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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第12章 魔王相談窓口と名前の登録

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相談窓口の設置試験で死ぬ勇者

魔王軍苦情書類迷宮、開始です。

敵は書類、罠は札、初手から死亡受付が混ざっています。

行政手続きにもターン制があります。


 魔王軍苦情書類迷宮の一階は、受付ロビーの形をしていた。


 天井は高く、黒い石柱には魔王軍の紋章が彫られている。壁のランプは紫色の火を揺らし、磨かれた床には一マスごとの線が薄く走っていた。受付カウンターの奥に立つベルの幻影は、サキュバス秘書らしい整った姿をしている。艶のある黒髪を後ろでまとめ、細い眼鏡の奥に冷静な光を宿し、スーツ風の魔族衣装を一分の乱れもなく着こなしていた。


 ただし、顔は少し透けている。幻影だからだ。


「勇者様、本日は魔王相談窓口設置試験へようこそ」

「ベルさん、幻影でも説明が丁寧」

「神様側の説明不足により発生した死亡事故については、当軍でも問題視しております」

「敵組織の方がコンプライアンス意識高いの、世界として敗北してない?」

「比較対象が主神様ですので」

「ベルさん、丁寧な声で毒を吐くの上手いね」


 カウンターの手前には、三枚の札が置かれていた。赤、青、黒。どれも同じ大きさで、角に小さな魔王軍印が押されている。札の下には、親切な注意書きがあった。


【受付前に札をお取りください】

【札の種類は、必ずご確認ください】

【確認不足による死亡処理について、当軍は責任を負いかねます】


 コヨリは注意書きを読み終えて、札からさらに一歩下がった。


「ログル。これ、罠だよね」

「罠ではありません。手続きです」

「手続きで死ぬなら罠でしょ!」

「魔王軍分類では、手続きです」

「分類を変えれば許されると思うなよおおおお!」


 ログルはコヨリの肩に乗り、宝石の光を細く伸ばした。青い札に触れかけ、すぐに止める。


「勇者様、札を取る前に見てください。赤札は魔力反応が強いです。青札は通常受付に近いですが、裏面に小さな文字があります。黒札はネム様の死亡受付台帳とつながっています」

「黒は絶対ダメ。赤も怖い。青は裏面が怖い。全部怖い」

「はい。全部怖いです」

「そこは一個くらい安心させて」


 カウンターの向こうで、ベル幻影が微笑んだ。


「勇者様、迷った場合は説明書をご確認ください」

「説明書どこ?」

「四階の棚でございます」

「一階の札を取るための説明が四階にあるのおかしいでしょ!」

「神様側の書式が混入しております」

「神様ァ! 魔王軍の親切を邪魔するなあああ!」


 コヨリは深く息を吸った。札を取る。それだけで一ターン使う。世界の基本法則が、受付ロビーでもしっかり働いているのが腹立たしい。動けば棚も動く。札が変化する可能性もある。考えるだけなら、まだ時間は止まっている。


「ログル、わたしが札を取ったら何が動く?」

「右手の書類棚が一マス近づきます。左手のカウンター下から、受付小鬼が顔を出す可能性があります。赤札なら即時処理、黒札なら死亡受付へ転送、青札なら通常受付。ただし裏面条件があります」

「青札の裏面、読める?」

「小さすぎます。取らないと読めません」

「神様の説明書みたいなことしてくるなあ」


 悩んだ末、コヨリは赤い札に手を伸ばした。


「早い処理って、もしかしたら優先受付かもしれないし」

「勇者様、それは希望的観測です」

「でも赤って目立つし、重要そうだし」

「死亡ログに残りそうな発言です」

「まだ死んでないから!」


 指先が赤札に触れた。


 札の文字が変わる。


【死亡受付札】


「ほらあああああああああ!」


 天井が開いた。紙の束が滝のように落ちてくる。紙なのに重い。死亡受付印が押された書類の山が、コヨリの頭上に降り注ぎ、視界が白と黒の紙吹雪で埋まった。


【死亡】


【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:87回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:1回

