拠点総動員、帰るための準備会議
帰るための六因子を集めます。
その前に、拠点設備を全部使います。
死んだ分だけ、準備が増えました。
白い拠点の中央に、反省会テーブルが置かれていた。
最初は椅子しかなかった場所だ。座るだけで「拠点施設」と言い張られた、あの白い椅子。その周りに、今は扉がいくつも並んでいる。死因図鑑室の扉、鑑定机、成功ログ棚、厨房、属性検証卓、罠訓練場、射線訓練場、魔物休憩所、シード地図室、人物レイヤー、思い出ログ棚、帰還門建設予定地、死因研究室、魔王相談窓口、魔王軍資料室、一フレーム道場、仕様書保管棚。並べるだけで息が切れる。
コヨリは椅子に座って、その景色を見回した。
「ログル」
「はい」
「わたしの拠点、もう町内会館より施設多くない?」
「町内会館より死亡率も高いです」
「そこは勝たなくていい!」
反省会テーブルには、神様会議場から持ち帰った議事録が置かれている。隣には八百ページ説明書から抜き取った、帰還門関連の薄い紙束。薄いと言っても、コヨリの腕くらいある。知識神ミネルの「薄い」は信用できない。
魔王相談窓口の黒い小窓が開き、ベルの顔が映った。背後の資料棚には、【神様案件】【帰還門案件】【勇者様絶叫案件】【魔王様胃薬案件】という札が並んでいる。
「勇者様、六因子回収に向けた拠点設備の使用計画を作成いたしました」
「ベルさん、頼れる。神様より説明が親切」
「神様側には小さい文字が多すぎますので」
「それを神様に聞かせたい!」
死因研究室から、ネムが台帳を抱えて出てきた。黒いパーカーの袖を引きずり、眠そうな目でテーブルを見上げる。
「死亡受付の分類も更新しておきます。今回は帰還因子別です」
「死ぬ前提で分類しないで!」
「分類しておくと、死んだ後が早いです」
「早くしなくていいから死なない方向で!」
リュシアが厨房から顔を出し、湯気の立つ小鍋を持ってきた。拠点厨房で登録した携帯食、スープ、焦げていないパン。爆裂キノコを入れようとしたメリメルは、ネムに袖をつかまれている。
「ちび勇者ちゃん、帰る話は腹が減るからね。まず飲みな」
「ありがとう、リュシアさん。メリメルさんはそのキノコ置いて」
「景気づけに少しだけ」
「帰宅準備に爆発を混ぜないでええええええ!」
鑑定机には、帰還系の未識別品が並べられた。名前だけで危険な草、玄関の鍵っぽい鍵、開けたくなる小箱、白い巻物、呼吸していないふりをしている壺。ログルが前足で草を示す。
「仮名は【帰りたい草】です」
「飲んだら帰れる?」
「帰りたい気持ちが強くなる可能性があります」
「それ、今でも最大値いいいいいいいい!」
死因図鑑室では、過去の死因カードがばさばさとめくられた。黒狼、呼吸する宝箱、爆裂キノコ、未識別草、油床火球、射線の谷、補給庫の泥棒判定、帰還門番の影、神様会議場の同意ボタン、発言権クリスタル、議題差し戻し。
ログルはそれらを、六つの帰還因子へ振り分けていく。
「名前には、名前欄、登録名、呼称の罠。座標には、地図、現在地、一マス違い。時間には、一フレーム、秒針、巻き戻し。記憶には、思い出ログ、忘却、偽物の家。縁には、人物レイヤーと魔物休憩所。扉には、帰還門とミミックです」
「ぜんぶ死にそう!」
「はい」
「はいじゃない!」
罠訓練場では、玄関ミミックの模擬扉が口を開けた。扉の札には【おかえり】と書いてある。優しい字なのに、ドアノブが舌みたいに動く。
「玄関が呼吸するなあああああああああああ!」
射線訓練場では、窓型の的から矢が飛ぶ。コヨリは一歩下がりかけ、床の影を見て止まる。遅すぎれば刺さる。早すぎれば罠。一フレーム道場で覚えた嫌な感覚が、足の裏に残っていた。
思い出ログ棚の前では、声が少し小さくなった。棚にはミーナのパン、カイの木剣、ピヨラの毛布、ゼルドの苦情書、ベルの勤務表、ネムの受付札、リュシアのスープが並んでいる。その奥に、薄い札がある。
【元の世界:家】
文字はまだ薄い。けれど、消えてはいない。
「ログル、プリンも仮登録して」
「またですか」
「冷蔵庫のプリンは、家の生活感だから」
ベルが魔王軍資料室側で眼鏡を直した。
「生活感は座標補助になる可能性がございます」
「ベルさん、好き!」
「ベル様まで......」
帰還門建設予定地の床が、静かに鳴った。六つの空欄が浮かぶ。
【名前】
【座標】
【時間】
【記憶】
【縁】
【扉】
それぞれに、まだ不完全な光がともっていた。
「ここから、六つ集めるんだね」
「はい。今回の攻略領域は、帰還因子回収です」
「いま何か言いかけた?」
「気のせいです」
コヨリは椅子の背もたれをぎゅっと握った。死んで増えた部屋がある。笑われた死因が、攻略メモになった。神様に送らなかった本音が、死因研究室に残っている。敵だった魔王軍の資料室が、今は外部記録になっている。
拠点だけはリセットされない。
だから、死んだ分だけ帰る準備に変えられる。
「じゃあ行こう。まずは名前から」
「勇者名ではなく、本名の確認です」
「神様ァ! 召喚したなら本名くらい控えといてよおおおおおおおおお!」
叫びながら、コヨリは帰還門建設予定地に現れた最初の小さな扉へ向かった。扉の札には、達筆すぎてむかつく字でこう書かれていた。
【名前記入迷宮】
【今回の勇者ステータス】
現在領域:白い拠点/帰還因子回収準備中
累計死亡回数:111回
クラス:【死因学者】/帰還者適性:兆候
現在HP:15/15
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【帰還門感知 Lv.1】【シード差分確認 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】
今回の新規獲得・更新:新規獲得なし/準備更新:【六因子攻略計画】【帰還系未識別品仮名リスト】【プリン仮登録】
今回活用した拠点設備:【椅子】【死因メモ】【死因図鑑室】【鑑定机】【成功ログ棚】【拠点厨房】【属性検証卓】【罠訓練場】【射線訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【人物レイヤー】【反省会テーブル】【思い出ログ棚】【帰還門建設予定地】【死因研究室】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【一フレーム道場】【仕様書保管棚】【神様会議議事録】
登場人物紹介:コヨリは死んだ分だけ拠点を増やした幼女勇者。ログルは毒舌気味の解析神獣。ベルは神様より説明が親切な魔王軍秘書。リュシアは叫ぶ燃料を出してくれる酒神。ネムは死ぬ前提で分類する受付担当です。
※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。
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