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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第10章 帰還門は魔王城地下三十層にある

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店だ! 買うな、盗むな、値段を見ろ!

六階から十階は、店と壺と腕輪の階層です。

買い物は楽しい。

ただし、店主はだいたい強いです。

 地下六階の床は、やたらときれいだった。


 きれいすぎる床を見た瞬間、コヨリはしゃがんだ。指先で軽く叩く。音が少しだけ違う。前に王都で聞いた、矢罠の床に似ている。


「ログル、ここ罠」

「はい。矢罠です」

「罠が見えた。えらい」

「かなりえらいです」

「でも、見えてる罠ほど踏むのがわたし」

「今回は踏まないでください」


 コヨリは踏まなかった。踏まなかっただけで、自分に拍手したい気持ちになった。低層二回死亡の傷は深い。


 七階で、店を見つけた。


 部屋の中に敷物があり、その上に草、巻物、腕輪、壺、杖が並んでいる。隅には、妙に筋肉質な店主が腕を組んで立っていた。額には【会計前使用禁止】と書かれた鉢巻き。親切なのか圧なのか分からない。


「店だ」

「はい」

「店って、普通は安全地帯だよね」

「この世界では、商品の扱い次第です」

「買い物で死ぬの嫌だなあ」

「前例があります」

「あるの!?」

「これから増えるかもしれません」

「増やさない!」


 値札を見る。草は三百G。巻物は八百G。腕輪は千二百G。壺は二千G。コヨリは腕を組み、真剣な顔でうなる。


「値段で識別するやつだ」

「完全識別ではありませんが、候補は絞れます」

「三百Gの草」

「安い草です。回復草、鈍足草、毒草、爆裂草など」

「候補に危険が多い」

「草はそういうものです」

「草への信頼がまた下がった」


 店主が咳払いした。


「お嬢ちゃん、買うなら買う。見るだけなら、商品に触りすぎるなよ」

「はい。見るだけです。絶対、店内で使いません」

「絶対って言ったやつほど、やるんだ」

「店主さん、人生経験が深い」


 コヨリは腕輪を見た。きれいな銀色で、いかにも便利そうだ。腕輪は強い。罠感知、遠投、透視、満腹維持。強いものが多い。強いものはだいたい事故る。


「ログル、装備して効果を見るのは?」

「店内ではやめてください」

「ちょっとだけ」

「店内では、やめてください」

「そんなに?」

「商品です。会計前です。効果が遠投系なら、何かが飛びます」

「飛ぶかなあ」


 コヨリは装備した。


 手に持っていた未識別の草が、部屋の反対側まで美しい放物線を描いて飛んだ。店主の額に当たり、床へ落ちる。店主がゆっくり顔を上げた。


「お嬢ちゃん」

「事故です」

「商品を投げたな」

「投げる意思はありませんでした」

「商品は飛んだな」

「はい」


 店主の拳が、コヨリの視界を全部埋めた。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:店内で遠投の腕輪を装備して商品を飛ばした】

