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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第2章 解析神獣ログルと死因図鑑

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その宝箱、呼吸しています

宝箱を見つけました。

ログルは止めました。

勇者は聞きませんでした。


 光が晴れると、そこはまた初期村ミルカだった。青い空、木の柵、小さな畑、遠くに森。前と似ているけど、全部が少しずつ違う。村の入口には、前になかった立て札が刺さっていた。


【森に落とし物多し】

【拾得物は自己責任】

【苦情は神様へ】


「最後の行いらない! 村の人も神様に丸投げしてるじゃん!」


 近くのおじいさんが、畑の土をならしながら言った。


「勇者さま、森の物はよう見てから拾いなされ。昨日は鍬が鍬のふりをした蛇じゃった」

「鍬が蛇!? もう道具も信用できない!」

「ちなみに蛇のふりをした鍬もありました」

「ややこしい! 神様、工作の時間やり直して!」


 肩のログルが、額の宝石を光らせる。


「このシードは、偽装物と小型罠が多いようです」

「偽装物ってなに?」

「宝箱に見える敵。薬草に見える毒草。安全に見える床などです」

「全部じゃん! この世界、見た目を信用しちゃだめなやつじゃん!」


 村の中で、前に木剣をくれたカイが走ってきた。でも目が合っても、わたしのことを覚えていない。胸が少しだけ、ちくっとした。


「勇者さま! 森で宝箱を見たよ!」

「宝箱!」


 足が止まった。目が勝手に輝いた。


「勇者様。その顔は、だいたい死因になります」

「まだ何もしてない!」

「今、心の中で開けました」

「ログル、心を読むな!」


 薬草採取のはずなのに、頭の中は宝箱でいっぱいだった。だって宝箱だよ。ゲームで宝箱を無視するなんて、目の前のプリンを見て素通りするくらい難しい。


 森の浅い場所に、それはあった。小さな木箱。金色のふち。赤い宝石みたいな飾り。どう見ても宝箱。


「ログル、見て。宝箱」

「勇者様。その宝箱、呼吸しています」

「宝箱は呼吸しないよ?」

「なので、宝箱ではありません」

「でも、宝箱かもしれない!」

「今のは希望ではなく欲です」

「欲じゃない! 確認! 勇者の確認作業!」


「勇者様。今なら、まだターンは進んでいません」

「ターン?」

「開ける、つつく、近づく。どれも行動です」

「じゃあ、見てるだけなら?」

「まだ安全です」

「じゃあ見てる!」

「ただし、勇者様の目がすでに開けています」

「目の欲を行動判定しないで!」


 だが私は、木剣の先で、箱をつんつんした。箱は動かない。


「ほら! 大丈夫そう!」

「待ってください。大丈夫そう、はこの世界で一番危険な言葉です」

「じゃあ、ちょっとだけ開ける。ちょっとだけならセーフ!」

「噛まれる時に、ちょっとだけはありません」

「うるさいなあ! わたしだって学習してるもん!」


 宝箱に手をかけた。ふたが開いた。中には、金貨ではなく、ぎっしり並んだ歯があった。


「ぎゃあああああ! 歯医者さんの悪夢!」


 宝箱が腕に噛みついた。痛い。重い。振り回される。


「ログル! これ宝箱じゃない!」

「先ほど申し上げました」

「もっと大声で言って!」

「その宝箱は呼吸しています!」

「今じゃないいいいいいいいい!」


 木剣で箱を叩いた。ミミックは離れない。足をばたばたさせながら後ろへ下がる。


「右足、危険です」

「え?」


 かちん、と足元で音がした。次の瞬間、床みたいに見えていた草地が跳ねた。


「なんで森にバネ床があるの!」


 体が空に飛んだ。ミミックも一緒に飛んだ。すごく嫌な二人乗り。しかもミミックは、まだ腕を離していない。空中で宝箱と目が合う。宝箱に目はないけど、すごく見られている気がする。


「なんでわたし、宝箱と空の旅してるの!?」

「勇者様の選択結果です」

「言い方が通知表みたいでむかつく!」

「勇者様、着地点に崖があります」

「実況しないで助けてえええええええええ!」


 空と森がぐるぐる回る。最後に見えたのは、ログルの額の宝石が赤く光るところだった。


 暗転。


 目を開けると、黒い受付机の向こうに死神ネムがいた。


「死亡受付番号、またコヨリさんですね」

「常連ポイントカードみたいに言わないで!」


 ネムは眠そうに紙を読み上げる。


【死因:宝箱を行動消費して開けた】

【追加死因:叫びながら後退し、罠を踏んだ】

【評価:欲と足元が同時に負けました】


「行動消費してないもん! 確認! 勇者確認!」


 横でログルが静かに言った。


「確認にしては、目が金貨の形でしたけど」

「そんな目してない!!」


【解放スキル:ミミック警戒 Lv.1】

【解放スキル:罠の匂い Lv.1】


 白い拠点に戻ると、壁に新しい扉が出現していた。札には、こう書かれている。


【死因図鑑室】


「自分の死に方をコレクションする部屋?」

「はい。かなり重要施設です」

「最悪なのに重要なのやめて!」


 ログルは扉の前に座り、尻尾を揺らした。


「勇者様。次は、宝箱を見る前に、まず呼吸を確認しましょう」

「宝箱の呼吸ってなに!? 水の呼吸みたいに言わないで!」


 こうしてわたしは、宝箱に夢を見る心を少し失った。少しだけ。

【今回の勇者ステータス】

クラス:勇者

保有スキル:【恐怖耐性 Lv.1】【黒狼の爪筋回避 Lv.1】【死ぬ前に一言ツッコむ】【足元確認 Lv.1】【小型敵警戒 Lv.1】【転び慣れ Lv.1】【ミミック警戒 Lv.1】【罠の匂い Lv.1】

拠点施設追加:【死因図鑑室】

死亡回数:3


【登場人物紹介】

・ミミック:宝箱のふりをしています。呼吸しています。歯がびっしりあります。かわいくないです。


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