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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第14章 神々の実装ミス会議

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八百ページ説明書は武器じゃない

一フレーム道場の次は説明書です。

知識神ミネル、物理で来ます。

勇者、読書で死にます。

 拠点に戻った瞬間、わたしは床に座り込んだ。


 一フレーム道場の畳の匂いが、まだ鼻の奥に残っている。秒針天使ティックの羽音も、翼の影も、見えない矢が飛ぶ前の空気の震えも、体のどこかに引っかかったままだ。


 死んだ。


 いっぱい死んだ。


 でも、最後は勝った。


【一フレームの神様 Lv.1】

【帰還因子:時間 欠片反応】


 ログルの宝石に浮かぶ文字を見て、わたしは少しだけ胸を張った。


「ログル。わたし、ちょっとかっこよくない?」

「はい。最後の一手は非常に見事でした」

「でしょ」

「ただし、その前に開始挨拶の笑顔を見て死亡しています」

「そこは思い出さなくていい!」


 言い返したところで、拠点の天井から白い光が落ちてきた。


 光は紙束の形になり、空中でびしっと整列する。表紙には金色の文字で、ものすごく嫌な題名が浮かんでいた。


【一フレーム干渉および時属性帰還因子に関する説明書】

【全八百ページ】

【知識神ミネル監修】


 わたしは、表紙を見ただけで後ろへ下がった。


「ログル。逃げよう」

「まだ一ページも読んでいません」

「八百ページって書いてある時点で敵だよ!」

「敵ではありません。説明書です」

「説明書が敵じゃない保証、どこにあるの!」


 答える前に、説明書がふわりと持ち上がった。


 ページの端から、小さな眼鏡マークが光る。


『勇者コヨリさん。知識神ミネルです。おめでとうございます。時属性への接触を確認しましたので、理解を深めるための詳細資料を送付します』


 声は丁寧だった。


 けれど、紙束は分厚かった。辞書より厚い。鍋のふたより強そうだ。幼女に向けて落とすには、完全に武器判定の物体だった。


「理解を深める前に、床がへこむ量なんだけど!」

『大丈夫です。物理的にも重厚な内容です』

「今、物理って言った!?」


 説明書が、すとんと落ちてきた。


 わたしは一フレームの神様で影を見る。見た。見えた。落下の前兆は、表紙の角が少しだけ傾くところだ。


 避けられる。


 そう思った瞬間、足がもつれた。道場帰りの体が、まだ緊張で固い。短剣の鞘が椅子に引っかかり、わたしの体は半歩しか動かなかった。


「ぎゃっ」


 白い部屋が暗転した。


【死亡ログ】

【死因:八百ページ説明書を頭で受け止めた】

【評価:説明は重い】

【累計死亡回数:104回】


 死神ネムさんの受付に座ったわたしは、カウンターに両手を置いて訴えた。


「読書死ってなに!?」

「今回の分類は読書死ですね」

「本は読むもので、当たるものじゃないよ!」

「知識神ミネル様の本は、たまに当たります」

「当たるなああああああああああああああ!」


 ネムさんは眠そうに帳面をめくり、小さく判を押した。


「死亡受付番号、またコヨリさんです。説明書による打撲系は、過去にも神様職員が何名か」

「神様職員も死んでるの!?」

「労災ですね」

「神様側も書類で死ぬな!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 戻ったわたしは、説明書の真下に立たなかった。


 ログルが反省会テーブルに地図ではなく、落下予測線を描く。ベルさんは魔王軍資料室から黒い窓を開き、眼鏡をきらりと光らせていた。


「勇者様。説明書は、まず目次と索引です」

「いきなり本文に殴られたんだけど」

「物理的な本文は避けてください」

「本文ってそういう意味じゃない!」


 ベルさんは涼しい顔で続けた。


「魔王軍では、知識神ミネル様の書類は必ず二名以上で受け取ります。一名が読む担当、もう一名が潰された場合の救助担当です」

「危険物扱い!」

「危険物です」


 ログルが、説明書の端を前足で押した。


「勇者様。今度は影が動いた時点で右へ。紙束の落下判定は、表紙ではなく背表紙側に寄っています」

「説明書にも当たり判定あるの、もうダンジョンだよ」

「はい。これは説明書型の特殊ダンジョンかもしれません」

「本棚に帰って!」


 一手。


 説明書の影が揺れた瞬間、わたしは右へ転がった。紙束はどすんと床に落ち、白い床に四角いへこみを作る。


 その衝撃でページが勝手に開いた。


【目次】

第一項 一フレーム干渉について

第二項 時属性帰還因子について

第三項 神速攻撃の責任区分について

第四項 神々の実装ミス会議について

第五項 勇者側からの異議申し立て手順について


 わたしは第四項で指を止めた。


「神々の実装ミス会議?」

「嫌な文字列ですね」

「神様、自分で実装ミスって言ってるじゃん!」

「目次に出ている以上、完全には隠せなかったようです」


 ベルさんが資料室側で、すでに別の書類を積んでいた。


「魔王軍も参加申請済みです。勇者様、こちらは共同被害申立人として出席できます」

「会議って、座って話すやつ?」

「神様側の会議場ですので、座るまでに三回ほど罠がある可能性があります」

「会議場に罠置くなあああああああああああ!」


 説明書の最後のページが、勝手にめくれた。


【接続先:神様会議場】

【分類:特殊ダンジョン】

【推奨持ち物:異議申し立て、眠りの巻物、魔王軍法務部】

【死亡受付:常設】


 わたしは真顔になった。


「死亡受付、常設しないで」

「需要があるのでしょう」

「会議で死ぬ需要ってなに!?」


 ログルは少しだけ宝石を曇らせて、それでもわたしの隣に立った。


「行きましょう、勇者様。神様の仕様を、今度は正面から見に行く番です」

「正面は嫌だなあ。罠ありそう」

「あります」

「あるって言った!」


 それでも、わたしは説明書の表紙を開いた。

 八百ページの先にあるのは、神様会議場。


 そして、たぶん。

 わたしを元の世界へ帰さない理由の、もう少し奥だ。


【今回の勇者ステータス】


現在地:拠点/説明書接続前

累計死亡回数:104回

神様会議場内死亡回数:0回

クラス:【死因学者】

クラス兆候:【時読み】

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】


【死因ログ参照 Lv.2】

【死亡ログ改ざん Lv.1】

【神様報告遅延 Lv.1】

【総合盤面確認 Lv.1】

【危険察知 Lv.4】

【射線確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.4】

【一フレームの神様 Lv.1】

【帰還門感知 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:なし

死亡ログ追加:【八百ページ説明書を頭で受け止めた】

次回接続:【神様会議場】


※表示は主要スキルのみです。過去の下位スキルは統合済み・内部保持されています。


【登場人物紹介】


コヨリ:

説明書に物理で負けた幼女勇者。本は読むものだが、神様の本は落ちてくる。


ログル:

説明書を敵か資料かで迷っている解析神獣。たぶん両方。


ミネル:

知識神。説明は丁寧だが、八百ページを幼女に落とす。


ベル:

魔王軍秘書。説明書を危険物扱いしているあたり、実務経験が深い。


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