第十二話 瀬戸内麗奈
「姉さんのお知り合いとは知らず・・・・・・失礼しやした!!」
「あ、あー、いいよー。
こっちもなんかちょっと悪ふざけが過ぎたところあるし・・・・・・」
ぐぐっと頭を下げる赤リーゼントの男と、そして一緒に周たちを囲んでいた暴走族たち。
それに対して逆に恐縮してしまっている周。
「いやいや、こっちが悪いんだ。
謝るのは当然だよ」
そして軽くフォローを入れる麗奈。
あれからこの麗奈が暴走族たちや周に話を聞き、「お前たち、謝りなさい」という結論を出したのだった。
どうもこの麗奈という女は周に対して甘いというか優しいというか、そんな接し方をしている節がある。
「それにしても、アンタも根性あるっていうか肝が据わっているっていうか。
こいつらが居るのに店に入ってきて普通に注文するとはねぇ」
見上げたもんだとばかりに周の肩をぽんぽんと叩く麗奈。
「え、いや、なんていうか。
逆に負けないぞっ、みたいな変な気が起きちゃって・・・・・・」
てへへと笑う周。
そしてどんな天邪鬼っぷりだよ、と心の中で突っ込む俊介。
実際麗奈が来ていなかったらどうなっていたか。
とはいえ、実際周は根性があるようだ。
今も、麗奈がコーヒーを頼んだ時についでに追加で頼んだモンブランとフルーツパフェを食べている。
それはもうおいしそうにもぐもぐと。
そんな様子を麗奈は隣に座って笑顔で見ているのだった。
「ところでさ、今日は男連れなんだね」
と、周を挟んで反対側にいる俊介に話しかける。
「え?あ、うん。
こちらしゅんくんです」
「あ、ああ、どうも。
俊介と申します、どうぞよろしく・・・」
不意に話しかけられた俊介をフォローするべく周が一言挟み、続いて俊介が簡単に自己紹介をした。
「へー、俊介ってんだ、よろしくね。
何?アンタのコレ?」
麗奈は軽く挨拶をすると小指を立てながら周に聞いた。
ブッと吹き出す俊介と、その意味が分からないのかキョトンとする周。
やはり年頃の男女が一緒に居ると回りは皆そう見るのか。
「よく分からないけど幼馴染だよ」
そう言われるとそれはそれで何か寂しい俊介。
幼馴染を強調された気がするが、それはただの気のせいである。
「へぇ、幼馴染ってことはもう家族公認ってとこね」
「ぶはっ!」
「?」
と、やはり俊介だけが吹き出す。
不良っぽい身なりとはいえ、普通に色恋沙汰に興味があるのだろう、麗奈はそれからもちょこちょこと二人をからかっていた。
「で、その、麗奈・・・・・・さんは・・・・・・普段こんなメンバーを集めて何してるんですか?」
(え!?)
と、麗奈からのからかい攻撃が途切れたところを見計らって、今度は周から麗奈に質問が飛ぶ。
そしてその質問に驚いたのは俊介だ。
彼にしてみれば当然である。
こんな身なりのメンバーでやることなど、ド派手に走り回ったりケンカ三昧だったりと人に迷惑なことだったり血生臭いことに決まっていると思ったからだ。
が、麗奈の答えはそんな俊介にとっては意外だった。
「ん?まぁー、半ばボランティア、半ばバイトってとこね」
「ボランティア?バイト?」
俊介ならずとも意外である。
確かに俊介のイメージ通りあまりいい雰囲気ではないが、やっていることはボランティアやバイトだという。
もっともそれを聞いても俊介は、ボランティアとは自分たちのシマを守ることで、バイトとはカツアゲのことだろうなどと思っていたが。
「そそ。
こんな身なりの連中だからね、エネルギーが有り余ってて人様に迷惑かけるなんて事よくやってたのよ。
だから私が皆を集めて、そのエネルギーを一回仕事にぶつけさせてみたのさ。
そしたらコレが働くわ働くわ」
「はい、俺らがこうして好き勝手やりながらもバイトなんて出来るのは、みんなあねさんのおかげです!」
「だからあねさんって呼ぶなって」
大柄のアキラが遠くからそう礼をいい、麗奈が軽く答えた。
なるほど、まぁスジが通っている。
学校が嫌だ社会が嫌だと言って無駄な時間をすごしている連中でも、集めれば結構な人手になる。
後は本人が興味を持った仕事でもやらせてみれば、割と集中してやるものなのだ。
不良だからといって、好きなことに打ち込む情熱がそこらのまともな学生に劣ると言うわけではない。
むしろ好きなことが見つからなかったからこそ、だらだらと生活していたのかもしれない。
とはいえ、それを理想とするだけならまだしも実際に実行したのだからすごい。
それをやるには不良への人脈、と言ったらおかしいかもしれないが不良に話を聞かせられる人柄や、仕事先の伝手でもなければできない。
一体何者かと言う疑問もあるが、実際やってのけた以上、彼らに「あねさん」と呼ばれ慕われるのも当然だろう。
「へぇー、すごいなー・・・」
と周が声を漏らす。
「いやいや、私も一時期荒れてた時期があったからね。
その時の付き合いとかがちょっとあったってだけさ」
麗奈はコーヒーを飲みながらそう答える。
「・・・・・・いや、でも、だからってわざわざ好きだったバスケをやめてまでこんなことしてくれて・・・・・・」
と、近くに来ていたジュンが声を漏らす。
「・・・・・・え?」
「バカ、それはもういいって言ったろ」
麗奈はそういうとコーヒーをぐいっと飲み干し、二杯目を注文する。
(この人もバスケやってたのか・・・・・・それで周ちゃんの知り合いなのかな?)
