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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第一期
38/102

第三十七話

「いやいやいや・・・・・・。

 えっと・・・・・・本気で?」

「ああ、本気で」


周の言葉にそう返しながら、なにやらストレッチを始める竹内。

一応さっきまで練習していて身体は温まっていると思うのだが。


「えっとね、竹内君。

 実力を見るだけならもちろん軽く様子見る程度だよね・・・・・・?」

「ん~、そうだな・・・・・・」


周が恐る恐る聞いてみると竹内は暫し考え、やがて返事をする。


「まずはシュート成功率とかドリブルの上手さとかを見て、それから軽く試合形式って感じだな」

「ああ、なるほど、よかった」


てっきりいきなりサシ勝負で叩き潰すのかと思った周。

それがあまりに理不尽なのは分かるだろう。

何せ竹内の身長195に対し、まろんは150無いほどだ。

あまりにかけ離れた身体能力の差。

しかも1つとはいえ年下の女の子が相手だ。

いきなり全力で相手をするなどただのいじめでしかないだろう。


「ところでまろんちゃん、服装はどうするの?」


と、愛奈が口を挟んでくる。

年上ということが判明したはずなのだが、ちゃん付けを直す様子も敬語にする様子も無い。


「あ~、確かにスカートじゃねぇ・・・」


服装がどうかしたのかと思っていた周だが、まろんの様子を見直してそれに気づく。

半袖シャツはまだしもスカートは激しい運動をするのには向いていない。

いや、邪魔にはならないが、それがひらひら動くことによって本人も回りも運動に集中できなくなるだろう。

チラチラと見える何かのせいで。


「それなら大丈夫です。

 こんなこともあろうかと運動用のハーフパンツを用意してますです」


まろんはそう言ってリュックの中身を漁る。

そもそも最初から周たちを見つけて一緒にバスケの練習をするのが目的であったため、その辺の準備は抜かりないのであった。

もっとも用意しておいた飲み物はこの場所にたどり着くまでに消費しつくしてしまったわけだが。


「あ、ありましたです。

 じゃあ早速着替えますね」


そういうと取り出したハーフパンツを履いていくまろん。


「ちょ!」

「・・・・・・」


その様子を見てあわてて後ろを向く俊介と竹内。

少し遅れて少年達も後ろを向く。


「はゃ!?引っかかりました!」

「あ~!まろんちゃん大丈夫!?」


そんな声と、どたんとひっくり返る声が聞こえる。

おそらく振り向いていなければ転んだ拍子に見えていたかもしれない。

何がとは言わないが。


「はい・・・なんとか・・・・・・。

 よいしょっと、これで着替えOKです」


チャックを外したらしき音とスカートが地面に落下したらしい音が聞こえた後、まろんは着替えの終了を宣言した。

振り向く男性陣。

そこにはシャツとハーフパンツを身に付け、スカートを片手に跳ねているまろんの姿が。


「と、とりあえずスカート仕舞おうね、まろんちゃん」

「はいです」


周に言われ、リュックにスカートを仕舞うまろん。


「よし、じゃあまずはどうしようか?」

「とりあえずドリブル見ようか。

 斉藤、見本」


周が聞くと竹内はそう返す。

了解、と返事をすると、周はボールを持ってコートの端に立つ。


「それから・・・林田、俺の前に立ってくれ」

「あ、うん。

 この辺?」

「もうちょい前・・・・・・ああ、その辺」


そうしておいて、俊介と竹内でコートに入る。

準備を終えると竹内は周に向かって言った。


「じゃあ、俺達は動かないから抜いていってくれ」

「動かないの?それなら楽勝だよ」


ダムダムとボールを着き始める周。

そして一応形だけでもということで構える俊介と竹内。

ダム、ダム、ダムとゆっくり近づいてきたかと思うと、途端に加速した。


シュバンッ、ダムダムダムッ


シュ、シュ、と曲がる際に地面を蹴る音がして一瞬、周は二人を抜き去っていた。

おお~と声が上がる。

まろんからだけでなく子供達からも。

素晴らしいものはいつ見ても素晴らしいものだ。


「こんな感じで」

「は、はい・・・やってみるです!」


竹内の指示を受け、周からボールを受け取って今度はまろんがコートの端に行く。

そして。


「い、行きますですよ~!」


そう言って手を振ってからドリブルを始める。


ダム、ダム、ドム


なんだかぎこちない気がするが。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


コートに立ってる二人も、外から見ている皆も考えていることは一つだった。


((((・・・・・・大丈夫かな・・・?))))


