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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第11章(第2部) 死因学者と死亡ログ改ざん

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過去のわたし、仮名の付け方が雑

死因再演迷宮6Fからは、食料、店、壺、未識別仮名の事故が待っています。

自分でつけた名前に、自分で殺される。

それもまた、死に覚えです。嫌すぎます。

 6Fに降りた瞬間、コヨリのお腹が鳴った。


 ぐう、と白い迷宮に響いた音は、思ったより大きい。コヨリは自分のお腹を押さえ、ログルを見た。


「ログル。今の、行動判定?」

「お腹の音は、通常ターン消費ではありません」

「よかった」

「ただし、近くの敵が音に反応しました」

「やっぱ、よくなかった!」


 通路の奥から、丸い魔物が転がってくる。体に【満腹度】と書かれた札をぶら下げている。いかにも食料管理を学ばせる気満々の敵だ。


「名前からして嫌!」

「飢餓だるまです。接触されると満腹度が減ります」

「お腹の音に寄ってくる敵、最悪すぎる!」


 コヨリは手持ちを確認した。ミーナの保存パンはない。以前使い切った記録の再演だからだ。代わりに、床に草が一本落ちている。


 札には、見覚えのある仮名がついていた。


【未識別草:たぶん高級草】


 コヨリの目が輝いた。


「あ――復活草だったやつ!」

「勇者様、待ってください」

「でも高級草だよ? 高額で、最後まで持ってたら復活草だったやつ!」

「それはシード100の店で購入した個体です。この迷宮の草は、死因ログを元に再演されています。仮名だけ同じで、中身が同じとは限りません」


「仮名のくせに中身を保証しないの!?」

「仮名ですので」

「仮名、信用ならない!」


 飢餓だるまが近づいてくる。満腹度はじわじわ減っている。コヨリは草を握ったまま迷った。


 飲むべきか。温存すべきか。


 復活草かもしれない。満腹草かもしれない。爆裂草かもしれない。過去の自分がつけた仮名が、こんなに未来の自分を苦しめるとは思わなかった。


「ログル、どうする?」

「現状、満腹度は危険域です。草を使うなら、今です」

「復活草だったら?」

「復活草は、死んだ時に価値があります」

「今死にそう!」

「満腹度で死にそうです」

「じゃあ飲む!」


 コヨリは草を飲んだ。

 お腹が、ぽんと温かくなる。


【識別完了:満腹草】


「満腹草ううううううううう! いや助かったけど! 助かったけど、復活じゃなかったあああああ!」


 叫んでいる間に、飢餓だるまが隣へ来た。


「勇者様、叫びは行動ではありませんが、敵はもう隣です」

「なんで叫び中に心の安全まで削るの!」


 コヨリは横へ逃げた。床がぬるりと滑る。満腹草の葉が床に落ちていたらしく、足元が妙に青い。


 つるん。


 飢餓だるまに接触される。満腹度が一気に削れる。さっき増えた分が消え、さらにHPが減り始める。


「満腹草、使い方が下手だと満腹じゃなくなる!」


 一手遅れた。


【死亡ログ】

【死因:満腹草を復活草だと思って迷い、飲んだあと油断した】

【評価:命綱は、使いどころと足元確認までが命綱です】

【累計死亡回数:79回】

【死因再演迷宮内死亡回数:3回】

【新規獲得:仮名に願望を混ぜない Lv.1】


 拠点へ戻ったコヨリは、反省会テーブルに大きく書いた。


【仮名に願望を混ぜない】


 その横に、さらに小さく書く。


【でも夢はほしい】


 ログルがそれを見た。


「勇者様、二行目は攻略情報ではありません」

「心の情報!」

「心の情報は、拠点保存用ログに入れます」

「それならよし!」


 再突入後、コヨリは6Fを抜け、7Fへ進んだ。そこには店があった。


 死因再演迷宮の店は、普通の店よりさらに不気味だった。棚には草、壺、巻物、腕輪が並んでいる。値札はある。だが、値札の数字がたまに瞬きをする。


「値札が瞬きしてる」

「価格変動型の再演店です」

「店までわたしの反応を見て値上げするの?」

「可能性があります」

「神様、商売まで性格悪い!」


 店主は、箱型の魔物だった。ミミックではない。たぶん。口は閉じている。だが、店主が箱型というだけで、コヨリは信用できない。


「いらっしゃいませ。......ご安心ください。噛みませんので」

「言った! ミミック商人系のこと言った!」

「勇者様、店内では叫ばず、商品を触る前に確認を」

「はい。店内で装備しない。店内で試食しない。店内で遠投しない。商品を飛ばさない。壺に大事なものを入れない」


「完璧です」


 コヨリは慎重に棚を見た。


 壺がある。


【未識別の壺:2000G】


「高い」

「保存壺、合成壺、識別壺、または危険な壺の可能性があります」

「危険な壺って何?」

「忘却壺、割れ壺、吸い込み壺、店主呼び壺など」

「最後の名前がもう死因!」


 その時、店の奥に白い紙が落ちているのが見えた。


【死亡ログ写し】


 コヨリは固まる。


「ログル、あれ、拠点保存用っぽい」


「はい。死因ログの一部です。回収できれば、差分解析に役立ちます」

「買うの?」

「値札がありません」

「拾ったら?」

「泥棒判定の可能性があります」

「じゃあどうするの!」


 店主がにこりと箱のふたを揺らした。


「そちらは、お客様の記録でございます。お持ち帰りいただけます。ただし、壺に入れていただければ、持ち運びが安全です」


 コヨリは目を細めた。


