表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第9章 同じ顔、違う人生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/340

知識神ミネルと八百ページの説明書

人の役職まで変わるシードに、説明担当が現れます。

ただし、説明は親切でも、紙は重いです。

幼女勇者の腕力に配慮はありません。


 ミーナの兵舎で携帯食をもらったあと、コヨリは村の記録所へ案内された。


 記録所は、パン屋の斜め向かいにあったはずの小さな倉庫を改装した建物だった。扉には王国管理印が押され、窓際には分厚い台帳が積まれている。コヨリは入り口で足を止め、まず床を見た。


「罠は?」

「入口は安全です。ただし、紙束が多いので転倒に注意してください」

「紙で死ぬのは嫌」

「前例はあります」

「あるの!?」


 扉を開けると、紙とインクの匂いがした。棚の奥に、眼鏡をかけた女神が座っている。姿勢はまっすぐで、表情は真面目。机の上には、コヨリの身長くらいありそうな本が置かれていた。


「ようこそ、勇者コヨリさん。私は知識神ミネル。図鑑、説明書、チュートリアル文章、及び読まれない脚注を担当しています」

「最後の担当、悲しくない?」

「読まれないからこそ、正確でなければなりません」

「すでに話が長い気配!」


 ミネルは眼鏡を押し上げ、机の上の本を持ち上げた。どん、と音がする。床板が悲鳴を上げ、コヨリは反射的に一歩下がった。


「こちらが、シード差分における人物役割変動概論、基礎編です」

「基礎編の厚さじゃない!」

「全八百ページです」

「幼女に紙の質量で攻撃しないで!」


 ミネルは悪意のない顔で本を差し出した。コヨリは受け取った瞬間、腕が下がる。重い。知識は力だと聞いたことがあるが、これは物理攻撃力の話ではないはずだ。


 ログルが本の端を前足で支え、コヨリはようやく床に落とさずに済んだ。


「ログル、これ読むの?」

「全部読むと、たぶん夜になります」

「夜間警戒が発動するやつじゃん」

「必要部分だけ抜き出します」


 ログルの宝石が本のページを照らす。文字列が光り、必要な文章だけが浮かび上がった。


 ワールドは固定されている。シードによって地形、職業、所属、関係性が変わる。人物の記憶はシード内の人生に基づくため、コヨリとの過去を持たない場合が多い。ただし、同じ魂の原型に近い存在は、似た行動を選ぶことがある。


 コヨリはミーナにもらった携帯食を見下ろした。


「つまり、同じ人なの?」

「断定はできません」

「別人なの?」

「それも断定できません」

「ミネルさん、説明書って、分からない時に読むんだよ。読んでも分からないの、仕様?」


 ミネルは大真面目に頷いた。


「世界生成の仕様です」

「神様ァ! 仕様って言えば許されると思うなよなああああああああああああ!」


 記録所の窓がびりびり震えた。ログルがすぐに尻尾でコヨリの口を押さえる。


「勇者様、大声は行動判定になる場合があります」

「むぐっ」

「現在は安全地帯ですが、記録所の外に訓練兵がいます」

「むぐぐ」


 ミネルは紙をめくりながら、まったく動じない。


「人物差分を攻略する際の基本は、顔ではなく行動を観察することです。味方に見える敵、敵に見える味方、食料をくれる女騎士、射線を教える敵兵など、事例は多岐に渡ります」


 コヨリの手が止まった。


「射線を教える敵兵?」

「可能性の話です」

「ログル」

「カイ様の札が反応しています」


 ログルの地図帳で、カイの名前が淡く光った。木剣の影に、弓の影が重なる。コヨリの喉が、少しだけ詰まった。


 その空気を壊すように、外から鐘が鳴った。


 訓練兵の声が聞こえる。国境側で小競り合いが起きたらしい。ミーナが兵舎から駆け出していく音もする。


「勇者様、移動するなら今です」

「本、置いていい?」

「置いてください」

「持って逃げたら?」

「移動速度が落ちます」


 コヨリは本を机に戻そうとした。だが、焦っていたせいで角を足に落とした。


「あぎゃっ」


 痛みに跳ねた一歩が、机の横の紙束を崩した。紙束が雪崩のように広がり、コヨリの足を絡め取る。そこへ外から開いた扉の風が吹き込み、紙が顔に張りついた。


「前が見えない! 知識が視界を奪う!」

「勇者様、左に半歩」

「半歩ってなに!?」


 転んだ先に、記録所の古い分類箱があった。角が額にこつんと当たる。HPがじわっと減り、さらに紙束に埋まって息ができない。


 暗転。


【死亡ログ】

【死因:説明書が重すぎて逃走速度が落ちた】

【評価:知識は力ですが、物理重量もあります】

【新規獲得:安全地帯で記録する Lv.1】


 拠点に戻ったコヨリは、ネムに額の紙跡を見られた。


「紙ですか」

「紙です」

「たまにあります」

「あるのが嫌!」


 次の挑戦で、コヨリは本を持たなかった。ミネルが再び八百ページを差し出してきた時、両手を背中に回して首を振る。


「要約版ください」

「基礎を飛ばすのは推奨されません」

「死ぬより推奨される!」


 ログルが宝石を光らせ、必要な部分だけを一枚の紙に写した。ミネルは不満そうだったが、最後には頷いた。


「では、人物差分記録用の表をお渡しします。名前、役職、所属、記憶、行動傾向、危険度、縁反応を記入してください」


 コヨリは表を見て、眉を寄せる。


「履歴書みたい」

「人物の立ち位置を読むための、簡易管理票です」

「人間関係を事務処理するなあ」


 それでも、コヨリは表を受け取った。


 ミーナの名前の横に、女騎士と書く。記憶なし。食べ物をくれる。危険度は低いが、訓練罠が危険。縁反応、弱。


 次の欄に、カイの名前を書く。


 役職は、まだ空白だった。


【今回の死亡ログ】

累計死亡回数:59回

シード088内死亡回数:2回

死亡時レベル:Lv1

死亡時HP:0/15

今回の死因:【説明書が重すぎて逃走速度が落ちた】

評価:【知識は力ですが、物理重量もあります】

新規獲得:【安全地帯で記録する Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード088

累計死亡回数:59回

シード088内死亡回数:2回

クラス:地図師候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【危険察知 Lv.2】

【足元確認 Lv.2】

【未識別警戒 Lv.2】

【射線確認 Lv.1】

【地図読み Lv.1】

【ルート選択 Lv.1】

【顔で判断しない Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【安全地帯で記録する Lv.1】

新規獲得候補:【人物差分確認 Lv.1】

更新:【シード差分確認 Lv.1】兆候強化


【登場人物紹介】

コヨリ:八百ページに敗北した幼女勇者。未識別アイテムだけでなく、説明書も疑うべきだと学んだ。

ログル:必要部分だけ抜き出す有能相棒。本を全部読ませないあたり優しい。

ミネル:知識神。説明は正確だが長い。紙の物理重量に対する幼女配慮は薄い。

ミーナ:女騎士。外で小競り合いが起きるとすぐ走るあたり、かなり真面目。


【ローグライクあるあるメモ】

情報は大事ですが、危険地帯で読むと死にます。識別、地図、人物表は安全地帯で確認しましょう。知識は強いですが、持ち歩く重さにも注意です。


コヨリの死に覚え攻略を見守っていただける方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