が、やがてまろんはキッと前方を睨むと、加速していったのだ。


「お?」


予想外にもシュバッと鮮やかに抜いていくかもしれないな、と竹内が期待した一瞬後。


シュッ、グキッ


「あわわ!?」


丁度俊介を抜いた辺りで足がもつれてドタンと倒れてしまった。


「あうぅ・・・・・・痛いです・・・・・・」

「だ、大丈夫?」


駆け寄ってくる皆。

ただ転んだだけなのだが皆ほっとけないのだ。

なんというか、おそらくまろんは愛されやすいキャラなのだろう。


「だ、大丈夫です・・・・・・。

 そ、それより私のドリブルはどうでしたかっ!?」

「・・・・・・」


転んだにもかかわらず強気に答えを求めるまろん。

なんでそんなに自信ありげなんだと突っ込みかけた竹内だったが、コホンと咳払い一つすると答えた。


「・・・・・・ダメだろ」

「あう!」


当然のようにあっさりとダメ出しした。


「で、でもでも!ちゃんと曲がれたじゃないですかっ!」

「そ、そうだよ竹内君。

 まろんちゃん、ちゃんと曲がってたじゃない」

「曲がっただけだろ」


まろんと周の必死の抗議を退けつつ、横を指さす竹内。

まろんが俊介を抜き去った方向、そこにはボールが転がっていた。


何が起きたかを説明すると。

竹内が期待できそうだと思うほどのスピードで俊介の横を抜き去ったまろん。

その直後、ボールはまろんの手元を離れ、あらぬ方向へと飛んでいったのだ。

それに気を取られて転んだのならまだしも、まろんはそんなことお構い無しに突き進み、そして自分の足に足を引っ掛けて転んだのだった。

要するに自分がコントロールできないスピードで突き進み、ボールのコントロールを失った挙句転んだと言うことだ。


「あれじゃちょっと・・・・・・」

「え~!でもしゅんくんを抜いたんだよ?OKにしてあげようよ。

 ね?麗奈ちゃんもそう思うよね?」


と、苦しい言い訳をしつつまろんを弁護する周。

麗奈にも助けを求めるのだが。


「・・・・・・いや、さすがにあれは弁護のしようが・・・・・・」

「うぅ・・・やっぱりダメか・・・・・・」


がくっとうなだれる周。

やはり自分でも無理な言い分だとは分かっていたか。

しかしまろんはそれほどがっかりした様子は見せずに立ち上がった。


「だ、大丈夫です!

