第十一話
「ねぇ、周ちゃん。
やっぱり帰ろうか」
「え?どうして?」
周に連れられてやってきた喫茶店。
そこまではもう10mをきっているだろう。
そこまで来ておいて、俊介は突然そう言い出した。
当然のごとく周は反論する。
「ほら、お店の見た目はいいでしょ?」
「あ、うん、確かに外装はいいけどね・・・」
できてからどれくらい経っているのだろう。
そのお店は新装開店という感じではないものの、まったく切れていない電灯や、一見塗りたてにも見える壁からまだ新しそうな印象を受ける。
白い壁と茶色っぽい屋根、商店街風の景色の一角に建っている喫茶店は浮いているわけでもなく目立たないわけでもない。
見事に風景にマッチした建物と言えるだろう。
「それにほら、お客さんだっていっぱい来てるよ。
きっと人気のお店なんだよ」
「うん・・・・・・確かに人はいっぱいいそうだけどね・・・・・・」
店の前の通りにはたくさんのバイク。
常連の客か、毎日違う客が来ているのか、通り行く人々の通行を邪魔しそうなほどのたくさんのバイクが所狭しと並んでいた。
いかに人気の喫茶店かと言うのが十分窺い知れるだろう。
にもかかわらず、俊介はいかにも近寄りたくなさげだ。
「ねーねー、入ろうよー。
何がそんなに嫌なのー?」
「いや・・・・・・だってねぇ・・・・・・」
せっかくの周の誘いにもかかわらず、断りながらちらちらとバイクを見る俊介。
その喫茶店の前に並ぶバイクたちはどれもみな派手な色合いをしていた。
赤だの黄色だの青だの金だの銀だの。
改造車の類なのだろうか、外形も見慣れないものばかりだ。
側面などには意味の分からない漢字が書いてあったり。
ひょっこり座席の上に乗ったままになっているヘルメットはなにやら炎を模したような模様が描いてあったりする。
中には座席の後ろから上に棒が伸びているバイクもあり、その棒の上にはなにやら布が丸まってくっついている。
広げるとおそらく「のぼり」になると思われる。
何のためにのぼりがついているのかは不明だが。
そもそもなぜバイクだけがこんなに大量にあるのか?
ちなみに自転車は一台も見当たらない。
さて、どんな集団が乗っているバイクだが予測がつくだろうか。
ちなみに反応を見れば言わずもがな、俊介はずばり「暴走族が乗っている」と予測している。
今時暴走族もいないだろうが、完全に居なくなったかと言われるとそれは分からない。
ひょっとしたら一部隊くらいは残っているのではないか、と言われれば完全に否定することは出来ないだろう。
そしてもし暴走族が乗っていたとしたら、彼らは間違いなく俊介たちの目的地の喫茶店の中にいる。
とにかく俊介の危険レーダーはフルに反応していた。
「あ、周ちゃん、このお店は止めた方がいいんじゃないかなー?
ほら、もっと・・・・・・なんかさ。
行き慣れたお店とかがあるんならそっちの方が・・・・・・」
「えぇー、たまには気分転換もしようよ。
それにもしかしたらすっごくおいしいケーキとかパフェとかあるかもしれないしー♪」
俊介のさりげなくも直接的な提案をあっさり却下し、なおも一緒に入ろうと言い続ける周。
このまま周が折れるまで延々と攻防を繰り返していたいが、周の楽しそうな笑顔を前にして拒否を続けることは俊介にとってとてつもなく困難なことだった。
そしてやがて深いため息とともにうなずくしかなくなるのだった。
「・・・・・・分かったよ・・・・・・一緒に行きますとも・・・・・・」
「ホント?やったー!
