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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第一期
16/102

第十五話

「はぁ・・・はぁ・・・」


試合が開始してから5分以上経っていた。

得点は既に周が6、そして麗奈は0のままだった。

そして既に大きく肩で息をしながらドリブルをしている麗奈と、全く乱れていないわけではないが軽く息をしている程度の周。

運動量では周の方が上回っているはずだった。

なぜなら周は麗奈が仕掛けた数々のフェイクに「引っかかってから反応をしている」からだ。

敵の策を先読みして行動するのと策に引っかかってからの行動では、同じ「相手を止める」にしても後者の方が体力とスピードを要するのは明白だろう。

しかし周は少なくとも普段の子供たちとの練習により、体力だけは鍛え上げられている。

その鍛え上げたスタミナを全力で走ることにつぎ込むことで相手との腕の差を縮めているのだ。

麗奈はファールを誘ってフリースローで得点する方法も考えたが、周はファールになりそうなプレーは絶対にしてこなかった。

周が接触するのはボールだけ、肩が触れるようなことすらできなかった。



そしてまた、麗奈が周にフェイクを仕掛ける。


向かって周の右から抜くべく走りこむ麗奈。

当然止めにいく周。

一番最初のフェイク同様右手で扱っていたボールを背中を通して左手に切り替え、周の左に走りこもうとする麗奈。

一度見たフェイクである為、周は先程よりも速く麗奈の行き先に移動する。

しかし実際にはボールは左手に移動しては居なかった。

背中を通して左手に切り替えたように見せかけ、ボールは右手でドリブルしたままだったのだ。

右から抜くと見せかけ左から、さらにそう見せかけて右から麗奈は周を抜き去る。

そう、確かに抜き去るのだが、周はそこから向きを変えると麗奈以上のスピードで駆け寄り、一気に麗奈との距離を0にする。

そして抜き去った後でシュートモーションに移行しようとしている麗奈のボールをカットする。

そんなことが既に3回繰り返され、今回で4回目になろうとしていた。


しかしいつまでも同じことを繰り返していたのでは麗奈のプライドにかかわる。

シュートモーションに移ると見せかけて左足を軸にくるっと身体を回して周の追撃をかわし、さらにそこからもう一歩だけ動いてシュートモーションへ。

ぎりぎりトラベリングにはならない。

そして周のスピードを考えるとおそらくジャンプをしている間もない。

麗奈は狙いを定めると即座にシュートを放った。


しかしまだ麗奈の読みは甘かった。

シュートとして放たれた直後のボールに周の手が触れ、軌道が変わる。

1度に2回仕掛けたフェイクに両方とも引っかかったにもかかわらず、周は麗奈の前に何度も立ちはだかるのだった。

そして周は走り合いなら自分に利があると見切ったらしく、ボールを遠くに飛ばすようになっていった。

走る距離が長くなればその間に麗奈に対してより差をつけられるからだ。

そうすれば自分がブロックされる心配も無い。

そうして今回も麗奈からボールを奪った周はゴールを決めるのだった。



得点は8-0。

周が後1ゴール決めればそれで終わる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


既に手を膝に当てて大きく呼吸を乱す麗奈。

対してようやく肩で息をし始めた周。


「ふぅ~・・・・・・さ、麗奈ちゃん。

 あと1ゴールで決まりだよ」


周はそう告げると麗奈に向かってボールを転がし、そそくさと自分のコートに戻る。

麗奈は何とか呼吸を落ち着けつつ、ボールを拾いセンターサークルへと戻る。

多少よろよろと、少しでも呼吸を落ち着けようとしているようだ。



「あ、姉さん大丈夫か~?」

「このままじゃ負けちまうぞ・・・・・・」

「おいお前~、あの白髪女はどうするつもりなんだよ~。

 ま、まさかホントにこのままトドメさす気か?」

「さ、さぁ・・・・・・。

 申し訳ないけど僕にも分かりません・・・・・・」


不良たちから次第に上がってきた不安の声に対処しようが無いけれども対処する俊介。

ここまで来ても俊介には周の意図がつかめない。

本気で潰すつもりなのか、最後にわずかに手を抜くのか、それとも負かした後で何か策があるのか。

きっと何とかなる、なんて考えはさすがにこの状況であってはならないだろうが、普段の周を思うとありそうで怖い。


(周ちゃん・・・・・・ホントにどうする気なんだろう・・・)