 次の種目では、きっと挽回して見せるです!」

「まろんちゃん・・・・・・、そうだよね、次は頑張れるよね!」

「はいです!」


まろんの笑顔に勇気付けられる周。

そう、きっとこの子ならやってくれる、そんな期待感があった。

ふと俊介はそんなまろんを見て、


ああ、この子はどこか周ちゃんに似てる気がする・・・・・・


そんなことを思った。



もっとも今まろんが周を勇気付けても意味が無いのだが。



「で?次はどうするの?」


周が聞くと竹内は拾ってきたボールをまろんに渡しながら答えた。


「次はシュートだな。

 フリースロー辺りからと・・・ゴール下と、レイアップの三種類でどうだ?」

「そうだね、じゃ、まろんちゃん頑張って!」

「はい!頑張るです!」


ボールを受け取ったまろんは早速フリースローの位置まで移動する。

それを追って、みんなでまろんを囲うように並んだ。

これならシュートを外してもすぐに誰かが拾えるだろう。

まろんは指定された位置に立つとその場で何度かダムダムとボールを突き、構えた。


「じゃ、行くですよ?」

「頑張って!」


まろんが構えると周がそう応援した。

まろんは笑顔で答えるとヒュッとシュートを放った。

ボールは弧を描き、一度ボードにぶつかると見事にリングを通過した。


「入りました~」


まろんがガッツポーズをとると皆で軽く拍手をした。


「お見事~」

「うん、フォームも悪くないね」


周と麗奈もまろんを褒めている。


「えへへ、じゃ、次行きますよ?」

「はい、ボール」


修也からボールを受け取り、まろんは再びシュートを放つ。


ヒュ、ガン、ガコン

同じような軌道で、再びシュートが決まった。


「お~、その調子その調子」


周がそういいながら拾ったボールを渡す。


「じゃ、ドンドンやってくれ」

「はいです!」


竹内に言われ、まろんは着々とシュートを決めていった。


5本。


10本。


15本。


20本。


30本。


40本。


「・・・ねぇ、何本まで打つの?」


周が聞くと、竹内は頭を掻きながら答えた。


「とりあえず外すまでと思ったんだが・・・・・・続くなぁ。

 もう少し様子見てみるぜ」

「うん、分かった」


まろんのシュートは続いた。


50本。


60本。


70本。


「・・・・・・続くねぇ」

「・・・・・・続きますね」


麗奈と俊介が顔を合わせる。


80本。


90本。


95本。


そして。

ヒュ、ガン、ガコン


「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・、今のが100本目ですよね?

 まだ打ちますか?」

「いや・・・いい・・・・・・」


アゴをさすりながら竹内が答える。

正直なところ、これほど続けてシュートを決めるとは思ってなかったのだ。

疲労しているのは見て分かるほど確実なのだが、一向にシュートが外れる様子が無いのだ。


「精度はいいみたいだね」


俊介の言葉に竹内は頷く。

と、麗奈が小声で話しかけてきた。


「ねぇ、しゅん。

 あんたあんなに入れ続ける自信ある?」

「・・・・・・一本一本にもう少し時間掛ければ出来ると思いますけど・・・・・・。

 中盤からはボール受け取ってほとんどすぐに打ってましたからねぇ・・・・・・、あれはちょっと自信ないです」


ふむ、と腕組みする麗奈。

率直に言うと麗奈は俊介のロングシュートに関しては認めている。

「まだまだだね」などと指摘できるところもあるが、最近は十分実践レベルに成長している。

実際練習のときに打たれて対応できないこともしばしばあるくらいだ。

そんな俊介でも自信ないという・・・・・・。


「・・・・・・ひょっとしてあの子すごいの?」

「シュートはすごいかもしれませんね」


麗奈の言葉に俊介はそう答える。

ドリブルがあんなだったせいか、シュートはやけに頼もしく見えるようだ。



「じゃ、次はゴール下ですね。

 この辺でいいですか?」

「ああ、始めちゃってくれ」

「はいです」


ダムダムとボールを着き、今度はまろんのゴール下シュートが始まった。


ヒュ、ガコン

なんなく決める、1本。


ヒュ、ガコン

あっさり決める、2本。


ヒュ、ガコン

綺麗に決める、5本。


ヒュ、ガコン

鮮やかに決める、10本。


15本。


20本。


30本。


やはりまったく外れる様子は無い。


40本。


そして。


ヒュ、ガコン


「ん、もういい」

「え?あ、はいです」


50本目が決まったところで竹内がストップを掛けた。

まろんはふぅ~とため息をつくと、汗を拭いてきますと一言告げてリュックを置いてあるベンチのところに向かって行った。


「・・・・・・どう思う?林田」


その背中を見送りながら、俊介に話しかける竹内。


「・・・もしかしたら中学では名のある子なのかもね。

 周ちゃん、去年あんな子の噂とか聞かなかった?」


聞いてみるが、周は首を振る。


「いや~、全然覚えてないわ。

 いたとしても私とは戦ってないと思うよ」


「戦って強いと思った相手」を周が忘れるとは考えがたい。

麗奈を覚えていたくらいだ、名前は忘れていたが。

となると試合には出てても周と戦う前に他校にやぶれていたと言ったところだろうか?


