第二十話
帰宅した2人はやはり家の前で別れる。
「それじゃ、またね」
「うん、また」
そう言って俊介と別れた周は自宅に帰る。
「ただいま~」
そうは言うが大体この時間は返事がない。
母親は買い物かパートに出ているのだ。
たまにいるときもあるが。
周は部屋に戻ると制服とワイシャツを脱いで再びシャツとハーフパンツを身につける。
もちろん朝に着たのは既に洗濯されているので別のやつだが。
制服はちゃんとしわにならないようにハンガーにかけ、ワイシャツは洗濯機の中へ。
朝の洗濯物は既に母親が洗い終えて、今頃はどこかに干しているだろう。
それから忘れてはいけないのがお弁当箱。
出して洗っておくのを忘れると、翌朝のお弁当は無しになってしまうので周はしっかりと洗っておく。
そして朝同様に準備を整えると家を出る。
そしてやはり朝同様に俊介と再会して公園を目指して競争が開始される。
のだが。
夕方の練習では朝のようにダッシュをしたりはしない、どちらかというとランニングといった感じだ。
なぜなら朝は以前俊介が使っていた近くの公園での練習だが、夕方は子供達と一緒に練習するために周が使っていた少し遠くの公園まで行くからだ。
その距離をダッシュで行くとさすがの周も体力をかなり使ってしまって練習に響くだろうし、俊介にいたってはノックダウンだろう。
なので身体をほぐす意味も含めてランニングで行くことになっているのだ。
これは周が一人で練習していた頃から変わらない。
そして公園までは走って20分ほど。
着いたら麗奈や子供達と合流、そして練習となる。
開始はやはりあいさつから。
「それじゃ、よろしくお願いしま~す!」
「「「「「「「よろしくお願いしま~す!」」」」」」」
子供達も加わったことでより大きな声でのあいさつとなる。
練習内容はやはりシュート練習、ドリブル練習、パスの練習などの基礎的なことや、最近は6月の市内大会に向けて試合形式の練習が多い。
5分や10分で時間を区切ったり、ファールも取ってみたり、本格的にやっている。
終わりの時間はこれまた気分次第。
暗くなってきたら終わりにする日もあれば、ボールが見えなくなるくらいまで練習を続けることもある。
しかし「遅くなったから今日は皆で何か食べようか」と言うようなことはしていない。
遅くても夜の7時までには練習を終わらせて解散するようにしている。
そうして練習の終了もやはり挨拶で締めくくる。
「ありがとうございました~!」
「「「「「「「ありがとうございました~!」」」」」」」
そしてやはり軽くおしゃべりをしたりしながら片付け、解散となるのだ。
あまりに遅くなったりした場合、以前は周が子供達を送って行ったのだが、今では麗奈がその役を務めている。
すっかり子供たちとも打ち解けたようだ。
その麗奈自身も例の不良たちの迎えがあるので心配はない。
そして皆と別れると周と俊介は来た時同様ランニングで帰っていく。
そしてやはり家の前で別れるのだ。
「じゃ、しゅんくん、また明日ね~」
「うん、また明日ね、周ちゃん」
「ただいま~」
「おかえりなさい、周。
ご飯できてるわよ」
そうして帰宅した周を、母親はすでに夕食の用意をして待っている。
時間によっては用意の途中だったりもするが、そういう時は周はちゃんと手伝っている。
そうして夕食も済ませると周は翌日の軽食用のおにぎりを作り、冷蔵庫にしまってから部屋に戻る。
日々繰り返している練習とはいえさすがに疲れが溜まる。
それでなおかつ宿題があるときはしっかりと「時間がかかりそうなやつだけやる」ことにしている。
時間がかからないのは翌日俊介に写させてもらう、ということで。
今朝の宿題もそういう時間がかからないものだったのでやらなかったのだ。
もっとも宿題の存在そのものを忘れていてはどうしようもないが。