「ログル。この店主、親切すぎる」


「はい。かなり怪しいです」

「でもログは持ち帰りたい」

「壺を識別してからです」

「識別手段は?」

「ありません」

「詰んだわーーーーーー!」


 コヨリは悩んだ。死亡ログ写しを持ったまま歩けば、敵に奪われるかもしれない。壺に入れれば安全かもしれない。でも壺が危険なら終わり。


 結局、コヨリは壺を買った。支払いを済ませた。店外へ出た。広めの通路で周囲を確認した。ログルも頷いた。


「ここなら、最悪割れても店主判定は来ません」

「じゃあ、死亡ログ写しを入れる」


 コヨリは壺のふたを開け、死亡ログ写しを入れた。

 壺の中が、白く光った。


【識別完了:忘却壺】


「名前からして怖い!」


 壺から、白い煙が上がった。死亡ログ写しの文字が薄れていく。


「待って待って待って! 保存して! 忘れないで! 忘却って名前、今から保存壺に変えて!」


「勇者様、名称変更では効果は変わりません!」

「じゃあ壺としての志を変えて!」


 無理だった。


 死亡ログ写しの一部が白紙になり、その瞬間、迷宮の床も白く抜けた。足場が消える。


「ログを忘れたら床も忘れるの!?」

「記録型迷宮です!」

「記録に頼りすぎいいいいいい!」


 落下。


【死亡ログ】

【死因:死亡ログを忘却壺に入れた】

【評価:保存先の識別は記憶より大事です】

【累計死亡回数:80回】

【死因再演迷宮内死亡回数:4回】

【新規獲得:ログ保存先確認 Lv.1】


 拠点へ戻ると、ネムが台帳に判を押す前に止まった。


「コヨリさん。今の死因、書きにくいです」

「わたしも死ににくかった!」

「死ににくい死因ではなく、書きにくい死因です」

「冷静に訂正しないで!」


 ログルは反省会テーブルに、壺の分類表を出した。


「保存壺、識別壺、合成壺、忘却壺。以後、記録類は識別済みの壺にだけ入れます」


「ログル」

「はい」

「わたし、自分の死因を守るために死んでる」

「はい」

「なんか本末転倒っぽい」

「ですが、少し進んでいます」

「本当に?」

「はい。今の死亡で、拠点保存用ログが損傷しかけた時、ぼくの宝石が自動で予備写しを作りました」


 コヨリは顔を上げた。


「守れたの?」

「完全ではありませんが、一部は」

「じゃあ、死に損ではないってことか」

「はい」

「でも忘却壺は許さないもん」

「分類に赤印をつけます」


 成功周回では、コヨリは壺を買わなかった。死亡ログ写しは、巻物の上に重ねて、胸元に抱えた。敵が近づいたら逃げる。壺に入れない。忘れない。


 10Fに到達すると、小さな整理部屋があった。


 中央には、ネムの台帳に似た机がある。机の上に、白い札が三枚置かれていた。


【死因】

【原因】

【理由】


 コヨリは札を見比べる。


「死因と原因と理由って、違うの?」


 ログルは机の上に飛び乗り、静かに答えた。


「死因は、何で死んだか。原因は、何が起きたか。理由は、なぜその一手を選んだかです」


「神様に送ってたのは?」

「主に死因と原因です」

「理由は?」

「拠点保存用ログにしか残っていません」


 コヨリは三枚目の札を手に取った。


【理由】


 薄い札なのに、少し重かった。


「じゃあ、ここから先は、理由も守る」

「はい」

「わたしが何で死んだかだけじゃなくて、何で動いたかも」

「記録します」

「神様に見せるかは?」


 ログルは、すぐには答えなかった。


「......選びます」


 コヨリはうなずいた。


「それでいい。全部渡さない」


 整理部屋の奥で、次の階段が開いた。


【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:2回

累計死亡回数:80回

死因再演迷宮内死亡回数:4回


死因1:【満腹草を復活草だと思って迷い、飲んだあと油断した】

評価:【命綱は、使いどころと足元確認までが命綱です】

新規獲得:【仮名に願望を混ぜない Lv.1】


死因2:【死亡ログを忘却壺に入れた】

評価:【保存先の識別は記憶より大事です】

新規獲得:【ログ保存先確認 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在領域:死因再演迷宮10F到達

累計死亡回数:80回

死因再演迷宮内死亡回数:4回

クラス:勇者

クラス適性:【死因学者】強反応

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【未識別警戒 Lv.3】兆候

【壺は先に識別 Lv.1】

【店ではおとなしくする Lv.1】

【死因ログ参照 Lv.1】

【対策済み警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【仮名に願望を混ぜない Lv.1】

新規獲得:【ログ保存先確認 Lv.1】

新規整理:【死因】【原因】【理由】の分類


【登場人物紹介】

コヨリ:未識別草の仮名と忘却壺に振り回される幼女勇者。自分のネーミングセンスに殺されかける。

ログル:死因、原因、理由の違いを整理する相棒。神様へ送る情報を選ぶ方向へ一歩進んだ。

ネム:死因が書きにくくても台帳を書く死亡受付。事務のプロ。


【ローグライクあるあるメモ】

未識別アイテムに仮名をつけるのは便利ですが、願望を混ぜると未来の自分が困ります。壺も同じで、保存できると思って入れたら取り返しがつかない。これぞダンジョンの悪意です。


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