「なんにしても・・・・・・予想外にいい拾い物かもしれん」


竹内がそうつぶやく。

先ほどまでの厳しい態度はどこへやら。



「休憩終わりでいいですよ。

 次はレイアップですか?」


まろんがやってくる。

コートの外で水分補給もしてきたみたいだ。


「ああ、じゃ頼む」

「はいです」


ボールを受け取ったまろんは、フリースローを打ったあたりの位置に立つ。

そしてダムダムと軽くボールをつくと、ドリブルを始めた。

少しずつ加速し、そして地面を踏み切ると片手でボールを放り投げる。

ボールはやはり一度ボードに触れ、綺麗にリングを通過した。

おお、と声は上がるものの、もう皆驚かない。

ボールを拾うとまろんに渡した。

そしてまろんはそれをレイアップで再びリングを通す。


タンッとジャンプし、トンとボードに触れ、スパッとゴールが決まる。

ただひたすらそれが繰り返された。


10本。


20本。


30本。


40本。


そして50本目が決まった。

竹内はやはりそこでストップを掛けた。


「ありがと、シュートに関しては文句なしに合格だな」

「はぁ・・・はぁ・・・ありがとうございますです」


息を切らせながらも笑顔で頭を下げるまろん。

結局三種のシュートはどれも一本も外すことなく決まったのであった。


「お疲れ様~。

 すごいよまろんちゃん、一本も外さないなんて」

「ああ、大したもんだよ、こんなに疲れちゃってるのに」


周と麗奈がまろんを褒めちぎる。

子供達もすごいよすごいよと騒いでいた。


「えへへ、ありがとうございます。

 シュートには自信があるんですよ。

 あ、でも試合みたいに邪魔されちゃうとダメになっちゃいますけど」

「そんなことないよ。

 まずシュートを決められるのが大事。

 試合の妨害の中で決められるようになるのは、後々練習していけばいいから」


まろんの頭を撫でながらそういう周。

そして最後に、実際後々の練習でシュートの精度を上げていった俊介に向かってこっそりとウインクした。


「ね?」

「・・・・・・そうだね」


一瞬ボッと赤くなりながらも頷いて返す俊介であった。



再び休憩と言うことでベンチに座り、汗を拭くまろんに竹内が話しかける。


「試合形式で1VS1も見ようと思ったんだが・・・・・・さすがに疲れてるよな」

「まぁ・・・そうですね。

 でもちょっと休めばこれくらい・・・・・・」


そう返すまろん。

相変わらずの笑顔だったが、疲れているのは確実だった。

試合形式は次回にしようか、と竹内は告げようとしたのだがそれは周によって阻まれた。


「じゃあさ、竹内君も同じくらい疲れようよ」

「は?」


きょとんとする竹内にボールを差し出す周。


「まずはロングシュート100本だっけ?」


笑顔でそう告げた。


「・・・・・・マジで?」

「マジで」




そして。


「う~ん・・・」

「これは・・・」

「なんとも・・・」


ベンチによりかかり、顔にタオルを掛けて休んでいる竹内。

今はみんなで竹内のシュート結果を吟味しているところであった。


「・・・・・・竹内君ってロングシュート下手だったんだね」

「うるせー・・・・・・」


周の言葉に言い返してやりたいが、疲労でそれもまともに出来ない竹内。

ロングシュート100本のうち決まったのは実に28本という結果に終わったのだ。


「3割弱・・・ですね」

「まずいよあんた、このままじゃ2軍落ちだね」

「・・・うるせー・・・・・・」


元気が無い。

どうやら疲労だけでなく、本当にヘコんでいるようだ。


「・・・で、でもほら、竹内君はゴール下のポジションだからさ。

 ロングシュートは大目に見てあげようよ」

「まぁ、それでもいいんだけどさ・・・・・・」


そう、ポジションじゃないからまぁロングシュートは大目に見よう。

だが。


「ゴール下50本中34本、レイアップ50本中37本、だっけ?」

「ですね」


俊介に確認を取った麗奈は竹内に向き直るとズバッと言い放った。


「十分って言やぁ十分なんだけど・・・・・・。

 ・・・あんた、まともなシュートはダンクだけなんだねぇ」

「あーもーうるせーうるせー」


ブンブンと手を振って麗奈を追い払おうとする竹内。

もっとも顔にタオルがかかっているのでどこにいるのかは見えていないのだが。


「よし、竹内君の弱点も分かったし、いい具合に疲れたみたいだし。

 それじゃまろんちゃんとの一騎打ち始めようか!」

「はいです!」


周の言葉に元気いっぱいに答えるまろん。

竹内がシュートに励んでいる間ずっと休んでいたから当然なのだが。


「・・・・・・不公平だ・・・・・・」

「ま、いいじゃない。

 年の差、身長差、性別、その他考えればこれくらいの体力のハンデは」


「くっそ~、覚えてろ?いつかこれくらいに疲れさせてから一騎打ちで潰してやるからな」と言いかけたが、そこまで周の体力を削るには一体どうすればいいのかと言う考えに至り、言い返すに言い返せない竹内であった。



