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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第10章 帰還門は魔王城地下三十層にある

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魔法は便利、便利なものはだいたい事故る

十一階から十五階は、魔法と属性床の階層です。

火も氷も雷も便利です。

便利なものは、だいたい使い方を間違えると死にます。

 十一階へ降りた瞬間、コヨリは熱い風で前髪を持ち上げられた。


 床のあちこちが赤く光り、油のような黒い染みが通路に広がっている。壁には、魔法文字が薄く走っていた。魔法使いの時に見た属性迷宮を思い出す。あの時も燃えた。かなり燃えた。


「ログル」

「はい」

「既視感がすごい」

「似た構造です」

「じゃあ、今度は死なない?」

「既視感だけでは助かりません」

「もっと希望のある言い方して!」


 火床の向こうに、油まといスライムがいる。普通に殴ると油が飛びそうだ。こども杖には【ころころ火球】の魔法が残っている。火球を転がせば、敵は倒せる。たぶん。


「ログル、火球」

「油床があります」

「分かってる。敵だけ燃やす」

「火は、敵だけを選びません」

「魔法なのに融通きかない!」


 コヨリは少しだけ角度を変え、火球を転がした。火球は油まといスライムに当たり、そこから油床へ火が走った。まるで誰かが床に火の線を描いたみたいに、赤い光が部屋中へ広がる。


「見たことあるやつううううううううううう!」


 見たことはあった。だからといって、足が速くなるわけではない。炎が通路を塞ぎ、逃げ道が消えた。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:ころころ火球が油床で二度目の大炎上】

【評価:復習はできました。回避はできませんでした】

【累計死亡回数:69回】

【シード100内死亡回数:5回】

【新規獲得:既視感だけでは助からない Lv.1】


 拠点で、コヨリはホットミルクの湯気を見ながら言った。


「見たことある死に方でも死ぬんだね」

「はい。思い出すことと、対処することは別です」

「人生みたいなこと言わないで。わたし八歳くらいの見た目なんだけど」

「中身の攻略経験は濃いです」

「濃くしたくてしたんじゃない!」


 再挑戦では、コヨリは火球を撃たなかった。油まといスライムは、氷床へ誘導して滑らせ、壁にぶつけて処理する。倒したというより、滑らせた。魔法は火力ではなく地形操作。分かっている。納得はしていない。


 十二階は氷床。十三階は水たまりと雷床。十四階には、反射壁と魔法兵が並んでいた。コヨリは一階ごとに地図を汚していく。赤は火、青は氷、黄色は雷、黒は油。地図が派手になるほど、心が暗くなる。


「ログル、巻物が一枚ある」

「未識別です」

「識別の巻物だったら助かる」

「大部屋の巻物なら危険です」

「大部屋って便利な時もあるよね」

「この階では、魔法兵の射線が全部つながります」

「読まない方がいい?」

「安全地帯で確認しましょう」

「ここは?」

「安全ではありません」

「じゃあ少しだけ」


 読んだ。


 部屋の壁が、ずずず、と下がった。反射壁が遠くまで続き、水たまりと雷床が一つの大きな空間に広がる。魔法兵たちが、一斉にこちらを向いた。


「大部屋だああああああああああああ!」

「射線が全部つながりました」

「解説が冷静すぎる!」


 雷が走り、反射壁で折れ、床を伝い、コヨリの足元まで来た。体がしびれて動けない。動けないのに敵は動く。これが一番嫌な死に方だ。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:大部屋化で魔法兵の射線を全部つないだ】

【評価:広くなれば安全とは限りません】

【累計死亡回数:70回】

【シード100内死亡回数:6回】

【新規獲得:読む前に部屋を見る Lv.1】


 成功周回では、巻物を読まなかった。安全地帯まで持っていき、ログルの宝石で照らしてから仮識別する。やっぱり大部屋の巻物だった。コヨリはそれを保存壺の奥へ押し込み、二度と見ないふりをした。


「捨てませんか」

「使えるかもしれない」

「使うと死ぬかもしれません」

「そこがローグライクの嫌なところ!」


 十五階には、中ボスがいた。反射床の詠唱ゴーレム改。石の体に魔法文字が刻まれ、正面から魔法を撃てば全部跳ね返してくる。ゴーレムはゆっくり腕を上げ、長い詠唱を始めた。


「勇者様、直接撃つと反射します」

「知ってる。魔法使いの時に死んだ」

「では」

「撃たない。床を使う」


 コヨリは氷床を広げ、ゴーレムの足元を滑らせた。詠唱の向きが少しずれる。そこへ雷床を起動する。雷は水たまりを伝い、反射壁で曲がり、ゴーレム自身の詠唱とぶつかった。


 石の体がびりびり震え、ゴーレムが自分の魔法で崩れる。


 コヨリは壁に背を預けて座り込んだ。


「魔法使った?」

「使いました」

「倒した?」

「倒しました」

「でも、直接撃ってない」

「それが正解です」

「魔法使いなのに、魔法を撃たないのが正解なの、納得いかない!」


 十六階への階段の前で、ログルが小さく笑った気がした。


「勇者様。便利なものは、使わない判断も含めて便利です」

「名言っぽいのに、だいたい火事の後なんだよなあ」


 階段の下から、矢羽根がこすれる音がした。次は射線の階層だ。



【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:2回

累計死亡回数:70回

シード100内死亡回数:6回


主な死因1:【ころころ火球が油床で二度目の大炎上】

評価:【復習はできました。回避はできませんでした】

新規獲得:【既視感だけでは助からない Lv.1】


主な死因2:【大部屋化で魔法兵の射線を全部つないだ】

評価:【広くなれば安全とは限りません】

新規獲得:【読む前に部屋を見る Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード100

到達階層:魔王城地下15F突破

次回開始:Lv1/HP15

クラス:勇者

副適性:地図師/死因学者候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【属性識別 Lv.1】

【魔法安全確認 Lv.1】

【未識別警戒 Lv.3】兆候

【壺は先に識別 Lv.1】

【読む前に部屋を見る Lv.1】

【既視感だけでは助からない Lv.1】

【足元確認 Lv.2】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【既視感だけでは助からない Lv.1】

新規獲得:【読む前に部屋を見る Lv.1】

更新候補:【魔法安全確認 Lv.1】強化

中継記録:【魔王城地下15F】


【登場人物紹介】

コヨリ:魔法を撃たずに魔法階層を突破した幼女勇者。納得はしていない。

ログル:火は敵だけを選ばないと冷静に言う相棒。正しいが夢がない。

反射床の詠唱ゴーレム改:正面魔法を反射する中ボス。自分の魔法で崩された。


【ローグライクあるあるメモ】

大部屋化は便利な時もありますが、射線が通る階では自殺ボタンになります。魔法、巻物、属性床は全部強いですが、強いものほど使う場所を間違えると派手に死にます。


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