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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第13章 一フレームの神様

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神様監査は、一瞬の迷いを狙ってくる

道場に神様監査が割り込みます。

監査はだいたい正義っぽい顔で邪魔をします。

ログル、少し危ないです。

 襖の向こうは、白かった。


 道場の畳でも、黒い石床でもない。拠点の白とも違う。もっと硬くて、目に刺さるような白だ。床のマス目は細く、線の一本一本が定規で引いたみたいにまっすぐだった。壁には文字が流れている。


【監査項目:死亡ログ送信遅延】

【監査項目:魔王軍資料室との外部接続】

【監査項目:勇者側予兆学習速度】

【監査項目:解析神獣ログルの報告品質】


 コヨリは、最後の一行で足を止めた。


「ログル」

「はい」

「これ、ログルのこと?」

「はい」

「監査って、怒られるやつ?」

「怒られるだけなら軽いほうです」

「軽くない答えやめて」


 ログルの額の宝石が、灰色に曇る。いつもの解析の光ではない。外から押しつぶされるみたいな、嫌な点滅だった。


 部屋の中央には、白い板が浮いている。板には目も口もないのに、なぜかこちらを見ている気がした。神様側の監査コード。生き物ではない。けれど敵だ。


【確認:死亡ログの送信に遅延を検出】

【確認:魔王軍記録領域への分岐を検出】

【修正:解析神獣ログルの報告経路を標準化します】


 ログルが、小さく息をのんだ。


「標準化ってなに」

「ぼくが神様側に送るログを、元の形式に戻す処理です」

「戻したら?」

「勇者様の拠点側ログと、神様送信用ログの分離が難しくなります」

「神様に全部見られる?」

「......はい」


 コヨリの胸が、かっと熱くなった。


「だめ」

「勇者様、足元を」

「ログルを勝手にいじるの、だめ!」


 大きな声を出しそうになって、コヨリは歯を食いしばった。声は一手になる。監査コードは、それを待っている。怒らせて、動かして、判断を鈍らせる。そういう顔をしている。顔はない。なのに腹が立つ。


 床のマス目の一部が、白く光った。


 光った場所ではない。次に動く場所を見る。魔法陣の訓練と同じだ。白い線の流れを追う。監査文字が流れるたび、床の右端に細い影が走った。


「右端」

「はい。ですが、同時に上からも来ます」

「上?」


 天井から、白い針のような文字列が降りてきた。槍ではない。矢でもない。監査項目そのものが、攻撃として降ってくる。コヨリは右端を避け、上を見て、ログルを見た。


 ログルの宝石に、小さな亀裂みたいな光が走った。


 見てしまった。


 床を見るべきだった。


 分かっていたのに、ログルを心配した。


 白い床の線が、コヨリの足元で閉じる。


【死亡ログ】

【死因:ログルを心配して床を見なかった】

【評価:心配は悪くありません。床も見ましょう】

【監査ログ:送信保留】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 道場入口に戻った瞬間、コヨリはログルを両手でつかんだ。


「ログル!」

「生きています」

「宝石! 割れてない!?」

「表面ノイズです。破損ではありません」

「ほんと?」

「ほんとです」

「嘘だったら怒る」

「嘘なら、ぼくも困ります」


 ログルはいつものように少し毒舌で、でも声が小さかった。


 コヨリは、ログルをぎゅっと抱きしめた。ふわふわの毛並みが頬に当たる。何度も死んで、何度も戻って、ログルはずっと記録してくれた。最初は神様側の端末だった。でも、今は違う。コヨリの相棒だ。