宿題を何とかこなすと翌日の時間割を確認し、必要なものをそろえておく。
翌日に着るワイシャツや運動用シャツ、ハーフパンツは今のうちに用意しておく。
そこまで終わらせると例え10時や11時だったとしても周を睡魔が襲う。
そうなると周はとっととお風呂に入って寝ることにしているのだ。
果たして今時10時11時に素直に寝る高校生がどれほどいるだろうか。
ともかく周は眠くなったら寝る、それはおなかが減ったら食べると同様、周にとってはごく自然なことだった。
着替えを持って脱衣所へ行き、まずは風呂に入る前に歯を磨く。
そしておそらく汗をたっぷりと吸ったであろうシャツやハーフパンツを脱ぎ捨ててやはり洗濯機へ。
タオルの用意も済ませると浴室に入る。
そして朝こそくしで整えたり、シャワーでさっと流すだけに済ませている髪を丁寧に洗うのだ。
過去にあれこれ試した中から選んだシャンプー、リンスを3本ほど。
洗っては流し洗っては流し。
腰まである長さなので時間もシャンプーの量も多目。
だがここだけはしっかりと丁寧に手入れをしていた。
そもそも水洗い、くしでとくだけ、なんてぞんざいな扱いでこの長い髪が痛まないわけがないのだ。
例え好奇の目で見られることがあろうとも自分にとっては自慢の白髪、そのまま放って置くようなマネはしない。
バスケをしている時に感じる風が周は好きだった。
その風を感じられるのはこの長い髪も理由にあるからだと思っている。
だからこそより丁寧に扱うのだ。
そうして長い時間をかけてきれいにしてから身体を洗い、湯船に使ってゆっくりと身体を伸ばす。
足や手はそうした状態で揉み解し、疲れが残らないようにしっかりマッサージを施す。
そしてついでに・・・・・・そっと胸に手を当てる。
「・・・・・・もう少しあればな・・・・・・」
と時々思う。
そこは年頃の女の子、そう思うのも当然だ。
しかし同時にあったらあったで邪魔じゃないかとも思っている。
肩がこるとか、重いとか聞くし。
そうなると自慢のスピードも生かせなくなるかも、と思う。
しかし、さらに思う。
麗奈は自分より少し背が高いし胸もあるが、自分と競るほどのスピードで移動するではないか。
なら胸なんてスピードには関係ないのではないか・・・・・・?
「あ~、考えるのヤメっ」
バシャッと顔を一旦湯船につける。
自分にはロングシュートもゴール下のリバウンド争いも無理だけど、スピードのあるドリブルで敵を翻弄できる。
それと一緒。
ないものは仕方がない、他のもので補う。
「・・・・・・補って・・・何をどうするんだろ?」
なんて事を考えつつ十分に身体が温まったら湯船から上がる。
髪はその時に軽く水気を払っておかないとタオルではふき取りきれない。
風呂上りのタオルも髪だけは丁寧にふき取る。
しかし髪は時間がかかる、でも後回しにするとパジャマが濡れる。
なのでしかたなくバスタオルを身体に巻き、別のタオルで髪をふき取る。
ある程度水分が取れたら先に着替えてからドライヤーで髪を乾かす。
あまり温度が高いと髪に悪いし、温度が低いと寒くなる。
なので温度を細かく調整できるタイプのドライヤーをわざわざ少ないお小遣いを溜めて買った。
2年近く愛用しているものだ。
壊れたらどうしようとも思うが、まだまだ現役でいけそうである。
髪を乾かし終える頃にはすでに睡魔の虜だ。
寝る前に最後に水を一杯だけ飲み。
「ふあ~~、おやすみ~、おか~さん」
「ふふ、おやすみなさい、周」
あくび交じりに母親にそういうと周は自分の部屋に戻って、目覚ましをセットするとすぐに横になる。
そして。
「ふあ~~・・・・・・。
おやすみ~、私~」
やはりおかしな一言を残し、数分後には「す~・・・」と寝息が聞こえる。
こうして斉藤周の一日が終わるのだ。




