第二十九話
ヒュッと竜崎から滝田へパスが出される。
それが試合再会の合図。
前方に目をやる2人。
そこには2人の頼れる仲間、攻撃でも守備でも大活躍の身長195cm、竹内祥吾。
しかし。
その向こうにはその竹内と相対し、全く引けをとらない3人がいる。
風見爆走連合愚連隊チーム、周、俊介、麗奈。
ふざけた名前とは全く裏腹、ほとんど隙の見当たらない強敵チームだ。
竹内の援護、補助をしていただけで勝てた今までのチームとは全然違い、それどころかむしろ肝心要の竹内すら封じ込まれかねない勢いだ。
確かに高さにおいては圧倒的な有利があるもののそれだけでは勝てない。
作戦を変更したほうがいいんじゃないのか?と、先ほども2人は提案した。
だが、竹内は変わらなかった。
ただ自分にパスを出せ、と。
決して押さえ込まれることなく追い返すと、そう告げた。
だから2人は今一度、その不安を飲み込んだ。
真ん中のセンターライン付近にいたるまで、しばらく竜崎と滝田がドリブルとパスで歩を進めてきた。
そしてその前に立ちはだかる2人、俊介と麗奈。
その向こうにいるのが竹内、その足元にいるのが周。
身長差は30cm以上。
こうして見ていると、とても勝負にならないように見える。
しかしこの2人の実力はほとんど拮抗していると言ってもよいだろう。
身長差を補うほどのスピードとそれでいて小回りが利く脚。
そしてボールを扱うテクニック。
それは竹内の身長ほど分かりやすく圧力的なものではないが、それとは異質の恐ろしい武器だ。
はたしてどちらが相手を上回るのか。
ドリブルでじりじりと敵陣へと攻め寄ろうとする滝田。
そしてその前に立ちはだかるのは麗奈。
その向こう側には竹内と周。
ここから竹内にパスを送るにはどうやら2人かわさなければならないようだ。
だが周はもちろん麗奈も十分に腕が経つ。
あっさり抜けるものではない。
せめて竹内が少しばかり近づいてくれれば。
竜崎も俊介を振り切ろうと走り回る。
隙があるならばこちらよりもあちらか、と滝田は竜崎にパスを出す。
受け取った竜崎はドリブルで走り回りながら俊介の隙をつこうとする。
だがあっさり抜かれるほど俊介もお荷物ではない。
ぴったりと着いて回る。
右から抜こうとすれば右へ、左からパスを出そうとすれば左へ。
しかし次第に俊介が振り回されているような形になる。
もっと訓練を積めばまだしも、この時点ではそれでも致し方ない。
左と見せかけて右。
それについていこうと体重移動を始めた俊介の隙をつき再び左。
「あ!」
と思ったときには既に抜かれた。
そうしたら後は周の妨害が入れないように、ヒュッと竜崎は高いパスを出す。
この高さで取れるのは竹内のみ。
コート上の全員、そして観客も見守る中、期待通りに竹内はそのパスを手中に収める。
しかしそう。
確かにこのパスを取れるのは竹内のみだが、ボールをキャッチした後に落下してくれば話は別。
先ほど麗奈が止めたように、周は竹内の落下地点に移動していた。
ズダン、と竹内が大きな音を立てて着地する。
ボールは両手でしっかりと抱えて胸の前。
そしてそれを狙って周が手を伸ばす。
上から下へ、シュッと。
「あ、れ?」
パッと手が離れた。
周の手が空を切る。
手を離したにもかかわらず、ボールは竹内の右手にくっついていた。
ボールは両手で抱えて胸の前、のはずが実は片手で持っていたのだ。
左手はまさに添えていただけ。
大きく広い掌の竹内だからこそできるフェイク。
周のカットをかわすと、竹内は悠々とジャンプをする。
そこは十分ダンクの射程圏内。
ある者はやった!
ある者はやられた!
