低確率は引くもの
乱数担当、運命神フォルテ登場。
低確率だから大丈夫。
コヨリは引きます。
運命神フォルテは、眠そうな女神だった。
耳飾りのサイコロが、揺れるたびにころころ音を立てる。本人は円卓に頬杖をつき、半分寝たような顔でこちらを見ていた。
「乱数だから」
「まだ何も言ってない!」
「だいたいそういう話でしょ」
「そうだけど!」
フォルテの前に、透明な床が広がった。
床には、サイコロの目みたいな模様がある。
【安全】
【小ダメージ】
【仕様変更】
【未識別化】
【即死】
【神様が笑う】
わたしは即死のマスを指さした。
「これ消して」
「一パーセント未満だから大丈夫」
「わたし、その一パーセントで死ぬ側なんだけど!」
「運が悪いと、そうなる」
「乱数で済ませるなあああああああああああ!」
床が点滅した。
ログルが肩で小さく震える。
「勇者様、大声」
「うっ」
わたしは口を押さえた。危ない。叫ぶだけで死に近づく会議場、ほんとに嫌だ。
フォルテは眠そうにサイコロを投げる。
「検証。勇者ちゃんが安全マスを踏めば問題なし」
「安全って書いてあるマスは安全?」
「たぶん」
「たぶんで踏めるか!」
「低確率だし」
低確率。
その言葉には、何度も殺されている。宝箱がミミックな低確率。未識別草が爆裂草な低確率。遠投の腕輪を外し忘れる低確率。階段前の宝箱が呼吸している低確率。
低確率は、引く。
わたしは知っている。
でも、安全マスが目の前にあると、踏める気がしてしまう。
「ログル」
「おすすめしません」
「だよね」
「はい」
「でも安全って書いてある」
「神様側の表示です」
「信用できない! でも踏みたい!」
「踏みたい時点で罠です」
分かっている。
分かっているのに、足が一歩出た。
【安全】
足が乗った瞬間、文字が裏返る。
【即死】
「低確率うううううううううう!」
【死亡ログ】
【死因:低確率をちゃんと引いた】
【評価:乱数に愛されています】
【累計死亡回数:109回】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
戻ってきたわたしは、床に寝転んだ。
「低確率って言葉、禁止にしよう」
「禁止しても発生します」
「じゃあ神様を禁止」
「難しいです」
ベルさんが、乱数床の横に黒い資料を並べた。
「勇者様。魔王軍でも、低確率だから問題なしとされた事故が多数あります」
「魔王軍も?」
「はい。低確率魔王城崩落、低確率勇者初期村隣接、低確率会議室ドラゴン発生」
「全部ひどい」
「低確率は、現場では必ず誰かが引きます」
ゼルドさんが重々しくうなずいた。
「低確率を設計理由にしてはならん」
「魔王さん、まともすぎる」
「魔王とは、部下の低確率事故報告を読む者でもある」
「魔王業、思ったより管理職!」
再挑戦。
今度は、乱数床を踏まない。
ログルの宝石が、床の目ではなく、床が切り替わる前の光を照らす。安全マスと即死マスは、完全に同じではない。即死へ変わる床は、発生前にほんの少しだけ白が濁る。
一フレームの神様。
速く動く力じゃない。
神様の雑な処理が始まる前の、嫌な気配を見る力。
「右奥、濁ってる」
「はい」
「左手前は?」
「安全のままですが、隣が未識別化です」
「未識別化、嫌すぎる」
「踏むと手持ちの議事録が全部【謎の紙】になります」
「会議でそれは致命傷!」
わたしは床を踏まず、小石を投げる。
小石が即死マスに乗った瞬間、床がぱきんと割れた。小石は消えた。
「小石、ありがとう」
「小石袋改、残り十七個です」
「命より安い」
「その考えは正しいです」
フォルテが頬杖のまま目を細めた。
「乱数を避けるの、ずるくない?」
「乱数で殺すほうがずるい!」
「低確率なのに」
「低確率は引くの! わたしは引くの! もう自分の運を信用しない!」
ベルさんが議事録に書き込む。
【低確率即死配置は、安全設計とは認めない】
会議場の文字が、少しだけ揺れた。
アドミニスの笑顔が、ほんの一瞬だけ薄くなる。
わたしはそれを見逃さなかった。
神様たちの「仕様」は、絶対じゃない。
ちゃんと指摘すれば、揺れる。
【今回の勇者ステータス】
現在地:特殊ダンジョン【神様会議場】乱数床区域
累計死亡回数:109回
神様会議場内死亡回数:5回
クラス:【死因学者】
クラス兆候:【時読み】
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因ログ参照 Lv.2】
【総合盤面確認 Lv.1】
【危険察知 Lv.4】
【罠感知 Lv.3】
【未識別警戒 Lv.4】
【一フレームの神様 Lv.1】
【会議中に叫ばない Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【低確率を信じるな Lv.1】
死亡ログ追加:【低確率をちゃんと引いた】
会議記録追加:【低確率即死配置は安全設計ではない】
【登場人物紹介】
フォルテ:
運命神。低確率だから大丈夫で済ませる乱数担当。コヨリとの相性は最悪。
コヨリ:
低確率をちゃんと引く幼女勇者。運が悪いというより、物語に愛されている。
ベル:
低確率事故を現場目線で証拠化する秘書。とても強い。
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