表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第12章 魔王相談窓口と名前の登録

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/340

未識別契約書と偽印章

窓口の次は契約書です。

薄い書類なら安全、という発想はだいたい死亡フラグ。

神様の偽印章が、魔王軍の書式に混ざります。

 六階に降りると、迷宮の空気が少し変わった。


 受付ロビーのような開けた空間は消え、両側を高い書類棚に挟まれた通路が続いている。棚には黒い背表紙の魔王軍書式が整然と並び、その隙間へ白い書類がところどころ差し込まれていた。黒い紙はインクと革の匂いを放つ。白い紙は匂いがない。匂いがないことが、かえって気持ち悪かった。


 床には、巻物のように丸められた書類が落ちている。ローグライク的にはアイテム。行政的には責任。コヨリ的には、拾いたくないものだった。


「ログル、剣で切っていい?」

「書類は切っても責任が残ります」

「書類の方がモンスターより怖い!」

「はい。特に同意書は危険です」


 ログルが宝石の光で床の書類を照らす。文字が少しだけ浮かび上がった。


【相談申請書】

【魔王軍通行証】

【強制魔王戦承諾書】

【死亡ログ全送信同意書】

【神様監査受諾書】

【胃薬購入申請書】


 最後の一枚だけ、魔王ゼルドの苦労がにじんでいる。


「胃薬購入申請書は安全そう」

「魔王様用の可能性が高いです」

「持って帰ったら喜ばれるかな」

「会計前持ち出し判定があるかもしれません」

「胃薬ですら油断できない!」


 通路の奥には、丸い印章台が置かれていた。赤、黒、白の三つの印が並び、ベル幻影の声だけが天井から降ってくる。


「勇者様、契約書へ印を押す前に、必ず内容、印章、署名欄をご確認ください」

「ベルさん、今回も親切」

「なお、神様側の偽印章が混入しております」

「親切な説明の直後に地獄を足さないで!」


 コヨリは床の書類を見比べた。厚い書類は読むだけで死にそうだ。薄い書類なら、まだ安全そうに見える。そう考えた瞬間、ログルが肩の上で小さく咳払いをした。


「勇者様」

「まだ取ってない」

「顔に『薄い方が安全そう』と出ています」

「顔を読むな!」

「死亡ログの前兆です」

「言い方が怖い!」


 しかし、薄い書類は本当に薄かった。たった一枚。字も少ない。コヨリは慎重に拾い、目を細める。


【魔王戦......承......】


「読めないところがある」

「危険です」

「でも、承って字があるから、相談を承りました的なやつかも」

「希望的観測です」

「さっきも言われた!」


 印を押した。


 書類が白く燃え上がる。


【強制魔王戦承諾書】


 景色が反転した。通路は一瞬で玉座の間へ変わり、コヨリの前に魔王ゼルドの幻影が現れる。黒いマント、角のような冠、厳しい目つき。威厳はある。だが、片手には胃薬の小瓶を握っていた。


「勇者よ、余も今呼ばれた」

「魔王さんも被害者なの!?」

「うむ。余は承諾しておらぬ」

「じゃあこの書類、誰が承諾したの!?」


 天井から白い光が降りる。


【強制魔王戦開始】


「神様ァ! 会話を聞けええええ!」


 低レベルのコヨリは、玉座の間へ放り込まれた瞬間、開幕演出の魔力波で吹き飛んだ。


【死亡】


【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:89回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:3回

