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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第12章 魔王相談窓口と名前の登録

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神様側監査、魔王軍窓口に来る

名前の欠片を得た直後、神様側の監査が混ざり始めます。

白い書類は、魔王軍の黒い棚の中で妙に目立ちます。

触らなくても、飛ばすと死にます。


 三十一階から、白い紙が混ざり始めた。


 魔王軍の書類棚は黒い。背表紙も黒く、文字は銀で、角には小さな魔王軍印が押されている。その整った黒の中に、白い紙が何枚も差し込まれていた。まるで、夜の森に突然、光る骨が立っているようだった。


 白い紙には匂いがない。魔王軍書式のインク臭も、古い革の匂いも、ベルの香水めいた甘さもない。匂いがないくせに、存在感だけが強い。


 ログルの宝石が、肩の上で小さく震えた。


「勇者様、白い書類には触れないでください」

「神様の?」

「はい。魔王軍の書式に見せかけた監査書類です」

「神様、敵の書類棚にまで混ざるの!?」

「運営能力は低いですが、監査欲は高いようです」

「悪口が丁寧!」


 白い書類の表題が、距離を置いたまま読める程度に浮かんだ。


【死亡ログ送信状況確認書】

【遅延理由報告書】

【解析神獣ログル動作監査票】

【勇者行動理由提出要求】


 最後の一枚を見て、コヨリの眉が上がる。


「勇者行動理由提出要求ってなに。わたしが何で動いたか、今さら聞くの?」

「神様送信用ログの粒度が低下したため、追加提出を求めている可能性があります」

「前に送らないって決めたところを、書類で取りに来てるの?」

「はい」

「神様、書類になるとしつこい!」


 通信石からベルの声が入る。今回はいつもより早い。


「勇者様、白い書類を直接解析しないでください。ログル様への監査が起動する恐れがあります」

「ベルさん、どうすればいい?」

「魔王軍備品の【監査紙つまみ】を使用し、魔王軍資料室経由で照合してください」

「また道具!」

「素手、鼻、髪、マントの端、小石、遠投小石での接触は禁止です」

「鼻の件、魔王軍資料に残ってるうううう!」

「重要事故例ですので」


 コヨリは頬を膨らませながら、所持品を確認した。封印ばさみ。通行証。小石袋改。こども杖。未識別ではない薬草。問題は、小石袋改の底で、遠投の符が一枚くっついていることだった。


「ログル、白い書類をめくるだけなら、小石でいける?」

「危険です」

「触らないよ。飛ばすだけ」

「飛ばすのも接触に近い判定を取られる可能性があります」

「でも、監査紙つまみはどこ?」

「三十三階の小部屋です」

「三十一階で監査書類を出しておいて、道具は三十三階! 神様ァ! いや魔王軍? いやこれは神様が悪い!」


 焦りが手を動かした。


 コヨリは小石を一つ取り出し、白い書類の端へそっと投げる。つもりだった。


 小石に、遠投の符が乗った。


 石は白い書類を軽くめくるどころか、通路の奥まで一直線に飛んだ。書類も一緒に舞い上がり、部屋の境界線を越え、白い印章の描かれた床へ落ちる。


【監査書類:領域外移動】

【監査印章起動】


「触ってない! 飛ばしただけ!」


 白い光が床から立ち上がる。書類棚の黒が白に塗りつぶされ、ログルの宝石へ細い鎖のような文字が伸びる。コヨリはログルを抱え込もうとしたが、その一手より先に管理光が走った。


【死亡】


【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:94回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:8回

死因:【遠投小石で監査書類を部屋外へ飛ばした】

評価:【触らなくても飛ばすと起動します】

新規獲得候補:【監査書類を飛ばすな Lv.1】


 拠点の死因研究室で目を覚ましたコヨリは、真っ先に小石袋改を逆さにした。小石がころころ転がり、底に張りついていた遠投の符がひらりと落ちる。


「これ!」

「はい。原因です」

「なんで小石袋に遠投の符が混ざってるの!」

「第十章の店事故以降、遠投関連の識別札を同じ袋へ入れたようです」

「過去のわたし! 分類! 分類して!」


 再挑戦では、コヨリは三十一階の白い書類を無視した。いや、無視ではない。目で見て、場所を地図に書き、近づかない。監査紙つまみを取りに三十三階へ進むため、黒い棚の影を避け、白い紙から三マス以上離れて歩いた。


 世界は一手一動。考えるだけなら、まだ動かない。コヨリは足を上げる前に、何度もログルと確認する。


「足元」

「通常床です」

「白い書類」

「右前方四マス。接触なし」

「小石」

「使いません」

「遠投符」

「別袋へ移しました」

「ログル」

「はい」

「怖い?」

「少し」

「じゃあ、絶対触らない。ログルを調べさせない」

「勇者様、攻略上は確認が必要です」

「触らないで確認する方法を探すの。第11章で覚えたでしょ」

「......はい」


 三十三階の小部屋には、細い銀の道具が置かれていた。封印ばさみよりさらに繊細で、先端に小さな黒い布が巻かれている。


【監査紙つまみ】


 ベルの声が通信石から届く。


「勇者様、それで白い書類の端を持ち上げ、内容を魔王軍資料室へ転送してください。ログル様は直接読まず、資料室経由で照合します」

「魔王軍資料室、もう使えるの?」

「仮接続です。正式開設は五十階到達後になります」

「仮でも神様より頼れる!」

「比較対象については、後ほど正式抗議文に記載します」


 コヨリは監査紙つまみを使って、白い書類をそっと持ち上げた。今度は光らない。ログルの宝石は直接触れず、魔王軍通行証が黒紫に光る。


【魔王軍資料室 仮接続】

【監査書類:隔離照合】


 書類の中身が、黒い文字へ変換されていく。


【解析神獣ログル動作監査票】

【送信粒度低下を確認】

【追加監査対象:魔王軍側記録保管先】


 コヨリは唇を結んだ。


「バレてる」

「完全にはバレていません。疑われています」

「疑われてるの、ほぼバレてるじゃん」

「はい」

「ログル、後悔してる?」

「していません。怖いだけです」

「じゃあ、一緒に怖がるやつ、継続」

「はい」


 四十階の扉が開くと、奥に黒い資料棚が見えた。まだ扉の隙間だけだが、神様の白い光とは違う場所に、コヨリたちの記録を置ける可能性がある。


 魔王軍資料室。


 敵の城よりも、神様の会議室よりも、今は少しだけ頼もしく見えた。

【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:94回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:8回

死因:【遠投小石で監査書類を部屋外へ飛ばした】

評価:【触らなくても飛ばすと起動します】


【今回の勇者ステータス】

現在地:魔王軍苦情書類迷宮 40F到達

累計死亡回数:94回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:8回

次回開始:Lv1/HP15

現在クラス:【死因学者】

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【名前は丁寧に書く Lv.1】【店内装備禁止 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【死因ログ参照 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.1】【未識別警戒 Lv.4】

今回の新規獲得・更新:【監査書類を飛ばすな Lv.1】

関連内部スキル:【印章は道具で確認 Lv.1】【投擲前確認 Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】

拠点施設候補:【魔王軍資料室 仮接続】

備考:神様側監査は、触らなくても飛ばすと起動します。遠投は便利で怖い。


【登場人物紹介】

ベル:監査紙つまみを案内する有能秘書。鼻の接触事故を重要事故例として記録している。

ログル:神様側から監査対象にされ始めた解析神獣。怖いが、後悔はしていない。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると、コヨリの苦情処理も少しだけ進みます!


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