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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第9章 同じ顔、違う人生

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女騎士ミーナのパンは、同じ味がした

ミーナはパン屋ではありません。

それでも、コヨリがふらつけば食べ物を投げてきます。

硬さは、かなり戦場仕様です。

 倒さず逃がすルートは、地図の上では細い線になった。


 コヨリはその線を指でなぞる。眠り玉で弓兵を止め、場所替えの杖で補助兵をずらし、吹き飛ばしの杖で荷車を押して通路をふさぐ。カイは負傷者を抱えて退避路へ向かい、コヨリは階段前で戻らない。


 言葉にすると簡単だ。


 実際には、一歩ごとに罠があり、射線があり、ミーナが追ってくる。


「ログル、わたし今、すごくえらいことしてない?」

「はい」

「もっと褒めて」

「倒せば簡単な敵を倒さず、手持ちの消耗品をほぼ全部使い、死亡率を上げながら進んでいます」

「褒めてって言ったの!」

「勇者様らしいです」

「それは、ちょっと嬉しい」


 砦の裏手に回り込んだ時、コヨリの満腹度が危ない数字になった。ミーナからもらった携帯食はある。けれど食べるには一手使う。戦場で食べる一手は、時に攻撃を受ける一手になる。


「安全地帯まで我慢」

「満腹度がかなり低いです」

「食べても死ぬ。食べなくても死ぬ。神様、幼女のご飯事情に厳しすぎない?」


 その時、正面の煙が割れた。


 ミーナがいた。


 革鎧に傷がつき、額に汗を浮かべている。それでも足取りはしっかりしていた。丸盾を構え、退路をふさぐ位置に立つ。女騎士として、彼女は任務を果たそうとしている。


「そこまでだよ、旅の子。敵兵を逃がすつもりなら、見逃せないね」


 声は厳しい。けれど、コヨリの膝がふらついた瞬間、ミーナの眉が動いた。


「腹、空いてるのかい」

「今、それ聞く?」

「戦場でも腹は減る」


 ミーナは腰袋から携帯食を取り出し、迷わず投げた。コヨリは反射的に受け取る。前にもらったものより、少し割れている。硬く、乾いていて、パンというより小さな盾みたいだった。


「泣くなら、食べてからにしな」


 同じだった。


 パン屋ではない。覚えていない。コヨリの名前すら知らない。それでも、言葉の芯だけが同じ場所に残っていた。


 コヨリは笑いそうになって、泣きそうになって、どちらもできなかった。


「ログル」

「はい」

「これ、安全?」

「食材識別上は安全です。ただし、歯に危険です」

「パンで歯を殺しにくるな」


 ミーナが少し笑った。


「文句言えるなら、まだ走れるね」

「走りたくない」

「じゃあ捕まるかい?」

「それも嫌!」


 コヨリは携帯食を口に入れた。硬い。とにかく硬い。噛んだ瞬間、こめかみに響く。だが、満腹度は少し回復する。


 問題は、食べる一手で敵も動くことだった。


 背後の通路から、眠り煙を抜けた兵が二人現れる。ミーナが盾を構え直し、カイが遠くでこちらを振り返る。コヨリは口の中の硬いパンを飲み込めず、涙目になった。


「勇者様、包囲が進みます」

「もごっ」

「食べながら走るのは危険です」

「もごご!」

「飲み込んでから返事してください」


 コヨリは飲み込もうとして、むせた。その一拍で兵が近づく。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:携帯食をかじった一手で包囲が完成した】

【評価:食事は安全地帯で】

【新規獲得:食事前周囲確認 Lv.1】


 拠点に戻ったコヨリは、厨房で携帯食の欠片を再現しようとした。メリメルがいないので食材は限られているが、厨房には前のシードで登録した粉と水と塩がある。コヨリは小さくこね、焼き、できあがったものを見て首をひねった。


「これ、食べ物?」

「盾に近いです」

「ミーナさんの携帯食、再現性高すぎる」


 次の挑戦で、コヨリはミーナから携帯食を受け取ってもすぐ食べなかった。盾で追撃を受け止めるミーナの足元、背後の兵、カイの位置を確認してから、荷車の陰へ滑り込む。


「ここなら?」

「一手だけ食べられます」

「一手だけの食事、忙しい!」


 コヨリは携帯食を小さく割り、ひとかけらだけ食べた。硬い。涙目になる。でも、今度は死なない。


 ミーナは盾を構えたまま、コヨリを見ていた。


「変な子だねえ。敵を逃がして、自分は携帯食で泣いてる」

「硬いから!」

「戦場で柔らかいパンは贅沢だよ」

「パン屋さんなら柔らかいのくれたもん」


 言ってしまってから、コヨリは口を押さえた。


 ミーナは目を細める。


「パン屋?」

「なんでもない」

「そうかい」


 追及はされなかった。代わりに、ミーナは盾を少しだけ横にずらした。ほんの一瞬、退路に隙間ができる。


「職務上、見逃すとは言えないよ」

「うん」

「でも、足がもつれて転んだら、追うのが遅れるかもしれない」

「ミーナさん」

「名前、教えたかい?」


 コヨリは首を振った。


「知らない。でも、知ってる」


 ミーナは少し困ったように笑い、それから本当に足を滑らせた。わざとらしくない。だが、コヨリには分かった。道をくれたのだ。


 コヨリは走る。


 後ろでカイが補助兵を抱え直し、退避路へ向かう。ミーナの携帯食の硬さが、口の中にまだ残っていた。


 同じ味ではない。


 それでも、同じ優しさがした。

【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:63回

シード088内死亡回数:6回

死亡時レベル:Lv4

死亡時HP:0/28

今回の死因:【携帯食をかじった一手で包囲が完成した】

評価:【食事は安全地帯で】

新規獲得:【食事前周囲確認 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード088

累計死亡回数:63回

シード088内死亡回数:6回

クラス:地図師候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【未識別警戒 Lv.2】

【罠感知 Lv.1】

【射線確認 Lv.1】

【間合い管理 Lv.1】

【顔で判断しない Lv.1】

【感情中射線確認 Lv.1】

【非殺傷ルート選択 Lv.1】

【階段前未練警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【食事前周囲確認 Lv.1】

更新候補:【人物差分確認 Lv.1】

縁反応:【ミーナ】弱反応から中反応へ


【登場人物紹介】

コヨリ:携帯食の硬さと優しさで泣きそうになった幼女勇者。食事にもターン管理が必要。

ログル:パンの安全性と歯への危険性を別判定する解析神獣。

ミーナ:女騎士。見逃すとは言わず、足がもつれる大人。やはり食べ物をくれる。

カイ:逃走中の敵兵。まだコヨリを知らないが、振り返ってくれる。


【ローグライクあるあるメモ】

満腹度が危ない時ほど、食べる一手が怖くなります。安全地帯で食べる、周囲を見てから食べる。硬いパンでも命綱です。


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