死因:【受付札だと思って死亡受付札を取った】

評価:【窓口を間違えると、処理が早すぎます】

新規獲得候補:【札も識別 Lv.1】


 次に目を開けると、コヨリは拠点の死亡受付カウンターに突っ伏していた。ネムが無表情で判子を押す。


「処理が早いですね」

「早さを褒めないで! 死亡受付のスピード感いらない!」


 再挑戦。


 今度のコヨリは、札を取らずにカウンターへ向かうことにした。受付番号を飛ばすのはよくない。でも、死亡受付札を引くくらいなら、直接聞いた方がマシに思えた。


「ログル、札を取らないで行ったら?」

「順番待ち違反の可能性があります」

「でも、札ガチャよりは安全じゃない?」

「勇者様、その考え方は、罠を踏む人の顔です」

「顔で判断しないで!」


 一歩、二歩。カウンターまであと三マス。ベル幻影は笑顔のまま、コヨリを見ている。右手の書類棚がぎしりと一マス近づいた。床の線が淡く光る。


【順番待ち違反】


 足元が開いた。


「行政いいいいいいいい!」


 コヨリは落ちた。落ちた先は、矢罠がずらりと並ぶ細い列だった。列の最後尾にぴたりと立たされ、次の一手で、壁から矢が一斉に飛んでくる。


【死亡】


【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:88回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:2回

死因:【順番待ちを飛ばして矢罠列に送られた】

評価:【行政手続きにもターン制があります】

新規獲得候補:【順番待ち確認 Lv.1】


 三度目。


 コヨリは赤札を見ない。黒札も見ない。青札だけを見る。取る前に、足元、棚、カウンター、ベル幻影、受付小鬼の気配まで確認する。小さな手は震えていたが、今度は希望的観測を混ぜない。


「ログル、確認」

「足元は通常床。右手の棚は一ターン後に近づきます。黒札は死亡受付、赤札は死亡受付、青札は通常受付の可能性が高いです」

「赤も死亡なの!?」

「先ほど識別されました」

「赤を重要そうって思った過去のわたし、反省して!」

「反省会テーブルに書きます」

「大きく書いて!」


 コヨリは青札を取った。棚が一マス近づく。受付小鬼がカウンターの下から顔を出しかけたが、ベル幻影が書類でぺしりと叩く。小鬼はしゅるんと引っ込んだ。


 青札の裏面に、細かな文字がある。


【通常受付札】

【ただし、死亡受付札を引いた記録がある方は、再発防止確認を受けてください】


「再発防止確認ってなに」

「たぶん、怒られます」

「魔王軍に怒られる勇者、かなり嫌!」


 カウンターへ着くと、ベル幻影が深々と頭を下げた。


「勇者様、まず番号札を確認し、次に申請内容を明確にしてください。関係書類を提出し、最後に、死なずに窓口へお越しください」

「最後だけ難易度おかしくない!?」

「勇者様向けに追加された項目です」

「個別対応がつらい!」


 カウンターの奥で、小さな黒い看板が光る。


【魔王相談窓口 仮】


 それは拠点へ転送され、死因研究室の隣に小さく掲げられた。


 コヨリは受付ロビーの床にへたり込み、札を両手で握りしめる。紙とインクの匂いが鼻に残り、頭の上にはまだ死亡書類の重みが幻のようにある。


「ログル」

「はい」

「剣で敵を倒す冒険より、番号札の方が怖い」

「本日の学習として記録します」

「書き方! もうちょっと勇者っぽくして!」

「【勇者、受付制度に敗北しかける】」

「余計ひどい!」




【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:88回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:2回

主な死因1:【受付札だと思って死亡受付札を取った】

主な死因2:【順番待ちを飛ばして矢罠列に送られた】

評価:【行政手続きにもターン制があります】


【今回の勇者ステータス】

現在地:魔王軍苦情書類迷宮 5F到達

累計死亡回数:88回

魔王軍苦情書類迷宮内死亡回数:2回

次回開始:Lv1/HP15

現在クラス:【死因学者】

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】

今回の新規獲得・更新:【札も識別 Lv.1】【順番待ち確認 Lv.1】

関連内部スキル:【読む前に深呼吸 Lv.1】【泥棒判定警戒 Lv.1】【足元確認 Lv.3】

拠点施設:【魔王相談窓口 仮】設置

備考:受付札、順番札、死亡受付札も未識別アイテム扱い。札だから安全、という考えは死亡しました。


【登場人物紹介】

ベル幻影:魔王軍秘書ベルの受付用幻影。説明は丁寧だが、勇者向け項目が容赦ない。

ネム:死亡受付担当。受付札の失敗と死亡受付が連携してしまった。


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