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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第13章 一フレームの神様

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先撃ちの審判者

敵は、動いたあとではなく動く前を狙ってきます。

場所替えも万能ではありません。

床は、移動先でも床です。

 長い廊下の先に、白い影が立っていた。


 人の形をしているが、顔は布で隠れている。弓は細く、矢は光でできていた。廊下の床には、一直線に赤い射線が浮いている。今までなら、射線に入らない。壁を使う。小石で誘導する。それで何とかしてきた。


 けれど、今回は違う。


 白い影は、コヨリが一歩踏み出す前から、もう矢を置いている。


【中級一:先撃ちの審判者】

【注意:動こうとした気配に反応します】


 コヨリは廊下の入口でしゃがみ込んだ。


「ログル、これずるい」

「はい」

「まだ動いてないのに撃つ気でいる」

「先撃ちです」

「名前通りだけど、名前通りに嫌!」


 廊下の左側には細い壁、右側には浅い溝。溝の奥には、見るからに怪しい転移札が落ちている。札には【場所替え】と書かれていた。親切すぎる。絶対に何かある。


「場所替えの札」

「ありますね」

「使えば後ろに回れる?」

「可能性はあります。ただし、場所替え先も床です」

「名言みたいに言わないで」

「かなり重要です」


 壁の木札にも、追い打ちのように文字が浮かんだ。


【場所替え先も床です】


「道場まで同じこと言ってきた!」

「よほど大事なのでしょう」

「分かったよ! 床は全部床!」


 手持ちは、小石一つ、壁生成の杖一回、場所替えの札一枚。眠りの巻物は使い切った。小盾は監査済の文字が残っているが、まだ使える。HPは満タン。満腹度は減っている。考えるだけでもお腹が鳴りそうだ。


 審判者の弓が、ほんの少しだけ傾いた。


 コヨリは動いていない。


 それなのに、矢の先がこちらの右足を追う。


「足を出す気配、見られてる?」

「はい。筋肉の動き、重心、視線、呼吸。おそらく、その前兆に反応しています」

「わたしの呼吸まで攻撃対象!?」

「息を止めすぎると判断が鈍ります」

「息しても死ぬし、止めても死ぬ!」


 コヨリは場所替えの札を見た。


 札を使う。審判者と位置が替わる。背後を取れる。だが、先撃ちなら、場所替え先に先に矢が置かれているかもしれない。床は床。移動先も危険。あの木札がしつこく言うくらいだ。きっと死ぬ。


 でも、一度は試す必要がある。


「ログル」

「はい」

「死ぬ前提じゃなくて、確認前提」

「表現は大切です」

「場所替え札、使う」

「移動先の床を見てください」

「見たいけど、場所替えしたあとに見たら遅いんだよね」

「はい」


 コヨリは札を構えた。審判者の足元を見る。影。床。弓の向き。審判者の後ろ、壁際に小さな白い点がある。あれが場所替え先に置かれる矢かもしれない。


 札を使う。


 一手。


 景色が反転した。


 コヨリは審判者の後ろに立っていた。


 同時に、足元の白い点が矢になった。


「やっぱり置いてあるううううううううう!」


【死亡ログ】

【死因:場所替え先に先撃ち矢が置かれていた】

【評価:場所替え先も床です】

【追記:木札は正しかった】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 道場入口。


 コヨリは復活するなり、壁の木札に向かって頭を下げた。


「木札さん、ごめんなさい」

「勇者様が木札に謝っています」

「正しかった! 場所替え先も床だった!」

「はい」

「でも言い方が腹立つ!」

「そこは同意します」


 ログルが先ほどの場所替えを宝石に再現する。審判者は、コヨリが札を使う前に、移動後の床へ矢を置いていた。コヨリの視線が札へ動いた時点で、場所替えを読む。札そのものが予兆になっていた。


「札を見ると読まれる」

「はい」

「じゃあ見ない」

「見ないと使えません」

「神様ァ! 目が足りない!」


 今度は、審判者ではなく壁を見る。左の壁は薄い。壁生成の杖で手前に壁を作れば、射線を切れるかもしれない。だが、壁を作る一手に反応して矢が来る。なら、矢が来る場所をずらす。


