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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第14章 神々の実装ミス会議

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差し戻しゲートを一フレームで止める

会議場決着です。

神様は議題を差し戻します。

勇者は小石で止めます。


 共同被害申立書に、勇者と魔王の名前が並んだ。

 その瞬間、神様会議場の空気がきしんだ。


 議題タイルが一斉に裏返り、白い円卓の下から巨大な門がせり上がる。門には、金色の文字が刻まれていた。


【議題差し戻しゲート】


 わたしは、名前を見た瞬間に嫌な予感でいっぱいになった。


「ベルさん、差し戻しってなに」

「議題を最初からやり直す処理です」

「やだ!」

「会議ではよくあることです」

「神様会議でやらないで!」


 アドミニスは、困ったように笑っていた。


「いやあ、さすがにこのまま議事録を持ち帰られると困るんだよね。だから、いったん差し戻し」

「いったんで殺すな!」

「殺すというか、処理を戻すだけ」

「処理を戻されたら、わたしが消えるんだよ!」


 差し戻しゲートが開いた。


 攻撃ではない。矢でも、魔法でも、罠でもない。だから射線確認が遅い。罠感知も弱い。危険察知だけが、胸の奥で必死に鳴っている。


 ベルさんが議事録を押さえる。ゼルドさんが魔王軍代表印を構える。ログルが宝石を光らせる。


 わたしは小石袋改に手を伸ばした。


 でも、その前に。


 白い光が、わたしの足元をさらった。


【死亡ログ】

【死因:議題差し戻しで存在ごと戻された】

【評価:会議は終わっていません】

【累計死亡回数:111回】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 ネムさんが紙吹雪を出した。


「累計死亡回数、百十一回です。ぞろ目です」

「百回の時より雑!」

「出張受付なので紙吹雪が少なめです」

「そういう問題じゃない!」


 わたしは受付カウンターに額を押しつけた。


「差し戻しで死ぬの、会議として最悪だよ......」

「差し戻しはつらいですね」

「ネムさんも分かる?」

「書類が戻ってくると、残業なので」

「事務の闇!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 再挑戦。


 差し戻しゲートが現れる前の会議場は、静かだった。


 でも、わたしにはもう見えている。


 円卓の下。議事録の端。ベルさんの羽ペンが置かれた場所。そこに、ほんの少しだけ白い震えが走る。


 一フレーム前。


 ゲートが開く前の、神様側処理の呼吸。


「ログル」

「はい」

「今度は、わたしが見る」

「一緒に見ます」


 ログルの宝石が、わたしの視界の端で光った。


 ベルさんが小声で確認する。


「異議申し立て文、準備済みです」

 ゼルドさんが代表印を握る。

「会議継続権、押印準備完了」

「魔王さん、かっこいいのに言葉が事務!」

「事務は戦いだ」


 アドミニスが、また笑う。


「じゃあ、いったん差し戻しで」

「差し戻させない」


 声は小さくした。


 叫ばない。


 敵を動かさない。


 会議場に、白い震えが走る。


 わたしは小石を一つ、床へ置いた。


 投げない。


 転がさない。


 ただ、差し戻し判定が生まれる場所に、先に置く。


 一手。


 小石が、議題タイルの境目に触れた。


【差し戻し対象:小石】


 ゲートが開きかけて、止まった。


「え」


 アドミニスの声が初めて、軽くなくなった。


 その隙に、ベルさんが羽ペンを走らせる。


「本件、共同被害申立人による異議申し立て継続。議題差し戻しは不当。勇者様および魔王軍側には、仕様書閲覧権限と議事録保管権限を要求いたします」


 ゼルドさんが代表印を押す。


 黒い印が、白い議事録に刻まれた。


【魔王軍代表印】

【会議継続】


 ログルの宝石が強く光る。


「神様側への送信ログ、遅延します」

「ログル!」

「今だけ、会議場の記録を拠点側へ逃がします」


 会議場の天井が割れた。


 白い光の奥に、見覚えのある拠点の壁が見える。


【帰る】


 その文字の下に、新しい文が浮かび始めた。


【帰る場所の座標を探す】


 わたしは息を飲んだ。


 差し戻しゲートは、小石だけを飲み込んで閉じた。


 小石は消えた。


 でも、わたしたちは残った。


【特殊ダンジョン:神様会議場】

【踏破扱い:未完全】

【議事録保管権限:一部獲得】

【仕様書閲覧権限:一部獲得】

【仕様書保管棚:解放】

【神様会議議事録:拠点登録】

【実装ミス検知 Lv.1:獲得】

【神様会議乱入 Lv.1:獲得】

【仕様書要求 Lv.2:更新】

【帰還因子:座標 候補反応】

【管理画面の扉:微開放】


 会議場が遠ざかる。


 アドミニスは、最後までこちらを見ていた。笑っているのか、困っているのか、今度は分からなかった。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点に戻ると、新しい棚が増えていた。