パァン、と音がしたのは皆がそう考えたのよりも早かった。
「!?」
竹内の手からボールがこぼれたのはジャンプした直後、ダンクに行く直前。
まさに手が届くギリギリのところで麗奈がボールをカットしたのだ。
ダンクを止められたのは2度目。
さすがに竹内にも驚愕の表情が浮かぶ。
その竹内と目が合う麗奈。
ニッと不敵に笑ってやった。
が、麗奈の弾いたこぼれ球を拾ったのが滝田なのはまずかった。
しかも立ち位置は3Pラインの一歩内側。
まずいと思ったが誰も間に合わない。
滝田は一歩外に下がって両手を構え、シュートを放った。
ヒュッ
ボールは弧を描き、リングへと吸い寄せられていく。
そして、ガッとリングに当たり、何回かバウンドした後に、リングの外へと落ちようとしていた。
「「「!!」」」
竹内がフォローにとゴール下へ駆け寄ろうとする。
が、その前に立ちはだかったのは俊介。
既にゴール下に立ちはだかり、背を向けたまま竹内を追い出そうと押してくる。
「チッ」
ぐいっと竹内が押し返す。
しかし簡単にはいかない。
俊介は全力で竹内を押し出す。
「こい・・・つ・・・!」
竹内も力ずくでググッと押し返そうとするが、俊介も負けずに押し返す。
自陣であろうと敵陣であろうと、ゴール下でボールをキープできれば有利になる。
ゆえにゴール下の攻防はバスケットにおいて重要なものだ。
その時に使われる技法、身体を使って相手を押し出し、また前に割り込もうと身体をぶつけるもの、それは「スクリーンアウト」と呼ばれる。
ゴール下のポジションをキープする為に必要不可欠なそれを、3Pシューターである俊介も会得していた。
しかし竹内はどうも上手く押し返すことも前に割り込むことも出来ていないようだ。
それを見た周が俊介を助けようと、同じく竹内の前に割り込んで押し始めた。
少しずつではあるが竹内は2人に押されていく。
「く・・・そ・・・!」
「ぐ・・・うぐぐっ・・・!」
「ん~・・・むむむむ~!」
そして、ボールが落下してきた。
竹内がそれに気づいてジャンプをしようとしたが、体を押されているために、ボールをキャッチできる位置にジャンプが出来ない。
俊介もそのままジャンプをせずに、竹内を押し続ける。
そしてボールが落下してから悠々とキャッチをした。
ゴール下、リバウンド勝負は本来空中戦。
しかし空中は間違いなく竹内の領域。
ゆえに俊介は空中ではなく、地上から竹内に勝負を仕掛けたのであった。
そして今まさに制した瞬間であった。
俊介がボールをキャッチしたのを見た瞬間に、周は竹内から離れる。
俊介はそんな周にパスを送る。
同時に竹内に押し返されて、ドダンと床に転がった。
「うあっ」
声が上がるが周は止まらずに敵陣へと加速を続ける。
それに続いて麗奈も走り出し、それを止めるべく滝田、竜崎、竹内が走る。
スピードを緩めたら追いつかれると判断したのか、周はそのまま走り続け、地面を踏み切ってレイアップを放った。
しかしそこに、竹内の手が届いた。
「!」
届いたのは指先程度、しかし軌道をずらされたシュートはゴールの板にぶつかって跳ね返る。
シュートは止められた。
しかし跳ね返ったボールに一番近かったのは麗奈だ。
その次に近かった滝田に追いつかれないようにと、麗奈は横っ飛びでボールに飛びつくと、そのままダイレクトでゴール前に投げ上げた。
再びゴール下の攻防。
今度は周1人と竹内。
パッと周が内側に入り込む。
しかし今度は俊介の助けが無い。
女1人に押し返せるはずがない、と竹内がグッと押してくる。
もちろん勝てるわけが無い。
周もそれは承知していた。
ゆえに、竹内がぐいっと押してきたタイミングに合わせてパッと横に退く。
「なっ!?」
突然手ごたえが無くなって前に数歩よろめく竹内。
その間に落ちてきたボールを周はキャッチして、シュートを放った。
竹内が振り向いた時にはすでにボールは空中だ。
そのままボールは綺麗にリングを通過した。
「やった!!」
「決まったぁ!!」
会場から歓声が上がった。
周もグッとガッツポーズをとる。
「やったぁ~!お姉ちゃん達やったよ!」
「あんな大きい人相手にしても負けませんでしたよ!」
「やっぱり
お姉ちゃん達
すごい」
「・・・はぁ、ホントにすごいよお姉ちゃんたち」
「いいぞ~!周~!」
子供達も喜びの声を上げている。
それを見つけた周が手を振ると、子供達も手を振って答えた。
麗奈が周の元に駆け寄ってくる。
「やったね、周」
「うん、麗奈ちゃん。
でもしゅんくんは大丈夫?」
俊介の方に目をやると笑顔で駆け寄ってくる俊介がいた。
「やったね、周ちゃん」
「うん、しゅんくんは大丈夫?」
「平気さ、どこも捻ったりしてないみたいだし」
トントン、とつま先で床を叩いてみせる。
あざも見当たらないし、どうやら大丈夫なようだ。
「よかった~、転んだのが聞こえたから心配してたんだよ?」
「あ、ありがと。大丈夫だよ」
そんな周の言葉に、赤くなりながら頬を掻いて照れる俊介。
そのときだった。
「何やってんだよ竹内!!」
怒鳴り声が聞こえた。
見ると竜崎が竹内の胸倉を掴んでいた。