と、俊介は思った。
もっとも当の周の反応は、知り合いと再開したという反応とは違って見えるが。
「いや、でも実際あねさんはすごいぜ!
中学最後の大会ではキャプテンやっててベスト4まで行ったとか」
再びアキラが大きな声でそう言った。
「だからもういいだろ?その話は。
それよりお前たちも何か食べておきなよ、これから仕事あるんだろう?」
麗奈はバスケの話題には触れたくないのか、話をそらしていく。
しかし俊介はなんとなく好奇心が刺激されていた。
「中学最後にベスト4のキャプテンか・・・・・・それなら名のあるプレーヤーなんじゃないですか?」
その言葉に、麗奈はぴくっと反応した。
「なんだよーあんたまで。
もういいだろ、それは昔のことさ。
それにきっと、斉藤の方がずっと有名さ」
そう言って周をピッと指差す。
そして、それに対して周はくすっと笑った。
「そんなこと無いよ、あなただって印象的よ。
水ノ瀬中キャプテンの瀬戸内麗奈さん?」
「・・・・・・え」
麗奈は一瞬驚きの目で周を見た。
が、新たに運ばれてきたコーヒーを一口飲むとふぅと一息ついた。
「・・・・・・なんだ、覚えてたのかい。
てっきり忘れられてると思ってたのに」
「ううん、忘れてたわけじゃないけど今思い出したの」
それって忘れてたって事じゃん、と俊介は心の中で突っ込んだ。
そしてご承知のことと思うが、周は今まで誰かもよく分からない相手と打ち解けた会話をしていたと言うことになる。
今でこそ思い出しているようだが。
「準決勝の試合、楽しかったよ、すごく」
「・・・・・・あたしもさ、負けちゃったけどね」
二人はそういいながらぐいっと手元の飲み物を飲む。
「あなたと比べたら、私たちの誰も勝てなかったよ。
勝てたのはチームワークのおかげ・・・・・・ってとこかな」
「よくいうよ。
16点差もつけてくれたくせに」
「終了直前までは18点差だったんだけどね」
しばし二人はその試合のことを思い出していた。
周が率いる柏木第三中VS麗奈が率いる水ノ瀬中
麗奈の個人技こそ優れていたものの、全体的に水ノ瀬中はチームワークがあまりよくなかった。
そこを突いていき、徐々に点差をつけていって最終的に周たちが勝てたのだ。
「ホント、あなたを止めるのは大変だったんだから」
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。
あたしたちだってあんたのドリブルには苦労したよ。
それに加えてあのパスワークだもの」
片や勝者、片や敗者。
にもかかわらず、驕りや恨みなど二人の間には全く無かった。
一度対決した相手とはもうすでに友達、とでも言わんばかりの空気だった。
「ねぇ・・・・・・。
麗奈・・・ちゃん、て呼んでいいかな?」
ふと、周がそう言った。
麗奈は苦笑いしながら答えた。
「ちゃん?
ふふ、慣れないね、そんな呼び方。
でもいいよ、それでも」
「ありがと、麗奈ちゃん。
私のことは周でいいよ」
「そう?
じゃ、遠慮なく周って呼ばせてもらうよ」
「うん。
じゃ、こう言っちゃ変かもしれないけど・・・・・・改めてよろしくね、麗奈ちゃん」
「ふふふ。
うん、よろしくね、周」
二人はそう言って笑い合うと握手をした。
「・・・・・・あの試合の最後にも、握手したよね」
「・・・・・・ああ、覚えてるよ」
麗奈はその時のことを思い出しながらぎゅっと手を握った。
「ねぇ・・・・・・麗奈ちゃん」
「ん?なに?」
「・・・・・・また、バスケやらない?
今度は私たちと一緒のチームで」




