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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第一期
17/102

第十六話

日曜日。

まだ昼前の青い空の下の公園。

四方を網に囲われたそこは俊介愛用のバスケコートだ。



ヒュッ



俊介の手から放たれたボールが大きく弧を描き、ゴールへと吸い込まれる。


パサッ



「うん、速くなってきたんじゃない?」

「そだね、今までに比べれば速くなってるよ。

 今までのスピードじゃ恋二君にも止められちゃってたもんね」


俊介のシュートモーションを見て麗奈と周がなにやら褒めている。

見ていたのは俊介のモーションのスピードだ。

周が言うとおり、今までのシュートモーションのスピードでは小学生にすら止められていた。

だから今は俊介のシュートモーションのスピードを上げ、弱点の克服へと勤めているのだ。

モーションのスピードが上がっても俊介のシュート成功率はそれほど下がらなかった。

長年の練習でフォームが身体に染み付いているのだろう。

ゴールに背を向けた状態でボールを受け取りターン、そして構えてジャンプ、シュート。

それだけの工程を少しでも速くと取り組んでいるにもかかわらず、上体が流されたりボールを持ちそこなったりすることはなかった。


もちろん最初の方はかなりミスが多かったが。

もっと速くしろだ、ボールを取りそこなうなだ、目標は見失うなだ、シュートは外すなだ。

周と麗奈のかなり厳しい要求にも俊介は取り組んできた。

文句の一つも言わずに、かというとそうでもないが。

しかし惚れた幼馴染と不良をまとめる姉御が相手ではグチグチ文句を言うだけというわけにも行かない。

そうしてときどき見本を見せてもらいつつ取り組んで既に1時間ほど、だいぶ速さが身についてきたようである。



「よぉし、じゃあその速さを忘れるんじゃないよ」

「は、はい!」

「じゃ、しゅんくんはそろそろ休憩にしようか。

 麗奈ちゃん、1on1やろ~」

「OK、負けないからね~」

「こっちこそ」


だいぶ速くなってきた俊介のモーションスピードに満足したのか、二人は俊介に休憩を与え、俊介の代わりにコートに入っていった。



麗奈が周たちと共にバスケをやるようになって1週間近く。

二人はかなり頻繁に1on1をやっている。

初めのうちは周の勝率がかなり高かったものの、勘を取り戻してきたのか麗奈の勝率も次第に上がってきた。

まだ周の勝率が麗奈に追いつかれることはないものの、初めは9:1くらいだった戦績が6:4くらいになったのだからたいしたものであると言えよう。


周は体力とスピードを武器に戦う。

鋭いドライブと抜かれてから追いつける反射神経は敵にとって脅威そのものだ。

その上それだけの運動量をこなしながらも長時間持つ体力が、次第に敵の戦意を喪失させていくことだろう。


対して麗奈はテクニックで戦う。

フェイクを2~3入れつつ、相手の対応を見てから攻めを変えられる自在のドリブル。

それに一定のパターンなどなく、ほぼ全てをアドリブでこなしているのだ。

おそらくその視線や手首の向きですら、読みの材料にはならないだろう。

変幻自在、という言葉がふさわしいかもしれない。

ボールの扱いに関しては俊介はおろか周すら凌ぐ。



体力とスピードの周、テクニックとフェイクの麗奈。

そんな相反する二人の対戦は見ていてもすごさが伝わってくる。

フェイクを入れる、引っかかる、抜く、抜かれても追いつく、フェイクを入れる、引っかかる、かわす、かわされても追いつく。

まぁ、毎回引っかかるところが素直な周らしいとも言える。

麗奈はそんな周を可愛いなと思いつつも、追いついてくる周のスピードに感心しながら対戦をしているのかもしれない。


また攻守が入れ替わっても面白い。

攻める周、その攻めを「読む」麗奈。

右から来るか、左から来るか、そのままシュートか、下がってシュートか。

周のスピードを考えると、抜かれたらそのまま点につながるだろう。

また、麗奈ほどではないとはいえ周もボールの扱いは上手いため、読みが当たれば止められると言うわけでもない。

