議題を飛ばしたら床も飛ぶ
神様会議、ようやく本題です。
ただし議題は床です。
飛ばすと死にます。
会議場の床には、五つの議題タイルが並んでいた。
【一、勇者初期値】
【二、死亡ログ利用】
【三、魔王軍巻き込み】
【四、一手一動の例外】
【五、帰還門未起動】
わたしは五番を見た。
帰還門未起動。
その文字だけ、他よりも重く見える。帰るために必要な情報が、たぶんそこにある。名前、時間、縁、扉。少しずつ欠片は集まっている。でも、まだ足りない。
「ログル」
「はい」
「あの五番、先に踏んだらだめ?」
「だめでしょう」
「だよね」
「だめです」
「二回言わなくていい」
ミネルが説明書を開いた。
「議題は順番に処理してください。前提を飛ばすと、理解が崩れます」
「前提って何ページ?」
「七百二十ページほど」
「学校よりひどい!」
わたしは一番のタイルを見た。
【勇者初期値】
つまり、HP15問題だ。
大事だ。大事だけど、帰還門が気になる。五番のタイルが、こちらを呼んでいる気がする。宝箱ではない。でも、宝箱に近い匂いがする。
「勇者様、その目は欲です」
「違う。目的」
「目的と欲は、時々同じ顔をします」
「名言っぽく止めないで!」
わたしは一番のタイルをまたいだ。
ログルが肩で硬直する。
「勇者様」
「五番だけ。ちょっと見るだけ」
「勇者様」
「踏まなければいいんでしょ」
そう言いながら、わたしの足は五番のタイルに着地した。
【議題スキップ検知】
「はい死んだ!」
床が跳ねた。
【死亡ログ】
【死因:議題を飛ばして床に飛ばされた】
【評価:順番は大事】
【累計死亡回数:107回】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
戻ってきたわたしは、床にうつ伏せになった。
「帰還門の話だけ聞きたかったのに......」
「階段前で宝箱を見る時と同じ顔でした」
「帰還門を宝箱扱いしないで」
「危険度は近いです」
ベルさんが議題タイルの横に、魔王軍式の仮設看板を立てた。
【順番に踏む】
【飛ばすな】
【帰還門は逃げない】
【たぶん】
「最後のたぶん、怖い!」
「神様案件ですので断言できません」
ゼルドさんが腕を組む。
「勇者よ、会議もダンジョンも、急いだ者から落ちる」
「魔王さんが悟りを開いてる」
「余も何度も落ちた」
再挑戦。
わたしは一番のタイルに乗った。
【議題一:勇者初期値】
床から小さな数字が浮かぶ。
【Lv1】
【HP15】
【初期装備:シード・クラス依存】
【前シード成長:死亡時消失】
「待って。これを神様会議で見せるなら言わせて。レベル返して」
「仕様だよ」
「出た! 仕様って言った!」
アドミニスは悪びれずに笑う。
「でも、死に覚えのほうが成長感あるでしょ?」
「成長感はある! でも毎回HP15は幼女に対する配慮がない!」
「配慮は説明書に」
「説明書で頭割れたんだよ!」
次のタイル。
【議題二:死亡ログ利用】
ログルの宝石が少し曇った。
死亡ログは、今までわたしの死に方を記録してきた。笑える死因も多い。けれど、それを神様が集めていた。世界を直すためかもしれない。だけど、わたしに説明しなかった。
わたしはアドミニスを見た。
「わたしの死因、勝手に使ってた?」
「世界の安定化検証には必要だったんだ」
「だったら言って」
「言ったら嫌がるかなって」
「嫌がるよ! でも黙って使うのはもっと嫌!」
ログルが小さく言った。
「勇者様」
「大丈夫。怒ってるけど、今は死なない」
「はい」
次のタイル。
【議題三:魔王軍巻き込み】
ゼルドさんのマントが、少しだけ揺れた。ベルさんは書類を一枚差し出す。
「魔王軍は、勇者様の敵役として生成され続けています。しかし、各シードで職場、部下、勤務表、備品、魔王城構造が変動し、継続運用に著しい支障が出ています」
「勤務表、また出た」
「重要です」
さらに次。
【議題四:一手一動の例外】
床に薄い秒針が浮かぶ。
道場で見た音だ。
ログルが静かに説明する。
「一手一動は世界法則です。しかし、神域攻撃はその外側から干渉できる設計になっていました」
「つまり、ズル?」
「神様側の用語では、神域干渉仕様です」
「ズルを仕様って言い換えただけじゃん!」
アドミニスが笑顔のまま目をそらした。
「いやあ、言い方って大事だよね」
「中身が大事だよ!」
最後に、五番のタイルが光った。
【議題五:帰還門未起動】
わたしの喉が、少しだけ乾いた。
でも、今回は飛びつかない。
順番に来た。落ちていない。叫びすぎてもいない。小さい文字も読んだ。
わたしはゆっくり、五番のタイルへ足を乗せた。
床に、静かな文字が浮かぶ。
【帰還門エラー】
【名前:欠片反応】
【時間:欠片反応】
【縁:反応済】
【扉:反応済】
【記憶:不足】
【座標:未登録】
「座標......?」
帰る場所を示す数字。
わたしの家の場所。
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
アドミニスの声が、少しだけ軽さを失った。
「帰還門は、扉だけじゃ開かない。どこへ帰すかが分からないと、扉はただの穴になる」
わたしは、床の文字から目を離せなかった。
「じゃあ、次は座標を探すの?」
「はい」
ログルがそばで答える。
「勇者様の帰る場所を、探す必要があります」
【今回の勇者ステータス】
現在地:特殊ダンジョン【神様会議場】議題タイル区域
累計死亡回数:107回
神様会議場内死亡回数:3回
クラス:【死因学者】
クラス兆候:【時読み】
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因ログ参照 Lv.2】
【総合盤面確認 Lv.1】
【危険察知 Lv.4】
【罠感知 Lv.3】
【未識別警戒 Lv.4】
【一フレームの神様 Lv.1】
【同意ボタン警戒 Lv.1】
【会議前確認 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【仕様書目次確認 Lv.1】
死亡ログ追加:【議題を飛ばして床に飛ばされた】
帰還情報更新:【座標:未登録】判明
【登場人物紹介】
ミネル:
順番に説明したい知識神。説明は正しいが、長い。
アドミニス:
帰還門の核心を少し漏らした主神。軽いが、全部ふざけているわけではなさそう。
コヨリ:
帰還門タイルに飛びついて死んだ。階段前宝箱の魂がまだ残っている。
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