第二十一話 市民大会
ドン!ドン!ドン!
朝から3連花火が一定間隔で打ち上げられている。
ここは市民体育館。
この体育館には色々な施設がある。
卓球コートや剣道場、プール。
トレーニング用具の置いてあるジムのような施設もある。
中学高校などの試合に使われることも良くある場所だ。
しかし目玉はなんといっても広い体育館である。
通常の学校の体育館2面分の広いコートと、そのコートを見下ろす形で設置されている大量の観客席。
4000人動員可能とも言われる体育館だ。
で、4000人動員可能と言うことはもちろん外の駐車場もそれくらいは用意できているはずであるが。
今日に限ってどういうわけか満車となっている。
見渡す限り車、車、車。
さらにそこから体育館へ向かってくる人、人、人。
大行列だ。
駐車場ではあちこちで警備員による第二駐車場への誘導が行なわれている。
そしてその外の景色から察するとおり、4000人動員可能な体育館は文字通り人で埋め尽くされていた。
そして、その体育館の観客席の最上部最高段の通路に立つ2人の男、男と言うよりおじさんと言うのがぴったりだろう。
2人はなにやら涙を流しながら観客を見ていた。
「見てください、こんなにも人が入っていますよ、市長」
「うむ、不安だったが開催に踏み切って本当に良かった」
市長とその秘書のようだ。
どうやら想像以上の客の入りに感動している模様。
まさに開催者側の思惑を超えた大盛況と言えよう。
6月8日、日曜日。
この市民体育館で市内バスケットボール大会が開かれる。
「周~、しゅん~、こっちこっち!」
「あ、麗奈ちゃ~ん!」
外の人ごみの一画で麗奈は周と俊介を見つけたようだ。
現地集合と言うことにしてあったのだが、この人ごみはさすがに3人にも予想外だったのだろう。
市民体育館についてから30分近くお互いを探し回る羽目になったのだ。
なんにしても見つかって一安心と言ったところだろう。
「よかった~、見つからないかと思った」
「あたしも心配してたよ。
もしかしてあたしの事探してて遅くなった?」
「う、うん、実は・・・」
てへへ、と頭をかきながら答える周。
「こうなるとは思ってもいませんでしたからね。
今度からちゃんとケータイで連絡取りましょうか」
「あ、じゃあ麗奈ちゃん、アドレスと番号交換~」
「今はちょっと急いでるだろ?中入ってからにしよう。
自転車置いておいで。
先にエントリー済ませておくからさ。
受付の脇にいるよ」
麗奈に言われて周と俊介は自転車を置きに行く。
今日は2人とも自転車だ。
さすがにいつもの公園のように気軽に走って、という距離ではない。
まぁ、周ならできなくもないだろうがさすがに試合に響くだろう。
それはさておき2人は自転車を置いて体育館の中へ入り、既にエントリーを済ませて待っていた麗奈と合流し、観客席へ。
そして観客席の人ごみを見てやはり驚きの声を上げる3人だった。
「うわわわ~!すごいいっぱいいるよ~!」
「すごいねー・・・・・・。
ホントにただの市民大会なのかな。
あ、周ちゃん、走ってったら迷子になるよー」
すごーい、と声を上げながら走る周を止めに行く俊介。
麗奈も追いかける。
待っていたら逆に麗奈が迷子になるだろう。
「・・・・・・にしてもホントにすごい人ごみだね。
中学の試合を思い出すよ」
麗奈はそんなことをつぶやきながら走っていくのであった。
と、その時。
「あー!周お姉ちゃんはっけ~~ん!!」
そんな声が聞こえてきた。
周にも聞こえたのかぴたっと立ち止まるとキョロキョロと辺りを探す。
そして。
「あー!愛奈ちゃんだ~!!
あ、恋二くんたちもいる~!」
最前列、試合を見るにはもっとも向いている一番前の席で手を振る愛奈、恋二を始めとする子供達がいた。
「おはよー!みんな!
今日は送ってもらったの?」
「違いますよ、皆で自転車ですよ」
周の言葉に修也がメガネの位置を直しながら答える。
もしやこの少年、メガネが合っていないのではないだろうか。
「へー!すごいじゃん!
