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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第10章 帰還門は魔王城地下三十層にある

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未識別の草は、最後に名前を明かす

三十階は、もう目の前です。

手持ちは少なく、敵は速い。

最後の未識別草が、ここで名前を明かします。


 階段まで、あと一歩だった。


 帰還門番の影の爪が、コヨリの背中へ届く。世界が遅くなる。足元のマス目、影の向き、階段の縁、ログルの宝石の光。全部が見える。見えるのに、体はもう動かない。


「ログル」

「はい」

「あと一歩」

「はい」

「足りない」

「......はい」


 爪が触れた。


 暗転しなかった。


 保存壺の奥で、高額未識別草が光った。銀色の葉がほどけ、コヨリの胸に小さな熱が戻る。HPが少しだけ戻った。満腹度も、ほんの少しだけ戻る。立ち上がれる。走れるほどではない。でも、一歩なら動ける。


【未識別草:効果発動】

【識別完了:復活の草】

【死亡処理:即時復帰】

【累計死亡回数:76回】

【シード100内死亡回数:12回】


 コヨリは床に手をつき、震えながら息を吸った。


「ログル」

「はい」

「この草、復活だった」

「はい」

「もっと早く教えて」

「未識別でした」

「未識別、最後まで仕事しすぎいいいいいいいい!」


 叫びながらも、コヨリは泣きそうだった。怖かった。ここまで来て、あと一歩で終わるのが怖かった。けれど、復活草は全回復ではない。立てるだけだ。門番の影はまだいる。


「勇者様、階段です」

「倒さない」

「はい」

「拾わない」

「はい」

「戻らない」

「はい」

「行く」


 コヨリは一歩踏み出した。


 階段へ足が乗る。影の爪が空を切る。白い光が下から吹き上がり、コヨリとログルを包み込んだ。


 地下三十階には、敵がいなかった。


 罠もない。店もない。宝箱もない。床は静かで、壁にはこれまでの死因ログが薄く刻まれている。黒狼。ミミック。食料不足。火球。罠。射線。ピヨラ。魔王城。ミーナ。カイ。ひとつひとつの死に方が、白い線になって奥へ続いていた。


「死に方で道ができてるの、嫌すぎる」

「でも、道です」

「嫌だけど、道なんだね」


 奥に、門があった。


 それは大きくも、派手でもなかった。古い玄関のような形をしている。魔王城の地下にあるのに、魔王のものではない。神様の白い光にも似ていない。もっと古く、もっと静かで、コヨリの胸の奥に直接触れてくる光だった。


 ログルの宝石が震える。


帰還門(きかんもん):確認】

【因子照合開始】


 門には、六つの空欄があった。


【名前】

【座標】

【時間】

【記憶】

【縁】

【扉】


 最初に【縁】が光った。ミーナのパン。カイの木剣。ピヨラの寝床。ゼルドの苦情。ベルの勤務表。ネムの台帳。リュシアのホットミルク。ログルの声。消えたシードの全部が、小さな光になってそこへ集まる。


 次に【扉】が光った。王都地下の古い扉、魔王城地下三十層、白銀の帰還ピン。コヨリがここまで持ってきた道の記録だ。


 【記憶】が、一瞬だけ揺れた。復活草でつながった命と、死因ログが混ざったせいだろう。けれど、まだ弱い。


 【名前】は光らない。

 【座標】も光らない。

 【時間】も光らない。


 コヨリは門に近づいた。白銀の帰還ピンを握ると、門の向こうに薄い景色が見えた。靴箱。小さな傘。ランドセル。夕方の匂い。誰かの声がした気がした。


 コヨリの手が伸びる。


「勇者様」


 ログルの声は、静かだった。でも、今までで一番強かった。


「座標が足りません」

「見えてる」

「はい」

「すぐそこに見える」

「はい」

「帰りたい」

「知っています」

「ログル」

「はい」

「手を伸ばしたら?」

「門が崩れます。勇者様は戻れなくなるかもしれません」

「死ぬ?」

「死亡ログに残せるかも分かりません」


 コヨリは手を止めた。


 それは、怖い言葉だった。死ぬより怖い。死ねば拠点に戻る。この世界はひどいけれど、死因ログは残る。ログルが覚えている。ネムが台帳に書く。思い出ログ棚に札が増える。けれど、ここで失敗したら、記録にも残らないかもしれない。


 門の向こうの光は、優しかった。


 だからこそ、コヨリは手を下ろした。


「......じゃあ、次は座標を探す」

「はい」

「名前も、時間も、記憶も」

「はい」

「帰れなかった」

「はい」

「でも、ここまで来た」

「はい。三十階まで、来ました」


 コヨリは笑った。泣きそうな顔で、それでも笑った。


「神様に言いたいこと、いっぱいある」

「はい」

「魔王を倒せば帰れるって、ちゃんと言ったよね」

「記録には、近い発言があります」

「近いじゃなくて、わたしは信じたんだよ。だから来た。だから死んだ。だから、ここまで来た」

「......はい」


 白い管理光が、門の上から一瞬だけ降りた。主神アドミニスの声が、遠くから聞こえる。


「おめでとう、勇者ちゃん。かなり進んだね。やっぱり、きみなら検証できると思ってたよ」


 コヨリの笑顔が消えた。


「検証?」

「帰還門の因子条件は、古くて複雑なんだ。僕も全部はまだ」

「ログル」

「はい」

「今の、記録して」

「記録します」

「神様が、わたしで検証してたって」

「......はい」


 ログルの宝石が、白い光を少しだけ弾いた。神様への送信ログが、一瞬だけ止まる。アドミニスの声が途切れ、門の光も薄くなる。


【帰還因子:名前 未取得】

【帰還因子:座標 未取得】

【帰還因子:時間 未取得】

【帰還因子:記憶 不足】

【帰還因子:縁 反応済】

【帰還因子:扉 反応済】


 コヨリは必要因子リストを見た。泣きたい。怒りたい。叫びたい。けれど、ここで全部使うのは違う気がした。怒りも、涙も、まだ道具だ。使う場所を間違えれば、きっとまた死ぬ。


