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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第11章(第2部) 死因学者と死亡ログ改ざん

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同じ顔を罠にするな

16Fからは、人物ログの再演です。

ミーナ、カイ、ピヨラ、ゼルド、ベル。

思い出まで罠にしてくる迷宮に、コヨリが怒ります。

 16Fに降りると、パンの匂いがした。


 コヨリは反射的に足を止める。迷宮の中に、木の棚がある。棚の向こうには、ミーナがいた。


 パン屋のミーナだ。


 シード012で出会った、腹が減ってちゃ勇者もできないよ、と言ってパンをくれた人。けれど、その腰には、女騎士ミーナが持っていた短剣も下がっている。


「ログル」

「はい」

「本物?」

「再演です。思い出ログ棚と神様送信用ログの混合体に近いです」

「混ぜないでほしい」

「はい」


 ミーナの再演は、柔らかく笑った。


「ほら、食べな。腹が減ってちゃ、勇者もできないよ」


 手にしているパンは、温かそうだった。

 コヨリは一歩も動かなかった。


「ログル、パンは?」

「匂い誘引反応があります。食べると蜂型魔物が寄る可能性があります」

「ミーナさんは?」

「近づくと、床罠が起動します」

「じゃあ、罠?」

「はい」


 コヨリは唇を噛む。


「でも、ミーナさんの形をしてる」

「はい」

「それが嫌」


 ミーナの再演は、変わらず笑っている。罠だ。分かっている。けれど、その声も、手の角度も、パンを差し出す時の少し雑な優しさも、コヨリが覚えているものだった。


 通路の奥で、別の声がした。


「勇者さん、こっち!」


 カイだった。


 木剣を持った少年カイ。敵兵だったカイ。弓兵だったカイ。いくつもの顔が重なって見える。


 カイの再演は、床に倒れた小さな魔物をかばっている。奥の弓兵が弓を引く。

 コヨリの足が動きかけた。


「勇者様」


 ログルの声が低くなる。


「射線」

「分かってる」

「床罠」

「分かってる」


「感情で一歩出ると、前と同じ死因になります」

「分かってるってば!」


 叫んだ時には、もう一歩出ていた。

 床のマス目が赤く光る。矢が飛ぶ。


 コヨリはその瞬間、自分が分かっていなかったことを理解した。分かっていることと、止まれることは違う。


 矢が胸元に届く。


【死亡ログ】

【死因:カイの幻影に走って射線確認を忘れた】

【評価:感情にも遮蔽物が必要です】

【累計死亡回数:83回】

【死因再演迷宮内死亡回数:7回】

【新規獲得:感情ログ確認 Lv.1】


 拠点に戻ったコヨリは、すぐには叫ばなかった。

 ネムが台帳を開き、判子を持ったまま止まる。


「今回は、通常評価で処理しますか」

「......通常って、なに」

「神様送信用なら、感情による移動ミスです」


 コヨリは顔を上げた。


「違う」

「はい」

「わたし、ミスしただけじゃない。助けたかった」

「拠点保存用には、そう記録します」


 ログルが静かに近づいた。


「勇者様。次は、助けるために止まりましょう」

「止まったら、見捨てるみたいで嫌」

「止まることと、見捨てることは違います」

「違う?」

「はい。助けるために盤面を見る。罠を避ける。射線を切る。安全な一手を選ぶ。勇者様が死ねば、幻影も記録も守れません」


 コヨリは黙った。

 しばらくして、小さくうなずく。


「次は、走らない」

「はい」

「でも、無視もしない」

「それでいいと思います」


 再突入。


 16Fのミーナ再演。コヨリはパンを受け取らない。代わりに、床へ小石を投げた。罠が起動し、パン棚の手前に落とし穴が開く。


 ミーナの再演は、少しだけ笑い方を変えた。


「見えるようになったんだね」


 その声に、コヨリは胸が詰まる。


「再演なのに、そういうこと言わないで」


 17F、カイの再演。


 今度は、コヨリは走らない。通路の角で止まり、ログルと確認する。


「ログル、これ罠だよね」

「はい。幻影です。射線が二本、足元に転送罠、カイ様の手前に眠り罠があります」

「でも、わたしが助けたいと思うのは本物だよね」


 ログルは、すぐには答えなかった。


「......はい。本物です」


「じゃあ、罠だから無視、じゃなくて、助けるために止まる」

「それが、一番生存率の高い選択です」

「生存率だけじゃないよ」

「分かっています。少しずつですが」


 コヨリは深呼吸した。


 まず射線を切る。壁ぎわへ一歩。敵の弓兵が矢を放つが、壁に当たる。次に小石で転送罠を起動。床が光り、空振りする。眠り罠は、あえて起動させない。


「カイの手前、眠り罠。罠移設できる?」

「右の魔物に踏ませられます」

「やる」


 一手。


 コヨリは小石を投げ、魔物の注意を引く。魔物が眠り罠へ乗り、ふらりと倒れた。カイの再演がかばっていた小さな魔物も消える。


 カイの再演は、コヨリを見た。


「ありがとう、勇者さん」

「覚えてないくせに」


 コヨリは小さく言った。


「でも、わたしは覚えてる」


 カイの再演は光になり、小さな札になった。


【思い出ログ補強:カイ】

【記録分類:助けたかった理由】


 20Fの整理部屋に着くと、ログルの宝石が二つのログを表示した。


【神様送信用ログ】

感情による移動ミス。


【拠点保存用ログ】

カイの幻影を助けようとして射線に出た。再挑戦時、助けるために立ち止まり、射線と罠を確認した。


 コヨリは神様送信用ログを見て、むっとした。


「短すぎる」

「はい」

「わたしの一手、そんな雑にまとめないでほしい」

「だから、変える必要があります」


 ログルの声は静かだったが、前よりはっきりしていた。


 コヨリはうなずく。


「死因学者って、死に方を分類するだけじゃないんだね」

「はい。理由を、消さないためのクラスです」

「それ、ちょっとかっこいい」

「ただし、死にます」

「そこはかっこよく濁して!」


 整理部屋の奥で、次の階段が開いた。



【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:1回

累計死亡回数:83回

死因再演迷宮内死亡回数:7回


今回の死因:【カイの幻影に走って射線確認を忘れた】

評価:【感情にも遮蔽物が必要です】

新規獲得:【感情ログ確認 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在領域:死因再演迷宮20F到達

累計死亡回数:83回

死因再演迷宮内死亡回数:7回

クラス:勇者

クラス適性:【死因学者】強反応

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【人物レイヤー地図 Lv.1】

【縁感知 Lv.1】

【感情ログ確認 Lv.1】

【死因ログ参照 Lv.1】

【表示優先順位 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【感情ログ確認 Lv.1】

思い出ログ補強:【カイ】

記録分類追加:【助けたかった理由】


【登場人物紹介】

コヨリ:同じ顔の幻影を罠にされて怒る幼女勇者。走らず、でも無視せず、助けるために止まることを覚えた。

ログル:感情と生存率を両方扱おうとする相棒。少しずつ、記録以上のものを見ようとしている。

ミーナ再演:パンと罠を同時に差し出す、ひどい再演。でも言葉だけは優しい。

カイ再演:コヨリの「助けたい理由」を引き出した幻影。


【ローグライクあるあるメモ】

焦って走ると射線に出る。分かっていても、助けたい相手がいると一手が早くなります。感情にも遮蔽物が必要です。


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