「右へ行くふり」

「はい」

「実際は動かない?」

「ふりだけが行動判定される可能性があります」

「ふりで死ぬの嫌!」

「小石なら、ふりを外部化できます」

「外部化って言うとすごいけど、小石を投げるだけだよね」

「はい。小石は偉大です」


 コヨリは小石を右の溝へ投げた。


 一手。


 小石が溝の中で跳ね、かん、と音を立てた。審判者の弓が、コヨリではなく音のした方向へわずかに揺れる。矢が右の床に置かれた。


「今!」

「杖です」


 コヨリは壁生成の杖を振った。


 一手。


 廊下の中央に土壁がせり上がる。矢は土壁に刺さり、光の粉になって消えた。審判者の弓が、一瞬だけ止まる。


 硬直。


 コヨリは走り出したくなる。だが走れば一手。審判者は次の矢を置く。なら、最短ではなく、矢を置きにくい場所を通る。


 壁ぎわ。影の薄いマス。床の白い点が出る前の、線がまだ細いところ。


 コヨリは一歩進む。


 一手。


 審判者が矢を番える。だが、土壁で射線が切れている。矢は壁をかすめて消えた。


 もう一歩。


 一手。


 今度は審判者が左へ動く。倍速ではない。だが、反応が早い。コヨリの呼吸が乱れた瞬間、矢が次の床に置かれる。


 コヨリは止まった。


 動かない。


 審判者も動かない。


 床の白い点だけが、まだ出ていない。コヨリは右へ行きたい顔をした。顔だけ。実際の重心は左。審判者の弓が、右へほんの少し傾く。


「今、顔で騙せた?」

「顔芸が戦術になりました」

「もっとかっこよく言って!」


 コヨリは左へ一歩。


 一手。


 矢は右の床に落ちた。コヨリの左足は安全マスに入る。審判者の弓が戻る。その戻りに、半拍の硬直。


 コヨリは監査済み小盾を投げた。


 一手。


 盾はまっすぐ飛び、審判者の弓を弾いた。白い弓が床に落ち、光の矢がぱちんと消える。審判者は、初めて顔の布を少し揺らした。


【中級一:通過】

【内部更新:発生前回避 Lv.1】

【内部更新:硬直読み Lv.1】


 コヨリはその場にへたり込んだ。


「顔芸で勝った......」

「主な勝因は、小石、壁生成、硬直読み、発生前回避です」

「顔芸は?」

「補助要素です」

「補助要素でもいい。顔もがんばった」


 審判者が消えた場所に、白い羽根が一枚落ちている。拾う前に、コヨリは周囲を見る。床。壁。天井。矢の白い点。何もない。


「拾っていい?」

「一手です」

「拾う前に周囲確認」

「良いです」


 コヨリは羽根を拾った。


 一手。


 何も起きなかった。


「何も起きないの、逆に怖い」

「報酬です」

「神様の報酬を信用するまで、あと百回くらいかかる」

「百回はもう死にました」

「そこ引っかけないで!」


 次の襖が、ゆっくり開いた。


 向こうは、道場の最奥らしい。畳の中央に、金色の輪が浮いている。輪の下には、小さな天使の影。羽音は軽く、秒針の音は鋭い。


 チッ。


 チッ。


 チッ。


「ログル」

「はい」

「あれが、最後?」

「おそらく、秒針天使ティック」

「名前はかわいい」

「この道場で、名前がかわいいものは危険です」

「もう学んだ!」

【今回の死亡ログ】


死亡1:

【死因:場所替え先に先撃ち矢が置かれていた】

【評価:場所替え先も床です】


【今回の勇者ステータス】


現在シード:拠点接続特殊ダンジョン【一フレーム道場】

累計死亡回数:102回

現在ダンジョン内死亡回数:8回

クラス:【死因学者】

クラス適性:【時読み】兆候強

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】


【死因ログ参照 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.1】

【危険察知 Lv.4】

【射線確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.4】

【予兆を見る Lv.1】

【硬直読み Lv.1】

【発生前回避 Lv.1】

【死亡ログ改ざん Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


内部更新:【発生前回避 Lv.1】

内部更新:【硬直読み Lv.1】

内部保持:【場所替え先確認】【顔芸による誘導】が追加


※表示は主要スキルのみです。下位スキルは統合済み・内部保持されています。


【登場人物紹介】


先撃ちの審判者:

動こうとした気配に反応して矢を置く敵。場所替え先にも置く。とても嫌。


コヨリ:

顔芸、小石、壁生成、硬直読みで突破した。顔もがんばった。


ログル:

「場所替え先も床です」を強く推した。木札と意見が一致。


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