第二十三話
ヒュッとシュートを放つ黄色の2番。
大紀が止めに入るが高さでは敵わない。
ボールが弧を描いてゴールに向かっていく途中で試合終了を告げるブザーが鳴る。
ボールはリングに当たり、何度かバウンドを繰り返し、やがてリングへと吸い込まれていった。
試合終了の時点で既にシュートが放たれていた場合それは得点になるため、20代三本柱チームに2点加わる。
目指せ優勝キッズチーム 20-36 20代三本柱チーム
これが試合の結果だ。
序盤は存分に敵の統率と平常心を乱して攻め込んでいった子供達だったがやはり相手は大人だ、後半には立て直して逆に圧倒してきた。
それでも何とか食いついていったものの、結果的に点差をつけられていき、敗北と言う結果に終わった。
「ただいまの、目指せ優勝キッズチームVS20代三本柱チームの試合は、20-36で20代三本柱チームの勝利です。礼!!」
「「ありがとうございました!!」」
審判の号令に合わせて両チームは頭を下げる。
コートの選手に向けて暖かい拍手が会場から送られた。
「あ~ん、負けちゃったよ~」
愛奈がふえ~んと涙を流す。
「うん
残念だった」
大紀も普段と口調は変わらないが、幾分か落ち込んでいる感じだ。
恋二も口数が減り、悔しそうな表情をしている。
そこへ。
「おい、少年達」
「・・・え?」
相手チームの大人から声がかかった。
「・・・・・・何です?」
恋二がぶすっとした表情で聞く。
男はやれやれと頭を書きながら言葉を続ける。
「年はいくつ?」
「・・・みんな10歳ですよ、もうじき11ですけど」
「そうか・・・・・・」
意味ありげに言葉を切ると、一瞬フッと笑い。
「あと5、6年もすりゃ、俺達じゃ敵わなくなっちまうかもな」
そう言った。
「じゃあな、元気でバスケ続けろよ」
そしてそう付け加えると、仲間とともにコートを後にした。
「・・・え~と、今のって褒められたのかな?」
いつの間にか泣き止んだ愛奈がきょとんとした表情でそういう。
「たぶん
そうだと
思う」
大紀も不思議なものでも見たかのようにそういう。
恋二だけは。
「フン」
くるっと向きを変えると、男たちとは逆の方向へ向かって歩き出した。
「あ~、待ってよ、恋二君~」
「待って」
愛奈と大紀はあわてて恋二についていく。
「・・・見てろよ・・・中学になるまでには・・・・・・絶対勝てるくらいになってやるからな・・・・・・」
恋二は一人、そうつぶやいた。
「はぁ~~~~・・・・・・負けちゃったよ・・・」
「大丈夫だよ。
確かに残念だったけど、知らない人と試合するのはいい経験になったと思うよ」
「・・・うん、みんなきっと成長できたと思う」
「はい、今日の事をバネにみんなでもっと頑張りましょう」
「うん・・・そうだね。
あ~・・・でも勝たせてあげたかったな~・・・」
「・・・お姉ちゃんの責任じゃないよ」
「そうだよ、周ちゃん。
周ちゃんだって試合に負けたときも、次の日には元気に練習してたじゃない。
みんなも大丈夫だよ」
「・・・そうだね、そうだよね。
よし!みんなでまた練習頑張ろうね!」
自分の事のように落ち込む周となぜかそれを慰めている俊介と子供達。
「・・・・・・っていうか、なんであんたがそこまで落ち込むの?」
麗奈が突っ込みを入れる。
もっともだ。
当の子供達より落ち込む保護者というのも確かにときどき見るが。
「ただいま」
「ただいま~、負けちゃったよ~」
「あ、おかえりなさい」
「おかえり~、頑張ったね~」
子供達が戻ってきたようだ。
修也と麗奈がいち早くそれに気づき、迎えの言葉をかける。
「おかえり~、みんな頑張ったね~、落ち込んじゃダメだよ~?」
子供達が戻ってきたことに気づいた周はいつのまにか子供達に駆け寄って慰めの言葉を掛けている。
「だいじょぶ
落ち込んでない」
「そうそう、むしろなんていうかな、充実感ってヤツがいっぱいだよ。
ね、恋二君もそうだよね?」
大紀と愛奈はそう答えたが、恋二からは声が聞こえない。
「・・・?恋二君?」
やっぱり落ち込んでるのかな?と周はかがみ込んで心配そうに恋二の顔を覗き込む。
やがて恋二はゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・ご・・・」
「・・・ご?」
「・・・ゴメンな・・・・・・いっぱい練習に付き合ってくれたのに・・・・・・」
恋二はボソッとそう告げた。
周は「えっ?」と声を上げそうになったが、すぐに笑顔で恋二に言った。
「ううん、恋二君頑張ったよ。
もちろん大紀君も愛奈ちゃんも」
二人にも振り返り、笑顔を見せる周。
大紀と愛奈も笑顔で返す。
周はそれを見ると再び恋二の方に向き直った。
「だからね、恋二君。
明日からもいっぱい練習して、もっと強くなって・・・それでね・・・・・・」
周はそこまで言うと恋二をそっと抱き寄せた。
「・・・え・・・?
