第三十一話
10分の試合時間、その半分はとうに過ぎた。
休憩を挟んだわけでも、作戦会議を挟んだわけでもないのに、前5分と後ろ5分とでは試合の流れが大きく変わっていた。
5分を過ぎた時点で、
風見爆走連合愚連隊 6-2 トライホーンドラゴンズ
であった点差がめまぐるしく変わる。
6-2のスコアは10-7へ。
そして13-10、17-14。
取っては取られ、取られては取り返すシーソーゲーム。
しかしつねに周たちはリードを取っていた。
試合時間はすでに残り2分を切った。
得点は今しがた滝田の放ったシュートが入って17-16に。
あと1本のシュートで逆転。
何度がそのような状況は訪れた。
しかし、そんな場面に至っても、否、そんな場面でこそ集中が増す周たち。
接近は許しても、追いつくことも、ましてや逆転など許さないと反撃をしてくる。
残り1点に追い詰めたその状況を、今回も彼らは打ち破る。
フェイクとスピードで敵陣をかき乱した周と麗奈、そして周から放たれたパスが一瞬の隙を突いて俊介へと渡る。
そして放たれるは飛び道具、3P。
その両手からヒュッと放たれたボールは弧を描き、そして、リングへと吸い込まれていく。
スパンッ
リングにかすりもしないそのコントロールはこの期に及んでも未だ健在。
得点は20-16と周たちが一気に引き離す。
4点と言う点差は大きい。
通常のゴール2本でも同点。
逆転にはもう1本のゴールか3Pが必要。
残り時間はもうじき1分半になる。
しかし、敵も死に物狂いで攻めてくる。
なんとか前に立ちはだかりパスカットを狙うが、ボールは奪えない。
体力の限界などまだまだ先と言わんばかりのパスとドリブル。
そして残り時間と点差を知っていてもなお冷静な精神力。
3Pのモーションを囮に抜き去り、シュートを放つ竜崎。
ボールは一度ボードに当たった後にゴールリングを通過する。
20-18
そこで時間は1分半を切った。
めまぐるしく入れ替わる攻防。
ボールを、点を、取って取られて取り返す、その応酬。
しかしそんなスピード展開が一度止まることになる。
そのダンクによって。
周チーム側ゴール下、近くはないが決して遠くともいえない距離。
そこまで歩を進めてきた竹内に、ついにボールが渡った。
先ほどまでの攻防以上の緊張感。
抜かせない、進ませないと言う気迫が周たちに走る。
が、竹内はあっさりと辺りを見回し、竜崎へとパスを出そうとする。
無理もないのだ。
無意識であろうともそこで緊張を解いてしまうのは。
竹内はまさにそれを待っていた。
仲間へのパスを放つと思っていた腕の動きはそのままボールを放さず、そしてパスを出すために仲間の方を向いていた身体は一度沈み、そして高く跳ね上がった。
まずい!と誰もが思った。
周も麗奈も俊介も、応援している子供達も、会場の皆も。
そんな中、一番近くにいた俊介だけがそれに反応できた。
「・・・・・・!!」
絶対に止めるという気迫が込められたジャンプ。
竹内はそれを見てわずかに怯む。
自分よりも背の低くパワーも弱い、だがそれでも果敢に挑んでくる目の前の俊介に。
だが、だからこそ、自分も負けられない。
自らを奮い立たせた竹内は、俊介のガードをものともせず、ダンクを叩き込んだ。
ドガッシャーン!!!
俊介は弾き飛ばされ、倒れこむ。
そこへ。
ピピ――!!