もう、しゅんくんってばしぶといんだから」
俊介の承認を得てルンルンという言葉が似合いそうなステップで喫茶店へ向かう周。
そしてお店に入った瞬間に「やっぱりやめよっか」と言ってくれることを期待して周についていく俊介。
そして、周は喫茶店の扉を開く。
カランコロンカラーン
ドアについている小さな鐘が来店を知らせる。
と同時に店内に居座っていたほぼ全ての客の視線がこちらを向く。
ギロリ、と。
中に居た客たちは全員俊介の予想通りの方々だった。
髪を染めるのはもちろんのこと、リーゼントやらモヒカンやら様々な髪型が目に入る。
学ランは着つつも前は全開、中にワイシャツを着ているわけもなくよく分からない柄のシャツが見える。
赤かったり青かったり、文字が書いてあったり絵が描いてあったり。
中には顔や腕に傷がある者や、包帯や絆創膏をつけている者もいる。
そして当然のごとく喫煙、そしてその煙が店内中に充満していた。
ほら、入らなきゃ良かったのに。
さ、とっとと出よう、周ちゃん。
そんな俊介の思いがどう間違って天に届いたのか、周は辺りを一瞥すると空いているボックス席に向かってすたすたと歩き始めた。
周りは完全に無視しているのか視界に入っていないのか。
スルーなの!?というツッコミを入れる度胸も余裕も無い俊介はあわてて周についていく。
そして席に着くと周はメニューを手に取り、のん気に選び始めた。
「んー、やっぱりクリームソーダにするとして・・・・・・。
むむ、ケーキはチーズケーキとモンブランとイチゴショートしかない・・・・・・。
あ、でもパフェはチョコとフルーツとヨーグルトと・・・・・・」
そして場違いなものでも見るような目でおしぼりと水を持ってきた店員になにやら注文した。
実際に場違いなものを見ているのだろうが。
ちなみにちゃっかり俊介もケーキとジュースを頼んでいるのだが。
そして店員の服装や対応は普通の喫茶店と同じだった。
どうやらあらかじめ、周りに居るような感じの方々を相手にするべく建てられた店ではないらしい。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
注文の品が届くまでの間、二人の間に会話は無い。
周りも何故かすごく静かだ。
それに何か視線が痛い気がする。
そんな視線を意識して水を飲むことも出来ない俊介。
対して氷を口に入れて転がしている周。
一体なぜそんなにも落ち着いていられるのか。
それはおそらくこの状況に対して危機意識をまったく持っていないからだと推測できる。
やがて注文の品が届く。
周の前にはクリームソーダとイチゴタルトとチョコパフェが、俊介の前にはグレープジュースとイチゴショートが並んだ。
「いただっきまーす」
「い、いただきます・・・・・・」
2人がそれぞれの品に手をつけようとした時、ついに、周りの方から声がかかる。
「よォ、どういうつもりか知らねぇが、ずいぶん落ち着いてるじゃねぇか」
赤いリーゼントの男だった。
その言葉にビクッと跳ね上がる俊介と、すまし顔でパフェを一口放り込む周。
「・・・・・・」
「・・・・・・ん、おいし」
そして無言の俊介と相変わらずのん気な周に対し、周りの方々の視線が怪しくなる。
「無視たぁいい度胸だな、ん?」
そう言って赤いリーゼントが立ち上がるとその周りの何人かも立ち上がる。
そして立ち上がったメンバーは俊介たちの席の周りに立つ。
「何とか言ったらどうなんだ?」
そう言って汗だくの俊介とやはりすまし顔の周に圧力をかけてくる。
そして、周がスプーンでクリームソーダに浮いてるアイスを突っつきながら口を開いた。
「んー・・・・・・ほっといてくれると嬉しいんだけど・・・・・・あむっ」
そう言ってアイスをすくって一口食べる。
その様子は食べるついでにしゃべった、という印象を受けなくも無い。
「あぁ?なんつった?お前」
カチンと来たのか、赤いリーゼントとは別の男が周にすっと手を伸ばす。
そしてそれに対して反射的に立ち上がって手を伸ばし、止めてしまう俊介。
「んん?」
「・・・・・・あ・・・・・・」
止めてしまってからはっとする。
何やってんだろう、僕は。
「あ?なんだ?この手は、よぉ」
バッと手を振りほどく男。
当然ながら反感を買ったようだ。
しかし反応してしまった手前、下手に引くわけにも行かない。
「・・・・・・ぼ、僕たちに構わないでください・・・・・・」
とにかく最大限に勇気を出して、俊介はそういった。
「ん?何?俺たちになんか意見したか?」
胸倉を掴むべく手を伸ばす赤リーゼント。
カランコロンカラーン
そしてそんな時だった、ドアにくっついている鐘が新たな来客を知らせたのは。
「よぉ・・・どうしたんだい?」
それは女の声だった。
このリーゼント達と知り合いなのかは知らないが馴れ馴れしすぎではないか思う口調だが、その声の主を見た彼らの反応は周たちに対するそれとは大きく違った。
「あ、姉さん!!」
「あねさんいうな!
なんだい?揉め事かい?
店の中で揉め事はするなって言ってるだろ?」
男たちの口調から判断するに、女の地位は彼らよりも高いようだ。
彼女の命令口調から判断するともしかしたらリーダークラスかもしれない。
男たちの影で見えないがどうやら彼女はこちらに近づいているようだ。
「何でケンカ売られたんだい?
そこにいる奴らが何したのか言ってみな。
くだらない理由だったらタダじゃおかないよ」
声はどんどん近づいてくる。
そしてそのとき入り口辺りからも新たに声がした。
「おう!待たせたか?」
「・・・何?俺たちが一番最後?」
「あれ?なになに?揉めてんの?」
それぞれ怒鳴り声、ボソッとした声、そしてまたも女の声だったが、3人の声はなにやら聞き覚えがある気がする。
リーダーっぽい女はと言うと、男たちをかき分けて、
もとい男たちから避けていったのだが、そうして周たちの前に姿を現した。
「どれ、どこの誰と揉めて・・・・・・あ」
現れたのは真っ赤な髪に焼けた肌、左耳にピアスをつけた女。
「・・・・・・あ」
周は見覚えのある女の出現に思わず声を上げる。
「・・・あ」
「あー!」
「ん?ああ――!!」
そして入り口付近からも同様の声。
「さ、斉藤?」
「バスケの試合を止めた人っ!」
「「「白髪の女ー!!」」」
入り口付近にいる3人組は、かつて公園でバスケの試合をした3人組。
そして現れたリーダー格の女は、その試合を中断したやはりリーダー格の女、麗奈だった。
白髪もしくは白髪って読んでください。
白髪って読まれたら泣きます。
俺も周も。




