罠と射線と魔法、全部見ると情報で死ぬ
11Fからは、罠、魔法、射線、属性床の再演です。
全部見れば安全かと思いきや、情報量そのものが敵になります。
幼女勇者、脳内処理落ちの危機。
11Fの床に降りた瞬間、コヨリは足を止めた。
通路の先に、三種類の危険が見える。
床には罠の匂い。壁には魔法反射の光。奥には弓兵の影。さらに床の一部が赤く熱を持ち、別の場所は薄い氷で覆われている。
コヨリは深呼吸した。
「ログル、確認」
「はい」
「罠レイヤー」
床の一部が赤く染まる。
「射線レイヤー」
通路を横切る細い線が浮かぶ。
「属性床レイヤー」
火床が橙、氷床が青、雷床が黄色に光る。
「敵速度レイヤー」
弓兵の後ろに、倍速コウモリの影が二つ見えた。
「うん。多い」
「多いです」
「消したら死ぬやつがある」
「あります」
「全部出したら?」
「見えます」
「やった」
「ただし、勇者様の処理速度を超えます」
「わたしの脳みそにもスペック表があるの!?」
「あります。現在、警告が出ています」
「出さないで!」
でも、コヨリは全部を出した。
罠、射線、属性床、敵速度。視界が色で埋まる。赤、青、黄色、白、細い線、太い線、点滅するマス。どこへ行けばいいのか、逆に分からない。
「えっと、火床はダメ。氷床も滑る。射線はここで、罠はそこ。倍速コウモリがこっちで、魔法兵があっちで、えっと、えっと」
「勇者様、右から矢」
「右ってどの右! 情報の右!?」
矢が飛んだ。
コヨリは避けようとして、罠の赤いマスを踏まないように体をひねった。ひねった先が射線だった。
魔法兵の雷が、まっすぐ飛んでくる。
「全部見たのにいいいいいい!」
【死亡ログ】
【死因:全部見ようとして現在の一手を失った】
【評価:情報量も罠です】
【累計死亡回数:81回】
【死因再演迷宮内死亡回数:5回】
【新規獲得:表示優先順位 Lv.1】
拠点に戻ると、コヨリは反省会テーブルに顔を伏せた。
「わたし、ちゃんと全部見た」
「はい」
「全部見たのに死んだ」
「はい」
「ひどくない?」
「ひどいです。ただ、全部見たために、今見るべきものが埋もれました」
「ログル、それを先に言って!」
「言いました」
「もっと大きく!」
「次から、警告音を少し大きくします」
「わたしの脳内通知設定みたいになってきた!」
ログルは反省会テーブルに、優先順位を書いた。
【最優先:今すぐ死ぬもの】
【次点:一手後に死ぬもの】
【後回し:後で困るもの】
【見なくていいもの:欲しい宝箱】
「最後、悪意ない?」
「実績に基づく分類です」
「実績がつらい!」
再突入。
コヨリは今度、全部を出さない。ログルの宝石に触れ、表示を絞る。
「今すぐ死ぬものだけ」
射線と隣接敵だけが浮かぶ。罠は見えない。属性床も見えない。怖いが、視界はすっきりした。
「罠が見えないの怖い」
「今踏まなければ死なない罠です」
「踏んだら死ぬじゃん」
「踏まない一手を選びます」
「なるほど。わたし、今から賢くなる」
コヨリは一歩下がった。射線が外れる。倍速コウモリが二歩近づく。
「次、隣接敵」
倍速コウモリの危険マスが赤くなる。コヨリは眠りの杖を構える。
「杖、振る。投げない。遠投腕輪なし」
「確認済みです」
「えらいでしょ?」
「かなりえらいです」
眠りの杖が光り、コウモリが床へ落ちる。ここでようやく罠レイヤーを出す。
足元の二マス先に落とし穴。左に矢罠。右に火床。
「今なら見える。さっきは色の祭りで全部お祭りだった」
「祭りというより警告です」
「警告が多すぎると祭りになるんだよ!」
12F、13Fと進む。コヨリは少しずつ表示を切り替える癖を覚えていく。
14Fで、床の二択が出た。