「ログル。帰ろう」

「拠点へ、ですか」

「うん。まだ、家じゃない。でも、戻る場所ではあるから」


 白銀の帰還ピンが光り、門の情報を拠点へ結びつける。三十階の景色が薄れていく。最後に、コヨリは門の向こうの靴箱をもう一度だけ見た。


「待ってて」


 白い拠点に戻ると、ネムはいつものように判を押さなかった。リュシアは黙ってホットミルクを置き、ゼルドとベルの記録札が思い出ログ棚に並ぶ。高額未識別草の札には、もう名前がついていた。


【復活の草:使用済み】


 コヨリは壁へ向かう。


【帰る】

【忘れない】


 その下に、震える字で書き足した。


【神様の仕様を攻略する】


 ログルが隣に立つ。


「勇者様。それは、神様への反逆に近いです」

「違うよ」

「違いますか」

「攻略だよ」


 コヨリは羽ペンを置き、思い出ログ棚を振り返った。怖い。帰れなかった。神様は信用できない。必要な因子はまだ足りない。


 でも、もう魔王討伐だけを信じて歩く必要はない。


 道は見えた。


「次は、死因ログをこっちの武器にする」

「神様への送信ログを、調整する必要があります」

「それ、できるの?」

「まだ、完全には」

「じゃあ覚える」

「はい」

「死に方まで、神様に好き勝手使わせない」


 ログルの宝石が、静かに光った。


【クラス適性:死因学者 強反応】

【拠点施設候補:死因研究室】

【次期攻略方針:死亡ログ改ざん】


 コヨリはうなずいた。


()()()()()()()()()()()()


 白い拠点の壁に、その三つの言葉が並んだ。

【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:1回

累計死亡回数:76回

シード100内死亡回数:12回


今回の死因:【帰還門番の影に階段前で追いつかれた】

評価:【未識別草が、最後に名前を明かしました】

識別完了:【復活の草】

死亡処理:【即時復帰】

新規獲得:【座標因子感知 Lv.1】兆候


【今回のクリアログ】

到達階層:魔王城地下30F

到達時レベル:Lv22

到達時HP:復活後わずか

持ち帰り成功:【帰還門情報】【白銀の帰還ピン登録】【必要因子リスト】

消費:【復活の草】

拠点登録:【帰還門反応】【魔王城地下三十層踏破記録】

獲得因子反応:【帰還因子:縁】【帰還因子:扉】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード100終了

累計死亡回数:76回

シード100内死亡回数:12回

クラス:勇者

クラス適性:【死因学者】強反応

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【未識別警戒 Lv.3】兆候

【射線確認 Lv.2】兆候

【魔法安全確認 Lv.1】

【人物レイヤー地図 Lv.1】

【縁感知 Lv.1】

【倒さない判断 Lv.1】

【死因ログ参照 Lv.1】

【総合盤面確認 Lv.1】兆候


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【帰還門感知 Lv.1】

新規獲得:【座標因子感知 Lv.1】兆候

新規獲得:【死因ログ参照 Lv.1】

新規獲得:【総合盤面確認 Lv.1】兆候

更新:【シード差分確認 Lv.2】継続強化

施設候補:【死因研究室】

次期方針:【死亡ログ改ざん】


【帰還因子状況】

【名前】未取得

【座標】未取得

【時間】未取得

【記憶】不足

【縁】反応済

【扉】反応済


【拠点施設】

【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【属性検証卓】【罠訓練場】【射線訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【人物レイヤー】【反省会テーブル】【思い出ログ棚】【帰還門建設予定地 仮】【死因研究室 候補】


【登場人物紹介】

コヨリ:魔王城地下三十層を踏破し、帰還門を見つけた幼女勇者。帰れなかったが、次に探すものは分かった。

ログル:神様への送信ログを一瞬だけ止めた相棒。記録端末から、コヨリの味方へさらに近づいた。

ネム:今回は茶化さなかった死亡受付担当。復活草による即時復帰も台帳には残す。

リュシア:何も言わずホットミルクを置いた酒神。大人の優しさ担当。

魔王ゼルド:倒されなかった魔王。苦労人だが、帰還門への道を示した。

ベル:神様より説明が丁寧な秘書。魔王軍の書類で強制イベントを抑えた。

アドミニス:主神。帰還方法を完全に教えたのではなく、コヨリで検証していた疑惑が濃くなった。


【ローグライクあるあるメモ】

未識別草を最後まで抱えた結果、復活草として命をつなぎました。識別できない不安、使い惜しみ、飲むタイミングの迷い。全部が最後の一歩に乗ると、ただのアイテムが物語になります。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると、とても励みになります!

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