なっ!ちょ・・・!」
突然の事に顔を真っ赤にしてあわてる恋二。
周はそんなことなど気にせずに続けた。
「次は・・・勝とうね♪」
その言葉に、恋二のあわてていた心が次第に落ち着いていく。
そしてゆっくりと、恋二はうなずいた。
「うん・・・」
「よしっ」
周は恋二から離れるとやはり笑顔でこう言った。
「今日のところは、私達がみんなの分まで勝って来るからね」
その言葉に、子供達にも俊介と麗奈にも笑顔が浮かぶ。
「・・・うん、勝ってねお姉ちゃん」
「頑張ってください、周お姉ちゃん」
「応援
してるよ
お姉ちゃん」
「ファイトっ、お姉ちゃん」
子供達から応援の声が上がる。
そして恋二も。
「あ・・・周っ!」
「ん?」
「俺・・・・・・俺達・・・次は絶対勝つから・・・!
だから・・・・・・俺達の分まで・・・勝って・・・!」
周は笑顔で自分の胸をドンッと叩いた。
「任せなさいっ♪」
「・・・・・・こりゃ負けられないですね」
「そりゃもちろん。
もともと負ける気もないけどね」
そんな様子を見ながら、俊介と麗奈も気合を入れた。
やがて、また放送でチームが呼ばれた。
「続きまして、ゴーゴーホウレン草チームVS地震雷火事おじやチーム、並びに田中島チームVS風見爆走連合愚連隊チームの試合を行ないます。
各チームの選手は・・・・・・」
「・・・・・・しかしなんていうか・・・ホント個性的な名前が結構あるよね」
俊介がそうつぶやくと周もそれに賛同する。
「うん、ホントに・・・・・・。
遊び半分でウケ狙ってるのかな」
「かもね。
でも実力はどうかな?」
「ん~、でも変な名前のチームには負けたくないっ」
「同感」
二人でなにやら話しているが、ふと横を見ると麗奈が大きく伸びをして席から立ち上がる。
そして。
「じゃ、行こうか」
・・・・・・・・・・・
「はっ!?え!?今呼ばれたの!?」
「うん、そうだよ。
あ~あ、秘密にしておいたのにとうとうバレちゃったな~♪」
麗奈は周の激しい動揺も気にせず、なにやら嬉しそうな表情で二人にも立つように手で指示を出す。
「ほら、さっさと行くよ」
「ちょ、ちょっと待って!!
あのさ、あのさ、どのチームも嫌なんだけどさ、一応聞くよ?どれが私達のチーム?」
周が本当にどれも嫌なんだけど、と説に訴えかける表情で問いただすが、麗奈はやれやれと頭をかきながら答えた。
「どれがってねぇ・・・・・・。
ホウレン草だのおじやだの田中島だの、そんなセンスのない名前に比べりゃ一発でしょ?」
「いや、どれも大差ない・・・・・・うっ!?」
本音を告げようとした俊介に、それだけで射殺せるのではという視線を送る麗奈。
しかしそれは一瞬だけ、すぐにまた笑顔に戻る。
「かっこいいだろ?風見爆走連合愚連隊」
「はい、ものすごく」
真っ青な顔に脂汗を流しながらセリフを棒読みする俊介。
「よし、じゃさっさと行こうよ。
試合始まっちまうよ」
「あ、待ってよ麗奈ちゃん!
私まだこのチーム名には納得してないよ!
