死因図鑑室、開館しました
死因図鑑室、開館。
自分の死に方が展示されています。
ぜんぜんうれしくないです。
扉の前で、腕を組んだ。
【死因図鑑室】
入りたくない。ものすごく入りたくない。だって名前がもう嫌だ。お化け屋敷より嫌だ。お化け屋敷はお化けが出るだけだけど、ここはわたしの死に方が出るんだもん。
「ログル。本当に入らなきゃだめ?」
「はい。勇者様の生存率向上に必要です」
「でも、わたしの心の生存率が下がるよ?」
「そこは、がんばってください」
「急に根性論!」
扉を開けると、中は図書館みたいだった。白い棚、木の机、壁いっぱいのカード。空気は静かで、ちょっと神聖......ではなく、学校の先生に反省文を読まれる前みたいな空気だった。
壁の一番上に、カードが四枚並んでいる。
【黒狼による初見殺し】
【角ウサギ接触後、転落】
【宝箱を二度見したら噛まれた】
【罠で飛ばされて崖下へ】
「わたしの黒歴史博物館じゃん!」
「死因は恥ではありません。次に死なないための地図です」
「でも展示の仕方が公開処刑!」
カードに触れると、絵が浮かんだ。黒狼の飛びかかり方。角ウサギの突進距離。ミミックのふたの角度。バネ床の見分け方。嫌だけど、わかりやすい。
カードの下に小さな評価欄がある。
【黒狼:正面から見ない】
【角ウサギ:横移動を覚える】
【ミミック:かわいい箱ほど疑う】
【バネ床:草地のくせに硬い場所は踏まない】
「評価がわかりやすいけど、言われると腹立つ!」
「再発防止メモです」
「学校の先生みたい! しかも正しいからもっと腹立つ!」
ミミックのカードだけ、なぜか口をぱくぱく動かしていた。
「カードになっても噛もうとするな!」
「再現度が高いですね」
「高くしなくていい!」
「うわ......これ、ちゃんと役に立つ」
「はい。勇者様の痛みを、次の攻略情報に変換しています」
「言い方は重いけど、やってることは攻略本だ」
部屋の中央に、大きな作戦ボードが現れた。
【現在の基本状態】
【開始時:Lv1/HP15】
【死亡時:シード内レベル・未登録品ロスト】
【保存:死因ログ/スキル/拠点施設/識別情報】
【基本スキル:一手一動】
「保存されるもの、思ったより少ない!」
「ですが、重要なものは残ります」
「命と装備も重要なんだけど!?」
【シード004傾向】
【偽装宝箱:多】
【小型罠:多】
【足元事故:多】
【推奨:罠確認/遠距離確認/未識別品の鑑定】
【勇者様の弱点:好奇心】
「最後! わたしの弱点を勝手に書くな! でも否定しきれないのが悔しい!」
「足元事故多すぎ! わたしの足、そんなに狙われてるの!?」
「かなり狙われています」
「やめてよ! 足は二本しかないんだよ!」
ボードの隅に、薄く光る別の項目があった。
【初期村ミルカ/少年カイ/木剣提供】
【シード004/少年カイ/宝箱情報】
カイの名前。前は木剣をくれた。今回は宝箱情報をくれた。顔は同じなのに、わたしのことは覚えていない。
「ログル。同じ子なのに、同じじゃないんだね」
「同じ魂の原型が、シードにより別の役割を持つ可能性があります」
「難しい言葉でごまかした」
「今は、同じ人に見えても毎回同じとは限らない、で十分です」
胸の奥が、ちょっとだけしんとした。死ぬと世界が変わる。わたしだけが、前のことを覚えている。だから、忘れない場所が必要なのかもしれない。
ログルが、わたしの足元に座った。
「この部屋は、勇者様が失ったものを、ただの失敗で終わらせないための部屋です」
「......それ、先に言ってよ。ちょっとかっこいいじゃん」
「では、記録名を変更しますか?」
「え、できるの?」
「はい」
「じゃあ【わたしを次に死なせない部屋】」
「長いです」
「じゃあ【死因図鑑室】でいいです!」
悔しい。名前が強い。
その時、天井に神様コメントが表示された。
【死因図鑑室、開館おめでとう!】
【どんどん埋めていこう!】
「埋める前提で言うなあああああああああああああ!」
作戦ボードに木剣を向けた。
「いい? この部屋は、死ぬためじゃない。死なないために使うの!」
「その通りです」
「まずは宝箱! 次に見つけたら、近づかない! つつかない! 開けない!」
「最後が一番重要です」
「でも中身はちょっと気になる!」
「そこが一番危険です」
ログルが、ほんの少しだけ目を細めた。
「ぼくとしては、空欄のままの死因が増える方がよいです」
「ログル......」
「ただし、勇者様の欲による事故は予測困難です」
「感動返して!」
最後に、作戦ボードの端に自分で大きく書いた。
【宝箱はまず疑う】
【床はまず疑う】
【神様はだいたい疑う】
「三つ目、かなり大事」
「はい。生存率が上がります」
「ログルが否定しないの、神様に怒られない?」
「まだ報告していません」
「えっ、ちょっと悪い子!」
「解析上、必要な沈黙です」
「言い方かっこいい!」
【暫定ビルド:小石逃げ撃ち/床疑い型】
「名前が弱そう!」
「生存率は上がります」
「じゃあ強いね!」
こうして、拠点に死因図鑑室ができた。いやな名前だけど、これはたぶん、わたしが帰るための一冊目の地図だ。
【今回の勇者ステータス】
クラス:勇者
保有スキル:【恐怖耐性 Lv.1】【黒狼の爪筋回避 Lv.1】【死ぬ前に一言ツッコむ】【足元確認 Lv.1】【小型敵警戒 Lv.1】【転び慣れ Lv.1】【ミミック警戒 Lv.1】【罠の匂い Lv.1】
拠点施設:【椅子】【死因メモ】【死因図鑑室】
死亡回数:3
【登場人物紹介】
・死因図鑑室:黒歴史博物館ではありません。攻略本です。わたしの死を攻略情報に変換します。名前は最悪です。でも重要です。
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