魔法は便利、便利なものはだいたい事故る
十一階から十五階は、魔法と属性床の階層です。
火も氷も雷も便利です。
便利なものは、だいたい使い方を間違えると死にます。
十一階へ降りた瞬間、コヨリは熱い風で前髪を持ち上げられた。
床のあちこちが赤く光り、油のような黒い染みが通路に広がっている。壁には、魔法文字が薄く走っていた。魔法使いの時に見た属性迷宮を思い出す。あの時も燃えた。かなり燃えた。
「ログル」
「はい」
「既視感がすごい」
「似た構造です」
「じゃあ、今度は死なない?」
「既視感だけでは助かりません」
「もっと希望のある言い方して!」
火床の向こうに、油まといスライムがいる。普通に殴ると油が飛びそうだ。こども杖には【ころころ火球】の魔法が残っている。火球を転がせば、敵は倒せる。たぶん。
「ログル、火球」
「油床があります」
「分かってる。敵だけ燃やす」
「火は、敵だけを選びません」
「魔法なのに融通きかない!」
コヨリは少しだけ角度を変え、火球を転がした。火球は油まといスライムに当たり、そこから油床へ火が走った。まるで誰かが床に火の線を描いたみたいに、赤い光が部屋中へ広がる。
「見たことあるやつううううううううううう!」
見たことはあった。だからといって、足が速くなるわけではない。炎が通路を塞ぎ、逃げ道が消えた。
暗転。
【死亡ログ】
【死因:ころころ火球が油床で二度目の大炎上】
【評価:復習はできました。回避はできませんでした】
【累計死亡回数:69回】
【シード100内死亡回数:5回】
【新規獲得:既視感だけでは助からない Lv.1】
拠点で、コヨリはホットミルクの湯気を見ながら言った。
「見たことある死に方でも死ぬんだね」
「はい。思い出すことと、対処することは別です」
「人生みたいなこと言わないで。わたし八歳くらいの見た目なんだけど」
「中身の攻略経験は濃いです」
「濃くしたくてしたんじゃない!」
再挑戦では、コヨリは火球を撃たなかった。油まといスライムは、氷床へ誘導して滑らせ、壁にぶつけて処理する。倒したというより、滑らせた。魔法は火力ではなく地形操作。分かっている。納得はしていない。
十二階は氷床。十三階は水たまりと雷床。十四階には、反射壁と魔法兵が並んでいた。コヨリは一階ごとに地図を汚していく。赤は火、青は氷、黄色は雷、黒は油。地図が派手になるほど、心が暗くなる。
「ログル、巻物が一枚ある」
「未識別です」
「識別の巻物だったら助かる」
「大部屋の巻物なら危険です」
「大部屋って便利な時もあるよね」
「この階では、魔法兵の射線が全部つながります」
「読まない方がいい?」
「安全地帯で確認しましょう」
「ここは?」
「安全ではありません」
「じゃあ少しだけ」
読んだ。
部屋の壁が、ずずず、と下がった。反射壁が遠くまで続き、水たまりと雷床が一つの大きな空間に広がる。魔法兵たちが、一斉にこちらを向いた。
「大部屋だああああああああああああ!」
「射線が全部つながりました」
「解説が冷静すぎる!」
雷が走り、反射壁で折れ、床を伝い、コヨリの足元まで来た。体がしびれて動けない。動けないのに敵は動く。これが一番嫌な死に方だ。
暗転。
【死亡ログ】
【死因:大部屋化で魔法兵の射線を全部つないだ】
【評価:広くなれば安全とは限りません】
【累計死亡回数:70回】
【シード100内死亡回数:6回】
【新規獲得:読む前に部屋を見る Lv.1】
成功周回では、巻物を読まなかった。安全地帯まで持っていき、ログルの宝石で照らしてから仮識別する。やっぱり大部屋の巻物だった。コヨリはそれを保存壺の奥へ押し込み、二度と見ないふりをした。
「捨てませんか」
「使えるかもしれない」
「使うと死ぬかもしれません」
「そこがローグライクの嫌なところ!」
十五階には、中ボスがいた。反射床の詠唱ゴーレム改。石の体に魔法文字が刻まれ、正面から魔法を撃てば全部跳ね返してくる。ゴーレムはゆっくり腕を上げ、長い詠唱を始めた。
「勇者様、直接撃つと反射します」
「知ってる。魔法使いの時に死んだ」
「では」
「撃たない。床を使う」
コヨリは氷床を広げ、ゴーレムの足元を滑らせた。詠唱の向きが少しずれる。そこへ雷床を起動する。雷は水たまりを伝い、反射壁で曲がり、ゴーレム自身の詠唱とぶつかった。
石の体がびりびり震え、ゴーレムが自分の魔法で崩れる。
コヨリは壁に背を預けて座り込んだ。
「魔法使った?」
「使いました」
「倒した?」
「倒しました」
「でも、直接撃ってない」
「それが正解です」
「魔法使いなのに、魔法を撃たないのが正解なの、納得いかない!」
十六階への階段の前で、ログルが小さく笑った気がした。
「勇者様。便利なものは、使わない判断も含めて便利です」
「名言っぽいのに、だいたい火事の後なんだよなあ」
階段の下から、矢羽根がこすれる音がした。次は射線の階層だ。
【今回の死亡ログ】
今回増えた死亡回数:2回
累計死亡回数:70回
シード100内死亡回数:6回
主な死因1:【ころころ火球が油床で二度目の大炎上】
評価:【復習はできました。回避はできませんでした】
新規獲得:【既視感だけでは助からない Lv.1】
主な死因2:【大部屋化で魔法兵の射線を全部つないだ】
評価:【広くなれば安全とは限りません】
新規獲得:【読む前に部屋を見る Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード100
到達階層:魔王城地下15F突破
次回開始:Lv1/HP15
クラス:勇者
副適性:地図師/死因学者候補
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【属性識別 Lv.1】
【魔法安全確認 Lv.1】
【未識別警戒 Lv.3】兆候
【壺は先に識別 Lv.1】
【読む前に部屋を見る Lv.1】
【既視感だけでは助からない Lv.1】
【足元確認 Lv.2】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【既視感だけでは助からない Lv.1】
新規獲得:【読む前に部屋を見る Lv.1】
更新候補:【魔法安全確認 Lv.1】強化
中継記録:【魔王城地下15F】
【登場人物紹介】
コヨリ:魔法を撃たずに魔法階層を突破した幼女勇者。納得はしていない。
ログル:火は敵だけを選ばないと冷静に言う相棒。正しいが夢がない。
反射床の詠唱ゴーレム改:正面魔法を反射する中ボス。自分の魔法で崩された。
【ローグライクあるあるメモ】
大部屋化は便利な時もありますが、射線が通る階では自殺ボタンになります。魔法、巻物、属性床は全部強いですが、強いものほど使う場所を間違えると派手に死にます。
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