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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第11章(第2部) 死因学者と死亡ログ改ざん

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罠と射線と魔法、全部見ると情報で死ぬ

11Fからは、罠、魔法、射線、属性床の再演です。

全部見れば安全かと思いきや、情報量そのものが敵になります。

幼女勇者、脳内処理落ちの危機。


 11Fの床に降りた瞬間、コヨリは足を止めた。


 通路の先に、三種類の危険が見える。


 床には罠の匂い。壁には魔法反射の光。奥には弓兵の影。さらに床の一部が赤く熱を持ち、別の場所は薄い氷で覆われている。


 コヨリは深呼吸した。


「ログル、確認」

「はい」

「罠レイヤー」


 床の一部が赤く染まる。


「射線レイヤー」


 通路を横切る細い線が浮かぶ。


「属性床レイヤー」


 火床が橙、氷床が青、雷床が黄色に光る。


「敵速度レイヤー」


 弓兵の後ろに、倍速コウモリの影が二つ見えた。


「うん。多い」

「多いです」

「消したら死ぬやつがある」

「あります」

「全部出したら?」

「見えます」


「やった」

「ただし、勇者様の処理速度を超えます」

「わたしの脳みそにもスペック表があるの!?」

「あります。現在、警告が出ています」

「出さないで!」


 でも、コヨリは全部を出した。


 罠、射線、属性床、敵速度。視界が色で埋まる。赤、青、黄色、白、細い線、太い線、点滅するマス。どこへ行けばいいのか、逆に分からない。


「えっと、火床はダメ。氷床も滑る。射線はここで、罠はそこ。倍速コウモリがこっちで、魔法兵があっちで、えっと、えっと」


「勇者様、右から矢」

「右ってどの右! 情報の右!?」


 矢が飛んだ。


 コヨリは避けようとして、罠の赤いマスを踏まないように体をひねった。ひねった先が射線だった。


 魔法兵の雷が、まっすぐ飛んでくる。


「全部見たのにいいいいいい!」


【死亡ログ】

【死因:全部見ようとして現在の一手を失った】

【評価:情報量も罠です】

【累計死亡回数:81回】

【死因再演迷宮内死亡回数:5回】

【新規獲得:表示優先順位 Lv.1】


 拠点に戻ると、コヨリは反省会テーブルに顔を伏せた。


「わたし、ちゃんと全部見た」

「はい」

「全部見たのに死んだ」

「はい」

「ひどくない?」

「ひどいです。ただ、全部見たために、今見るべきものが埋もれました」

「ログル、それを先に言って!」

「言いました」

「もっと大きく!」

「次から、警告音を少し大きくします」

「わたしの脳内通知設定みたいになってきた!」


 ログルは反省会テーブルに、優先順位を書いた。


【最優先:今すぐ死ぬもの】

【次点:一手後に死ぬもの】

【後回し:後で困るもの】

【見なくていいもの:欲しい宝箱】


「最後、悪意ない?」

「実績に基づく分類です」

「実績がつらい!」


 再突入。


 コヨリは今度、全部を出さない。ログルの宝石に触れ、表示を絞る。


「今すぐ死ぬものだけ」


 射線と隣接敵だけが浮かぶ。罠は見えない。属性床も見えない。怖いが、視界はすっきりした。


「罠が見えないの怖い」

「今踏まなければ死なない罠です」

「踏んだら死ぬじゃん」

「踏まない一手を選びます」

「なるほど。わたし、今から賢くなる」


 コヨリは一歩下がった。射線が外れる。倍速コウモリが二歩近づく。


「次、隣接敵」


 倍速コウモリの危険マスが赤くなる。コヨリは眠りの杖を構える。


「杖、振る。投げない。遠投腕輪なし」


「確認済みです」

「えらいでしょ?」

「かなりえらいです」


 眠りの杖が光り、コウモリが床へ落ちる。ここでようやく罠レイヤーを出す。


 足元の二マス先に落とし穴。左に矢罠。右に火床。


