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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第一期
31/102

第三十話

喧嘩注意

「なんだ?どうした?」

「仲間割れか?」


会場がざわめく。

注目が集まっているのは今まさに試合が行なわれている最中のコート上、その中でもひときわ目立つ長身の竹内と、その胸倉を掴んでいる竜崎の2人。

皆が驚きの表情で見守る中、残った滝田が竜崎を止めに入る。


「お、おい、止めとけよ・・・」

「黙ってろ!!いい加減こっちはムカついてんだよ!竹内ぃ!!」


仲間の制止も聞かずに竜崎は竹内に向かって怒鳴り声を上げる。


「何が任せておけだ!何が俺一人で大丈夫だ!何が次こそは、だ!!さっきっからいい様にあしらわれてばっかじゃねぇか!!!」

「・・・・・・離せよ」


竜崎の言葉などはなから届いていないという風にそう言うと、竹内は自分の胸倉を掴んでいる竜崎の手を掴み、強引にバッと引き剥がした。


「っっっつつ・・・!」


引き剥がされた手が痛んだのか、苦痛の声を上げる竜崎。

だがすぐにまた竹内を怒鳴りつけ始めた。


「自分1人で何とかするから大丈夫だとか抜かしやがって・・・!

 しかも作戦変えようってこっちの言い分も聞かずによぉ!それで何だよそのザマぁ!!」


今までよほど鬱憤が溜まっていたのか、それを全て吐き出すように竜崎は竹内に向かって声を上げた。


しかし。


竹内は一言返しただけだった。


「うるさいな、次は必ずやり返してやるよ」


その一言に対し、ガギッと歯軋りの音が聞こえた。


「いい加減にしやがれ!!!!」


ドグッと音を立てて、竜崎の拳が竹内の腹に打ち込まれた。


「ぐっ・・・がっ!!」


よろっと竹内の膝がよろめくが。


「何・・・すんだよぉ!」


竹内もすぐにやり返した。


ボグッ


「ごっ・・・へぇ!」


ズダン、と竜崎が腹を抑えて膝を着く。


「お、おい!2人とも止めろ!」

「そうだ、2人とも試合中に何をしてるんだ?」


たまらず止めに入った滝田の後ろから、審判までもが止めに入る。

わざわざ試合用の時計を止めてだ。


「試合をする気がないのなら君達の負けにするぞ」

「試合ならするよぉ!!!」


審判の言葉に、竜崎がゲホッと咳き込みながらも答える。

そして。


「・・・・・・てめぇが好き勝手にやるっていうんなら、こっちだって好きにやってやるよ・・・!ゲホッ・・・」


竹内にそう告げると、竜崎はまだ腹を押さえながらもよたよたと転がっているボールへと歩いていった。


「・・・フンッ」


勝手にしろと言っているかのように、竹内も竜崎に背を向けた。

滝田はおろおろしながらも2人の中間辺りの位置に立った。

それを見て納得したのか、審判も下がっていった。




「あ~、完全に仲間割れだねぇ・・・・・・」

「そうみたいですね・・・。

 ある程度仕切られてる感じはしてましたけど、あそこまで不満が溜まってたのか・・・」


そんな敵軍の様子を見ながら麗奈と俊介ががつぶやいた。


「しかしまぁ、チャンスはチャンスだからねぇ。

 チームが一丸になれなかった、っていうのも敗因としてしょうがないよねぇ・・・・・・」


そういうと麗奈は自陣に向かって歩き始めた。

ようするに手加減など当然せずに、このまま一気に叩きのめそうと言っているのだ。

確かにそれは正論だろう。


しかし。


「・・・・・・周ちゃん・・・・・・」

「・・・・・・うん・・・・・・」


竹内たちの言い合いが始まった辺りから、周はなんだか浮かない顔をしていた。

まっすぐな性格なだけに、このままで試合が終わってしまうのが残念で仕方ないのだろう。


なぜなら周にとってバスケットとは、周りがどう見るかは別として。

自分が活躍できるスポーツではなく、自分の力を誇示できるスポーツでもなく。


ただ、何よりも楽しめるスポーツだから。