そんな俊介たちの心配をよそに、麗奈がセンターサークルに入り、周にパスを出す。

周はたとえ最後の一本であろうとも麗奈に声はかけず、そのままパスを返した。

麗奈はパスを受け取ると、ダムダムとドリブルをしながら数歩近寄り、突然立ち止まるとボールを手に取り。


「・・・え?」


周が不思議そうに声を出すのを無視して、周ゴールに向かってボールを投げつけた


「ええ!?」

「なにぃ!!」


周だけでなく周りからも驚愕の声が上がる。

ボールはゴールに入るわけもなく、ガスッと弾かれる。

そしてそのリバウンドをいち早く駆け込んだ麗奈が取り、即座にシュートモーションに移る。

しかしそんな奇襲も周のスピードには敵わない。

麗奈がジャンプを仕掛けた時にはすでに麗奈の右前まで移動しており、すぐにジャンプをして麗奈のシュートコースをふさぐ。


しかし、それが今回のフェイクだった。

ジャンプをしたように見えた麗奈の右足のつま先がまだ地面についている。

つまり、ジャンプはしていない。

ジャンプをして着地してしまうとトラベリングとなるが、右足を地面につけたまま浮いた左足を後ろに下げて着地してもトラベリングにはならない。

そうしてシュートモーションのまま一歩下がった麗奈は今度は完全にジャンプをしてシュートを放った。


「やった!今度こそ!」


誰かから声が上がる。

今度こそ周を抜いた。

そして今度こそ麗奈のシュートが決まると誰もが思った。


しかし、やはり周のスピードが勝った。

着地した瞬間から数歩でトップスピード付近まで加速した周は麗奈が放ったシュートに飛びついたのだ。


「・・・・・・!」


そしてその指先数cmがボールに触れた。


「あああああ!!」


不良たちから悲鳴に近い声が上がる。

またダメだったか、と。

しかし今度のボールは今までと違い、遠くまで飛んでいく力が無い。

フラフラ~と数m下がるだけだ。

麗奈は着地するとすぐに下がり、ジャンプしてボールをキャッチする。


「まだ・・・終わってない!」


そう、まだ終わってはいないのだ。

「まだ終わってはいない」。

着地した周が一瞬で接近してきて、「これから終わる」のだ。


「!!」


接近してくる周に恐怖に近いものを感じたのか、麗奈はドリブルをしながら数歩下がる。

そしてそれが隙となる。

その下がっていくボールに対し、周は一気に飛び込んできた。



これを取られたら終わる。


そう思ったとき、麗奈の中でうっすらとあった願望がしっかりとした希望となって形作られた。


「あ・・・あたしは・・・・・・」


周がボールに手を伸ばしてきた。

ボールまで10cmほど。


「あたしは・・・・・・あんたと・・・・・・」


周の手の動きは速い。

既にボールまで5cm。


「周と・・・!

 これからもバスケをしたいよ!!」


ボールまで2cm。



そしてそこで、周の視界からボールが消えた。



「・・・・・・え・・・?」


周の手が空を切る。

そこにあるはずのボールが消えた。

とっさに左右どちらかに飛ばしたのかと思ったがどこにもない。


一瞬の混乱。


そしてその混乱に乗じて麗奈は周ゴールにダッシュをする。

しかしボールが無い、と思いきや。


ダン!


