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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第14章 神々の実装ミス会議

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議題を飛ばしたら床も飛ぶ

神様会議、ようやく本題です。

ただし議題は床です。

飛ばすと死にます。

 会議場の床には、五つの議題タイルが並んでいた。


【一、勇者初期値】

【二、死亡ログ利用】

【三、魔王軍巻き込み】

【四、一手一動の例外】

【五、帰還門未起動】


 わたしは五番を見た。


 帰還門未起動。


 その文字だけ、他よりも重く見える。帰るために必要な情報が、たぶんそこにある。名前、時間、縁、扉。少しずつ欠片は集まっている。でも、まだ足りない。


「ログル」

「はい」

「あの五番、先に踏んだらだめ?」

「だめでしょう」

「だよね」

「だめです」

「二回言わなくていい」


 ミネルが説明書を開いた。


「議題は順番に処理してください。前提を飛ばすと、理解が崩れます」

「前提って何ページ?」

「七百二十ページほど」

「学校よりひどい!」


 わたしは一番のタイルを見た。


【勇者初期値】


 つまり、HP15問題だ。


 大事だ。大事だけど、帰還門が気になる。五番のタイルが、こちらを呼んでいる気がする。宝箱ではない。でも、宝箱に近い匂いがする。


「勇者様、その目は欲です」

「違う。目的」

「目的と欲は、時々同じ顔をします」

「名言っぽく止めないで!」


 わたしは一番のタイルをまたいだ。


 ログルが肩で硬直する。


「勇者様」

「五番だけ。ちょっと見るだけ」

「勇者様」

「踏まなければいいんでしょ」


 そう言いながら、わたしの足は五番のタイルに着地した。


【議題スキップ検知】


「はい死んだ!」


 床が跳ねた。


【死亡ログ】

【死因:議題を飛ばして床に飛ばされた】

【評価:順番は大事】

【累計死亡回数:107回】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 戻ってきたわたしは、床にうつ伏せになった。


「帰還門の話だけ聞きたかったのに......」

「階段前で宝箱を見る時と同じ顔でした」

「帰還門を宝箱扱いしないで」

「危険度は近いです」


 ベルさんが議題タイルの横に、魔王軍式の仮設看板を立てた。


【順番に踏む】

【飛ばすな】

【帰還門は逃げない】

【たぶん】


「最後のたぶん、怖い!」

「神様案件ですので断言できません」


 ゼルドさんが腕を組む。


「勇者よ、会議もダンジョンも、急いだ者から落ちる」

「魔王さんが悟りを開いてる」

「余も何度も落ちた」


 再挑戦。


 わたしは一番のタイルに乗った。


【議題一:勇者初期値】


 床から小さな数字が浮かぶ。


【Lv1】

【HP15】

【初期装備:シード・クラス依存】

【前シード成長:死亡時消失】


「待って。これを神様会議で見せるなら言わせて。レベル返して」

「仕様だよ」

「出た! 仕様って言った!」


 アドミニスは悪びれずに笑う。


「でも、死に覚えのほうが成長感あるでしょ?」

「成長感はある! でも毎回HP15は幼女に対する配慮がない!」

「配慮は説明書に」

「説明書で頭割れたんだよ!」


 次のタイル。


【議題二:死亡ログ利用】


 ログルの宝石が少し曇った。


 死亡ログは、今までわたしの死に方を記録してきた。笑える死因も多い。けれど、それを神様が集めていた。世界を直すためかもしれない。だけど、わたしに説明しなかった。


 わたしはアドミニスを見た。


「わたしの死因、勝手に使ってた?」

「世界の安定化検証には必要だったんだ」

「だったら言って」

「言ったら嫌がるかなって」

「嫌がるよ! でも黙って使うのはもっと嫌!」


 ログルが小さく言った。


「勇者様」

「大丈夫。怒ってるけど、今は死なない」

「はい」


 次のタイル。


【議題三:魔王軍巻き込み】


 ゼルドさんのマントが、少しだけ揺れた。ベルさんは書類を一枚差し出す。


「魔王軍は、勇者様の敵役として生成され続けています。しかし、各シードで職場、部下、勤務表、備品、魔王城構造が変動し、継続運用に著しい支障が出ています」

「勤務表、また出た」

「重要です」


 さらに次。


【議題四:一手一動の例外】


 床に薄い秒針が浮かぶ。


 道場で見た音だ。


 ログルが静かに説明する。


一手一動ワンターン・ワンアクションは世界法則です。しかし、神域攻撃はその外側から干渉できる設計になっていました」

「つまり、ズル?」

「神様側の用語では、神域干渉仕様です」

「ズルを仕様って言い換えただけじゃん!」


 アドミニスが笑顔のまま目をそらした。


「いやあ、言い方って大事だよね」

「中身が大事だよ!」


 最後に、五番のタイルが光った。


【議題五:帰還門未起動】


 わたしの喉が、少しだけ乾いた。


 でも、今回は飛びつかない。


 順番に来た。落ちていない。叫びすぎてもいない。小さい文字も読んだ。


 わたしはゆっくり、五番のタイルへ足を乗せた。


 床に、静かな文字が浮かぶ。


【帰還門エラー】

【名前:欠片反応】

【時間:欠片反応】

【縁:反応済】

【扉:反応済】

【記憶:不足】

【座標:未登録】


「座標......?」


 帰る場所を示す数字。


 わたしの家の場所。


 胸の奥が、きゅっと縮んだ。


 アドミニスの声が、少しだけ軽さを失った。


「帰還門は、扉だけじゃ開かない。どこへ帰すかが分からないと、扉はただの穴になる」


 わたしは、床の文字から目を離せなかった。


「じゃあ、次は座標を探すの?」

「はい」


 ログルがそばで答える。


「勇者様の帰る場所を、探す必要があります」


【今回の勇者ステータス】


現在地:特殊ダンジョン【神様会議場】議題タイル区域

累計死亡回数:107回

神様会議場内死亡回数:3回

クラス:【死因学者】

クラス兆候:【時読み】

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】


【死因ログ参照 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.1】

【危険察知 Lv.4】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.4】

【一フレームの神様 Lv.1】

【同意ボタン警戒 Lv.1】

【会議前確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:【仕様書目次確認 Lv.1】

死亡ログ追加:【議題を飛ばして床に飛ばされた】

帰還情報更新:【座標:未登録】判明


【登場人物紹介】


ミネル:

順番に説明したい知識神。説明は正しいが、長い。


アドミニス:

帰還門の核心を少し漏らした主神。軽いが、全部ふざけているわけではなさそう。


コヨリ:

帰還門タイルに飛びついて死んだ。階段前宝箱の魂がまだ残っている。


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