 白い木でできた棚。背表紙のない仕様書が、何冊も並ぶ。その横に、黒い表紙の議事録が一冊だけ収まっている。


【仕様書保管棚】


 わたしは、壁の文字を見上げた。


【帰る】

【忘れない】

【神様の仕様を攻略する】

【帰る場所の座標を探す】


 帰る場所。


 わたしの家。


 玄関の匂い。靴箱。台所から聞こえた音。ゲーム機の置いてあった部屋。たぶん、まだ覚えている。けれど、少し怖かった。何度も死んで、何度もシードが変わって、世界の人たちが別の人生になっていく中で、わたしの家の形まで薄くなったらどうしよう。


 ログルが、そっと隣に座った。


「勇者様」

「うん」

「次は、座標です」

「うん」


 わたしは壁に手を当てた。


「家の場所、忘れない」

「はい。ぼくも記録します」

「ログル」

「はい」

「小石、帰ってこないかな」

「差し戻し処理に巻き込まれました」

「小石いいいいいいいいいいい!」


 泣きそうな声で叫んだら、拠点の床に小さな文字が浮かんだ。


【小石袋改:残り十六個】


「現実的!」

「残数管理は大切です」

「感動のあとに在庫表示しないで!」


 でも、少し笑えた。


 神様会議場は、まだ完全には攻略できていない。

 仕様書も、議事録も、帰還門のエラーも、分からないことだらけだ。


 それでも、次に探すものは決まった。

 帰る場所の座標。

 わたしは、壁の文字をもう一度見た。


「神様ァ! 家の住所くらい、召喚前に控えといてよおおおおおおおおおおおお!」


 拠点に、わたしの声が響いた。

 今度の叫びは、ターンを消費しなかった。


【今回の勇者ステータス】


現在地:拠点

累計死亡回数:111回

神様会議場内死亡回数:7回

クラス:【死因学者】

クラス兆候:【時読み】継続

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】


【死因ログ参照 Lv.2】

【死亡ログ改ざん Lv.1】

【神様報告遅延 Lv.1】

【総合盤面確認 Lv.1】

【危険察知 Lv.4】

【射線確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.4】

【一フレームの神様 Lv.1】

【帰還門感知 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:【実装ミス検知 Lv.1】

新規獲得:【神様会議乱入 Lv.1】

更新:【仕様書要求 Lv.1】→【仕様書要求 Lv.2】

拠点施設解放:【仕様書保管棚】

拠点登録:【神様会議議事録】

帰還因子:【座標】候補反応

管理領域:【管理画面の扉】微開放

死亡ログ追加:【議題差し戻しで存在ごと戻された】


【統合候補】


【小さい文字を読む Lv.1】+【仕様書目次確認 Lv.1】+【同意ボタン警戒 Lv.1】

→【仕様書確認 Lv.1】


【会議前確認 Lv.1】+【会議中に叫ばない Lv.1】+【承認印回避系経験】

→【会議場生存術 Lv.1】


※表示は主要スキルのみです。過去の下位スキルは統合済み・内部保持されています。


【登場人物紹介】


コヨリ:

神様会議場を特殊ダンジョンとして踏破しきった幼女勇者。小石で差し戻しゲートを止めた。家の住所は神様が控えていなかった。


ログル:

会議場の記録を拠点へ逃がした相棒。端末ではなく、コヨリの隣にいる存在。


ベル:

異議申し立てと議事録保管権限を勝ち取った有能秘書。会議ダンジョン攻略の実質参謀。


ゼルド:

勇者と共同署名した魔王。魔王軍代表印が会議場で大活躍した。


アドミニス:

差し戻しを使った主神。今回は完全には止められなかったが、コヨリたちに仕様書閲覧権限を一部奪われた。


次は、帰る場所の座標探しへ。

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