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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第11章(第2部) 死因学者と死亡ログ改ざん

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死因再演迷宮、低層から心を折りに来る

死因図鑑室の奥に現れた、死因再演迷宮。

まず待っていたのは、黒狼、ミミック、未識別草。

つまり、コヨリの心に優しくない低層です。


 死因図鑑室の奥にある扉は、木製でも鉄製でもなかった。


 白い。

 拠点の壁と同じ色をしているのに、そこだけ妙に冷たい。扉の表面には、コヨリがこれまで見た死亡ログの文字が、薄い傷のように刻まれていた。


【黒狼】

【ミミック】

【未識別草】

【満腹度切れ】

【射線確認不足】

【復活草:使用済み】


 コヨリは扉の前で、両手を握ったり開いたりした。


「ログル」

「はい」

「この扉、開けたら死ぬ?」

「可能性は高いです」

「正直すぎてつらい」

「ですが、開けなければ、神様送信用ログと拠点保存用ログの差分は調べられません」

「分かってる。分かってるけど、扉に自分の死因が刻まれてるの、だいぶ嫌。表札に『死にました一覧』って書かれてる家に入る気分」


「かなり正確な比喩です」

「慰めて!」


 ログルは少し考えたあと、コヨリの足元に近づいた。


「勇者様。ぼくが先に見ます」

「それはダメ。ログルが先に噛まれたら、わたしが泣く」

「扉が噛む前提なのですか」

「ミミック経験者は、全ての扉を疑うんだよ」


 コヨリは扉に手を当てた。


 冷たい。次の瞬間、床に青白いマス目が広がった。


【特殊領域:死因再演迷宮】

【階層:1F】

【開始条件:勇者コヨリの死亡ログ照合】

【警告:過去の対策は、そのままでは通用しません】


「過去の対策がそのまま通用しないって、入り口に書く親切はあるんだ」

「親切というより、煽りに近いです」

「ログル、神様語への翻訳がうまくなってる」


 視界が白く揺れ、コヨリは草の匂いの中に立っていた。


 1F。


 そこは、最初に死んだ薬草採取場に似ていた。低い草むら。細い道。遠くの木陰。初めてこの世界へ落とされた時、何も知らずに歩いた場所。


 コヨリはすぐにしゃがみ、足元を確認した。


「足元よし。草よし。木陰よくない。あそこから黒狼が来る。わたし知ってる」

「勇者様、左の草むらも確認してください」

「左?」


 コヨリが見ると、草がわずかに揺れていた。


 黒い影が、木陰ではなく、左の草むらから飛び出した。


「そっち!?」

「対策済み行動を読んでいます!」


 コヨリは右へ跳んだ。黒狼の爪が空を切る。前ならここで終わっていた。けれど今は違う。コヨリには【黒狼の爪筋回避】がある。足元を見る癖もある。横へ逃げる判断もできる。