そうしてコートに入る竹内とまろん。


「あの・・・大丈夫ですか?竹内先輩」

「・・・・・・いいよ、気にせずかかって来い」


悪いのはまろんではない為怒れない竹内。

もっとも周に文句を言ったところで、「もともと竹内君がまろんちゃんをいじめたからなんだから!」とか返ってきそうだ。

そう取られてもしかたないがそんなつもりじゃなかったのに。

などとブツブツ文句を言いながらもまろんと向き合う竹内。


「・・・じゃ、いつでも来い」

「・・・・・・はいです」


構える竹内。

ドリブルを始めるまろん。

少しずつまろんが竹内に近づき、そして、一気に加速した。

抜きにかかったのは竹内の左側。

周や麗奈に比べれば大したことは無いものの、中々のスピードだ。

さっきは自分でも制御しきれずに転んだようだが、今度はそのようなことは無い。


ということはつまり、その分スピードを抑えているということだ。

周のドリブルにも対応する竹内だ、今のまろんのスピードならそのドリブルのボールを弾くことすらできる。

地面にバウンドしたボールが手に戻ってくるのを見計らい、ボールをパァンと弾いた。


「あっ!」


ボールを弾かれ、まろんのドリブルはあっさりと止まった。

そう、ボールを弾いただけのはずなのだが。

なぜか、まろんもズザザァと転んでいた。


「ピッピー、ファールだよ竹内君」

「え、いや、そんなバカな」


周の指摘に戸惑う竹内。

ちなみに「ピッピー」というのは笛の音ではなく、周のセリフだ。

指笛や口笛でもなく、周の「セリフ」だ。


「大丈夫?まろんちゃん」

「は、はい、これくらい平気です」

「よかった。

 もう、竹内君注意しなよ?」


周は竹内に指導をすると再び離れた。


(・・・・・・ファールを貰いに行ったのか?

 まんまと乗せられたって事か、気をつけないとな)


竹内はそう考えながら、再びまろんの前に立ちはだかった。


「むむむ」


まろんはドリブルを再開し、こちらの様子を伺う。

が、やがて意を決したのか突っ込んできた。

やはり竹内の左側。

もっとも右手でドリブルする人は大体左側から抜く。

ボールを奪おうとする手を左手と身体で守れるからだ。

しかし相手は長身の竹内。

もちろん手足も長い。

まろんの防御をすり抜けて再びボールを弾く。

確実にボールだけだ、手などは弾いていない。


が、ボールを弾かれたまろんはボールを追うことも止まることも竹内を避けることもできず、そのまま衝突したのであった。


(ん?またファールを貰おうってのか?そうは行かないぜ)


まろんとぶつかった直後、竹内はそう考えて、自分が吹っ飛ばされたかのように後ろに倒れようとした。

が。

まろんの身体が軽すぎてタイミングがずれてしまう。

まろんはというと、そのまま竹内に弾き飛ばされて転ぶのであった。


「きゃっ!」

「ピッピー!竹内君ファール!」

「いや、今のは普通オフェンスの・・・・・・」

「言い訳無用!イエローカード!

 今のはどう見ても竹内君がまろんちゃんをフッ飛ばしてたよ!」


そう言って周はどこからとも無く取り出したイエローカードを差し出した。


「サッカーかよ。

 っていうか何でこんなもの持ってるんだよ」

「はいこれ、五枚溜まったらもれなく退場だよ」


周はそう言って竹内にカードを渡すと去っていくのであった。

というか、普通イエローカードは選手に渡すものではない。

そして退場は二枚だ。

どうしようもない竹内は仕方なくカードをズボンのポケットにしまった。


(くそ・・・ぶつかった時にこっちにくる衝撃が小さいからタイミングが取りづらいな・・・・・・。

 シュートボールだけに集中するか・・・・・・)


そう考えた竹内は、試合が再開されるとまろんとは着かず離れず距離を保ち、シュートで放たれたボールを弾くようにした。

が、どこかで身体が触れると、体重の軽いまろんはあっさりと弾き飛ばされてしまう。

そして周がやってきてファールを言い渡すのであった。


「竹内君・・・・・・周先生は普段怒らないんだけど・・・・・・あなたがそんな生徒だとは思わなかったわ」

「誰が先生だよ」


眼鏡など掛けていないにもかかわらず、ついっと直すような仕草をしながらそう告げる周に対し突っ込む竹内。


「こんなんじゃ竹内君あっさりファイブカードで退場だよ」

「ファイブカードとか言うな」

「おかしいな・・・・・・竹内君そんなにファールする人じゃなかったでしょ?

