会議室モンスターハウス
神様会議は実戦テストへ。
会議室に敵が湧きます。
会議とは。
戦神バルガは、会議に向いていなかった。
筋肉質な大男神が、円卓を片手で叩く。円卓は浮いているので、叩かれた衝撃で少し上下した。やめてほしい。机が上下する会議、集中できない。
「勇者娘は成長している! ならば、実戦テストだ!」
「会議して!」
「会議とは、実戦である!」
「違うよ! たぶん違うよ!」
バルガが拳を掲げる。
床の議題タイルが赤く光った。
【戦神提案:ドラゴン三体】
【戦神提案:倍速ヤマネコ改】
【戦神提案:遠投泣かせ】
【戦神提案:場所替え待ち】
【戦神提案:壺割り小僧】
【戦神提案:階段前の誘惑】
タイルから敵が湧いた。
会議場なのに。
敵が湧いた。
「会議室にモンスターハウス置くなあああああああああああ!」
叫んだ瞬間、世界が動いた。
あ。
発言は行動判定。
思い出した時には、倍速ヤマネコ改が二歩来ていた。ふわふわの見た目なのに、速度がまったくかわいくない。
「にゃ」
「ぎゃ」
【死亡ログ】
【死因:会議室で叫んで倍速敵に詰められた】
【評価:発言は行動です】
【累計死亡回数:108回】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
戻ったわたしは、両手で自分の口を押さえた。
「んんんんんん!」
「勇者様、落ち着いてください」
「んんん!」
「はい。叫びたい気持ちは分かります」
ベルさんが、すでに会議場の入口に大きな貼り紙を出していた。
【会議中に叫ばない】
【叫ぶと敵が動く】
【倍速敵は二回来る】
わたしは貼り紙を見て、涙目でうなずく。
再挑戦。
床にはまた敵案タイルが並んでいる。敵はまだ湧いていないが、踏んだら出る。声を出しても出る。神様会議場、性格が悪い。
ログルが小声で言う。
「勇者様、手持ち確認です」
「小石袋改、眠りの巻物、場所替えの杖、壁生成の杖。あと帰りたい気持ち」
「最後はアイテム欄にありません」
「心の装備!」
ベルさんが【眠りの議事録】を一枚取り出した。
「この議事録を読むと、周囲の敵案を一時停止できます」
「議事録で眠るの、すごく納得感ある」
「ただし、未識別状態では【大部屋の議事録】の可能性もありました」
「読んだら会議場が広がるやつ!?」
「はい」
「やだ!」
ログルが宝石を光らせる。
「鑑定済みです。眠りで合っています」
「ログルえらい! 抱っこしたい!」
「戦闘後にお願いします」
バルガがにやりと笑う。
「来い、勇者娘! 根性で突破しろ!」
「根性じゃなくて手順で突破する!」
わたしは口を閉じたまま、床へ小石を転がす。
小石が【倍速ヤマネコ改】のタイルに触れた瞬間、敵が湧く。けれど、その前にベルさんが眠りの議事録を開いた。
紙の眠気が、白い煙みたいに広がる。
倍速ヤマネコ改の足が止まった。ドラゴン三体案も、口を開けたまま寝かけている。
壺割り小僧だけが、妙に元気にこちらへ走ってきた。
「なんであいつ寝ないの!?」
「議事録を読まないタイプの敵です」
「いる! そういう人いる!」
わたしは場所替えの杖を握る。
危ない。焦ると投げそうになる。
「杖は振るもの」
「はい」
「杖は振るもの」
「はい」
「杖は振るものおおおお......は、叫ばない!」
声を飲み込み、杖を振る。
壺割り小僧と、遠くの空席が入れ替わった。壺割り小僧は空席の上で首をかしげている。よし。
次に壁生成の杖。
ドラゴン三体案の前に、白い議事録の壁が立つ。
「壁が議事録!」
「会議場素材です」
「硬いの?」
「内容が重いので、かなり硬いです」
「説明書と同じ理屈!」
ゼルドさんが魔王軍正式抗議印を取り出す。
黒い印が床に押されると、【戦神提案:ドラゴン三体】のタイルに赤い差し戻し線が入った。
「余は反対票を投じる」
「魔王さんかっこいい!」
「会議は票で戦うものだ」
「今、敵も出てるけどね!」
最後の敵案タイルが沈む。
【会議室モンスターハウス 処理完了】
バルガが腕を組み、豪快に笑った。
「いい動きだ!」
「褒める前に謝って!」
「次はドラゴン五体」
「反省してえええええええええええ!」
叫んだ。
でも、今度は処理完了後だったので敵は動かなかった。
わたしは床にへたり込み、息を吐く。
会議、疲れる。
普通の戦闘より疲れる。
【今回の勇者ステータス】
現在地:特殊ダンジョン【神様会議場】実戦テスト区域
累計死亡回数:108回
神様会議場内死亡回数:4回
クラス:【死因学者】
クラス兆候:【時読み】
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【総合盤面確認 Lv.1】
【危険察知 Lv.4】
【射線確認 Lv.3】
【罠感知 Lv.3】
【未識別警戒 Lv.4】
【一フレームの神様 Lv.1】
【仕様書目次確認 Lv.1】
【同意ボタン警戒 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【会議中に叫ばない Lv.1】
更新候補:【モンスターハウス入口停止 Lv.2】
死亡ログ追加:【会議室で叫んで倍速敵に詰められた】
【登場人物紹介】
バルガ:
戦神。会議を実戦だと思っている。完全に会議に向いていない。
ゼルド:
反対票で戦う魔王。魔王軍正式抗議印が強い。
ベル:
眠りの議事録を使う秘書。会議資料を武器にするタイプ。
コヨリ:
叫ぶと敵が動くことを覚えた。なお覚えても叫びたい。
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