左は火床。右は氷床。まっすぐ行くと射線。後ろには倍速コウモリが迫る。
「ログル、火と氷と射線とコウモリ。どれが一番死ぬ?」
「即死は射線です。次に倍速コウモリ。火床は継続ダメージ。氷床は滑りますが、壁ぎわなら止まれます」
「つまり右?」
「壁ぎわの右です。中央の右だと滑って射線に出ます」
「右の中にも悪い右がある!」
コヨリは壁ぎわの右へ動いた。氷で足が滑るが、壁に肩をぶつけて止まる。痛い。けれど生きている。
「痛いけど生きてる!」
「最良です」
「最良の基準が低い!」
15Fには、反射床の詠唱ゴーレムの再演が待っていた。
直接魔法を撃つと反射される。火床と氷床と雷床が混ざり、過去の属性迷宮を嫌な感じに思い出させる配置だ。
コヨリは火球を構えかけて、止まった。
「撃ちたい」
「撃つと反射します」
「でも撃ちたい。魔法使いっぽいから」
「勇者様、今回のクラスは勇者です」
「気持ちの問題!」
「命の問題でもあります」
コヨリは杖を下ろす。代わりに、氷床の端へ小石を投げた。小石が滑り、ゴーレムの足元で跳ねる。ゴーレムが一歩ずれる。反射床の向きが変わった。
「火球、直接じゃなくて壁へ」
「はい。反射角、許容範囲です」
「わたし、今ちょっと賢い?」
「かなり賢いです」
「じゃあ行く!」
火球は壁で跳ね、反射床を通り、ゴーレムの背中に当たった。ゴーレムが雷床へ倒れ、雷が走る。コヨリは絶縁床に立っている。
ゴーレムが崩れた。
15F突破。
階段の前で、コヨリはへたり込んだ。
「情報を全部見ないって、勇気いる」
「はい」
「でも、今死ぬものから見ればいいんだね」
「はい。死因学者の基礎に近いです」
「死因学者って、死ぬのが上手い人じゃないよね?」
「死因を、生存に変える人です」
コヨリは少しだけ笑った。
「それなら、いい」
【今回の死亡ログ】
今回増えた死亡回数:2回
累計死亡回数:82回
死因再演迷宮内死亡回数:6回
死因1:【全部見ようとして現在の一手を失った】
評価:【情報量も罠です】
新規獲得:【表示優先順位 Lv.1】
死因2:【床を避けすぎて射線に立った】
評価:【地面だけでなく空間も見ましょう】
新規獲得:【床と射線の同時確認 Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在領域:死因再演迷宮15F突破
累計死亡回数:82回
死因再演迷宮内死亡回数:6回
クラス:勇者
クラス適性:【死因学者】強反応
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【射線確認 Lv.2】兆候
【魔法安全確認 Lv.1】
【罠感知 Lv.1】
【総合盤面確認 Lv.1】兆候
【死因ログ参照 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【表示優先順位 Lv.1】
新規獲得:【床と射線の同時確認 Lv.1】
更新候補:【総合盤面確認 Lv.1】実用化前進
【登場人物紹介】
コヨリ:情報量に殺された幼女勇者。全部見れば安全、という甘い考えを迷宮に折られた。
ログル:危険表示の優先順位を提案。だんだん相棒というより、命のUI担当になってきた。
反射床の詠唱ゴーレム再演:魔法使い経験を試す再演敵。直接撃つと反射する、性格の悪い教材。
【ローグライクあるあるメモ】
罠、射線、敵、床、アイテム。情報が多いほど安全に見えて、実は判断が遅れます。深層では「何を見るか」そのものが一手です。
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