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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第13章 一フレームの神様

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魔法陣は、光った場所じゃなく次に爆発する

道場の次の訓練は魔法陣です。

光っている床は、だいたい罠。

光っていない床も、だいたい罠です。


 襖の向こうは、畳の道場ではなかった。


 足を踏み入れた瞬間、空気がひやりと変わる。床は黒い石でできていて、薄い銀色の線が部屋中を走っていた。線は丸になり、三角になり、時々ひらがなの「ぬ」みたいな形に曲がっている。


「ログル」

「はい」

「神様、魔法陣に『ぬ』を書いた?」

「解析上は古代式補助線です」

「でも『ぬ』に見える」

「勇者様の緊張が、少し変な方向に逃げています」

「逃げ道があるなら逃げたい!」


 部屋の奥には小さな台座がある。その上に、緑色の小瓶が置かれていた。瓶の中では、砂時計の砂みたいなものが上へ向かって落ちている。普通は下に落ちるものだ。上に落ちる時点で、もう飲み物ではない。


 壁の木札に文字が浮かぶ。


【初級二:光った床を避けない】

【補足:次に爆発する床を見なさい】


「補足が難しい!」

「光っている床は、すでに発動済みの可能性があります」

「光ってるところが危ないんじゃないの?」

「通常はそうです。ただ、ここは道場です」

「道場って言えば何してもいいと思うな!」


 床の銀線が、一か所だけぽうっと光った。


 コヨリはすぐに右へ避けようとした。だが、前の訓練が頭に残っている。見えてから避けたら遅い。光った床を見て動いたら、たぶん死ぬ。


 なら、次だ。


 コヨリは床全体を見た。光った丸から、細い線が二本伸びている。一本は壁へ。もう一本は、コヨリの足元から三マス先の三角へ向かっている。その三角の線が、ほんの少しだけ濃くなった。


「三角!」

「声」

「心の中で言った!」

「はい。今のは消費していません」


 コヨリは左後ろへ一歩下がった。


 一手。


 さっきまで光っていた丸ではなく、三マス先の三角が爆発した。青白い火花が天井まで伸び、床石がぱちぱち鳴る。


「読めた! 読めたよログル!」

「はい。見事です」

「わたし、もう魔法陣に勝てるのでは?」

「その発言は、死亡率を上げます」

「言霊こわい!」


 台座の小瓶が、きらりと光った。


 上に落ちる砂。緑の液体。小さな札には【未識別の小瓶】とだけ書かれている。未識別。危険。絶対に飲むな。いや、拾うだけなら。拾ってから鑑定すれば。もしかすると時間草かもしれない。時間草だったら、この道場にぴったりだ。たぶん必要アイテムだ。拾わないと損では。


「勇者様」

「拾わない」

「目が拾っています」

「拾わないって言ったもん」

「足が拾う方向に向いています」

「足はわたしの管轄外」

「管轄してください」


 床の銀線がまた光る。


 今度は、台座の前の丸だ。小瓶の下ではない。台座の前。コヨリは光った丸から次に濃くなる線を探す。右の四角だ。コヨリは左へ一歩。


 一手。


 四角が爆発した。正解。


 台座まであと二マス。小瓶は、どう見てもこちらを呼んでいる。瓶の中の砂が上へさらさら落ちるたびに、コヨリの心も上へ落ちていく。意味は分からないが、欲しい気持ちは分かる。


「ログル。あれ、時間草っぽくない?」

「草ではありません。瓶です」

「じゃあ時間瓶」

「名称を付けて誘惑を強めないでください」

「鑑定だけ! 拾って鑑定だけ!」

「拾う一手で爆発する可能性があります」

「でも拾わないと分からない!」

「投げ識別という手も」

「投げたら割れるじゃん!」

「命は割れません」

「命を比較対象に出すなあああ!」


 床の光が消えた。


 安全に見える。


 あまりにも安全に見える。


 コヨリは台座に手を伸ばした。


 一手。


 小瓶の下の台座ではなく、コヨリが立っていた床の銀線が、後から光った。


「後出し光りは犯罪ぃ!」


 青白い爆発が足元から跳ね上がる。


【死亡ログ】

【死因:拾う一手で爆発した】

【評価:欲は時を早めます】

【対象物:未識別の小瓶】

【正式名称候補:拾わせる時間草】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 道場入口。


 コヨリは床に両手をついた。


「拾わせる時間草ってなに!? 草でもないし時間でもないし拾わせる気まんまんじゃん!」

「正式名称候補です。おそらく、拾う行動に反応して周囲を起爆する罠アイテムです」

「アイテムの顔をした罠!」

「ローグライクでは珍しくありません」

「珍しくない世界に幼女を入れないで!」


 ログルの宝石に、死亡ログの詳細が浮かぶ。小瓶は、拾う前の二ターンだけ周囲の魔法陣を鈍くする。そのせいで、安全に見える。拾った瞬間、鈍らせていた分の魔力がまとめて起爆する。


