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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第11章(第2部) 死因学者と死亡ログ改ざん

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ログル、送信を止める

死因ログが神様に利用されている疑惑は、ほぼ確信へ。

ログルはついに、神様への送信系統へ手を伸ばします。

相棒が、端末であることをやめ始める回です。

 26Fから先は、白かった。


 床も、壁も、天井も、拠点に似ている。けれど拠点の白さとは違う。ここは温度がない。思い出ログ棚の白でも、反省会テーブルの白でもない。


 管理画面の白だ。

 コヨリはその色を見ただけで、むっとした。


「神様の部屋っぽい」

「はい。神様送信系統に近い領域です」

「つまり、嫌な場所」

「かなり嫌な場所です」

「ログルがそこまではっきり言うなら、本当に嫌なんだね」


 ログルはうなずいた。


 26Fの中央には、細い柱が立っていた。柱の上には、白い光の玉が浮いている。そこから糸のような光が、迷宮の天井へ伸びている。


【死亡ログ送信線】


 コヨリは、それを見上げた。


「これが、神様に行ってるやつ?」

「はい。通常は、死亡ごとに死因、階層、状況、対策候補がここを通ります」

「わたしが死んだ瞬間、神様に報告?」

「はい」

「神様、通知オンにしてるの?」

「おそらく」

「オフにしろおおおおおおおおお!」


 叫びに反応して、白い光の玉が点滅した。


【不正発言検知】


「発言まで検知するな!」

「勇者様、ここでは大声もログ化されます」

「じゃあ小声で言う。神様のバーカ......」


【不正発言検知】


「小声もダメなんかい!」

「はい」


 コヨリは唇を尖らせた。ログルは柱の周りを歩き、宝石を光らせる。いつもの解析光ではない。もっと細く、慎重な光だ。


「ログル、壊せる?」

「壊すと、神様側に即時検知されます。拠点にも負荷がかかります」

「じゃあ隠す?」

「完全に隠すのは難しいです。ですが、遅らせることはできるかもしれません」


「送信遅延」

「はい。死因そのものは送る。けれど、詳細な対策候補や感情ログ、拠点保存用の理由までは送らない。送るとしても、時間をずらす」

「それ、神様にバレる?」

「いずれは――」

「じゃあ今すぐは?」

「うまくいけば、今すぐではありません」


 コヨリは柱を見た。


 白い光は、まるで何も悪いことをしていない顔で浮いている。記録を送る。ただそれだけ。けれど、その先で神様がコヨリの死因を読み、次の罠を作っているなら、それはもうただの記録ではない。