【評価:泥棒の意思はなくても、商品は飛びました】

【累計死亡回数:67回】

【シード100内死亡回数:3回】

【新規獲得:店内装備禁止 Lv.1】


 拠点で、コヨリは両手を膝に置いて正座していた。


「わたしが悪かったです」

「はい」

「店内で装備しません」

「はい」

「でも、遠投の腕輪が悪いと思う」

「装備したのは勇者様です」

「正論を投げないで。遠投じゃなくても刺さる」


 再挑戦。今度は腕輪を買うまで装備しない。コヨリは店主にお金を渡し、腕輪を袋に入れた。えらい。かなりえらい。


 八階で、壺を拾った。


 丸い壺。口が広く、中に何かを入れられそう。保存壺なら大当たりだ。合成壺でも強い。割れ壺なら最悪。コヨリは壺を見て、ログルを見た。


「識別の巻物、使う?」

「この階では、使ってもよい対象です」

「でも、この先で復活草とかすごい草を識別したいかも」

「可能性はあります」

「ううう。識別リソース、少なすぎる」


 コヨリは迷った末、保存壺だと信じてミーナの保存パンを入れた。


 壺が、ぱきん、と音を立てた。パン、薬、巻物、小石、全部が床に散らばる。


「割れ壺かああああああああああああああああああい!」

「拾うなら一手使います」

「拾う!」

「周囲確認」

「拾う!」


 拾った一手で、通路から壺割り小僧が走り込んできた。小僧は散らばった巻物を踏み、さらに割れた壺の破片を蹴る。コヨリはパンを抱えたまま転び、HPが消えた。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:保存壺だと思って割れ壺に命綱を入れた】

【評価:保存したいのは命です】

【累計死亡回数:68回】

【シード100内死亡回数:4回】

【新規獲得:壺は先に識別 Lv.1】


 成功周回では、コヨリは識別の巻物を壺に使った。保存壺だった。今度は本当に保存壺だったので、コヨリは床に座り込んだ。


「さっき割れたのに、今は保存なの、納得いかない」

「シード内でも拾得品は変動します」

「壺にも人生があるの?」

「ありません」

「じゃあ安定して!」


 十階は、魔王軍補給所跡だった。古い机の上に、ベルの字でメモが置かれている。


【十階到達、お疲れ様でございます】

【ここから先、属性床と魔法兵が増えます】

【未識別品を店内で使用しない、壺は先に確認する、草は安全地帯で試す】

【主神様の説明書より短くまとめております】


 コヨリはメモを胸に抱いた。


「ベルさん、神様より百倍優しい」

「比較対象が神様ですので」

「ログル、それ前にも言った気がする」

「事実は繰り返されます」


 十階の帰還床は、まだ完全には起動しない。ただ、ログルの宝石が記録を取った。ここまで来たことは、拠点に残る。


「十階、到達」

「はい」

「まだ三分の一」

「はい」

「帰りたい」

「帰るために進みます」

「その言葉、便利だけどつらい!」


 十一階への階段から、熱い風が上がってきた。魔法と属性床の匂いだ。コヨリは保存壺を抱え直し、今度こそ床に置かないようにした。


【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:2回

累計死亡回数:68回

シード100内死亡回数:4回


主な死因1:【店内で遠投の腕輪を装備して商品を飛ばした】

評価:【泥棒の意思はなくても、商品は飛びました】

新規獲得:【店内装備禁止 Lv.1】


主な死因2:【保存壺だと思って割れ壺に命綱を入れた】

評価:【保存したいのは命です】

新規獲得:【壺は先に識別 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード100

到達階層:魔王城地下10F到達

次回開始:Lv1/HP15

クラス:勇者

副適性:地図師/死因学者候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【未識別警戒 Lv.2】

【罠感知 Lv.1】

【草は安全地帯で試す Lv.1】

【全部ミミックもありえる Lv.1】

【店内装備禁止 Lv.1】

【壺は先に識別 Lv.1】

【足元確認 Lv.2】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【店内装備禁止 Lv.1】

新規獲得:【壺は先に識別 Lv.1】

更新候補:【未識別警戒 Lv.2】→【未識別警戒 Lv.3】兆候

中継記録:【魔王城地下10F】


【登場人物紹介】

コヨリ:店で事故り、壺で事故った幼女勇者。買い物が怖くなった。

ログル:店内装備を止めたが、勇者様が装備した。正論が鋭い。

店主:店の守護者。泥棒の意思より商品の移動を重視する。強い。

ベル:メモだけで神様より親切な魔王軍秘書。短い説明がうまい。


【ローグライクあるあるメモ】

店は安全地帯に見えて、会計前行動で地獄になります。腕輪、壺、未識別品、店主。全部が命に関わるので、買う前に使わない、壺は識別する、泥棒は考えない。考えるだけなら自由ですが、だいたい死にます。


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