第十話
ダム、ダム、ダム、とゆっくりドリブルをしながら前進する俊介。
それを迎えるはメガネの少年、修也。
そしてその後ろに控える恋二。
俊介は二人を見据えるとドリブルの速度を少しばかり上げる。
冷静にボールに手を伸ばす修也。
その手はわずかに届かず、しかし飛び込んでいったことで体が壁になり、完全に俊介に抜き去られることは無かった。
そしてそのわずかな隙をついてボールを狙ってくる恋二。
それに対して俊介は修也の体を軸に恋二と反対位置になるように自分の体をくるっと半回転させ、恋二と距離をとる。
そしてその距離をつめられる前にシュートを構え、体をしなやかにふるって跳躍する。
トン
「・・・・・・あれ」
そう、跳躍したはずだった。
いや、正確には実際に跳躍はしているが、いつの間にやらその手にボールが無い。
ボールはシュートを構えて跳躍したまさにその瞬間に、指一本届いた恋二によって俊介の両手から弾かれていたのだ。
ボールを弾いた恋二と着地した俊介がボールを目指してダッシュをする。
身長、走る速さは俊介に分があるものの、恋二はスタートが速かった。
俊介よりわずかに先にボールに手が届く。
そのままボールを抱え込むことはせずに、くるりと振り返って修也にパスを出す。
「いけ!修也!」
「うん!」
修也はボールを受け取るとドリブルで俊介ゴールに接近する。
俊介は追いつこうとするものの距離の差は大きかった。
修也は俊介に追いつかれることなく、レイアップを決めた。
「ゴ――ル!!
恋二君&修也君の勝ち~!」
俊介の敗北を知らせる周のコールがコートに響き渡った。
周と俊介が一緒に練習をするようになって一週間以上が過ぎた。
俊介もなんとか周の練習メニューをこなせるようになってきていた。
ランニングに時間がかかったり、休憩に多く時間をとったりするのは相変わらずだが、途中でダウンしていた初めの頃に比べれば成長したと言えよう。
初日のロングシュート練習が効果あったものと見えて、俊介が子供たちと打ち解けるのも早かった。
「シュートモーションに時間かかりすぎだよ」
この恋二少年はわずかに例外に入るようで、少しばかり厳しい意見が飛ぶようだ。
「そうだね、もう少し速くしないとブロックが追いついちゃうかもね」
周も恋二の意見に賛成する。
実践から離れてシュートの精度を重要視しすぎたせいだろうか、
他の子供ならまだしも恋二にはかなりの確立でシュートを止められてしまうようだ。
もちろん気を張った周が相手ではシュートどころではないのだが。
「それにしてもしゅんくん、少し点取られすぎじゃない?」
と、ちょっと呆れた表情で周が言う。
それもそのはず。
子供たちが毎回メンバーを交代しているのに対して俊介がぶっ続けで試合形式の練習をしているとはいえ、
修也2本、大紀2本、愛奈3本、真美1本とジュースを獲得され、恋二にいたっては4本獲られている。
周も最初の頃はそんな感じの結果だったのだが、忘れているのか俊介のプライドを刺激しているのか。
おそらく前者であろうが。
俊介はというと呼吸を整えるのに必死で答えることすら出来ないようだ。
「ぜーはーぜーはー!」
「あらら、しょうがないね。
じゃ、今度は私がやるからしゅんくんは休んでて。
はい、じゃ~次のチームは?」
周は俊介を休ませると元気よくコートに入っていった。
次の相手は大紀&愛奈チームだった。
「・・・大丈夫・・・・・・ですか?」
「・・・・・・な、何とか・・・・・・ね・・・・・・」
真美につれられてベンチに座り、もといベンチにもたれながらポ○リで水分を補給する俊介。
俊介はア○エリよりもポ○リ派なのだ。
と、そんなどうでもいいことは置いておくとして、俊介は先ほどよりは落ち着いた様子で周の試合を見ていた。
ふと時計を見る。
「・・・・・・1時間か・・・・・・結構やってたんだな・・・・・・僕」
まだ完全に呼吸が整っていない中、俊介はそうつぶやいた。
「周ちゃんは、よく体力持つよなぁ・・・・・・」
「・・・そうですね・・・・・・あのまま一人で2時間とかやってましたからね・・・・・・俊介さんが来るまでは・・・・・・」
俊介の何の気なしのつぶやきに、真美が答えた。
「へぇ・・・・・・そうなんだ・・・・・・」
子供相手とはいえ試合形式の練習を2時間続けられる体力、
それが通常前後半で40分の試合においてどれだけの脅威であるか。
「・・・・・・すごいな、周ちゃんは・・・・・・。
僕なんかとは大違いだ」
今更ながらに思い知った事、しかし。
「・・・そ、そんなこと無いですよ・・・・・・。
俊介さんだってすごいです・・・・・・」
少女はそれを否定した。
「・・・俊介さん、最後の方になってもロングシュートだけは外さなかったじゃないですか。
やっぱりそれって、いっぱい練習してきたからと思うんです」
「真美ちゃん・・・・・・」
ふと思う。
体力もなく、スピードも無く。
そんな自分が進んだ道がこのロングシュートだ。
それゆえに強く誓った。
「・・・・・・そうだ・・・・・・これだけは外せない・・・・・・」
その誓いを、舞い上がったり沈み込んだり、気持ちの変化が激しい中でうっかり忘れていたようだ。
彼はこの場で改めてそれを胸に刻み込んだ。
「・・・・・・うん。
ありがと、真美ちゃん」
俊介が笑顔で礼を言うと、真美はかあっと顔を赤くしてうつむいた。
そもそも男と一対一で話した機会があまりないのだろう。
そんなことを思いながら、俊介は再び、今度は心の中で礼を言った。
ガコンッ
「いえーい!
