映え死ぬな
美神ヴェルティアの議題です。
死亡演出が美しくなります。
見えなくなって死にます。
美神ヴェルティアは、ものすごくきれいな女神だった。
長い髪は光をまとい、衣装は雲と花びらを編んだみたいに揺れている。笑うだけで、会議場の照明が三割くらい増えた気がした。
でも、わたしは油断しない。
きれいなものほど、罠がある。
宝箱も、光るボタンも、神様の笑顔も、だいたい危ない。
「勇者ちゃん。あなたの死亡シーン、もっと美しくできると思うの」
「死なせない方向で考えて!」
「もちろん、生存も大切ですわ。でも、万が一の時の演出も」
「万が一じゃなくて百九回死んでるんだよ!」
ヴェルティアは、うっとりと手を広げた。
会議場の空気が薔薇色に染まる。
【死亡演出サンプル:神速矢に倒れる勇者】
【演出要素:薔薇、羽、逆光、涙、神聖音楽】
「いらない!」
「見てから判断してくださいな」
「見たくない!」
床に、細い光の矢が浮かんだ。
訓練用だ。たぶん当たっても即死しない。たぶん。神様のたぶんは信用できない。
ログルが肩で警告する。
「勇者様。予兆は床の右端です」
「分かった。右端見る」
「薔薇が増えています」
「薔薇?」
視界いっぱいに薔薇が咲いた。
羽が舞う。光が差す。謎の神聖音楽が鳴る。わたしの髪が勝手にふわっとなびく。とても絵になる。
そして、床の予兆が見えない。
「見えなあ」
【死亡ログ】
【死因:死亡演出で予兆が見えなかった】
【評価:映えました】
【累計死亡回数:110回】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「映え死ぬなあああああああああああああああ!」
受付に叫び声が響いた。
ネムさんが耳をふさいだ。
「今回は綺麗でしたよ」
「綺麗に死ぬより雑に生きたい!」
「名言ですね」
「死因欄に書かないで!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
再挑戦。
ヴェルティアは少し不満そうだった。
「でも、勇者ちゃん。死亡演出が美しいと、記録映像として価値が」
「わたしは記録映像になるために死んでない!」
「薔薇は控えめにします」
「薔薇をゼロにして!」
ログルが前へ出る。
「美神ヴェルティア様。視界妨害は敵対行為です」
「まあ、厳しい」
「勇者様の生存を阻害します」
「でも映えが」
「生存が優先です」
ログルがはっきり言ったので、わたしは少し驚いた。
前なら、もう少し遠回しに言っていた気がする。
リュシアが円卓の端で笑う。褐色肌の美女神は、酒杯ではなく温かいスープの器を持っていた。
「ヴェルティア、ちび勇者ちゃんには、可愛い死亡演出より温かい飯と毛布のほうが映えるよ」
「生存演出......」
「そうそう。生きて帰って、ほっとする顔。そっちのほうがずっといいじゃない」
ヴェルティアは、少しだけ考え込んだ。
「生存演出......新しいわね」
「新しくないよ! 本来そっちが普通だよ!」
床に再び光の矢が出る。
今度は薔薇が出ない。羽も出ない。謎音楽も鳴らない。
見える。
床の右端が、ほんの少し白く光る。
わたしは半歩下がった。光の矢が、わたしの前を通り過ぎる。
当たらない。
「避けた!」
「はい」
「薔薇がないと避けられる!」
「視界は大切です」
ベルさんが議事録に書く。
【死亡演出は本人同意制】
【戦闘中の視界妨害は禁止】
【薔薇は任意】
「薔薇は任意!」
「完全禁止ではなく、任意が落としどころです」
「会議っぽい!」
ヴェルティアは残念そうにしながらも、最後にはうなずいた。
「では、生存演出案も検討します。勇者ちゃんが無事に帰った時の光など」
「光は控えめで」
「控えめな光」
「あと床は見えるように」
「床が見える光」
「それで!」
わたしは、胸を張った。
今日、わたしは一つ大事なことを神様に分からせた。
映えより生存。
これ、たぶん全勇者に必要なやつだ。
【今回の勇者ステータス】
現在地:特殊ダンジョン【神様会議場】演出審査区域
累計死亡回数:110回
神様会議場内死亡回数:6回
クラス:【死因学者】
クラス兆候:【時読み】
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【危険察知 Lv.4】
【射線確認 Lv.3】
【罠感知 Lv.3】
【未識別警戒 Lv.4】
【一フレームの神様 Lv.1】
【低確率を信じるな Lv.1】
【会議中に叫ばない Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【映えより生存 Lv.1】
死亡ログ追加:【死亡演出で予兆が見えなかった】
会議記録追加:【死亡演出は本人同意制】
【登場人物紹介】
ヴェルティア:
美神。死亡シーンまで美しくしたい困った神様。悪気は薄いが、視界妨害は普通に危険。
リュシア:
酒神。今回は温かいスープで援護。コヨリには完全に姉御枠。
ログル:
視界妨害を敵対行為と判定した相棒。だんだん神様相手にも強く言うようになっている。
コヨリ:
映えより生存派。とても正しい。
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