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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第9章 同じ顔、違う人生

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敵兵カイは、やっぱり人を助ける

カイの名前が、人物表の空白で光っています。

敵か味方か、顔だけでは決められません。

コヨリの手は、また少し震えます。

 国境沿いの小砦は、村から歩いて半日ほどの丘にあった。


 道中、コヨリはいつもより口数が少なかった。ミーナから借りた古い外套を羽織り、ログルを肩に乗せ、人物差分表を地図帳に挟んで歩く。草地は穏やかに見えるが、遠くの丘には見張り台があり、そこから射線がまっすぐ伸びているのがログルの宝石に映っていた。


「勇者様、左の丘は射線内です」

「見えてる。前に射線の谷で死にまくったから、こういう直線、嫌いになった」

「生存率は上がっています」

「心のHPは減ってる」


 コヨリは低い石垣の陰に入り、地図帳を開いた。地形の線に、赤い射線を書き足す。見張り台、荷車、倒れた木、古い井戸。遮蔽物になりそうなものを一つずつ確認していく。


 砦の近くでは、王国側と敵国側の兵がにらみ合っていた。大人の兵に混じって、まだ少年と呼んでいい年頃の兵もいる。コヨリはその中の一人を見た瞬間、息を止めた。


 カイだった。


 木剣をくれた少年の顔。射線の谷で、どこか見覚えがあると思った弓兵の面影。けれど今は、敵国の短いマントを着て、弓を持っている。


 カイはコヨリを知らない。


 こちらに向ける目は、警戒する兵士の目だった。


「ログル」

「はい」

「敵?」

「所属上は敵です」

「味方?」

「現在の関係上は違います」

「じゃあ、何」


 ログルの宝石が、カイの頭上に小さな印を出す。赤。青。赤。青。色が交互に点滅して、最後には灰色になった。


「判断保留です」

「人間関係を信号機にしないで」

「ぼくにも分かりません」


 その言い方は、いつもの冷静な解析と違った。分からないことを分からないと認める声だった。


 砦の前で、荷車が倒れた。積まれていた矢束が転がり、幼い補助兵が足を取られて転ぶ。近くにいた王国兵が槍を構え、敵兵たちが一斉に動きかけた。


 カイが、先に走った。


 敵味方の境目を越え、転んだ補助兵を引っ張って荷車の陰へ押し込む。自分は射線に出たままだ。王国側の弓兵が弦を引く。


 コヨリの手が、小石袋改に伸びた。


「勇者様、撃てば王国側の弓兵を止められます。ただし、位置が割れます」

「カイが撃たれる」

「はい」

「でも、ここで出たらわたしも射線」

「はい」


 世界が少し遅くなる。足元に薄いマス目が浮かび、王国弓兵の矢の向き、カイの立ち位置、荷車の影、コヨリの移動可能な一マスが宝石に映る。


 一手。


 コヨリは小石を投げた。弓兵の手ではなく、足元の空き缶を狙う。かん、と音が鳴り、弓兵の視線が一瞬ずれる。その間にカイは補助兵を押し込んだ。


「誰だ!」


 当然、見つかった。


「はい無理! 逃げる!」

「右の石垣へ」

「右、罠っぽい!」

「石垣の手前で止まってください」

「注文が細かい!」


 コヨリは走りかけて、足を止める。地面に妙な線がある。王都の罠で見た、薄い仕掛け線に似ていた。踏めばたぶん鳴る。鳴れば敵が来る。敵が来れば幼女のHP15は仕事を終える。


 止まれた。


 だが、後ろからカイの声が飛ぶ。


「そこの子! 伏せろ!」


 コヨリは反射的に伏せた。頭上を矢が通る。王国側ではなく、丘の見張り台からの矢だった。カイは敵兵のくせに、コヨリの命を助けた。


「なんで」


 小さく漏れた声は、誰にも届かなかった。


 次の瞬間、敵兵の一人が叫ぶ。


「侵入者だ!」


 コヨリは隠れるために石垣を越えようとした。けれど、カイの顔から目が離せない。知っている子が敵としてこちらを見る。覚えていない目で、それでも助けてくる。


 足元の仕掛け線を、今度は踏んだ。


 鐘が鳴る。弓兵が一斉に振り向く。


「あ」

「勇者様」

「感情で射線確認、消えた」


 矢が雨みたいに降ってきた。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:説得前に射線確認を忘れた】

【評価:感情にも遮蔽物が必要です】

【新規獲得:感情中射線確認 Lv.1】


 拠点に戻ったコヨリは、受付前で両手を握りしめた。


「カイ、助けた」

「はい」

「敵なのに」

「所属上は敵です」

「ログル、それ言わないで」

「......はい」


 次の挑戦で、コヨリはカイに手を振らなかった。名前も呼ばなかった。射線に出る前に、地図帳を見る。赤と青が点滅するカイの印には、ログルが灰色の丸をつけていた。


【敵味方識別:保留】


 コヨリは唇を噛み、荷車の陰へ小石を投げる。音で注意をずらし、転んだ補助兵が隠れる時間を作る。カイはまた動く。やっぱり人を助ける。


 だから、コヨリは決めた。


「倒さない」

「難易度が上がります」

「知ってる」

「逃げ道が狭くなります」

「それも知ってる」

「勇者様」

「分かってる。でも、わたしは覚えてるから」


 カイはコヨリを知らない。


 でも、コヨリはカイを知っている。


 それだけで、倒さない理由には十分だった。


【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:60回

シード088内死亡回数:3回

死亡時レベル:Lv2

死亡時HP:0/19

今回の死因:【説得前に射線確認を忘れた】

評価:【感情にも遮蔽物が必要です】

新規獲得:【感情中射線確認 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード088

累計死亡回数:60回

シード088内死亡回数:3回

クラス:地図師候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【足元確認 Lv.2】

【未識別警戒 Lv.2】

【罠感知 Lv.1】

【射線確認 Lv.1】

【間合い管理 Lv.1】

【地図読み Lv.1】

【顔で判断しない Lv.1】

【安全地帯で記録する Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【感情中射線確認 Lv.1】

新規獲得候補:【敵味方識別保留 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:カイを見て動揺した幼女勇者。感情が動くと射線確認が飛ぶ。

ログル:所属上は敵、という正確な言葉を飲み込めるようになってきた相棒。

カイ:このシードでは敵兵。コヨリを知らないのに、危ない子を助ける性質は残っている。

ミーナ:今回は直接少なめ。でも外套を貸してくれるあたり、やはり面倒見がいい。


【ローグライクあるあるメモ】

射線が見えていても、感情で一歩出ると死にます。敵味方の色分けが難しい相手は、倒す前に立ち位置を確認しましょう。


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