私の勝ちだね!」
「あーん、もう!」
「残念
だった」
ふと気がつけば、試合は周の勝利で終わったようだ。
喜ぶ周の声と子供たちの残念がる声が聞こえる。
「じゃ、次のチームは・・・・・・。
ほらー、真美ちゃん!
俊介お兄さんといちゃいちゃしてないで、恋二君か修也君と組んでー!」
と、愛奈の声が響いた。
そのセリフに赤かった顔をさらに赤くして、真美は愛奈に元に駆け寄った。
「あ、それじゃ、俊介さん」
その前に俊介への挨拶も忘れない。
「もう、愛奈ちゃん変な事言わないでよ・・・・・・」
「えー、だって二人で楽しそうにさ・・・・・・」
俊介はそんな子供たちと、一緒に居る周を見て笑顔を浮かべると、最後に一口ポ○リを飲んで立ち上がった。
そして子供たちのところに駆け寄る。
「真美ちゃん、僕と組もうか」
「・・・え・・・・・・」
真美も他の子供たちも、周も驚いた顔で俊介を見る。
「しゅんくん、もう少し休んでた方がいいんじゃない?」
「そうも言ってられないさ。
はやく周ちゃんに追いつかないとね」
俊介はそういうと、こっそり真美にウインクをする。
真美は驚いた表情で顔を赤くしていたが、やがてにこっと笑った。
「言ったわね、しゅんくん。
追いつけるモンなら追いついてごらんなさーい」
周はそういうとコートに入っていった。
そして、俊介&真美チームもそれに続いた。
「じゃ、お疲れ様でしたー」
「「「「「お疲れ様でしたー!」」」」」
それから1時間後、練習を終わりにし、子供たちにジュースを買ってあげた後にあいさつをし、2人は子供たちと別れた。
「はぁぁぁ・・・・・・ようやく今日も終わった」
「お疲れ様、しゅんくん」
ぐたーっとその場に座り込みそうな俊介の肩を周はぽんと叩く。
「今日はいつもより疲れたんじゃない?」
「そうだね・・・・・・」
なにやら返事のも覇気が無い。
そんな俊介を見て、周はやれやれとため息をつくとこう言った。
「じゃ、今日は頑張ったしゅんくんにご褒美を上げましょう」
「・・・・・・ご褒美・・・・・・?」
「そ、ご褒美」
周はそう言って俊介の前に立つ。
正面から目と目が合ってドキッとする俊介。
「ご、ご、ご褒美って・・・・・・もしかして・・・・・・」
周はくすっと笑う。
まさかご褒美というのは・・・・・・まさか・・・・・・まさか・・・・・・
まさかまさかまさかまさかまさか!!!
「近くに新しい喫茶店見つけたんだ。
なにかおごるよ」
「ああ、そうですか・・・・・・ではぜひとも」
はぁぁぁぁ、とうなだれる俊介。
そんな想像通りの事が起こるわけがないのだ。
「中に入った事は無いんだけど、見た目は良かったよ」
「ああ、うん、わかった。
じゃあ行こうか」
「うん、行こう行こう」
周はご機嫌な感じで先に歩き出した。
俊介は一見普通についていっているが、その背中はとぼとぼとした雰囲気をかもし出している。
期待が大きかっただけにショックが大きかったのだろうか。