だから、何よりも楽しめるバスケットで仲間割れを起こして全く楽しめずに終わってしまったら、例え勝っても不完全燃焼であり、ましてや負けたら後悔しか残らないだろう。


だから。


このままで終わって欲しくなかった。




ボールを拾った竜崎が滝田にパスを出して試合が再開した。

滝田にしてみればこの状況はまさに板ばさみといえるだろう。

おそらくこの状況では竹内と竜崎は互いにパスを出さない。

パスを出すのは自分にのみ。

なら自分がそのボールをどう扱うかでまさにチームの状況が変わってしまうのだ。


竹内にパスを出して再び止められれば、竜崎がそんな使えないやつにパスなど出すなと言い出すだろうし。

竜崎にパスを出して止められれば、竹内がやはり太刀打ちできるのは自分しかいないだろうと言い出すだろうし。


竹内にパスを出してそれが上手くいけば、竹内が調子に乗るだろうし。

竜崎にパスを出してそれが上手くいけば、やはり竜崎が調子に乗るだろうし。

そしてやはり互いにパスは出さなくなるだろうし。



どうしようもない、などと考えているとすでに目の前には麗奈が接近している。

当然麗奈に容赦の心など無い。

唯一先ほどの揉め事で中立でいた滝田こそ、今一番精神的にまいっていると読んだのだ。


「くっ・・・・・・」


滝田の視線が竹内と竜崎を行き来する。

竹内には相変わらず周が、滝田には俊介が着いている。

どちらにパスを出せばよいものか。

そんなことを考えている隙に麗奈の手がボールに伸びる。


「おあっ!?」


かすった。

かすって滝田の手元からボールがこぼれる。

即座に拾おうと駆け寄る麗奈。

そうはさせまいと滝田が必死に手を伸ばし、ボールを手にする。

そして、どちらがとってもいい!とばかりに後ろ向きのままボールを投げた。


ボールは高く上がり、それをとろうと竹内がジャンプした。

しかし、もともと息を合わせたパスではないことに加え、ジャンプ地点で周が妨害をしたのだろう。

微かに指先が届いてボールが方向を変えただけだった。


方向を変えたボールが向かったのは竜崎の手元。

ボールを受け取った竜崎はパスを臭わせつつ俊介のマークを外し、ヒュッとシュートを放った。

3ポイントシュート。


まさかこんな飛び道具があったとは、と会場を含める全員が思ったそのシュートは。

カツン、とわずかに俊介の指先に触れて軌道を変えた。


ボールはリングに当たって跳ね返り、ゴールから離れたところに転がる。

それをすばやく竹内がキープし、そして、マークについていた周と対峙する。

今まで試合をしてきた中で文句なし、最強の敵だ。

どこから抜くべきか、どう攻めるべきか。

ドリブルで少しずつ動きながら思考を巡らせる。



「ねぇ、竹内君さ」

「!?」


そんな時だった、突然周が話しかけてきたのは。


「どうしてバスケを始めたの?」



信じられなかった。

試合中の、しかも1対1の状況で話しかけてくる相手がいようとは。

集中を欠いているのかと思ったが隙は無い。

抜け道、パスコースともに塞がれている。


周が言葉を続けた。


「私はね、小学生の時にすっごい試合を見たの。

 かっこよかったよ、ダンクも3ポイントもバンバン出てて」


加速をして右から抜こうとする。

一瞬で目の前に移動し、その上こちらのボールに手を出してこようとする。


「すごく感動したよ。

 今まで遊びでしかやったこと無かったバスケでこんなにすごい試合が出来るなんて、って」


あわてて後ろに下がり、左から抜こうとする、と見せかけて右から。

パッパッと、フェイクを見抜いているのかそれとも反応しているだけなのか、ぴったりと着いてくる。

振り払えない。


「特に試合終了間際のダンクは今でも覚えてる。

 シュートが外れるかどうかも分からないうちからジャンプしててね、リングに跳ね返ったボールをその手に収めて・・・・・・ダンク決めたの」


また下がる。

右から、左から、上から。

防がれる、止められる。

また下がる。

この白い髪の少女を抜けない、進めない。


「それからいっぱい練習してね、練習相手とも出会って・・・・・・ステキな仲間とも出会って・・・・・・こんなに強い相手と戦って・・・・・・」