審判の笛が鳴り響く。
ファールだ。
ゴールは無効だと周たちは胸を撫で下ろしたのだが。
「ディフェンス!ブロッキング!」
会場が静まり返った。
審判は言葉を続ける。
「バスケットカウント!ワンスロー!」
ファールを取られたのは俊介だったのだ。
得点は20-20へ。
会場が沸いた。
バスケットカウントとはディフェンスのファールがあったにもかかわらずゴールを決めることができた場合の特別ボーナスのようなものだ。
そのゴールが認められ、さらにフリースローが1本与えられる。
「ブロッキング」について少しだけ説明をする。
竹内が攻めているところに俊介が横からぶつかった場合、俊介は「ブロッキング」というファールをとられることになるのだ。
逆に俊介が守っている場所に竹内が突っ込んできた場合は「チャージング」で竹内のファールになる。
紙一重の判定だが、今回は俊介の方に非があると取られてしまったようだ。
「ごめん・・・・・・」
「いいよ、しゅんくん」
周が倒れていた俊介を助け起こす。
「今のはしょうがないよ。
止めにいってゴールを決められてファールを取られるなんて、10回に1回あるかどうかだもん」
「そうそう、ただその1回が今だったってだけさ。
ドンマイだよ」
二人は俊介の肩に手を置いてなだめる。
が、実は「そうでも言わなければならなかった」のである。
自分達も不安だから。
そう、ついに「追いつかれてしまった」のである。
しかもフリースロー付き、逆転の目まである。
そんなピンチが起きてしまった責任を俊介一人に問うわけには行かない。
今はとても冷静ではいられない。
リードし続けることで相手に押し付け続けてきた「敗北」が、ついに自分達に追いついたのだから。
そうなれば俊介に食って掛かってしまうかもしれない。
しかしそんなことで仲間割れなど起こしたら元も子もない。
なにより冷静になれば普段はそんなことで怒ったりはしないはずだ。
そう自分達に言い聞かせての「ドンマイ」。
味方だけでなく、自分に対しても「ドンマイ」。
それで、どうやら心は落ち着いた。
行き着く先は、「やるしかない」という覚悟。
「ワンスロー!」
審判が宣言し、竹内にボールを渡す。
竹内はすでにフリースローサークルの中にいる。
周たちも竜崎たちも審判の指示に従い、ゴール周辺に構える。
そして、竹内はゆっくりとボールを構え、シュートを放った。
ヒュッ
ボールは弧を描き、ゴールリングへと近づく。
そして。
ガツンッと跳ね返った。
「チッ」
竹内が駆け寄る。
竹内がゴール下に陣取れば、それはもうリバウンドにおいてもその後のシュートにおいても、完全に竹内の独壇場だ。
そうはさせられない。
俊介と周が同時に竹内とボールの間に入る。
「ぐっ・・・」
押し返され、よろける竹内。
だがここで押し負けるようならもとより危険視されはしない。
ぐいっと確実に一歩、前へと押し込んだ。
「んぐ・・・・・・!」
「ん~~~・・・!!」
俊介と周が必死に止める。
そこへ、外れたボールが落下してくる。
「周ちゃん!」
「おっけー!!」
俊介の言葉に周がパッと離れる。
それを見て一気に中へと入ってくる竹内。
周と竹内の二人がボールの落下地点へ。
そして二人は同時に飛ぶ。
ぐいっ
「!?」
「くぅ・・・お・・・」
だが、竹内は飛べなかった。
最後の最後、俊介の妨害によりわずかによろける。
そしてその隙に周がボールへと飛びついた。
パシッ
「よしっ」
左手でボールを捕らえる。
あとは着地と同時に振り返って、俊介が抑えている竹内を抜き去る。
その後は麗奈と二人でフェイントとパスで抜き去る!
周の頭はそこまで計算していた。
のだが。
まだボールは捕らえただけ、「しっかりと掴んだ」わけではない。
だから、そこに竹内の手が伸びてボールを弾き飛ばすことは不可能ではないのだ。
シュッと手を伸ばした竹内は周の左手が捕らえているそのボールをバァンと弾いた。
「え」
声を上げる周。
だがうっかりしていたわけではない。
これから右手もボールに添えて、しっかりと掴むはずだったのだ。
ただそれよりも竹内の方が早かったというだけ。
ボールがこぼれた。
しかし、その先にいたのは麗奈、しかも真正面だ。
しっかりと両手でキャッチをする。
チャンスだ。
敵は麗奈の後ろに竜崎がいるのみ。
滝田は竹内の向こう側、おそらく麗奈と同様にこぼれ球を狙っていたのだろう。
瞬時に麗奈は駆け出す。
竜崎はわずかに遅れてそれを追い始めた。
だがそのわずかの遅れが決定的な差になる。
パァン
はずだったのだ。
「んな・・・!?」
あっさりとすり抜けるはずだった竹内の影から伸びてきた滝田の手が、麗奈のドリブルを止めた。
ほとんど飛びつくような体制。
だが麗奈がボールを拾った直後に走り出したとしても間に合わないはず。
それはおそらく執念。
必ずボールを拾い、ゴールを奪うという執念が、滝田を走らせたのだ。
ボールが麗奈の方に飛んでいった瞬間、いや、竹内がボールをはたいたその瞬間から。
滝田がはじいたボールは竜崎の足元へ。
麗奈がとっさに向きを変え、止めに走る。
竜崎は既にシュートモーション。
止める、絶対に!!!
麗奈は竜崎の持つボールへと手を伸ばした。
だが、残り時間と点差を知っていてもなお冷静な精神力。
竜崎は麗奈の動きを読んでいたように、すっと一歩下がる。
「え」
麗奈だけではない、周も俊介も、誰もが声を上げた。
下がった地点は3Pラインの外。
竜崎はシュートを放った。
豪快なダンクを決める竹内。
その裏で地味に放ち続けてきた3Pシュート。
決して下手ではない竜崎のシュートはすでに何度か決まっている。
ただそれが今回も、もっとも決めて欲しい場面で放たれ、そして、入ったというだけの事。
スパァンッ
綺麗にボールがリングを通過した。
竜崎はシュートを放った両手で握りこぶしを作る。
「よっしゃぁ!!!」
ウオオオオ、と会場から歓声が上がる
点数は20-23。
ついに逆転。
残り時間は1分を切った。