「今なら見える。さっきは色の祭りで全部お祭りだった」

「祭りというより警告です」

「警告が多すぎると祭りになるんだよ!」


 12F、13Fと進む。コヨリは少しずつ表示を切り替える癖を覚えていく。

 14Fで、床の二択が出た。

 左は火床。右は氷床。まっすぐ行くと射線。後ろには倍速コウモリが迫る。


「ログル、火と氷と射線とコウモリ。どれが一番死ぬ?」


「即死は射線です。次に倍速コウモリ。火床は継続ダメージ。氷床は滑りますが、壁ぎわなら止まれます」


「つまり右?」

「壁ぎわの右です。中央の右だと滑って射線に出ます」

「右の中にも悪い右がある!」


 コヨリは壁ぎわの右へ動いた。氷で足が滑るが、壁に肩をぶつけて止まる。痛い。けれど生きている。


「痛いけど生きてる!」

「最良です」

「最良の基準が低い!」


 15Fには、反射床の詠唱ゴーレムの再演が待っていた。


 直接魔法を撃つと反射される。火床と氷床と雷床が混ざり、過去の属性迷宮を嫌な感じに思い出させる配置だ。


 コヨリは火球を構えかけて、止まった。


「撃ちたい」

「撃つと反射します」

「でも撃ちたい。魔法使いっぽいから」

「勇者様、今回のクラスは勇者です」

「気持ちの問題!」

「命の問題でもあります」


 コヨリは杖を下ろす。代わりに、氷床の端へ小石を投げた。小石が滑り、ゴーレムの足元で跳ねる。ゴーレムが一歩ずれる。反射床の向きが変わった。


「火球、直接じゃなくて壁へ」

「はい。反射角、許容範囲です」

「わたし、今ちょっと賢い?」

「かなり賢いです」

「じゃあ行く!」


 火球は壁で跳ね、反射床を通り、ゴーレムの背中に当たった。ゴーレムが雷床へ倒れ、雷が走る。コヨリは絶縁床に立っている。


 ゴーレムが崩れた。


 15F突破。


 階段の前で、コヨリはへたり込んだ。


「情報を全部見ないって、勇気いる」

「はい」

「でも、今死ぬものから見ればいいんだね」

「はい。死因学者の基礎に近いです」

「死因学者って、死ぬのが上手い人じゃないよね?」

「死因を、生存に変える人です」


 コヨリは少しだけ笑った。


「それなら、いい」


【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:2回

累計死亡回数:82回

死因再演迷宮内死亡回数:6回


死因1:【全部見ようとして現在の一手を失った】

評価:【情報量も罠です】

新規獲得:【表示優先順位 Lv.1】


死因2:【床を避けすぎて射線に立った】

評価:【地面だけでなく空間も見ましょう】

新規獲得:【床と射線の同時確認 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在領域:死因再演迷宮15F突破

累計死亡回数:82回

死因再演迷宮内死亡回数:6回

クラス:勇者

クラス適性:【死因学者】強反応

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【射線確認 Lv.2】兆候

【魔法安全確認 Lv.1】

【罠感知 Lv.1】

【総合盤面確認 Lv.1】兆候

【死因ログ参照 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【表示優先順位 Lv.1】

新規獲得:【床と射線の同時確認 Lv.1】

更新候補:【総合盤面確認 Lv.1】実用化前進


【登場人物紹介】

コヨリ:情報量に殺された幼女勇者。全部見れば安全、という甘い考えを迷宮に折られた。

ログル:危険表示の優先順位を提案。だんだん相棒というより、命のUI担当になってきた。

反射床の詠唱ゴーレム再演:魔法使い経験を試す再演敵。直接撃つと反射する、性格の悪い教材。


【ローグライクあるあるメモ】

罠、射線、敵、床、アイテム。情報が多いほど安全に見えて、実は判断が遅れます。深層では「何を見るか」そのものが一手です。


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