また下がる。

抜けない、進めない。

何か言葉が聞こえてるけど、それよりも今はコイツを何とかしないと。


「ねぇ・・・・・・竹内君はどうしてバスケを始めたの?」

「・・・・・・ただ・・・・・・あいつらに誘われたから・・・・・・」


自分よりもずっと小さい目の前の壁を、抜けない、押せない、壊せない。

口が勝手に動いて何か答えた気がするけど、それよりも今はコイツを何とかしないと。


「あいつらが・・・バスケは背が高いほうが有利だからって・・・・・・仲間になってくれって言われて・・・・・・」

「・・・・・・竹内君は・・・・・・あの2人の事・・・・・・仲間だと思ってる・・・?」

「・・・・・・分からない」

「ねぇ、竹内君・・・・・・」















「バスケは楽しいですか・・・・・・?」















パァンと音がした。

いつの間にか目の前から白い髪の少女が消えていた。

ダムダムと後ろからドリブルの音が聞こえた。

いつの間にか、自分の手元からボールはなくなっていた。


いつの間にか、少女は自分を抜き去り、再びゴールを決めていた。





「竹内君、バスケって一人でやるよりも、仲間とやるほうが楽しいよ」


周は笑顔で竹内にそう告げると走り去っていった。

彼女の、仲間の下へと。




「成す術もなく、だったな」

「・・・ああ、そうだな」


いつの間にか竜崎が竹内の近くに来ていた。

竜崎の言葉に竹内が答える。


「どうしようもなかったな」

「・・・ああ、そうだな」

「自分ひとりでどうにかできるなんて自惚れていた、な」

「・・・ああ、そうだな」

「・・・・・・さっきあの白い髪の女と話してたな」

「・・・ああ、そうだな」

「・・・・・・聞こえてた」

「・・・・・・なぁ、竜崎」

「なんだ?」

「試合終わるまで・・・・・・あと5分ちょっとってとこか」

「そうだな」

「どうせ俺達はこの大会中だけってことで仲間になったんだよな」

「そうだな」



「あと5分くらいは・・・・・・仲間でいねぇか?」



「てめぇが良けりゃな」



ガッと、2人は腕を組んだ。




「周」

「なぁに?麗奈ちゃん?」

「さっきあの竹内ってヤツと話してたね?」

「うん・・・」

「聞こえてた」

「・・・・・・ゴメン・・・・・・」

「おせっかい焼き」

「・・・・・・えへ・・・・・・」

「強くなっちゃったらどうするのさ」

「だって・・・・・・もったいないな~って思ってさ」

「強いやつと戦えないから?」

「それもあるけど・・・・・・なんていうか・・・・・・竹内君たちが、さ」

「ふ~ん・・・・・・ま、いいけど、責任とりなよ?」

「うん、もちろん」




すぐに、試合は再開した。

ヒュッと滝田の手から放たれたパスが竜崎の手に、そして竹内の手に。

そして攻めようとする竹内の前に、再び周が立ちはだかる。


ヒュッと、竹内はあっさりとパスを出した。

コースを塞がれる前に、滝田の下へ。

受け取った滝田は俊介を振りほどいて竜崎へパスを。


受け取った竜崎は右へ左へ麗奈を振り払い、隙を見つけて再び3Pシュート。

微かに麗奈の手が触れ、ボールはリングから外れていく。

再びリバウンド、と竹内の前に周と俊介が立ちはだかる。



だが、竹内は落ちてくるボールを待たずにジャンプし、ボールをキャッチした。

そしてそのまま着地することなく、ゴールリングに向かってダンクを叩き込んだ。



ズドガッシャーン!!!!



竹内たち、トライホーンドラゴンズチームを応援していた人たちからすれば待ち望んだその豪快な音。


会場が沸いた。





「斉藤・・・って言ったな」

「うん、斉藤周」

「試合はこれからだ」

「もちろん、だよ」

「勝つのは・・・・・・俺達だ」

「ううん、私たちが、勝つよ」


竹内はフッと、周はにこっと笑い、そして互いに背を向け合った。




試合残り時間、あと5分。



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