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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第一期
39/102

第三十八話

七月。

気温も上がり、そろそろ熱中症や脱水症状が危ぶまれる頃だろう。

高校生の周達にとっては、期末も終わりもうじき夏休みと楽しみにし始める時期だ。


周達は今日もバスケを楽しんでいる。



シュバッ、ダムダムダム


一瞬地面を蹴る音が聞こえたかと思うと、高速で敵陣に突き進むドリブル。

一度抜かれたら再び追いつくことができる者などそうはいないと思わせるほどの速度で一気にゴール下まで切り込む。

そしてボールを抱え、地を蹴り飛び上がり、そのリングめがけて手を伸ばし、ボールは置いてくるように。

銀混じりの白髪をなびかせながら、いつもの周の綺麗なレイアップが放たれた。


が。


パァーン


「はう!?」


ゴールが決まる前に、横から伸びてきた手がそのボールを弾いてしまった。

そんな芸当が出来るのはこのメンバーの中では彼くらい。

そう、竹内祥吾である。



「うゅ~、また止められたよ~」


しゃがみこみながら頬を膨らませる周。

その横で汗を拭き、周を見下ろしながらフッと笑う竹内であった。


「そう何度もあっさり決められてたまるか」

「ぷ~~!次は負けないもん!」


周はそう言って立ち上がるとボールを拾いに行く。

練習を始めてから何度も繰り広げられてきたいろいろなメンバーによる競い合い。

その中でも周と竹内の対決は見ごたえのあるものだった。

スピードとテクニックで相手を翻弄し、抜き去る周。

守りでも何度抜かれてもすぐに追いつく様には相手も精神的に参るだろう。

対して、パワーと高さで相手を圧倒する竹内。

攻撃はもちろん守りにおいても活躍している。



「ふ~~、お二人とも頑張ってるですね」


その前まで俊介と対決していたまろんがそうつぶやく。

今も二人並んで座っている。

まろんは家が少し遠いため、朝の練習には参加できないでいる。

その分学校後や休日には思いっきりバスケに励んでいるのだ。


「うん、二人とも気合入ってるね。

 もちろんまろんちゃんもだけど」

「えへへへ」


二人はそう言って笑いあう。

そこへ水分補給を終えた麗奈がやってきた。


「そういうしゅんもだろう?」

「はは、そうですね」

「それもこれも、全部これのせいですね」


まろんがそういって一枚の紙を取り出す。

その紙には大きく、「全日本バスケット連盟主催バスケットボール大会」と書かれていた。




それはまろんも練習に馴染んできた六月の後半、学校での出来事だった。


「む?」

「ん?どうしたの?周ちゃん」


竹内と一緒の昼食を屋上で済ませ教室へ戻る途中、周が廊下の壁の掲示物に目をつけたのだった。

もっとも、毎日周、俊介、竹内の三人で食べているわけではないので、もっと前から貼られていた物かもしれないが。


「なんだ?そろそろ教室に戻らないと昼休み終わっちまうぞ?」


竹内が立ち止まった周に声を掛けるが一向に前に進まない周。

と、その掲示物を指差した。


「・・・・・・?なんだ?」

「なにこれ?」


その掲示物そのものは決して大きなものではなかったが、そこには赤文字でこう書かれていた。


「「全日本バスケット連盟主催バスケットボール大会」、だって」


周が読み上げる。

ふ~んと竹内が声を上げた。


「この間の市民大会みたいなヤツか?」

「でもこれは全日本って書いてあるよ?もっと規模が大きいのかな?」


周がそう言って掲示物を剥がそうとする。


「ちょ、ちょ・・・、剥がすのはまずいって」

「え~、でも気になるじゃない。

 欲しいよ~」


俊介が止めるが周は指をくわえて眺めている。

掲示物を剥がすのは確かにまずいがこのままでは昼休みが終わって授業が始まってしまうかもしれない。

と。