試合前にバテてないかな?」
「大丈夫。
みんな
まだまだ元気」
「・・・あ、席取ってあるよ。
座って、お姉ちゃん達」
子供達と会話を繰り広げていた周は真美に促されて席に座る。
席を取っておいてくれた子供達に感謝だろう。
「ふい~、まさか座れるとは思ってなかった」
「ですね~、最悪通路に座って休むしかないと思ってたから」
麗奈と俊介が安堵の声を上げる。
さすがにこの人ごみを見れば誰しもそう思うだろう。
ふと、周を見るとバックの中からどうやって入っていたんだ?と思うような3リットルほどのペットボトルを取り出し、中身をぐびぐびと飲んでいた。
「ぷはー、生き返る~♪」
来るだけで死に掛けていたのだろうか。
とはいえ、6月ともなるとさすがに暑い日もあるだろう。
今日は快晴ともいえるよい天気、気温もそこそこ高い。
一応空調は利いているだろうが、体育館内のそのうち暑くなってくるかもしれない。
試合の熱気も含めて。
「ところで試合ってトーナメント形式だよね?」
「・・・・・・だろうね。
何チーム登録してるのか知らないけど、さすがに総当りなんてやってたら何年かかるか」
周の言葉に俊介が答える。
何年、というのは大げさだが時間がかかることは確かだろう。
実際この大会はトーナメント形式だ。
「トーナメント表、いつ発表されるのかな?」
「ここに着いてからチーム登録してたから、少し時間かかるかもね。
一個完成すればあとはそれをコピーするだろうし」
「その間市長の長い話で間を持たせようってワケかい」
と、周と俊介の言葉に麗奈がなにやら紙を見ながら言う。
「??なに見てるの?麗奈ちゃん」
「プログラムだってさ。
登録した時に貰った」
そう言って麗奈は紙を周に渡す。
「あ、僕達も貰いましたね」
修也がそう言ってやはり同じ紙を取り出す。
周たちは麗奈の紙、子供達は修也の紙をそれぞれ覗き込んだ。
「・・・・・・市長並びに大会実行委員あいさつ30分・・・・・・ってそんなにもつのかな?」
俊介が呆れたように言う。
「え~!長いのは校長先生の話だけでいいよ~」
「そうだな~」
「そうだよね」
子供達も抗議の声を上げる。
「まぁ・・・・・・寝てようか」
「「「えー!」」」
周がボソッと声を漏らし、皆で同じリアクションを取った。
今日もチームワークがいいらしい。
「お、あねさんだ!」
「ん?おお、姉さんだ!」
「んん?」
突然聞こえた聞き覚えのある声に振り向く麗奈。
そこにいたのは。
「あねさん!おはようございます!」
「「「「「うす!おはようございます!!」」」」」
「お、お前達!?」
見覚えのある不良の大群だった。
日頃麗奈が面倒を見ている、また周たちとも面識のあるあの不良たちだ。
実際大群と言う言葉がぴったりだろう。
「お前達・・・なんでここに?」
「水臭いじゃないスか、姉さん!」
「俺達に言ってくれれば、いつでも応援に駆けつけますのに!!」
不良たちはそう熱く語る。
実際全員「気合入魂」やら「応援上等」やら書いてある鉢巻を締めているし、応援旗や垂れ幕と思わしき布を持っている不良もところどころにいる。
「俺達!今日は精一杯あねさんの応援します!!
野郎共!気合入れろ――!!」
「「「「「おお――――ぅ!!!!」」」」」
体育館中に響くのではないかというような号令を上げる不良たち。
実際周囲の客の視線を集めている。
それを見て周と麗奈がボソッと言った。
「うわー、邪魔だし迷惑」
「うん、邪魔で迷惑だよ、お前達」
ガガ――――ン!!!
という効果音が流れた気がした。
そして全員が示し合わせたようにガクッと倒れこんだ。
「でもまぁ」
さすがに悪いと思ったのか鼻の頭をかきながら麗奈が言った。
「悪い気はしないよ、ありがと。
迷惑掛けない程度にな」
照れながらそう言う。
その言葉に、まるで死を宣告されたかのような表情だった不良たちが一気に甦った。
「よっしゃー!野郎共!
