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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第15章 帰るために必要なもの

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拠点総動員、帰るための準備会議

帰るための六因子を集めます。

その前に、拠点設備を全部使います。

死んだ分だけ、準備が増えました。



 白い拠点(きょてん)の中央に、反省会テーブルが置かれていた。


 最初は椅子しかなかった場所だ。座るだけで「拠点施設」と言い張られた、あの白い椅子。その周りに、今は扉がいくつも並んでいる。死因図鑑室(しいんずかんしつ)の扉、鑑定机、成功ログ棚、厨房、属性検証卓、罠訓練場、射線訓練場、魔物休憩所、シード地図室、人物レイヤー、思い出ログ棚、帰還門(きかんもん)建設予定地、死因研究室(しいんけんきゅうしつ)魔王相談窓口まおうそうだんまどぐち魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ一フレーム道場ひとフレームどうじょう仕様書保管棚(しようしょほかんだな)。並べるだけで息が切れる。


 コヨリは椅子に座って、その景色を見回した。


「ログル」

「はい」

「わたしの拠点、もう町内会館より施設多くない?」

「町内会館より死亡率も高いです」

「そこは勝たなくていい!」


 反省会テーブルには、神様会議場から持ち帰った議事録が置かれている。隣には八百ページ説明書から抜き取った、帰還門(きかんもん)関連の薄い紙束。薄いと言っても、コヨリの腕くらいある。知識神ミネルの「薄い」は信用できない。


 魔王相談窓口まおうそうだんまどぐちの黒い小窓が開き、ベルの顔が映った。背後の資料棚には、【神様案件】【帰還門(きかんもん)案件】【勇者様絶叫案件】【魔王様胃薬案件】という札が並んでいる。


「勇者様、六因子回収に向けた拠点設備の使用計画を作成いたしました」

「ベルさん、頼れる。神様より説明が親切」

「神様側には小さい文字が多すぎますので」

「それを神様に聞かせたい!」


 死因研究室(しいんけんきゅうしつ)から、ネムが台帳を抱えて出てきた。黒いパーカーの袖を引きずり、眠そうな目でテーブルを見上げる。


「死亡受付の分類も更新しておきます。今回は帰還因子(きかんいんし)別です」

「死ぬ前提で分類しないで!」

「分類しておくと、死んだ後が早いです」

「早くしなくていいから死なない方向で!」


 リュシアが厨房から顔を出し、湯気の立つ小鍋を持ってきた。拠点厨房で登録した携帯食、スープ、焦げていないパン。爆裂キノコを入れようとしたメリメルは、ネムに袖をつかまれている。


「ちび勇者ちゃん、帰る話は腹が減るからね。まず飲みな」

「ありがとう、リュシアさん。メリメルさんはそのキノコ置いて」

「景気づけに少しだけ」

「帰宅準備に爆発を混ぜないでええええええ!」


 鑑定机には、帰還系の未識別品が並べられた。名前だけで危険な草、玄関の鍵っぽい鍵、開けたくなる小箱、白い巻物、呼吸していないふりをしている壺。ログルが前足で草を示す。


「仮名は【帰りたい草】です」

「飲んだら帰れる?」

「帰りたい気持ちが強くなる可能性があります」

「それ、今でも最大値いいいいいいいい!」


 死因図鑑室(しいんずかんしつ)では、過去の死因カードがばさばさとめくられた。黒狼、呼吸する宝箱、爆裂キノコ、未識別草、油床火球、射線の谷、補給庫の泥棒判定、帰還門(きかんもん)番の影、神様会議場の同意ボタン、発言権クリスタル、議題差し戻し。


 ログルはそれらを、六つの帰還因子(きかんいんし)へ振り分けていく。


「名前には、名前欄、登録名、呼称の罠。座標には、地図、現在地、一マス違い。時間には、一フレーム、秒針、巻き戻し。記憶には、思い出ログ、忘却、偽物の家。縁には、人物レイヤーと魔物休憩所。扉には、帰還門(きかんもん)とミミックです」