「ほら」

「え?」


すっと横から紙が差し出される。

そこには掲示物と同様にバスケット大会のお知らせが書いてある。

どうやら同じ物のようだ。


「って、影山先生」

「あ、先生」


その人物を確認した後、俊介と周はあわててペコリと頭を下げる。

突然自分達の担任が現れればびっくりするのも無理は無い。

竹内も授業の担任をしてもらっていて面識はあるので、周達と同様に軽く頭を下げた。


「君たちバスケをやってるらしいからね。

 後で持って行こうと思っていたんだがちょうどいい」

「あ、ありがとうございます」


受け取って周は再び頭を下げる。


「ほら、そろそろ授業が始まってしまうよ。

 家に帰ってからじっくり読みなさい」

「は~い」


三人は先生にお礼を言ってその場を後にしたのだった。



そして授業が終わり、その日の練習中に周が再びその紙に目を通していると、麗奈や子供達も興味ありげによってきたのだった。


「?なんだい?それ」

「なになに~?」

「何読んでるんだ?」


一通り目を通した後に、皆にも見えるように紙を広げながら、周は説明を始めた。


「「全日本バスケット連盟主催バスケットボール大会」7月第二日曜日開催、だって」

「へ~、また大会がやるのかい」


麗奈が指で文章をなぞりながら読んでいく。


「参加条件、高校生以上男女問わず5名以上」

「じゃあボク達はだめですね」

「・・・残念」


がっくりとする子供達。

だが。


「え?これ勝ち進んでいくと全国大会にまで繋がってるの?」

「「「「ええ!?」」」」


麗奈の言葉に一瞬で目を輝かせ始めたのだった。


「ホントに!?」

「ホントに。

 って周、あんたは読んでたんじゃないの?」


驚きの声を上げる周に突っ込む麗奈。

どうやら読み飛ばしていたようだ。

もしかしたら読むのがめんどくさくなって途中で皆に見せ始めたのかもしれない。


「全国大会かぁ~~、いい響きだよね~」


周が両頬に手を添えながらうっとりとそういう。

が竹内は、響きは関係ないだろとあっさりと突っ込んだ。


「それにしても・・・・・・高校生以上ってことは大学生や社会人も出れるってことだよな」

「上限は書いてないみたいだしね」


俊介の言葉にう~んと腕組みをする竹内。


「ね、これ皆で出ようよ」


そんな皆を放っておいて、周はそう言う。

が。


「いや、出ようって言われても・・・・・・」

「そうそう、人数が足りないし」

「人数?」


竹内と俊介の言葉にきょとんとする周。

そして周りを見渡す。


「私、しゅんくん、麗奈ちゃん、竹内君・・・・・・。

 あ、わかった、まろんちゃんのこと忘れてるでしょ~。

 もうダメだよ、まろんちゃんは小学生じゃないんだから、ね~?」


周はまろんを両手で抱きかかえながら笑顔でそういうが。


「知ってるよ、中学生だろ」


竹内は冷静にそう指摘する。


「・・・・・・?

 それがどうしたの?」

「高校生以上なら中学生はダメだろ」

「ええ~~~!?

 そんな!まろんちゃんは私達の仲間でしょ!?仲間はずれにするなんて酷いよぉ!」


周が大声でわめく。

確かにそれはそうかもしれないが。


「でも決まりは決まりだし・・・・・・」

「ええ~~!」


麗奈の言葉にがっくりとうなだれる周。

せっかく大会告知を貰ってきたのに残念だが今回の大会には出場出来なさそうだ。

今から戦力になりそうな人を探してくると言うのも大変なことだろう。


と誰もが思っている中で。


「・・・・・・よし」


未だに諦めていないらしい周が立ち上がった。

そして拳を握りながら皆に訴える。


「ごまかしましょう」

「無理でしょ」


即座に麗奈が否定する。

身分証を求められれば即アウトだが、まろんはそれ以前に見た目が小学生なのでそこで見咎められる可能性は高い。

が、諦めの悪いのが周の信条と言わんばかりに言葉を続けた。


「少しでも大人に見えるようにすればいいんでしょ?