死ぬまで応援しろや!!!」
「「「「「おおお―――――ぅ!!!」」」」」
「だからうるさくするなってのに・・・・・・」
頭を抱え込む麗奈。
中途半端な慰めはやめたほうが良かっただろう。
「ママー、あれなーに?」
「しっ、見ちゃいけません」
そして、プログラムの先頭にある開会の言葉、その時刻になるとなにやらマイクが入った音がした。
ブッ・・・・・・ザザッ・・・・・・
き―――ィイィ―――ン
ものすごく耳障りな音が響く。
なにやら調整している模様。
そして。
「ただいまより、市民バスケットボール大会を執り行います」
と放送が入った。
その瞬間、会場からは拍手が上がる。
そしてプログラムは進んでいった。
「・・・えー、またですね、本日はまことにお日柄もよろしく、絶好のスポーツ日和となりました。
思えばあれは私が小学校3年の頃、初めて、このバスケットというスポーツに出会ったわけであります・・・」
マイクを持った市長が体育館のコートの端に立って話し始めて早15分ほど、なにやら訳の分からない話はまだ続いている。
ループしているわけではなく、またメモを読んでいるわけでもない辺りは感心できるところだが、そろそろ観客がざわつき始めた。
「・・・えー、で、あるからいたしまして、またこのように・・・」
だんだん何の話かも分からなくなってきた頃、秘書がこそこそと市長に近づいたのが見えた。
そしてなにやら話すと市長がうなずき、話を変えた。
「えー、それでは私の話はこの辺で終わりにしたいと思います。
えー、それではここでトーナメント表の方が出来上がったようですので、えー、こちらでお配りしたいと思います。
チームの代表者の方はこちらまで来てくださいませ」
市長がそういい終わるか終らないうちに観客の一部が立ち上がり、ゾロゾロと移動し始めた。
「えー、それでは続きまして、大会実行委員あいさつに移らさせていただきます」
市長がなにやら続けるが聞いている人はほとんどいないだろう。
「トーナメント表できたって」
「取りに行こう~?」
周と子供達がはしゃぎながら席を立とうとするが、それを麗奈が止めた。
「待った、お前達じゃ迷子になるだろ?」
「えー、ならないモン」
「ならないモン」
周と愛奈が同じように言う。
しかし麗奈は2人を席に座らせると俊介に言った。
「しゅん、取ってきてくれるかい?」
「ああ、はい」
「ぶーぶー、何で私はダメなの~?」
席を立ち上がる俊介と文句を言う周。
俊介はそんな周に笑顔を向けると通路に向かう。
と。
「待ちな、俺達が取ってきてやる。
お前は安心して席に座ってな」
どこに控えていたのか不良数名が俊介を引きとめた。
「え?あ、でも・・・なんか迷惑・・・」
「バカヤロウ、迷惑なもんか。
お前はあねさんの仲間、俺達は喜んで手足になってやらぁ」
なにやら勘違いしている様子。
「えっと、そうじゃなくて他の人の迷惑になったり・・・しないかなぁなんて・・・」
あはは、と言う俊介。
そういわれた不良たちの空気がなにやら変わる。
「なにおう?
俺達が迷惑掛けると思ってんのか?あ?
バカにするなよ!人舐めんのもタイガイにしとけやコラ!!」
突然怒鳴り散らす不良の一人。
と、そこへ割って入る麗奈。
割って入ったのはその言葉だけだが。
「お前達は下がってな!」
「はい!あねさん!
下がるぞ!おめぇら!」
「「「おう!!」」」
ザザッと人ごみにまぎれる不良たち。
まさに鶴の一声。
「すまない、しゅん。
行ってきてくれるか?」
「・・・・・・了解です」
すたすたとトーナメント表を取りに行く俊介だった。
大会運営委員らしい人からトーナメント表を数枚受け取った俊介は、それを見ていてふとあることに気づいた。
「・・・・・・チーム名しか書いてない・・・。
麗奈さん、なんてチームで登録したんだろう?」
やれやれ、自分のチームが分からないとは。
ブツブツとつぶやきながら通路から席に戻ろうとする俊介は。
「・・・・・・ん?」
スッとすれ違った一人を振り返った。
「・・・大きいなぁ、あの人。
身長いくつあるんだろ?」
すれ違った男は人ごみにまぎれても大体頭一つ目立つ。
白い帽子がさらに目立つ。
あの人も大会に出るのかな?と思いながら俊介はその場を後にした。
当初体育館の動員可能人数は1000人って書いてたんですが、むしろ1000人って少なくない?と増やしました。
まだ少ないでしょうか?いや、これくらい?