 まさか・・・まろんちゃんを仲間に入れたくなくて意地悪してるの!?」

「いや違うって!」


きつく言い寄る周に少々押され気味な竹内。

と。


「・・・・・・うぅ・・・ごめんなさいです・・・・・・」


しゃがみこんだまろんが謝ってきた。


「ど、どうしたの?まろんちゃん。

 あなたが謝ることなんて何も・・・・・・」

「じ、実は私・・・・・・」


まろんは一度言葉を区切ると深呼吸をし、そして言葉を続けた。


「私・・・・・・「ぶつかった相手を反則にしてしまう能力」を持っているんです!」

「「「「!?」」」」


まろんの言葉に、全員が同じリアクションを取る。

すなわち、何言ってるんだこいつ?である。

そんな周りを放っておいて、まろんは語りだした。


「私・・・バスケを始めたのは中学からなんですけど・・・・・・。

 私結構トロいから・・・よく人とぶつかるんです・・・・・・。

 仲間内でも他校との試合でもよくぶつかりました・・・。

 道を歩いていて人にぶつかったこともあります。

 自転車でおじさんを轢いちゃった事もあります。

 でも・・・・・・私が責められたことはほとんどありませんでした・・・・・・。

 最初は偶然かなと思ってたんですけど・・・・・・。

 私が計算してみたところによると・・・・・・なんと8割ほどの確率で相手のせいになるんです!」

「「「!!」」」


突然の能力の暴露に驚く周達。

そんな中、竹内だけが納得していた。


(・・・俺が悪者扱いされたのはそのせいか・・・・・・)


まろんは言葉を続ける。


「中学の同じバスケ部の人たちもそれに気づき始め・・・・・・。

 そして皆で考えて行き着いた結論が・・・・・・」

「・・・「ぶつかった相手を反則にしてしまう能力」?」


俊介の言葉に頷くまろん。


「こんな女の子・・・・・・仲間にいても邪魔なだけですよね・・・・・・ごめんなさいごめんなさい・・・・・・。

 部活の皆もなんか・・・微妙な感じになっちゃいましたし・・・・・・。

 もう・・・迷惑掛けませんから・・・・・・ごめんなさい、やっぱり仲間にしてくださいって言うのは・・・」


そこまで言いかけたまろんの両肩に、周は正面から両手を乗せた。


「・・・・・・周・・・さん?」

「迷惑なんかじゃないよ」

「え?」

「迷惑なんてとんでもないよ。

 むしろあの竹内君をこんなにあっさり倒しちゃうんだもん、すごい能力(ちから)だよ!」


周はそう言ってまろんに笑顔を向けた。

まろんは褒められたのが嬉しいのか、ほんのり瞳が潤んでいる。

周りの俊介も麗奈も子供達も皆笑顔だ。

もっともあっさり倒された竹内は少々苦笑いだったが。


「それに、「仲間にしてください」を取り消すのはもうダメ。

 だって・・・・・・あなたはもう仲間だもの」

「!!」


周の言葉に、まろんの頬を涙が伝った。


「周・・・さん・・・私・・・・・・ここにいても・・・一緒にバスケしてもいいんですか・・・?」

「もちろんよ!」


周はそう言ってまろんを抱きしめた。


「皆もいいよね?」


周が振り向きながらそう聞くと全員が頷いた。

今度は竹内も一緒だ。


「あ、・・・・・・ありがとうございます皆さん!

 一緒にバスケ頑張りましょう!」

「お~!!」


まろんの言葉に周が拳を上げて返事をする。

皆もそれに続いた。



そして、新しい仲間が加わったのだった。








「・・・・・・やっぱり三文芝居じゃねーか」



そんなわけでまろんが仲間になりましたとさ。

なお、「ぶつかった相手を反則にしてしまう能力」の説明以降は笑う場面です。

感動しそうで感動できません。

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