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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第14章 神々の実装ミス会議

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同意ボタンは踏むな

神様会議場へ入ります。

入口から規約です。

同意ボタン、だいたい罠。


 神様会議場の入口は、やけに清潔だった。


 白い大理石の床が、まっすぐ奥へ伸びている。左右には金色の柱が並び、天井にはふわふわした雲みたいな光が浮いていた。普通なら神聖だと思うところだ。


 でも、わたしはもう、普通の白い床を信用しない。


 白い床ほど、落ちる。きれいな扉ほど、噛む。親切な説明ほど、小さい文字がある。


 ログルが肩の上で、そっと前足を上げた。


「勇者様。足元にマス目が出ています」

「会議場なのに?」

「はい。完全に特殊ダンジョンです」

「会議しようよ! ダンジョンじゃなくて!」


 入口の前には、丸い光の台座があった。


【会議参加規約に同意する】


 台座の中央で、青いボタンがぷかぷか光っている。押せと言わんばかりの位置だ。押すなと言われても押したくなる、悪い意味で完成度の高いボタンだった。


 後ろでは、魔王ゼルドさんが黒いマントを整えている。ベルさんは分厚い書類鞄を抱え、すでに戦闘態勢みたいな目をしていた。


「勇者よ、押すな」

「押さないよ。わたしだって学習してるもん」

「勇者様、その右手」

「押してない! まだ近づいただけ!」


 右手が勝手に伸びていた。


 光るボタンってずるい。宝箱ほどではないけど、ちょっと押したくなる。しかも入口だ。押さなきゃ入れない気がする。


「ちょっとだけなら」

「勇者様」

「先っぽだけ」

「同意に先っぽはありません」


 ログルの注意が終わる前に、わたしの指がボタンへ触れた。


 床から細かい文字が噴き出した。


【神速攻撃による死亡は自己責任です】

【未識別仕様の事故は勇者側の検証不足です】

【魔王軍被害は演出上の都合です】

【ログル型解析端末は必要に応じて初期化される場合があります】

【死亡ログは二次利用される場合があります】

【上記すべてに同意します】


「同意しなああああああああああい!」


 叫んだ瞬間、青いボタンが赤くなった。


【同意確認完了】


「完了するなああああああああああああ!」


 床が抜けた。


【死亡ログ】

【死因:小さい文字を読まずに同意した】

【評価:現実でも危険】

【累計死亡回数:105回】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 死神ネムさんは、受付カウンターに小さな札を置いていた。


【神様会議場出張受付】


「出張しなくていい!」

「需要が高そうなので」

「会議場で死亡受付の需要を見込まないで!」


 ネムさんは半分寝た目で、同意書の写しを差し出した。


「小さい文字、読んだほうがいいですよ」

「読める大きさで書いて!」

「神様側の規約は、だいたい小さいです」

「神様ァ! 大事なことほど大きく書けえええええ!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 再挑戦。


 今度は、ボタンから三マス離れて止まった。


 ベルさんが前へ出る。眼鏡の奥の目は、もはや戦士の目だった。


「勇者様、お任せください。こういうものは、押す前に全文を読みます」

「全文って、どれくらい?」

「床面、壁面、天井、雲の裏側、ボタンの側面、あと空気中の光粒子に書かれております」

「読ませる気ないじゃん!」

「ですので、読むのです」


 ベルさんは指を鳴らした。


 魔王軍資料室から、黒い紙の鳥が何羽も飛び出す。紙の鳥は壁や天井に散り、小さい文字を写し取って戻ってきた。


 ゼルドさんが眉間を押さえる。


「余の魔王軍法務部を呼べ」

「魔王さん、法務部あるの?」

「ある。神々対策で増員した」

「魔王軍、近代的!」


 ログルの宝石が、台座の下を照らした。


「勇者様。ボタンの裏に別選択肢があります」

「裏?」

「はい。【異議申し立て】です」


 青いボタンの下、台座の影に、ものすごく小さい黒いボタンがあった。


【異議申し立て】


 わたしは膝をつき、ボタンを見た。


「小さい! 異議が小さい!」

「神様側の設計思想が出ていますね」

「悪い設計思想!」


 ベルさんが規約を読み上げる。


「異議申し立てを押した場合、参加者分類が【勇者代表】から【共同被害申立人】へ変更されます。神様側は発言制限をかけられますが、会議場の罠は解除されません」

「罠は残るんだ」

「会議場ですので」

「だから会議場に罠を置くな!」


 今度は、わたしは押さなかった。


 ベルさんが正式な手順で異議申し立てボタンを押す。台座が低くうなり、入口の扉に文字が浮かんだ。


【参加分類変更】

【勇者コヨリ:共同被害申立人】

【魔王ゼルド:共同被害申立人】

【ベル:証拠資料提出者】

【ログル:解析補助/同期監視対象】


 最後の文字に、わたしは目を細めた。


「ログル、同期監視対象ってなに」

「神様側から見ると、ぼくは元端末です」

「元ってつけて。元!」

「その主張は、会議内で行う必要があります」


 わたしは黒いボタンをにらみつけた。


 同意ボタンは踏まない。


 小さい文字は読む。


 そして、ログルは渡さない。


「よし。行く」

「はい」

「神様に文句を言う。正式に。全力で。大声で」

「会議場内では、大声が行動判定される可能性があります」

「じゃあ小声でキレる」

「それがよろしいかと」


 扉が開いた。


 向こうには、白い円卓が浮かぶ巨大な空間が広がっていた。


 床には、議題タイル。


 天井には、承認印。


 壁には、議事録。


 そして奥には、神様たち。


 わたしは小声で言った。


「もう帰りたい」

「会議はまだ始まっていません」

「始まる前から帰りたい会議ってなに......」

【今回の勇者ステータス】


現在地:特殊ダンジョン【神様会議場】入口

累計死亡回数:105回

神様会議場内死亡回数:1回

クラス:【死因学者】

クラス兆候:【時読み】

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】


【死因ログ参照 Lv.2】

【神様報告遅延 Lv.1】

【総合盤面確認 Lv.1】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.4】

【一フレームの神様 Lv.1】

【シード差分確認 Lv.2】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:【小さい文字を読む Lv.1】

新規獲得:【同意ボタン警戒 Lv.1】

死亡ログ追加:【小さい文字を読まずに同意した】


【登場人物紹介】


コヨリ:

押すなと言われたボタンを押した幼女勇者。押したい形のボタンを置く神様が悪い。


ベル:

規約全文を読む女。魔王軍法務部とセットで強い。


ゼルド:

魔王なのに法務部を持っている苦労人。神様対策で組織が近代化している。


ネム:

会議場出張受付担当。出張しないでほしい。


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