 まろんちゃん、ちょっと来て」

「え?あ、あの?」


まろんの手を引いてコートの隅まで連れて行く周。

何をしているのか?と皆が見守る。


突然赤くなって騒ぐまろん。

たしなめているらしい周。

諦めたようにうなだれ、周に背中を向けるまろん。

なにやら騒いでいるらしいが声はわずかしか聞こえない。


そしてやがて、二人は戻ってきた。


「これでどーよ?」


周がそう言ってまろんをみんなの前にまろんを引っ張り出す。

顔、童顔、変わっていない。

服装、半そでシャツにハーフパンツ、変わっていない。

まぁ、強いてあげるならば特に目立つ・・・・・・。


「・・・・・・何その胸」


麗奈が突っ込みを入れたその胸であろうか。

今まで無かったはずのそこに不自然なまでにふくらみが誕生している。


「うぅ・・・やっぱりはずかしいです・・・・・・」


まろんはみんなの視線が痛いのか両手で胸を隠すようにしゃがみこんでしまう。


「どう?タオルを詰めてみました。

 その昔、胸が大きい女の子が成人女性に間違われたと言う話を聞いたことがあるわ。

 つまりそれを利用するのよ!」

「いや、明らかにおかしいでしょ。

 ねぇ、みんな?」


周の力説をまったく意に介さない麗奈。

ほら、皆もおかしいと言ってやりなと言わんばかりにあたりに目をやるのだが。


「あ、うん・・・・・・そうですね・・・・・・」

「ん・・・・・・なんとも・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


「・・・・・・見とれてんなよ、男ども」


びしっとチョップを叩き込む羽目になった麗奈。

その様子をジト目でみつめる女性陣。

明らかに偽者と判別がつくにもかかわらず見とれてしまうのは男の性だろうか。

それとも小学生にしか見えないのに胸が大きいと言うそのギャップが心に何かを訴えかけてくるのであろうか。

その辺分からなくも無い。


と、周がまろんのその不自然な胸と自分のを見比べて、む~とした表情を浮かべている。

そしてなにやら後ろを向いてごそごそと。


「そこ、やめなさい」

「あぅ」


バッと麗奈にタオルを取り上げられる周。

ついでにまろんのシャツにも手を突っ込んでその詰め込まれたタオルを取り去った。


「あ・・・・・・」


その瞬間なにやら寂しげな表情を浮かべるまろんであった。




「と、とにかく、また強い人たちと戦いたいの!