 神様の性格が床に出ている。


「勇者様。次は拾わず、床の連動だけ見ましょう」

「拾わない」

「本当に?」

「拾わない!」

「小瓶のほうを見ながら言っています」

「目がわたしの管轄外!」

「先ほども言いましたが、管轄してください」


 再挑戦。


 コヨリは台座を見ないようにした。見ないようにすると、余計に見える。視界の端で緑がちらちらする。未識別は敵。未識別は敵。未識別は、たまに味方。だから困る。


 床の丸が光る。


 コヨリは、光った場所ではなく、次に線が濃くなる場所を見る。三角、四角、壁際の細い線。爆発は、光の順番ではなく、線の太さで来る。だったら、床全体をひとつの盤面として見る。


 右へ一歩。


 一手。


 背後が爆発。


 左へ一歩。


 一手。


 前が爆発。


 小瓶まであと一マス。拾わない。拾わない。拾わない。拾わないが、台座の上の札がぱたりと倒れた。


【たぶん便利】


「うわあああああああああ! 札で誘惑してきた!」

「勇者様、札も罠です」

「たぶん便利って書かれたら、便利か確かめたくなるでしょ!」

「それを人は罠と呼びます」


 コヨリは歯を食いしばり、小瓶を小盾で押した。拾わない。手に取らない。小盾の端で、台座から転がすだけ。


 一手。


 小瓶が床に落ちた。周囲の銀線が一斉に光る。


「やっぱり爆発するやつ!」


 コヨリは反射的に伏せかけて、止まった。光った場所は見ない。次。光った線の外側、入口に近い小さな「ぬ」が、ほんの少し濃くなっている。


 コヨリは入口側へ転がった。


 一手。


 小瓶の周囲が連鎖爆発し、床の「ぬ」だけが安全地帯として残る。安全地帯の形が「ぬ」なのは、やっぱり納得いかない。


 爆風がおさまると、壁の木札に新しい文字が浮かんだ。


【初級二:通過】

【新規獲得:予兆を見る Lv.1】


「正式に出ました」

「やった! でも時間瓶は?」

「消滅しました」

「便利だった?」

「罠としては便利でした」

「こっちに便利じゃない!」


 次の襖が開く。


 向こうには、丸い木人形が一体立っていた。さっきの弓人形より、さらにかわいい。丸い手。丸い足。頭には白い鉢巻き。表情はにこにこしている。


 その手には、竹刀が握られていた。


【初級三:フェイントを信じない】


「ログル」

「はい」

「あの顔、性格悪い」

「解析前ですが、同意します」


【今回の死亡ログ】


死亡1:

【死因:拾う一手で爆発した】

【評価:欲は時を早めます】

【対象物:未識別の小瓶】


死亡2:

【死因:光った床だけ避けた】

【評価:次に爆発する場所を見ましょう】

※本文内では反省ログとして統合表示しています。


【今回の勇者ステータス】


現在シード:拠点接続特殊ダンジョン【一フレーム道場】

累計死亡回数:98回

現在ダンジョン内死亡回数:4回

クラス:【死因学者】

クラス適性:【時読み】兆候中

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】


【死因ログ参照 Lv.2】

【総合盤面確認 Lv.1】

【危険察知 Lv.4】

【射線確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.4】

【死亡ログ改ざん Lv.1】

【神様報告遅延 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】


新規獲得:【予兆を見る Lv.1】

内部保持:【拾う前に周囲確認】【未識別警戒】【罠感知】が道場内判定に連動


※表示は主要スキルのみです。下位スキルは統合済み・内部保持されています。


【登場人物紹介】


コヨリ:

時間っぽい小瓶を拾おうとして爆発した。未識別アイテムへの欲がまだ強い。


ログル:

「目と足を管轄してください」と冷静に言う相棒。正論が痛い。


拾わせる時間草:

草ではない。時間でもない。拾わせるための罠。


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