「ログル」

「はい」

「怖い?」


 ログルの耳が、少し下がった。


「怖いです」

「神様に怒られるから?」

「それもあります。でも、それだけではありません」

「ほかに何が怖いの?」


 ログルは柱を見上げたまま、ゆっくり言った。


「ぼくは、神様が作った解析神獣です。記録して、分類して、送る。それが役割でした。送信を遅らせることは、ぼくの役割に反します」

「うん」

「役割に反すると、ぼくの中の神様側権限が、ぼくを異常として扱う可能性があります」

「ログルが?」

「はい」

「初期化とか?」

「可能性はあります」


 コヨリは息を止めた。初期化。


 その言葉だけで、胸の奥が冷える。ログルが、ただの端末に戻る。コヨリを勇者様と呼ぶ声から、今の迷いや遠慮や、少し毒舌な優しさが消える。


 それは嫌だった。


「じゃあ、やめる?」


 コヨリは聞いた。自分でも、聞きたくない声だった。


 ログルはコヨリを見た。


「勇者様は、やめてほしいですか」

「ログルが消えるなら、やめてほしい」

「ぼくが消えないなら?」

「やってほしい」

「正直ですね」

「だって、ログルに消えてほしくない。でも、神様にわたしの死に方を渡したくない。両方ほんと」


 ログルは少しだけ笑った。ほんの小さな表情だったが、コヨリには分かった。


「では、消えない範囲でやります」

「そんな都合よくできる?」

「努力します」

「ログル、努力って言葉使うようになった」

「勇者様の影響です」

「わたしのせいにされた!」


 ログルが柱へ近づく。宝石が光り、白い送信線に淡い虹色が混ざった。


【送信処理】

【死亡ログ照合】

【対策候補生成】

【送信先:主神管理領域】


 ログルの宝石が、低く鳴る。


「まず、対策候補の自動生成を遅らせます」

「それで神様は?」

「死因だけを受け取ります。詳細な行動パターンは、後で送られる形になります」

「後でって、いつ?」

「できれば、勇者様が次の一手を選んだ後です」

「すごく助かる!」

「ただし、失敗すると管理走査光が来ます」

「来ないで!」


 失敗した。


 白い柱が、鋭く光った。


【送信異常】

【改ざん検知】

【対象:解析神獣ログル】


 光がログルへ向かう。

 コヨリは反射的に前へ出た。


「ログル!」

「勇者様、下がって!」

「やだ!」


 白い管理光がコヨリの肩を貫いた。痛みというより、存在を薄くされるような感覚だった。足元のマス目が消える。手が透ける。


「神様の光、攻撃の種類が気持ち悪い!」

「勇者様!」


 視界が白く落ちた。


【死亡ログ】

【死因:死亡ログ改ざん未遂で管理光に撃たれた】

【評価:隠し事には練習が必要です】

【累計死亡回数:86回】

【死因再演迷宮内死亡回数:10回】

【新規獲得:送信遅延 Lv.1】


 拠点に戻ったコヨリは、勢いよく起き上がった。


「ログルは!?」

「ここです」


 ログルは隣にいた。宝石が少し暗い。けれど、目はログルのままだった。

 コヨリはほっとして、すぐ怒った。


「前に出ちゃダメって言われたけど、ログルに光が飛んだら出るよ!」

「分かっています。ですが、危険です」

「危険なのは知ってる!」

「次は、ぼくが先に防ぎます」

「それもダメ!」


 ネムが台帳を持って近づいてきた。珍しく、少し困った顔をしている。


「二人とも、死亡受付の前で守り合いを始めないでください。台帳の欄が増えます」

「ネムさん、今それ?」

「大事です。死因欄に『相棒をかばった』『勇者をかばった』『またかばった』が続くと、分類が面倒です」

「分類の心配!?」


 リュシアがホットミルクを二つ置いた。ひとつはコヨリ用。もうひとつはログル用に、小さな皿へ注がれている。


「ログ坊。飲める?」

「はい。少しだけ」

「飲みな。裏切り初日は喉が渇くものよ」

「裏切り初日」


 ログルはその言葉を繰り返し、小さく息を吐いた。


「ぼくは、裏切ったのでしょうか」


 コヨリは皿を見つめるログルを見た。


「神様から見たら、たぶん」

「勇者様から見たら?」

「味方になってくれた」


 ログルは黙った。


「ログルは嫌?」

「嫌ではありません」

「怖い?」

「怖いです」

「じゃあ、一緒に怖がろうね」


 ログルが顔を上げる。


「一緒に――?」

「うん。わたしも怖い。帰れなかったのも怖い。神様が何考えてるか分からないのも怖い。ログルが消えるかもしれないのも怖い。でも、怖いからやめるって言ったら、神様の仕様、そのままだよ」


「......はい」

「だから、一緒に怖がって、一緒にやる」


 ログルの宝石が、少しだけ明るくなった。

 再突入。


 今度は、ログルが無理に送信線を切らなかった。代わりに、細い虹色の輪を一つ、白い送信線にかける。


「完全遮断ではありません。遅延輪です」

「輪っかで遅らせるの?」

「はい。神様へ届くまでに、少しだけ寄り道させます」

「神様へのログ、道草食わせるんだ」

「悪い言い方ですが、近いです」


 白い光が点滅する。


【送信遅延:0.5秒】


「短い!」

「これでも大きいです」


【送信遅延:1.0秒】


「伸びた!」


【送信遅延:3.0秒】


 ログルの足が震える。


「ログル、無理しない」

「はい。ここまでです」


 送信線が安定した。


【神様報告遅延:仮登録】


 コヨリは、ふうと息を吐いた。


「三秒」


「はい」


「三秒あれば?」

「次の一手を選べます」

「じゃあ、十分。今は」


 27F、28F、29Fと進む。管理光は何度も揺れたが、ログルは送信を遅らせ続けた。コヨリはその間に、罠を避け、敵を眠らせ、偽階段を確認し、本物の階段へ進む。


 29Fの終わりで、白い扉が現れた。


【死亡ログ送信室】


 コヨリは扉の前で、ログルを見た。


「行ける?」

「はい。怖いですが」

「わたしも怖い」

「はい」

「じゃあ一緒」


 扉が開いた。



【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:1回

累計死亡回数:86回

死因再演迷宮内死亡回数:10回


今回の死因:【死亡ログ改ざん未遂で管理光に撃たれた】

評価:【隠し事には練習が必要です】

新規獲得:【送信遅延 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在領域:死因再演迷宮29F突破

累計死亡回数:86回

死因再演迷宮内死亡回数:10回

クラス:勇者

クラス適性:【死因学者】正式化直前

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【死因ログ参照 Lv.1】

【送信遅延 Lv.1】

【正解行動の足元確認 Lv.1】

【階段も確認 Lv.1】

【感情ログ確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【送信遅延 Lv.1】

兆候:【神様報告遅延 Lv.1】

関係変化:ログルが神様側端末からコヨリ側の相棒へ大きく傾く


【登場人物紹介】

コヨリ:ログルをかばって管理光に撃たれた幼女勇者。怖いけど、一緒に怖がることを選んだ。

ログル:送信線に干渉し、神様への報告を三秒遅らせた解析神獣。三秒は短いが、生死の一手には十分すぎる。

ネム:かばい合い死因の分類を心配する死亡受付。職業病が強い。

リュシア:裏切り初日のホットミルクを出す酒神。やっぱり大人。


【ローグライクあるあるメモ】

一手一動の世界では、三秒の猶予が命になります。送信遅延は派手な攻撃ではありませんが、敵に対策される前に一手選べる、かなり大きな攻略資源です。


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