せっかくこの日の為に「グレートパワフル一億万年ウルトラグレートミサイルアタッカーズ」ってチーム名考えてきたのに~!」
いや、それも大差ないから。
むしろ他のよりひどいかも。
っていうかグレートが2回入ってるから。
もはやそんな突っ込みすらままならずに2人についていくだけの俊介であった。
そして取り残された子供達。
「・・・えっと・・・・・・頑張ってね・・・」
「う?あ・・・えっと、が、頑張・・・って」
「う、うん・・・お、応援・・・しようか・・・?」
「・・・そ、そうだな・・・」
渡されたゼッケンを身につけ、コートに入る3人。
程よく熱せられた空気。
試合前の高揚感と緊張感。
そこに会場から送られる拍手が心地いい。
麗奈としてはそんな久々の余韻に浸っていたかったのだが。
ドンドン バン ズダン ドン
「周、床を足でドンドン叩くんじゃないよ」
「あ、そうだね、ごめんごめん。
でも体育館って久しぶりだったから・・・つい」
てへへ、と舌を出しながら麗奈の元に駆け寄ってくる周。
そしてやれやれと頭を抱えながらも、自身も久々の感触を味わっている麗奈だった。
「つい、じゃないよ、まったく恥ずかしい」
そんなことは感じさせず、余裕ぶってそんなことを言う麗奈。
ちなみにドンドン叩くのは恥ずかしくても自分のチーム名は全く恥ずかしいとは思っていない。
それはさておき。
コートの中心に進むと向かいから3人組の男が入ってきた。
みな身長はそこそこあるし、ガタイもいい。
見た目にはおそらく高校生くらいだろう。
3人は周たちの前に並んで立ちはだかると口を開いた。
「フフ、よく恐れもせずに我らの前に立ったな」
「だがそれもここまでよ」
「お前達「風見爆走連合愚連隊」は我ら「田中島」の前に敗れることになるのだ」
なにやら似たような雰囲気の3人が似たような口調でそんなことを言った。
というか、わざわざ周たちのチーム名を覚えてきたのか、この3人は。
「む~、そんなことないよ。
勝つのは私達「グレートパワフル一億万年コスモミラクルグレートミサイルアタッカーズ」だもんっ」
「何が「グレートパワフル一億万年コスモミラクルグレートミサイルアタッカーズ」だ」
赤いゼッケンの1番を付けた男が周の言葉に対してそう返す。
というか今ので覚えたのか。
「いや、名前はいいよ・・・。
「風見爆走連合愚連隊」でも「グレートミラクル一億万年コスモミラクルグレートファンネルアタッカーズ」でも」
麗奈がそう口を挟んだ。
「どっちにしろ、「田中島」に比べれば強いのは明らか・・・・・・。
チーム名の時点であんたらは負けてるんだよ」
「フッ、チーム名程度にこだわるとは・・・器の大きさが知れるぞ」
なにやらどうでもいいことで白熱している両チーム。
「ところで何で田中島なの?」
白熱した中で突然普通の疑問をぶつける周。
と、男たちの空気が変わった。
「なぜか・・・フッ、教えてやろうか、田中」
「そうだな、中島」
「そのワケをな、田島」
「田中」島
田「中島」
「田」中「島」
「・・・・・・ゴメン、今分かった・・・」
「チーム名にこだわらないとか言ってる割にずいぶんこだわってそうだね・・・」
なにやら突然遠い目で見つめる二人。
と、ここに来てようやくもう一人の様子がおかしいことに気づいた。
「ん?しゅんくんどうかしたの?
さっきから黙っちゃって」
「う、うん・・・・・・なんかあんまり久々だから・・・緊張しちゃって・・・・・・」
「あ~、確かに緊張しそうなタイプだね、あんたは」
俊介の言葉に呆れる二人。
しかし三人チームで一人がまともに機能しないとなると致命的だ。
「まぁ、試合が始まれば大丈夫だとは思うんだけどねぇ」
「うん・・・大丈夫だよしゅんくん、落ち着いて」
「う、うん・・・・・・落ち着こうとは思うんだけど・・・」
まだ試合が始まっていないのに呼吸が乱れ始めている俊介。
果たして大丈夫なのか。
不安な中で試合は始まるのだった。
あ、田中島さんって人実在するらしいです。




