてブツブツと何やら呟いている。


「ん?何か言った?」

「な、なんでもないわ。

 教室が使えないかどうか先生に聞こうと思ってただけよ」


と、その一言に凪さんがポンと手を叩いた。


「ああ、それなら私の家に来ませんか?

 うちならこれくらいの人数でも何とかなりますし~」

「おおう、いいね~。

 春香の家は広いしお菓子は美味しいし・・・・・・」


野澤さんもうんうんと頷く。

が。


「なにやら楽しそうだけど、授業の覚悟はしておいた方がいいと思いますよ~、裕子さん」

「うぐっ・・・」


にこやかに釘を刺すのを忘れない凪さんだった。


「そういうわけで、私も授業に参加させていただきますね~。

 もちろん教える側で」

「助かるわ、凪さん」

「いえいえ」


そうなると残った蓮井君も手を上げる。


「俺だけのけ者ってのも寂しいから行っていいか?」

「どうぞ、歓迎しますわ~」



こうして七人の、終業式後の予定は決まったのであった。


小学校の頃、ステージ上に「見えないけど凄く偉い人」がいると思ってました。

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