 勝手に戻されていいわけがない。


「勇者様」

「なに」

「強く抱きしめすぎると、別の死亡ログが増えます」

「ログルが?」

「主にぼくが」

「ごめん!」


 魔王軍資料室の小窓が、ぱちりと開いた。ベルの声だけが届く。


「勇者様、こちらで監査ログの一部を吸収します。魔王軍側の書類棚に、いったん分類不明案件として格納可能です」

「分類不明でいいの?」

「神様の監査書類など、だいたい分類不明です」

「ベルさん、強い」

「ただし長くは持ちません。監査コードを完全に止めることはできません」


 続いて、ゼルドの低い声が響いた。


「神々の書類は、後で余が燃やす。勇者は生きろ」

「魔王さん、燃やすって言った」

「正式な保管期間を終えた後に燃やす」

「急にちゃんとしてる!」


 ログルの宝石が少しだけ澄んだ。


「勇者様、次はぼくを見ないでください」

「無理」

「無理でも、見ないでください」

「だってログルが危ない」

「ぼくを見ると、勇者様が死にます」

「それも嫌」

「なら、床を見てください。ぼくは、声で言います」


 コヨリは唇を噛んだ。


「分かった。でも終わったら撫でる」

「それは歓迎します」


 再突入。


 白い監査部屋。流れる文字。中央の白い板。


【修正:解析神獣ログルの報告経路を標準化します】


 コヨリは板をにらまず、床を見た。


 右端の線が濃くなる。天井から文字列。左足元に小さな白い点。ログルが肩の上で短く言う。


「右、待って。上、次に左足」


 コヨリは心の中でうなずく。右へ行きたい衝動を止める。今、右へ逃げると、天井の文字列に当たる。なら、半歩後ろ。だが半歩は行動判定になる。マスとしては一歩だ。


 コヨリは小盾を床に置いた。


 一手。


 白い文字列が小盾に刺さり、盾の表面に【監査済】と焼きつく。盾は消えない。訓練用だからだ。よかった。持ち帰り品なら泣いていた。


「勇者様、左足」

 コヨリは左足を引く。


 一手。


 足元の白い点が針になって伸びるが、すでに足はない。針は空振りし、床に小さな穴を開けた。


 監査板が揺れる。


【異常:勇者側の発生前回避を検出】


「言い方が悪者!」

「声量」

「小声!」


 床の線が一斉に光る。今度は見えすぎる。全部光ると、逆に分からない。コヨリの視界が白に塗られ、ログルの声も遠くなる。


 その時、魔王軍資料室の黒い紙片が、部屋の隅にひらりと落ちた。ベルが投げ込んだ外部記録だ。白い監査文字が、一瞬だけそちらへ吸われる。黒い紙片には、ベルの字でこう書いてあった。


【神様監査コード:要再提出】


「ベルさん、書類で殴ってる!」

「勇者様、今です」


 コヨリは床を見る。


 白が全部消えたあと、最後に残る線が一本だけあった。監査板の足元から、コヨリの右斜め前へ伸びる線。発生前の核。


 コヨリは小石を投げた。


 一手。


 小石が線の根元に当たり、監査板の白が乱れる。板の表示が文字化けした。


【修正しmmmmm】

【報告けえええろ】

【監査項目:勇者の小石が不当】


「小石は正当!」

「通りました!」


 白い部屋が、ぱきんと割れた。


【初級五:通過】

【新規獲得:発生前回避 Lv.1】


 ログルの宝石に、同じ文字が浮かぶ。今度は曇っていない。


 コヨリはその場に座り込み、肩のログルをそっと撫でた。


「約束」

「はい」

「ログル、無事?」

「無事です」

「わたしも?」

「今回は生きています」

「今回はって言うなあ!」


 白い監査部屋の奥で、次の襖が開いた。


 そこには、まっすぐな長い廊下が見えた。廊下の突き当たりには、弓を持った白い影が立っている。影は、コヨリが動く前から矢を番えていた。


【中級一:先撃ちの審判者】


「先に撃つって書いてある」

「はい」

「こっちが動く前に撃つの?」

「おそらく、動こうとした気配に反応します」

「神様ァ! 心を読むな!」

「心ではなく、発生前動作です」

「どっちも嫌!」

【今回の死亡ログ】


死亡1:

【死因:ログルを心配して床を見なかった】

【評価:心配は悪くありません。床も見ましょう】

【監査ログ:送信保留】


【今回の勇者ステータス】


現在シード:拠点接続特殊ダンジョン【一フレーム道場】

累計死亡回数:101回

現在ダンジョン内死亡回数:7回

クラス:【死因学者】

クラス適性:【時読み】兆候強

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】


【死因ログ参照 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.1】

【危険察知 Lv.4】

【射線確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.4】

【予兆を見る Lv.1】

【硬直読み Lv.1】

【死亡ログ改ざん Lv.1】

【神様報告遅延 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:【発生前回避 Lv.1】

外部支援:【魔王軍資料室】監査ログ一部吸収

内部更新:【ログル保護優先】と【床を見る】の両立開始


※表示は主要スキルのみです。下位スキルは統合済み・内部保持されています。


【登場人物紹介】


監査コード:

神様側の白い管理処理。正義っぽい顔でログルを標準化しようとする。顔はないが嫌な顔をしている。


ベル:

書類で監査コードを殴った有能秘書。【要再提出】は強い。


ゼルド:

神々の書類を燃やす宣言をした魔王。なお保管期間は守る。


ログル:

監査対象。コヨリに「見ないでください」と言うが、終わった後は撫でられる。


コヨリ:

心配して死んだ。だが、心配を捨てずに床も見る方向へ一歩進んだ。


コヨリとログルの成功ログを増やしていきたいので、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

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