「ぜんぶ死にそう!」

「はい」

「はいじゃない!」


 罠訓練場では、玄関ミミックの模擬扉が口を開けた。扉の札には【おかえり】と書いてある。優しい字なのに、ドアノブが舌みたいに動く。


「玄関が呼吸するなあああああああああああ!」


 射線訓練場では、窓型の的から矢が飛ぶ。コヨリは一歩下がりかけ、床の影を見て止まる。遅すぎれば刺さる。早すぎれば罠。一フレーム道場ひとフレームどうじょうで覚えた嫌な感覚が、足の裏に残っていた。


 思い出ログ棚の前では、声が少し小さくなった。棚にはミーナのパン、カイの木剣、ピヨラの毛布、ゼルドの苦情書、ベルの勤務表、ネムの受付札、リュシアのスープが並んでいる。その奥に、薄い札がある。


【元の世界:家】


 文字はまだ薄い。けれど、消えてはいない。


「ログル、プリンも仮登録して」

「またですか」

「冷蔵庫のプリンは、家の生活感だから」


 ベルが魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ側で眼鏡を直した。


「生活感は座標補助になる可能性がございます」

「ベルさん、好き!」

「ベル様まで......」


 帰還門(きかんもん)建設予定地の床が、静かに鳴った。六つの空欄が浮かぶ。


【名前】

【座標】

【時間】

【記憶】

【縁】

【扉】


 それぞれに、まだ不完全な光がともっていた。


「ここから、六つ集めるんだね」

「はい。今回の攻略領域は、帰還因子(きかんいんし)回収です」

「いま何か言いかけた?」

「気のせいです」


 コヨリは椅子の背もたれをぎゅっと握った。死んで増えた部屋がある。笑われた死因が、攻略メモになった。神様に送らなかった本音が、死因研究室(しいんけんきゅうしつ)に残っている。敵だった魔王軍の資料室が、今は外部記録になっている。


 拠点(きょてん)だけはリセット(・・・・)されない。


 だから、死んだ分だけ帰る準備に変えられる。


「じゃあ行こう。まずは名前から」

「勇者名ではなく、本名の確認です」

「神様ァ! 召喚したなら本名くらい控えといてよおおおおおおおおお!」


 叫びながら、コヨリは帰還門(きかんもん)建設予定地に現れた最初の小さな扉へ向かった。扉の札には、達筆すぎてむかつく字でこう書かれていた。


名前記入迷宮なまえきにゅうめいきゅう



【今回の勇者ステータス】


現在領域:白い拠点(きょてん)帰還因子(きかんいんし)回収準備中

累計死亡回数:111回

クラス:【死因学者】/帰還者適性:兆候

現在HP:15/15

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【帰還門(きかんもん)感知 Lv.1】【シード差分確認 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】

今回の新規獲得・更新:新規獲得なし/準備更新:【六因子攻略計画】【帰還系未識別品仮名リスト】【プリン仮登録】


今回活用した拠点設備:【椅子】【死因メモ】【死因図鑑室(しいんずかんしつ)】【鑑定机】【成功ログ棚】【拠点厨房】【属性検証卓】【罠訓練場】【射線訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【人物レイヤー】【反省会テーブル】【思い出ログ棚】【帰還門(きかんもん)建設予定地】【死因研究室(しいんけんきゅうしつ)】【魔王相談窓口まおうそうだんまどぐち】【魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ】【一フレーム道場ひとフレームどうじょう】【仕様書保管棚(しようしょほかんだな)】【神様会議議事録】


登場人物紹介:コヨリは死んだ分だけ拠点を増やした幼女勇者。ログルは毒舌気味の解析神獣。ベルは神様より説明が親切な魔王軍秘書。リュシアは叫ぶ燃料を出してくれる酒神。ネムは死ぬ前提で分類する受付担当です。


※表示は主要スキルのみです。過去に得た下位スキルは消失しておらず、統合済み・内部保持されています。


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