白い部屋に、変な生き物が生えた
死後拠点に新しい仲間が追加されました。
かわいいです。
でも口が悪いです。
白い部屋に、椅子がひとつ。壁には、小さな指で書いた文字が残っていた。
【帰る】
うん。大事。そこだけは絶対に消えていない。
「よし。次こそ死なない。黒狼も角ウサギも、今度会ったら遠くから石を投げる。勇者だけど石を投げる。安全第一!」
わたし、天野こより。見た目は八歳くらい。職業、勇者。現在の戦績、二回死亡。もういやだ。勇者ってこんなに早く死ぬ仕事なの? 入社初日に二回労災って、会社なら新聞に載るよ?
椅子から立ち上がった瞬間、部屋の床がぽこんと鳴った。
「ぽこん?」
床から白い台座が生えた。生えた。畑の大根みたいに。
「いやいやいや! 床から家具が生えるな! びっくりするでしょ!」
台座の上には、丸い毛玉が乗っていた。白い小狐みたいで、フェレットみたいで、リスみたいで、額に虹色の宝石がついている。ぴくぴく動く耳。ふわふわの尻尾。正直、かわいい。
「......かわいい」
毛玉が目を開けた。
「解析神獣ログルです。勇者様の死亡ログ、シード差分、未識別品、罠反応などを補助します」
「しゃべった! かわいいのに事務員みたい!」
ログルは前足をそろえて、ぺこりと頭を下げた。礼儀正しい。これは当たりサポートかもしれない。
「よかった! まともな仲間だ! 神様、やればできるじゃん!」
ログルの額の宝石が光った。
【死因:黒狼による初見殺し】
【死因:角ウサギ接触後、転落】
【総評:警戒心はありますが、足元と横方向に弱いです】
「初対面で人の死に方を読むなあああ!」
「申し訳ありません。神様から、勇者様は死亡ログで伸びるタイプだと聞いています」
「言い方! わたしは朝顔じゃない! 死んだら伸びる植物じゃない!」
その時、天井から軽い声が降ってきた。
【やあ勇者ちゃん! 便利な解析ペットを送っておいたよ! これで死亡ログ管理も快適だね!】
「神様ァ! 快適に死にたくないんだけど!」
ログルは宝石の光を消し、わたしを見上げた。
「ぼくは、神様支給の補助端末です。勇者様の生存率向上を目的としています」
「補助端末って、自分で言って悲しくない?」
「今は、そういう機能です」
今は。なんだか、その言い方だけ、少し引っかかった。
しゃがんで、ログルの目線に合わせる。
「じゃあログル。あなた、わたしをすぐ殺す神様側? それとも、死なないようにしてくれる側?」
「記録上は神様側です」
「うわ、正直!」
「ですが、勇者様の目的は魔王討伐ではなく、帰還だと判断しました」
ログルは、わたしにこの世界のルールを改めて教えてくれた。
1.勇者が動くと敵も動く
2.考えるだけなら基本ターン消費なし
3.ただし選べる行動は一手
4.大声・攻撃・移動・アイテム使用は行動扱い
「じゃあ、ずっと考えてたら無敵なの!?」
「満腹度が減ります」
「考えるだけでお腹減るの!? 宿題じゃん!.あ.....ローグライクかこれ!」
ログルは壁を見る。わたしが書いた【帰る】の文字。
「優先記録を更新します。勇者様の主目的は、元の世界への帰還。死亡ログより上位に置きます」
「......そこ、ちゃんと覚えてくれるんだ」
「はい。死亡理由より、大事そうでしたので」
胸の奥が、ちょっとだけ熱くなった。そっと、ログルの頭に指を伸ばした。
「なでてもいい?」
「解析中の接触は非推奨です」
「じゃあ解析してない時なら?」
「......短時間なら、許可します」
「今、ちょっと照れた! かわいい!」
「照れていません。宝石の温度上昇は仕様です」
「出た! 都合が悪いと仕様!」
指先でふわふわの毛をなでると、ログルの尻尾が一回だけ揺れた。本人はすごく真面目な顔をしている。そこがまた、ずるい。神様は軽い。世界は雑。わたしは弱い。でも、この小さい白い生き物は、少なくとも【帰る】を一番上に置いてくれた。
「よし。ログル、相棒ね」
「相棒登録は、まだ権限がありません」
「空気読んで! 今いい感じだったよ!」
「申し訳ありません。感動処理は未実装です」
「感動に実装とか言うな!」
ログルの宝石が、少しだけ赤く光った。
「次のシードに危険反応があります。このシード、あまり親切ではありません。足元をよく見てください」
「足元ね。わかった。足元確認、超大事。小学生でもわかる。廊下は走らない。異世界は踏まない」
「勇者様、後半が不穏です」
「不穏なのは世界の方!」
ログルは小さな前足で、わたしの木剣をこんこん叩いた。
「装備確認。木剣一本。小石袋なし。防具なし。食料なし」
「言わないで! 遠足の持ち物チェックなら先生に怒られるやつ!」
「次回から小石袋を推奨します」
「勇者の必需品が小石袋なの、かなしい!」
白い部屋の床に、光の輪が開く。また、あの世界へ行く時間だ。
木剣を握り、ログルを肩に乗せた。
「次こそ、薬草を採って帰る。死なないで。普通に。ちゃんと。小学生でもできるおつかいみたいに!」
「勇者様。普通のおつかいに黒狼は出ません」
「だからこの世界がおかしいんだよおおおおおおおおおお!」
叫びながら、三回目の異世界へ落ちた。
【今回の勇者ステータス】
クラス:勇者
保有スキル:【恐怖耐性 Lv.1】【黒狼の爪筋回避 Lv.1】【死ぬ前に一言ツッコむ】【足元確認 Lv.1】【小型敵警戒 Lv.1】【転び慣れ Lv.1】
死亡回数:2
新規登録:解析神獣ログル
【登場人物紹介】
・解析神獣ログル:白くてふわふわで、額に虹色の宝石があります。感動処理は未実装です。でも尻尾は揺れます。そういうところがずるいです。
ログルが仲間に加わった今回、楽しんでいただけましたか?ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると、ログルの尻尾が揺れます(たぶん)!