どこからかボールが「降ってきた」。

そしてそのボールを麗奈の右手がしっかりと受け止め、そのまま周ゴールにドリブルしていくのだった。


そこから周の思考は早かった。


何が起きたのかは分からない、何をされたのか分からない。

とにかく自分は抜かれたのだ。

そうとなれば追いかけて止めるのみ。

混乱に乗じてすでに3m近く離されたがすぐに追いつく。

それだけを心に決めると周は一気に麗奈に駆け寄る。


ただでさえ麗奈より足の速い周。

それに加えて麗奈はドリブルをしている。

ならば追いつかないはずが無いのだ。

周は数秒で麗奈に追いつく。

既に3Pエリア内だが、レイアップには遠い。

周はすっと左手を伸ばすとトップスピードのまま、麗奈のボールに向かっていく。


そして。


麗奈は突然ストップしたのだった。


「んな!?」


レイアップだけに絞っていたわけではないが、ジャンプシュートを打つためには立ち止まらなければならない。

だからスピードを落とす所を見ていたのだが、この急停止は予想外だった。

自分のトップスピードを殺しきれず、周はそこから1m以上滑った。

そして振り向いた時には麗奈は既にシュートを放っていた。


そしてその光景は。


「・・・あっ・・・」



去年、中学3年の時、最後の大会の準決勝。

18点差がついていた周のチームと麗奈のチームの試合。

それを最後に16点差にしたシュート。

そのシュートを放ったのは麗奈で、その時使ったフェイクもこの急停止ではなかったか。

そしてスピードを殺しきれなかった周が見た光景も今と重なる。

そしてきっとその結果も。



麗奈の放ったシュートはリングに当たることなく、綺麗に決まった。


「よっしゃ――!!」

「やったぜ、姉さん!!」


不良たちから一気に歓声が上がる。




「あ~あ、またやられちゃった」


最後の最後までほとんど完封していたにもかかわらず、周はぷ~っと頬を膨らませながら麗奈に近寄る。

不良たちに胴上げをされていた麗奈は恥ずかしそうに不良たちをかき分け、周の前に現れた。

不良たちはというといくらか睨みの聞いた目で周を見ている。

しかし例のごとく周は見えていないのか無視しているのか、てんで無反応だ。

麗奈はそんな周を見てふっと笑うと手を差し出す。


「楽しかったよ、周。

 ありがとう」

「こちらこそ」


周も手を差し出し、二人はしっかりと握手をした。

それを見ると不良達の視線も和らぎ、不安げに見守っていた俊介もほっと一息つく。


「じゃ、聞くよ麗奈ちゃん。

 これからどうしますか?」


周は答えが分かっているであろうがあえて麗奈に聞いた。

麗奈は当然と言った感じで笑顔を浮かべ、答えた。


「あんたたちと一緒にバスケをやりたい」


その答えに周もにこっと笑顔を浮かべる。


「私も麗奈ちゃんともっともっとバスケをやりたいよ」


そして再び手を差し出す。


「改めてよろしくね、麗奈ちゃん」

「ああ、よろしく、周」


麗奈も手を差し出し、二人は再び握手をした。



こうして、新たな仲間が一人加わった。







「でもさ、最後に私を抜いたのってどうやったの?

 確かにボールを取ったと思ったんだけどな~」


首をかしげる周に、麗奈は自慢気に答える。


「知りたい?

 アレはね、右手でボールを取ってくいっと手首を曲げて相手の上にボールを通すのよ。

 だから正確にはドリブル途中のボールを右手でとって、相手の上を通した後再びドリブルに持っていくってわけ」

「・・・・・・は?ドリブルを止めてもう一回ドリブル?」

「そ、だから正確にはダブルドリブルでダメなんだけどねっ」

「ええ~~!?卑怯じゃん!そんなの!」

「だって~、審判は何も言わなかったし~」

「しゅんくん~~」


ゴゴゴゴと音が聞こえそうなプレッシャーにそそくさと逃げる俊介であった。


「いや~、そこは前向きにさ。

 どんな手を使ってでもあんたに勝って、絶対仲間になってやるって思ったわけよ」

「ならいいよ」

「いいの?」

「いいよ、私も麗奈ちゃんとバスケできることになって嬉しいし。

 じゃ、改めてよろしくね」

「ああ、こちらこそ」


両者は固く握手をした。



まぁ、めでたしってことで。

ようやく3人目です。

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