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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第10章 帰還門は魔王城地下三十層にある

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低層で死ぬのが一番恥ずかしい

魔王城地下三十層、いよいよ開始です。

まずは一階から五階まで。

低層だから安全、という考えは捨てましょう。


 シード100の空は、妙に晴れていた。


 初期村ミルカは、これまでのどのシードよりも整っている。パン屋はある。兵舎もある。井戸の横には訓練杭が立っていて、畑では村人が普通に鍬を振っていた。普通すぎる景色を見て、コヨリはまず足元を見た。


「平和な村ほど信用できない」

「正しい警戒です」

「幼女の口から出る言葉じゃないんだよなあ」


 パン屋からミーナが出てくる。白い前掛け姿なのに、腰には短剣が下がっていた。パン屋で、女騎士の影もある。彼女はコヨリを知らない顔で見て、それでも焼きたての小さなパンを渡してくれた。


「腹が減ってちゃ、勇者もできないよ。ほら、食べな」

「......ありがとう。すぐ食べないで、保存壺に入れる」

「変な子だねえ。でも、いい判断だ。焼きたては匂いで魔物も寄るからね」

「パン屋さんがそれ言うの怖い!」


 村の外では、カイが木剣を振っていた。隣には弓も立てかけてある。コヨリは一瞬だけ名前を呼びそうになり、唇を結んだ。今は知らない子。けれど、思い出ログ棚にはちゃんといる子だ。


 魔王城までは、今回は道がつながっていた。王都を抜け、魔王領へ入り、城の裏手から地下へ潜る。最初の入口は、黒い石の階段だった。壁には魔王軍の古い注意書きが残っている。


【地下三十層】

【低層で油断しないこと】

【店内で未識別品を使わないこと】

【神様の印章を見たらベルへ報告】


「ベルさんの注意書き、親切すぎる」

「神様側の看板より情報量があります」

「比較対象が底辺なの、魔王軍に失礼」


 一階は、弱いスライムがぽよぽよ跳ねるだけの部屋だった。コヨリは木剣を握りしめ、慎重に一マス進む。スライムが一マス寄る。床に薄いマス目が浮かび、ログルの宝石が青く光った。


「一階。敵は弱いです」

「その言い方、死亡フラグじゃない?」

「弱い敵でも、囲まれれば死にます」

「はい、慎重に行きます」


 慎重に行った。三階までは本当に慎重だった。


 二階で未識別の草を拾うまでは。


 草は小さく、葉が青く、見た目は回復草に似ていた。HPは少し減っている。周囲にはスライムが二匹。階段は近い。コヨリは草を見つめ、ログルを見た。


「ログル。これ、回復草っぽくない?」

「未識別です」

「でも、見た目が優しい」

「見た目で判断して、前に何度か死んでいます」

「今回は低層だし」

「勇者様」

「一口だけ」

「勇者様」


 コヨリは食べた。


 足が重くなった。


「鈍足草だこれええええええええええええ!」


 スライムが一マス寄る。コヨリは逃げる。スライムがまた寄る。鈍足のせいで、距離が開かない。低層スライムのぽよぽよ音が、急に処刑太鼓みたいに聞こえた。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:未識別草を回復草だと思って食べた】

【評価:低層の草ほど信用してはいけません】

【累計死亡回数:65回】

【シード100内死亡回数:1回】

【新規獲得:草は安全地帯で試す Lv.1】


 ネムの受付で、コヨリは床に突っ伏した。


「スライム死じゃない。草死。だからセーフ」

「スライムも関与しています」

「分類で追い討ちしないで」

「低層死亡は、心に残りやすいです」

「受付がしみじみ言うなあ!」


 再挑戦。コヨリは青い草に【たぶん鈍足草】と仮名をつけ、食べなかった。四階には宝箱部屋があった。部屋の中央に、宝箱が四つ。ひとつは呼吸している気がする。コヨリは小石を構えた。


「確認する。ミミック警戒、ちゃんとする」

「はい」

「一個だけ怪しい」

「一個だけとは限りません」

「そんな性格悪いことある?」

「あります」


 コヨリは一番怪しい宝箱に小石を投げた。宝箱が牙を出して跳ねる。やっぱりミミックだ。ここまではよかった。


 次の瞬間、残り三つも牙を出した。


「全部!? 宝箱の形した家族!?」

「確認は成功しました」

「生存は!?」

「難しいです」


 ミミック四体が、コヨリの小さな体へ同時に跳ねた。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:ミミック確認用の石を投げたら全部ミミックだった】

【評価:確認は成功しました。生存には失敗しました】

【累計死亡回数:66回】

【シード100内死亡回数:2回】

【新規獲得:全部ミミックもありえる Lv.1】


 三度目の拠点で、コヨリは反省会テーブルに大きく書いた。


【未識別草は安全地帯】

【宝箱は群れで疑う】


 書き終えると、ログルが横に小さく付け足す。


【低層でも油断しない】


「低層で二回死んだ幼女に追い打ちしないで」

「大事なので」

「大事だけど!」


 成功周回では、コヨリは二階の草を食べず、四階の宝箱部屋を開けなかった。五階の欲張りミミック親方は、部屋に入らず通路から小石で誘導し、罠床に噛ませて処理した。戦ったというより、向こうが勝手に罠へ噛みついた形だ。


「ログル、今の勝利でいい?」

「勝利です。勇者様の攻撃力はほぼ関係ありませんでしたが」

「関係ない勝利でも勝利!」


 五階の階段を降りる前、コヨリは保存壺の中のミーナのパンを確認した。まだある。匂いも逃げていない。低層で死なない。たったそれだけが、今日はとても大きい。


 地下六階への階段は、少し暗かった。


「次、店が出る可能性があります」

「店! 買い物!」

「店は安全とは限りません」

「店くらい安全にしてよ!」

「不思議の店です」

「不思議で済ませるなあああああ!」

【今回の死亡ログ】

今回増えた死亡回数:2回

累計死亡回数:66回

シード100内死亡回数:2回


主な死因1:【未識別草を回復草だと思って食べた】

評価:【低層の草ほど信用してはいけません】

新規獲得:【草は安全地帯で試す Lv.1】


主な死因2:【ミミック確認用の石を投げたら全部ミミックだった】

評価:【確認は成功しました。生存には失敗しました】

新規獲得:【全部ミミックもありえる Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード100

到達階層:魔王城地下5F突破

次回開始:Lv1/HP15

クラス:勇者

副適性:地図師/死因学者候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【危険察知 Lv.2】

【足元確認 Lv.2】

【未識別警戒 Lv.2】

【ミミック警戒 Lv.1】

【草は安全地帯で試す Lv.1】

【全部ミミックもありえる Lv.1】

【縁感知 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【草は安全地帯で試す Lv.1】

新規獲得:【全部ミミックもありえる Lv.1】

更新候補:【未識別警戒 Lv.2】強化


【登場人物紹介】

コヨリ:低層だから大丈夫、を二回で捨てた幼女勇者。成長が早い。死ぬのも早い。

ログル:未識別草を止めたが止めきれなかった相棒。低層でも容赦なく正論。

ミーナ:パン屋として登場。パンは優しいが、匂いで魔物が寄るという現実も教える。

カイ:木剣と弓の練習をしている少年。今回はまだ平和寄り。


【ローグライクあるあるメモ】

低層の死亡は恥ずかしいですが、低層で学ばないと深層で派手に死にます。未識別草、宝箱、ミミック。全部、序盤から命を取りにきます。


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