 竹内君とまろんちゃんが加わってからはまだ試合やってないでしょ?」

「そりゃそうだけどさ。

 規則違反がばれて参加不能になったらどうするのさ」

「うぐ・・・・・・」


そう言われるときつい。

だが周はまだ諦めていなかった。


「と、とにかく、一回応募してみようよ、年齢を伏せて。

 それでもダメなら・・・・・・仕方ないけど・・・・・・。

 そうよ、それでダメでもせめて見学は行きましょうよ!」

「う~ん・・・・・・」


熱意に押され始めた麗奈。

その熱意をもっと違うときに見たいものだが。


「・・・いいんじゃないですか?」


最初に折れたのはもっとも周に弱い男、俊介であった。


「まぁ、僕も多分ダメだとは思いますけど・・・。

 でも見学しようって言うのは賛成ですよ。

 やるばっかりじゃなくて人のプレーを見るのも大切ですし」

「そうだけど・・・う~ん・・・・・・」


麗奈はなにやら考え込みながらもちらっと竹内を見る。

竹内もやれやれといった表情で口を開いた。


「ま、やるだけいいだろ。

 どんなに悪くても今回は参加不可ってだけだろうし。

 今後二度と来るななんて理不尽はないと思うぜ」

「・・・・・・それもそうかねぇ」


竹内の言葉に麗奈も折れたようだ。

はぁ、とため息をつくと周に目を向ける。


「しょうがない。

 応募するだけしてみようじゃない」

「やった~!!」


麗奈の言葉に周は飛び跳ねて喜ぶ。


「よ~し、絶対優勝しようね!!」

「まずは参加してからね」


わーいと駆け出す周をたしなめる俊介達であった。




そして応募から一週間後、周の元に封筒が届いたのだった。


「さ~て、今日もバスケバスケ・・・・・・ん?」


学校から帰ってきた周がバスケの準備をすませて出かけようとしたとき、それに気づいた。


「・・・私宛だ。

 なになに?」


表には「全日本バスケット連盟」の文字が書いてある。

期待を浮かべながら封筒を開ける周。

そして中には二枚の手紙が入っていたのだった。

それに目を通していくと。


「・・・・・・!!!」


周の目が大きく開く。

そして準備を済ませると俊介を引っ張って速攻で公園へと向かったのであった。




「当選!?じゃあ通ったの!?」

「うん!!」


バーンと手紙を皆に見せびらかす周。

そして当然驚く皆。


「ま、マジで?年齢についてどうのこうのとか無いの?」

「やだな~麗奈ちゃん、ここ見て、こ・こ」


麗奈の言葉に周はそう返しながら手紙の一部を指差す。

そこには「厳正な審査の元、参加の当選が決まりましたことをお伝えいたします。」の文字があった。


「・・・・・・厳正な審査・・・ホントにしたのかよ」


竹内がボソッとつぶやく。


「それで、これが当日持って行く参加者の名前を記入するシート。

 どう?名前だけでしょ?年齢も性別も書く欄が無いでしょ?」

「・・・確かにそうだけど・・・・・・」

「どーう?これで納得できるでしょ?

 やっぱり私の努力が実ったのよ!!」

「あんたが努力したのは胸のごまかしでしょ」

「と、ととと、とにかく!

 こうして参加資格は貰ったんだから文句は言わせないわ!

 バスケット連盟が「厳正な審査の元」でOKを出したのよ、たとえ受付が文句を言おうともねじ伏せるわ!」


ぎりぎりぎりと手で何かを握りつぶすような仕草を見せながら、そういう周。

本当に嬉しいらしい。


「本当にねじ伏せられるかは分からないけどね・・・・・・」


やれやれとつぶやく俊介。

竹内もあきれている。

だが子供達と周はそんなの知ったこっちゃないと言うようにはしゃぎ回っているのであった。


「やれやれ、わかったよ、もう。

 ホントに参加するんだね、分かった、あたしはもう覚悟決めたよ」

「やった!麗奈ちゃんも腹をくくったんだね!」

「ああ、こうなったらやれることやって、行けるとこまで突っ走ろうじゃない!」

「おお~~!」

「よ、よ~し!私もがんばるですよ!」

「がんばろ~!まろんちゃん!」

「お~!です!」


そんな周に感化されていく麗奈とまろん。

俊介と竹内も顔を見合わせながらやがて笑った。


「よし、こうなったら仕方ない。

 頑張ろう」

「ああ、目指すは優勝だぞ」


その言葉に、周が手を差し出す。

なんだ?と思ったのもつかの間俊介がその手に自分の手を重ねる。

それで意図が通じたのか、麗奈、竹内、まろんも手を重ねる。

そののち、周は笑顔で告げた。


「目指すは優勝、みんな、頑張ろう!」

「「「「おおー!!」」」」


そして、全員で手を高々と上げたのだった。





「それはそうと周」

「何?」


ぼそっと麗奈が周に囁く。


「・・・この・・・・・・参加チーム名のところなんだけど・・・・・・何これ?」

「何って・・・・・・「グレートパワフル一億万年ウルトラグレートミサイルアタッカーズ」」

「・・・・・・・・・・・・」



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