死因:【薄い書類に印を押したら強制魔王戦だった】

評価:【契約書は厚さではなく中身を見ましょう】

新規獲得候補:【薄い書類ほど読む Lv.1】


 拠点帰還後、コヨリは死因研究室の机に突っ伏した。


「薄い書類、怖い」

「はい」

「分厚い書類も怖い」

「はい」

「もう紙が怖い」

「死因学者としては困ります」

「職業が紙を要求してくる!」


 再挑戦。


 今度は、印章そのものを確認することにした。赤い印、黒い印、白い印。赤は魔王軍の通常印。黒は秘書課印。白は、明らかに神様側の光をまとっている。


「怪しい」

「とても怪しいです」

「触ったら?」

「たぶん起動します」

「じゃあ触らない」


 そう言いながら、コヨリは白い印章に顔を近づけた。見える。小さな文字が彫ってある。もう少し近づけば読めそうだ。あと少し。あと......。


「勇者様、鼻も接触判定に入る可能性があります」

「鼻!?」


 遅かった。


 白い印章が光り、コヨリの鼻先に管理光が触れる。


【神様監査起動】

【死亡ログ全送信準備】


「鼻で同意したことにしないでええええ!」


 管理光が広がり、ログルの宝石を弾いた。コヨリは思わずログルを抱え込もうとする。次の瞬間、白い光が視界を塗りつぶした。


【死亡】


【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:90回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:4回

死因:【偽印章を鼻先で触って神様監査を起動した】

評価:【怪しい印章は押す前も触る前も危険です】

新規獲得候補:【印章は道具で確認 Lv.1】


 三度目の通路で、コヨリは印章台から三マス離れて座り込んだ。


「ログル、もう鼻も信用できない」

「勇者様の鼻に罪はありません」

「でも鼻で死んだ」

「接触判定が悪質でした」

「神様の接触判定、幼女の鼻に厳しすぎる!」


 その時、黒い通信石が震えた。ベル本体の声が、幻影よりも少し低く、はっきり届く。


「勇者様、印章は素手、顔、鼻、髪、マントの端で触れないでください」

「注意項目が増えた!」

「魔王軍備品の封印ばさみをお使いください」

「それ最初から欲しかった!」

「申請が必要です」

「その申請書は!?」

「七階にございます」

「申請書を取るための申請書ダンジョンやめてええええええ!」


 七階の小部屋には、細い銀色のばさみが置かれていた。持ち手には魔王軍秘書課の印。刃の先は紙を切るためではなく、印章に触れずに引っかけるために丸く曲がっている。


 コヨリは封印ばさみを両手で持つ。軽いのに、妙に頼もしい。


「ログル、確認」

「足元、通常床。書類棚、二ターン後に接近。白印章、正面三マス。封印ばさみ使用で接触判定を回避できる可能性が高いです」

「鼻は?」

「離してください」

「はい」


 白い印章を、そっと持ち上げる。ばさみの先が震えたが、管理光は起動しない。印章の下から、細い文字列が浮かび上がった。


【勇者名:コヨリ】

【本名欄:未照合】


 コヨリは声を出さなかった。


 魔王戦の書類でも、死亡ログの監査でもない。そこには、帰還門で足りなかったものの一つが、冷たく残っていた。


「ログル」

「はい」

「本名欄って、わたしの名前?」

「おそらく、元の世界の登録名です」

「......天野こより」


 言葉にした瞬間、通路の奥で、どこか遠い玄関の匂いがした気がした。


 すぐに消えた。けれど、コヨリはその消え方を覚えておくことにした。


【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:90回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:4回

主な死因1:【薄い書類に印を押したら強制魔王戦だった】

主な死因2:【偽印章を鼻先で触って神様監査を起動した】

評価:【契約書は厚さではなく中身、印章は鼻先でも危険です】


【今回の勇者ステータス】

現在地:魔王軍苦情書類迷宮 10F到達

累計死亡回数:90回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:4回

次回開始:Lv1/HP15

現在クラス:【死因学者】

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【札も識別 Lv.1】【順番待ち確認 Lv.1】【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【未識別警戒 Lv.4】【総合盤面確認 Lv.1】

今回の新規獲得・更新:【薄い書類ほど読む Lv.1】【印章は道具で確認 Lv.1】

関連内部スキル:【読む前に深呼吸 Lv.1】【ログ保存先確認 Lv.1】【監査書類を飛ばすな Lv.1】は未取得、または後続取得予定。

重要発見:【本名欄:未照合】

備考:契約書、同意書、印章は未識別アイテムとして扱う。薄い書類ほど軽い気持ちで殺しに来ます。


【登場人物紹介】

魔王ゼルド幻影:強制魔王戦に呼ばれた魔王。本人も承諾していない。

ベル:封印ばさみを教えてくれる有能秘書。ただし申請書は七階。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューなどで応援いただけると、とても励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