同じ村、同じ少年、違う朝
二回目の朝です。
村は同じです。
でも、誰も覚えていません。
こよりは、今度は草むらではなく、村の入口に立っていた。
看板がある。
【ようこそ ミルカ村へ】
空は青い。
畑もある。
井戸もある。
にわとりもいる。
「戻ってきた......?」
村人がこちらに気づいた。
「あらまあ、小さな勇者様だねえ」
同じ言葉だった。
けれど、声の調子が少し違う。
「王都からのお達しは本当だったのか」
同じ男。
同じ顔。
でも、昨日こよりを見送った人ではない。
こよりの胸が、きゅっと縮んだ。
「......わたしのこと、覚えてる?」
村人は不思議そうに首をかしげた。
「勇者様にお会いするのは、初めてですが」
「そっか」
こよりは笑おうとした。
失敗した。
村長の家へ行く。
説明を聞く。
魔王。
北の城。
薬草採取。
流れは同じだった。
だが、村長がくれた木剣は、前より少し長い。握りにくい。小さい手に合っていない。
「現地支給、品質ぶれるんだ」
【握りにくさ:高い】
「そこ高くしないで!」
こよりがぼそっと言うと、村長はにこにこしていた。
家を出る。
少年が待っていた。
「勇者様!」
カイだった。
日に焼けた顔。
短い髪。
まっすぐな目。
こよりは息を止めた。
「カイ」
「えっ。おれの名前、知ってるの?」
「あ」
しまった。
カイは目を丸くしたあと、すぐ笑った。
「すげえ! 勇者様って、名前も分かるんだ!」
「違う。えっと、なんとなく」
「これ、父さんが作った木剣。村長のより握りやすいと思う」
カイは、木剣を差し出した。
前と同じように。
こよりは受け取れなかった。
昨日のカイは、こよりに木剣をくれた。
今日のカイも、こよりに木剣をくれる。
でも、昨日のカイはもういない。
この子は、こよりが黒狼に殺されたことを知らない。
こよりが草むらで震えたことも知らない。
最後に神様へ文句を言ったことも知らない。
覚えているのは、こよりだけだ。
「勇者様?」
カイが不安そうに顔をのぞき込む。
こよりは、あわてて木剣を受け取った。
「ありがとう。すごく、助かる」
「うん!」
カイは嬉しそうに笑った。
その笑顔が、少し痛かった。
【装備変更】
【木剣:村長支給品】から【思いやりの木剣】へ変更されました。
【攻撃力:低い】
【握りやすさ:高い】
【記録:同一人物の可能性あり】
「記録......?」
光の文字はすぐ消えた。
誰が記録しているのか。
神様か。
世界か。
それとも、こより自身の中なのか。
分からない。
でも、分かったことがある。
この世界は、同じようで同じではない。
死ぬとやり直せる。
けれど、出会った人との時間は戻らない。
井戸の縁に、昨日こよりがつけたはずの小さな傷はなかった。
でも、井戸そのものは同じ場所にある。
村も、カイも、空の青さも似ている。
なのに、昨日だけが消えている。
「同じ村なのに、昨日の村じゃない......」
見覚えがありすぎて、逆に怖い。
その言葉は、思ったより小さく落ちた。
こよりは村の外を見た。
森は、昨日と同じ場所にある。
黒狼も、いるかもしれない。
でも今日は行かない。
「カイ、薬草って村の中にもある?」
「井戸の裏に少しだけあるよ。でも、数が足りないかも」
「一つでもいい。今日は安全確認」
「安全確認?」
「勇者の最初の仕事」
こよりは井戸の裏へ向かった。
村の中で薬草を一つ採る。
畑の柵を調べる。
井戸をのぞかない。
鶏小屋の影を確認する。
村人たちは不思議そうに見ていた。
こよりは気にしなかった。
森に入らない。
黒狼に会わない。
死なない。
それだけで今日は勝ちだ。
夕方、こよりは村長の家に戻った。
「勇者様、薬草は三つ必要でしてな」
「今日は一つ」
「一つですか」
「一つでも、死んでない」
村長は首をかしげた。
カイも首をかしげた。
こよりだけが、小さく息を吐いた。
その夜。
村の外で、遠吠えが聞こえた。
黒狼の声だった。
こよりは布団の中で震えた。
怖い。
スキルをもらっても、怖いものは怖い。
でも、目を閉じる前に、こよりは小さくつぶやいた。
「帰る。絶対、帰るから」
その言葉だけは、リセットされなかった。
勇者のクラス:勇者
保有スキル:【恐怖耐性 Lv.1】【黒狼の爪筋回避 Lv.1】【死ぬ前に一言ツッコむ】
死亡回数:1




