発言権が物理
神様会議場の中へ。
発言するには発言権が必要です。
発言権、刺さります。
神様会議場は、広すぎた。
円卓は空中に浮かんでいる。椅子も浮かんでいる。議題タイルも浮かんでいる。正直、地に足のついた会議をしてほしい。
白い空間の中央には、大きな円形の床があり、その外側を金色の文字がぐるぐる回っていた。
【議題一:勇者初期値】
【議題二:死亡ログ利用】
【議題三:魔王軍巻き込み】
【議題四:一手一動の例外】
【議題五:帰還門未起動】
奥の席で、主神アドミニスが手を振っている。
「やあ勇者ちゃん。すごいね、ついに会議に来ちゃった」
「来ちゃったじゃない! 呼んだのそっちでしょ!」
「いやあ、説明書を読んでたどり着くとは思わなくて」
「説明書が落ちてきたんだけど!」
「理解は重いからね」
「物理で重くするなあああああああ!」
叫んだ瞬間、床のマス目が赤く光った。
ログルが耳元で小さく言う。
「勇者様。会議場内では発言も行動判定です」
「しゃべったらターン進むの!?」
「はい」
「会議なのに!?」
「会議なのに、です」
円卓の反対側で、知識神ミネルが眼鏡を直した。
「発言には発言権が必要です。発言権クリスタルを取得してください」
「普通に手を上げる方式にして!」
「挙手制は第百七項で廃止されました」
「なんで!」
わたしの前に、透明なクリスタルが浮かび上がる。
【発言権】
きらきらしている。きれいだ。とても取りやすそうな高さにある。つまり罠だ。
でも、発言しないと文句が言えない。
「ログル、罠感知」
「反応あり。射線確認も反応しています」
「発言権なのに射線あるの?」
「あります」
「発言権が飛ぶな!」
ベルさんが書類鞄を開けた。
「勇者様、私が取得しましょうか」
「だいじょうぶ。わたし、今回は学習してるから」
わたしは一歩横へずれ、クリスタルの横から手を伸ばした。
その瞬間、発言権クリスタルが槍みたいに伸びた。
「ぎゃあ」
【死亡ログ】
【死因:発言権が刺さった】
【評価:会議は戦場】
【累計死亡回数:106回】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「発言権が刺さるってなに!?」
「発言権を得るには覚悟が必要、という設計だそうです」
戻ってきたわたしに、ログルが真顔で言った。真顔というか、カーバンクルなので顔はかわいい。でも声が真顔だった。
「覚悟を物理にするな!」
「神様会議場ですので」
「その言い訳、万能すぎる!」
再挑戦。
今度は、わたしは発言権を取らない。
小石袋改から小石を一つ出し、クリスタルの根元へ転がした。
「勇者様、投げる前に確認を」
「遠投の腕輪なし。射線よし。ベルさん巻き込みなし。魔王さんの角にも当てない」
「最後は大事です」
「魔王さんの角に小石当てたら国際問題っぽいからね!」
小石を投げる。
クリスタルが槍状に伸びる前、ほんの一瞬だけ、根元の光が細くなった。道場で覚えた、一フレーム前の兆し。
わたしはそこへ小石を当てる。
発言権クリスタルは、からんと音を立てて床に落ちた。
「取れた!」
「お見事です」
「発言権を小石で落とす勇者、どうなの!?」
「正攻法より安全です」
ベルさんが落ちたクリスタルを拾い、胸元に掲げた。
「魔王軍秘書ベル、証拠資料提出者として発言いたします」
会議場の空気が変わった。
ベルさんの後ろで、黒い資料棚の幻影が開く。そこから、何十枚もの紙が飛び出した。
【魔王軍被害一覧】
【神速攻撃による訓練休暇申請】
【魔王城再生成による備品損害】
【勇者Lv1突撃による現場混乱】
【死亡ログ無断利用疑惑】
【ログル端末同期異常記録】
ゼルドさんが腕を組んで言う。
「神々よ。余は魔王である。ラスボス役を担うこと自体に異議はない。だが、毎回世界ごと職場を再生成され、部下の記憶も勤務表も崩れるのは別問題だ」
「魔王さん、勤務表って言った」
「重要だ」
アドミニスは、にこにこと笑っている。
「いやあ、仕様って言えばだいたい済むと思ってたんだけど」
「済まないよ!?」
「でも勇者ちゃん、死んでも次があるし」
「その次に行くのが痛いし怖いしレベル戻るし持ち物落とすんだよ!」
「そこはローグライクっぽく」
「ジャンルで人の死を片付けるなあああああああああ!」
会議場の床が赤く点滅した。
【警告:発言音量過多】
【次回大声時、行動二回分として処理】
わたしは口を両手で押さえた。
「んんんんん!」
「勇者様、我慢できてえらいです」
「んんんんんんんん!」
神様会議場、危険すぎる。
宝箱より危険だ。
【今回の勇者ステータス】
現在地:特殊ダンジョン【神様会議場】第一議場
累計死亡回数:106回
神様会議場内死亡回数:2回
クラス:【死因学者】
クラス兆候:【時読み】
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【死因ログ参照 Lv.2】
【総合盤面確認 Lv.1】
【危険察知 Lv.4】
【射線確認 Lv.3】
【罠感知 Lv.3】
【未識別警戒 Lv.4】
【一フレームの神様 Lv.1】
【同意ボタン警戒 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【会議前確認 Lv.1】
死亡ログ追加:【発言権が刺さった】
【登場人物紹介】
アドミニス:
主神。仕様で済ませようとするクソ運営。今回は笑顔のまま追い詰められ始める。
ミネル:
知識神。発言権クリスタル方式を説明してくれるが、まず方式が危険。
ベル:
発言権を正式取得した有能秘書。小石で落とした発言権でも、書類の力で正規手続きにする。
ゼルド:
勤務表を大事にする魔王。まとも。
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