こういうと周が完全に有利とも取れるかもしれないが、あっさり止められることも多々あるので一概にそうというわけでもないらしい。



そんな二人を、俊介は休憩しながら場違いな空気で見ていた。

レベルが違いすぎる、と。


見ていて学ぶことは多いが、一朝一夕で身につくものなどない。

ベンチに頭を預け、青空を見上げる。

そして、ふぅとため息をつきながら思う。


自分は邪魔してるだけなんじゃないかなと。


心底そう思うのならとっととやめればいい。

自分が彼女と共にバスケをしていくなんて土台無理な話だったのかもしれない。



しかし、それでも。

たとえあの時だけでも、彼女は自分を認めてくれた。


「ロングシュートを打たせたらきっと日本一です」


その一言が、胸から離れない。


もっと褒めて欲しいとか思ってるわけじゃない。

お世辞かもしれない。

でもその一言だけで、この先ずっとバスケを続けられるような気すらする。


ロングシューターなんていらないかもしれない。

いれば少しはマシという程度かもしれない。


それでも、彼女が自分を不要だと告げる時までは、一緒にバスケをしていきたいとも思う。



ズガンッ


「ぼげっ!?」


などと思い耽っていた俊介のアゴをバスケットボールが直撃する。

勢いでベンチからずり落ちかけるが、そこは何とか手で支えた。


「だ、大丈夫~?しゅんくん?

 避けて~って言ったのに」


タッタッタッと周が駆け寄ってくる。


「・・・・・・ご、ごめん、聞こえてなかった。

 ちょっと考え事してたもんで・・・・・・」


俊介はアゴをさすりながら答えた。

というかなにがあったらあんなスピードでボールが飛んでくるのだろうか。


「ごめんね~、ホントに・・・」

「あ、うん、大丈夫だって」


本当に済まなそうに謝る周に心配をかけないようにと笑顔で答える俊介。

実際クリーンヒットはしていなかったようだ。

そんな二人の元に麗奈が近寄ってきた。


「周~、そろそろお昼にするか~?」

「お昼?

 そうだね、ちょっと早いけど一旦お昼にしよっか。

 ね、しゅんくん」

「あ、うん、そうだね」


麗奈の提案に二人とも乗る。

お昼は麗奈が不良たちとの集合場所に良く使っている喫茶店で食べるのが休日の日課になっている。


「じゃ、荷物まとめて行こうか」

「うんっ」


3人はそそくさと荷物をまとめ始める。



と、俊介がかばんを開けた拍子に、何か紙が落ちてきた。


「あっと・・・・・・」

「ん?しゅんくん何か落ちたよ。

 って何これ?」


拾った周がその紙切れに興味を持ったらしい。


「・・・・・・市内バスケット大会?」

「あ、うん。

 今朝ポストに入ってたんだ。

 周ちゃんの家にも行ってるんじゃないかな?」


俊介が他の荷物をまとめながらそういう。


「1チーム3人、控え選手なし。

 細かいルールは当日説明。

 参加資格特になし、誰でもご自由に参加ください。

 ・・・・・・ん~と、開催日は来月6月の第二日曜日か・・・・・・」


周がチラシの内容を読み上げる。

実際にはもっと書いてあるが、そこは市の交流を深めるためとか市長の難しい話とかが書いてあったりする。


「1チーム3人ねぇ。

 てことは、私たちも参加できるってわけか・・・・・・」


後ろから覗き込んだ麗奈がそういうと、一瞬周の目がキュピーンと光った気がする。


「ね、これって応募する必要あるのかな?」

「え、いいんじゃない?

 特に書いてないし」

「じゃあさ・・・・・・」


周はにこっと笑う。

大方言いたいことを予想できた2人も同じように笑う。


「3人で出よっか。

 もしかしたら強い人たちと戦えるかもしれないしっ!」

「あたしも賛成っ」

「そうだね、自分の実力とか分かるかもしれないし」


どうやら反対意見はないようだ。


「決定~~!

 じゃあ、午後から3人でパスワークの練習しようよ!

 あ、そうだ。

 いつもの子たちを相手に実践ぽく練習してもいいし~」


一人で盛り上がる周。

しかし2人とも止めないのはやはり試合が楽しみだからだろうか。


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