 右へ逃げた先の草むらが揺れた。


 もう一匹の黒狼がいた。


「二段構えは犯罪いいいいいいい!」


 一手。


 黒狼の牙が、コヨリの視界を黒く塗った。


【死亡ログ】

【死因:黒狼の再演を避けた先に黒狼がいた】

【評価:対策済みの対策です】

【累計死亡回数:77回】

【死因再演迷宮内死亡回数:1回】

【新規獲得:対策済み警戒 Lv.1】


 白い拠点に戻ると、ネムが台帳に判を押した。


「再演一回目、処理完了です」

「処理しないで! 慰めて!」

「黒狼の再演を避けた先に黒狼がいた場合、慰めより配置確認が有効です」

「死神さんまで攻略目線!」


 ログルは申し訳なさそうに尻尾を下げる。


「勇者様、次は回避先そのものを確認しましょう。敵が出る場所ではなく、勇者様が逃げる場所を狙ってきています」

「わたしの賢さを敵が踏み台にしてる。やだ」

「はい。とても嫌です」


 ログルが素直に同意したので、コヨリは少しだけ気が抜けた。


 再突入。


 今度は、コヨリは黒狼の出現位置だけでなく、逃げ道も見る。左の草むら、右の草むら、後ろの小石、木陰の奥。ログルの宝石が淡く光り、危険マスが赤く染まった。


「左から一匹。右に逃げると二匹目。後ろに一歩下がると小石がある」


「投げますか」


「投げる。黒狼じゃなくて、右の草むらへ」


 コヨリは小石を拾い、右の草むらへ投げた。小石が草を揺らすと、二匹目の黒狼が先に飛び出し、空振りした。


「よし!」


「勇者様、喜ぶのはあとです。一匹目が来ます」


「はい、今は生きる!」


 コヨリは後ろへ下がり、最初の黒狼の突進を避ける。二匹の黒狼が同じ通路に並んだ。小石袋改からもう一つ石を取り出し、足元の転び石へ投げる。


 黒狼が滑った。


「自分の死因で作った迷宮なのに、黒狼が転ぶとちょっとうれしい!」

「だいぶ性格が出ています」

「ログル、今のは褒めてないよね?」

「攻略面では褒めています」


 1F突破。

 2Fには宝箱があった。

 ひとつだけ、部屋の真ん中に置かれている。いかにも開けてくださいという顔をしている。

 コヨリは距離を取った。


「呼吸してる」

「はい」

「開けない」

「賢明です」

「小石も投げない」

「なぜですか」

「小石を当てたら、起きるかもしれない。ここは放置」

「かなり成長しています」


 コヨリは胸を張り、宝箱を迂回した。宝箱が、ぱかりと自分から開いた。


「開けてない!」


 ミミックは床を蹴って跳ねた。宝箱なのに跳ねた。


「宝箱が自走するなあああああ!」

「勇者様、後退!」

「後ろ、確認済み!」


 後ろに下がった。安全マスのはずだった。そこに、もう一つ宝箱が落ちてきた。


「上から追加するなあああああ!」


 上下から宝箱に挟まれ、視界ががぶりと閉じた。


【死亡ログ】

【死因:開けていない宝箱に噛まれた】

【評価:今回は向こうから来ました】

【累計死亡回数:78回】

【死因再演迷宮内死亡回数:2回】

【新規獲得:能動ミミック警戒 Lv.1】


 拠点に戻ったコヨリは、死因図鑑室の床に寝転がった。


「もう宝箱という概念が信用できない」

「以前からかなり信用していませんでした」

「開けなければ安全っていう最低限の約束を破られたの!」


 ログルは額の宝石に、ミミックの図を表示した。宝箱に足が生えている。


「能動型です。勇者様が開けない対策を取ったため、自分から接近するよう再演されています」

「わたしの成長に合わせて、宝箱も成長するな!」

「敵も死因ログを参照している可能性があります」


「やっぱり神様、わたしの攻略メモ読んでるじゃん!」


 再突入後、コヨリは宝箱を見た瞬間、床に線を引いた。


「ログル、ミミックは敵。宝箱は敵。宝箱っぽい床も敵。箱型の影も敵」

「対象が広すぎます」

「広めに疑って、狭めに生きる!」


 今度は宝箱を無視するだけではなく、距離を保って壁ぎわへ誘導する。近づいてきた瞬間、コヨリは転び石を蹴った。転び石がミミックの足元へ転がる。


 宝箱が転んだ。


「宝箱が転ぶ絵面、ちょっと面白い!」

「笑っている間に通路へ」

「はい!」


 3Fには未識別草が落ちていた。コヨリは拾わず、まず周囲を見る。


「草は安全地帯で試す」

「はい」

「でも、安全地帯ってどこ?」

「この迷宮では、完全な安全地帯は確認できません」

「じゃあ試せないじゃん!」

「なので、今は仮名をつけて持ちます」


 コヨリは草を見つめ、慎重に札をつけた。


【未識別草:たぶん草】

「......情報量ゼロです」

「願望を混ぜると死ぬ気がするから!」


 5Fでは、黒狼とミミックが同じ部屋にいた。低層小ボスのような顔をしている。正面から戦う必要はない。コヨリは壁沿いに動き、宝箱を黒狼の突進路へ誘導する。


 黒狼がミミックに噛まれた。


「敵同士でやってる!」

「勇者様、今です」

「はい、拾わない、見ない、欲張らない!」


 階段へ走る。階段前に宝箱がある。コヨリは見ない。絶対に見ない。


「ログル、今わたし、すごくえらい」

「はい。かなりえらいです」


 5F突破。


 階段を降りる直前、ログルの宝石に小さな文字が浮かんだ。


【死因分類:低層再演】

【学習項目:対策済み行動も狙われる】


 コヨリは口を尖らせた。


「わたし、強くなってるのに、敵も意地悪になってる」

「はい」

「でも、前より長く生きた」

「はい」

「じゃあ、次」


 コヨリは階段を降りた。


【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:2回

累計死亡回数:78回

死因再演迷宮内死亡回数:2回


死因1:【黒狼の再演を避けた先に黒狼がいた】

評価:【対策済みの対策です】

新規獲得:【対策済み警戒 Lv.1】


死因2:【開けていない宝箱に噛まれた】

評価:【今回は向こうから来ました】

新規獲得:【能動ミミック警戒 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在領域:死因再演迷宮5F突破

累計死亡回数:78回

死因再演迷宮内死亡回数:2回

クラス:勇者

クラス適性:【死因学者】強反応

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【未識別警戒 Lv.3】兆候

【足元確認 Lv.2】

【ミミック警戒 Lv.1】

【死因ログ参照 Lv.1】

【総合盤面確認 Lv.1】兆候


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【対策済み警戒 Lv.1】

新規獲得:【能動ミミック警戒 Lv.1】

更新候補:【ミミック警戒 Lv.1】→【ミミック警戒 Lv.2】


【登場人物紹介】

コヨリ:自分の過去死因に殺されるという、嫌すぎる復習を受ける幼女勇者。

ログル:敵が「対策済み行動」を狙っていると解析。慰めより先に攻略情報を出してしまう癖は健在。

ネム:死亡受付担当。黒狼再演も能動ミミックも、きっちり台帳へ記録する。


【ローグライクあるあるメモ】

宝箱を開けなければ安全、とは限らないのが死因再演迷宮です。過去の成功行動が読まれると、今度は「正解っぽい行動」そのものが罠になります。


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